視覚(見ているとはどういう状態か)オリジナル@BB形式

このページは 「@BB」(2015年4月閉鎖) にあった「Kusamura(叢)フォーラム」をそのまま引用・移動したものです   
 
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Post時間:2014-05-07 23:34:01
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作業仮説 『ヒトは「脳」で見ている』
1.眼球が完全に正常でも後頭葉の損傷によって盲目になる事がある  → *脳"の世界" 「第一次視覚野が壊れると見えなくなる」三上章允
2. 網膜の一部(出口)には光に反応する視細胞がない(盲点)。しかし我々の「視覚」に欠落は生じていない.
                                             →* 同上「見えない盲点を「見る」」及び「人工盲点の話」
3.見えていないのに正しく見ている事がある.                  → *「盲視」wiki


◎ヒトは「見る」ため処理時間を必要とする。
たとえば目の前で人差し指を振り、振り幅を変えず速度だけを速めると人差し指が2本になる。
振り幅は同一なので、変化は速度処理のみに関わる。意識的な視覚処理の限度を
指の速度が超えると、脳のメモリがダブからではないだろうか。
我々はその「2つの人差し指」を見てもパニックを起こさない。それが脳内の「視覚表現」であることを無意識がわかっているからだ。
*(意識がわかっているからではない。パニックは無意識の反射機構に属する。頻発する類のパニックの抑制は、
 薬、意図的宥(なだ)め行為、意識的な経験の繰り返し=訓練、などを要する)


◎視覚処理に関わる部位は、聴覚や嗅覚に較べ、はるかに広範囲だから時間がかかるのではないだろうか。
                                            →*”脳の世界” 「サルやヒトの脳には沢山の視覚野がある」三上章允

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------    (2014.9.3改、9.9\視覚経路の記事を次記事へ)(2014.10.10. 2015.2.8 改)
視覚にまつわる様々なことが人間には起きる。
このフォーラムは、(特に解離性の)体外離脱のメカニズムがイメージできることを目標に、全くの門外漢が学習しながら記事を重ねる形になる。
その過程で本来のモチベーションから逸れるが興味深い色々な知見もついでに得られる。学習利得とでもいうべきか。


視覚経路:マインドマップ図version.02 (2014.5.08)
mindmap_ver02.jpg
(画像クリックで拡大)
マインドマップ本体 (必要ソフト:Frieve Editor (フリーブエディタ-)1.32  作者HP(日本) http://www.frieve.com/feditor/
データダウンロード: ①青字クリック (' 現画面遷移→戻る’ が面倒な場合 = 右クリック「新しいタブで開く」or「新しいウィンドで開く」)
              ②DLサイト(zippyshare.com)画面でオレンジ枠”DOWNROAD NOW ↓クリック)
[体外離脱(視覚) -ver.03_(視覚経路位置入れ替え)Ⅱ.fip]  (2014.6更新  upload/8.16)
[体外離脱(視覚) -ver.02_α.fip] (2014.5.17更新)

大脳への身体感覚経路(準備段階)
mindmap.jpg
(画像クリックで拡大)
( [ 注 ] :大脳に比して辺縁系・基底核・間脳・脳幹・脊髄を合わせると核や神経の数の量が圧倒的に多く、未整理かつ不備な状態で我ながらとても見づらい。。)
[触覚皮膚感覚-体性感覚.fip](クリック)

 
Post時間:2014-08-26 02:03:18
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Ventral_dorsal_streams.jpg
↑ 後頭葉に達した視覚情報が背側視覚路[Where経路](緑色)と腹側視覚路[What経路](紫色)に別れて処理される、という考え方(レズリー・アンガーライダー&モルト・ミシュキン1982)を表す図。(wikipedia)


↓ 眼球からの後頭葉への視覚経路。
Ventral_dorsal.jpg

一般に眼科では、レンズや眼筋、網膜など入力部の不具合(傷・劣化・不適合・異常など)に対応することが多いでしょうが、
視覚不全の中には入力部から後ろの脳神経に問題がある場合もあるようです。
 たとえば、『視覚はよみがえる』の著者スーザン・バリーは、幼児期の斜視によって左右眼の像が同調できず、
脳が単眼処理のみを行うようになったため立体視の機能が働くなったそうです。著者は幼いうちに斜視治療の手術は受けていましたが、
脳が、両眼の入力を受ける細胞ではなく、片視野のみを処理する細胞(眼優位性)を交互にすばやく切り替えて視像処理をし視覚を安定化させたため、
本人も自覚なしに立体視能力を失っていた、と著者は述べています(この著者は脳神経の専門家でもあります)。
 幼少時に機能獲得されなかった立体視能力は回復しない、と、当時一般の眼科医は考えていましたが、
著者は、視能矯正の専門医と出会って視能訓練を受けはじめ、続けていると、ある日突然、生涯で最初の立体視を体験したそうです。
 どうやら、視覚は眼と脳の、複雑で深い連携を経て成り立つもののようです。
脳の中で視覚機能研究はもっとも進んでいると言われています。とはいえ現在進行形の研究領域なので、
まだいろいろな仮説が並立していて決着がついていない部分もだいぶあるようです。 
(例えば、立体視では、「微小奥行き視」を担う脳領域がV4であるとする研究結果が2012年に日本の研究者から発表されています) 
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/events/achievement/v4/

○上図では後頭葉(第一次視覚受容野)に至る経路として、
視床の下側部分にある ’外側膝状体(LGB)’ 経路だけを記してますが、 
他に、進化史的には古い外側膝状体'外’経路があります。
こちらは意識には昇らない反射的な視覚を担っていて
中脳の上丘を経由して脳幹/小脳/脊髄に連絡している経路などがあります。  「「見えてないのに無意識に見えている」盲視を日常生活シーンで証明」吉田正俊 (生理学研究所・広報展開推進室 リリース) 

 盲視(大脳皮質の損傷によって視覚意識の上ではまったく「見えていない」のに眼球は光学情報を正常にキャッチしているため無意識下で認識できている現象)は
膝状体外の経路が関わっているという説が標準(スタンダード)のようです。 → “「無意識の視覚―運動系」によるサリエンシー検出機構の全貌” 伊佐 正 .    「盲視」吉田正俊 
(膝状体’外’経路についてはV・S・ラマチャンドランも、『脳の中の幽霊ふたたび』第2章で、盲視のエピソードなどを交えながら詳しく取り上げている)
※外側膝状体’外’の経路については、「末梢神経系のお話し」パーキンソン病 病状 介護日誌(akira magazine)視神経(Optic nerve)2 の青線-途中で分岐して上丘にいたる線の方、などを参照のこと
高次視覚野を通して「意識が見る」には時間がかかります(およそ0.2~0.4秒くらい)。
反応が遅すぎて間に合わないようなものを無意識に避けたりする場合に、この古い経路が働いているという考えもあります。

 *面白いのはカエルの視覚で、
カエルの視覚は、古い視覚経路と同じ顆粒細胞(K細胞)層からなっていて、動かない物体の認識はできず、
動くハエには素早く反応しエサを捉える事ができるのに、紐でぶらさげられたエサが目の前にあってまったく気付かないそうです。 
 →参考"アマガエルの視覚に関する情報,,,"レファレンス協同データベース  
 
 
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Post時間:2014-08-26 19:21:20
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前投稿「2.視覚経路」で主な視覚経路を「外側膝状体」経路と外側膝状体”外”経路に大別して投稿しましたが、
『もうひとつの視覚』メルヴィン・グッデイル/デイヴィッド・ミルナー 訳 鈴木光太郎・工藤信雄 新曜社(2008年 原著2004)に、哺乳類の網膜-視神経経路が更に詳しく記載されています。
P62_1.pngP62_2.png
[註]*外側膝状体(LGB)腹側核(または膝状体前核:LGBv)は、視神経からの直接投射以外に、視覚野と上丘からも視覚情報の投射を受けている。
投射先は上丘、視蓋前域(対光反射や調節反射など)、副視索(眼位、頭位)、視交叉上核(体内時計)、不確帯(飲水制御)、及び小脳(運動制御) など。
 
(参考)「視覚系」川村光毅のホームページ   「解剖学」"船戸和弥のホームページ「meddic.jp/中枢神経系」 管理薬剤師.com, ほか

※『もうひとつの視覚』はLO野を損傷した女性の話なので視覚野に関する別投稿でもう一度取り上げています。(2015-04-21_記事の投稿順などを再構成)
  
 
 
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 題名:3:視覚野
Post時間:2014-09-01 14:49:50
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下図は、脳学の門外漢が、視覚野領域のイメージ作りのため個人的に作成したものです。改変も含め図の利用は自由ですが、図の学問的正確性は保証できません。
(間違いをご指摘いただければ可能な限り訂正に努めます)→こちらのトピックへ   (2015.01.16ver→2015.02.03ver→2015.04.21ver)

Broca_area_VO.jpgクリックで拡大


*1"MST野細胞集団の活動プロフィルによるvisual flowおよび その運動残効認知の情報表現"大野 裕史ほか(2002)
 「MST 野(Medial Superior Temporal Area)は,
  自己運動で生じる広視野運動(visual flow)を専門に分析する領野である」(略)
 「MST 野に直接神経投射を送るMT野(Middle Temporal Area)も視覚的運動を専門に分析する領野(略)
 視野の局所的な運動を分析していることから,MST 野の細胞はMT 野で分析された局所運動情報を統合して 
 さまざまな種類の自己運動で生じる特徴的なvisual flow を検出する特性を獲得するという統合モデルが提案されている」

*2"ヒトとサルにおける頭頂間溝の機能的組織化 LIP"Grefkes C (2005)和訳:ajibushisyakekko

参考

・  「大脳視覚野の色情報処理機構と色アウェアネスに関する研究」前田 青広 2011図2-3
・  「モノの背後を見る脳の仕組みを解明」番 浩志,山本 洋紀,花川 隆,福山 秀直,江島 義道(英語論文)PDF 2013(2014公開)京都大学プレスリリースFigure 2
・  「輪郭錯視事態におけるヒト視覚野の活動-fMRI研究-]電子情報通信学会 HIP研究会 2003.05.09
  fMRI 4 Newbies 'Retinotopic and Early Visual Areas'(図多数) 特にこの図
・  「脳と心:認知神経科学入門 第2章:感覚・知覚」"京都大学名誉教授 前慶應義塾大学教授 小嶋 祥三のホームページ"より
・  「hMT+をMTとMSTに分離する」
・  「もうひとつの視覚」メルヴィン・グッデイル/デビッド・ミルナー(カラー図版7) (新曜社)
     他


※視覚研究は現在進行形のジャンルで(特にfMRIの出現によりヒトで研究できるようになったため)、昨日今日の独学門外漢(日本語オンリー)には追いづらい状態です。上記の素朴な図に落とし込むためには更なる勉強が必要なようです。

とりあえず新しい手法による視覚領域図を参考までに掲げておきます。-( 『Voxel-wise modeling and Decoding(VWMD)』 Jack Gallant University of California at Berkeleyより
7_13_Gallant_UCLACourse_sm.jpgクリックで拡大
この論文の執筆者の一人、西本伸志氏のココの「14.」をクリックすると同様の図が見られます(こちらにはTPJなども記してあります)。
この図は脳の展開図で、外側面を中心にして、上に後頭葉背内側、頭頂葉/前頭葉の内側面、下に後頭葉腹内側、側頭葉内側面、があるようです。
正確な展開のされ方はココにある動画の4:00あたりでわかりやすく見ることができます。
OFA(後頭顔領域(occipital face area)-V4下部の前方。「OFAは顔刺激に早い潜時で反応する領域で、空間配置よりも部品に鋭敏」
   もうひとつ最近発見された顔反応領域:"fSTS";上側頭溝顔選択的領域(face selective region of the superior temporal sulcus,)はこの図では同定されていないが、
   上側頭溝(superior temporal sulcus:STS)はEBAの近辺に記載。
(前掲_小嶋祥三サイト『脳と心:認知神経科学入門 第2章:感覚・知覚』(PDF)(2014)

VO(ventral occipital 、腹側後頭部「色やオブジェクト刺激に優先的に応答」2009:google翻訳) :VO野全体に関する日本語解説はまだ見つけてませんが、
  VO-2が物の光沢知覚と関係している、という論文を日本の研究グループが昨年発表しています「光沢知覚に関わる脳部位を世界で初めて特定」NICT.2014
EBA(Extrastriate(線条体外)Body Area) : ボディパーツに特異に反応する部位。身体に特異的に反応する領域はもう一つ
    FBA(fusiform body area: 紡錘状回身体領域(私訳))がある。(位置関係はコチラとかコチラ   詳細は前出の小嶋祥三サイトのpdf。
・TOS(Transverse Occipital Sulcus ) :音楽の「五線譜の解読に特異的な部分」(言語と音楽の機能画像_中田力(2002:季刊「生命誌」34)JT生命誌研究館)
 
 
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Post時間:2014-09-09 06:08:42
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◎神経学者オリヴァー・サックスは視覚障害に関する話題をよく書きますが
 学術的な解説より患者自身に寄り添った書き方により生き生きした内容になっている事が多いです。
 V4損傷によって全色盲になった画家の話「色盲の画家」を取り上げます。
 『火星の人類学者』オリヴァー・サックス 訳:吉田利子(ハヤカワノンフィクション文庫_2001年 原著1995年) (2015-4-21)

V4を含む視覚野各領域の図  
Visuele+cortex.jpg
from
http://neurologues.qwriting.qc.cuny.edu/fmri-scans-synesthesia-is-real/
[導入部の要約] 

 65歳の画家ジョナサン・Iは、1986年の1月に交通事故で脳しんとうを起こし、
 「茶色の飼い犬はダークグレーにしか見え」ず「トマトジュースは真っ黒」「カラーテレビは白黒のまだらもようにしか見えない」
 脳の損傷による全色盲(大脳性全色盲)と失読症になり、3月、神経科医オリヴァー・サックスに助力を求めて手紙を送った。
 4月、手紙を読んだサックスは同僚の眼科医と共に、Iを診た。

 全色盲になることは、カラー映画が白黒映画になるのとは違っていた。
 視力はむしろ鋭くなり「ひとの輪郭は八百㍍も先から見える」のに
 明るい陽の元では明瞭に見える愛犬が、影や草のなかに入ると「紛れて見えなくな」り、
 運転していてると、影と地割れや溝と見分けがつかなくなって、ブレーキをかけたり急ハンドルを切ってしまった。
 赤も緑も青も、単なる濃淡にしか、しかも不気味なコントラストのついた濃淡にしか見えなくなった画家。
 妻の体もただの「灰色」でしかなく、性欲は失われた。...


オリヴァー・サックスのノンフィクションは、冷たい学術の対象として「患者」を「分析・判定」するのではなく
一種の共鳴力をもって人間として病を抱えた相手の心も汲み取っていくところに特徴があり、それが
彼の著作の魅力ともなっています。彼はそれを「ロマンティック・サイエンス」と言います。
しかしここでは彼の医学的・生理神経学的記述をメインに据えます。
    ( 2015-4-22)

○まずサックスは、眼と色彩の関係に関する仮説の変遷を振り返るところから始めています。(以下は恣意的な要約)

 17世紀中頃、ニュートンは、プリズム実験で分光すると色のスペクトラムが現れるところから、
 様々に屈折する光成分のうちもっとも多く反射しているものが、色としてわれわれの目に届くと考えた。
  (*この説だと、眼に全てのスペクトラムに対応する受容野がある、という事になります)
 同時代の哲学者ロックは、ニュートンの物理的機械論的哲学に抗して、
 人は機械的に光をそのまま反映するのではなく、外の世界を「感覚」として主観的に記録するとした。
 19世紀初頭、トーマス・ヤングは(光の三原色説に基づいて)目には3種類の受容野があればよいとした(3色説1802→トーマス・ヤングの項参照)。
 同じ頃、ゲーテは『色彩論』で、残像(例えば緑をずっと見てから白地を見ると補色の赤が視える)などの「視覚的幻」は「視覚的真実である」として、
 色は人間と光の共同作業だと考えた。
 50年後、ヘルムホルツが、当時忘れ去られていたヤングの3色説を甦らせ展開したので、ヤング-ヘルムホルツ仮説と呼ばれている。
 また、ヘルムホルツは、科学界から無視されていたゲーテの色彩論も高く評価し、
 色は単に光の波長の反映ではなく、明るい光が当たっているりんごの赤も陰の赤も「同じ赤」だ
 という受容者側の”無意識”の「推論」「判断」が色の恒常性を保つとした。

 ヘルムホルツと同時代の大化学者クラーク・マックスウェルも色覚異常に注目して研究していた。
 1866年、色のついたリボンを、白黒フィルムの上に、三原色それぞれの色のフィルターを通して三枚の白黒写真を作り、
 その白黒写真をそれぞれの原色フィルターを通してスクリーン上に重ねて投影した。
 すると3つの白黒写真が投影されたスクリーンには正確な色リボンが再現された。
 ヘルムホルツは脳の中でも同じ事が起きているのではないかと考えた。

 約90年後の20世紀半ば、エドウィン・ランド(インスタントカメラ、ポラロイドの発明者,実験家,理論家)は、
 同じことを写真2枚(撮影時にはそれぞれ赤フィルターと緑フィルター、投影時には赤フィルターとフィルターなし)でやって
 2枚の白黒写真から「金髪、薄いブルーの瞳、赤いコート、青緑の襟(えり)、そして驚くほど自然な肌色」を再現させた。
 それらの色の識別は、2枚の白黒写真の「なか」や分光されていない白色光や赤いフィルターといった「外界」で発現している訳ではなく
 スクリーンを視ている「脳の中で組み立てられ」たものだった。
 さらにランドは、幾何学的な四角形の抽象的な図形(似た画風の画家の名前をとって「モンドリアン図形」と呼ばれた(ページ中段の図A参照))
 を使い、周囲の色の影響で、同じ色が異なった色に見える実験も行った。

 これらの実験から、ランドは、人の目に映る色彩は、
 光の物理的な波長だけで固有色を感受しているのではなく、 「網膜(レテイナ)と大脳皮質(コーテックス)とが何カ所かで連携して」色を生むという
 「レティネックス」理論を作った。 (レティネックス実例
(2015.04.24)
ただし、ランドの手法は、光線の変化によってどう色が変わって見えるかを被験者に尋ねる、という「精神物理学」的なアプローチで、
解剖学的、神経学的なものではありませんでした。

*ここまでは色と光の違いについて「精神物理学」的な考えの変遷を述べた箇所を要約しました。実は完全な答えはまだ出ていないようです。
 今の一般的な考え方は以下のサイト・ブログなど
光に色はついているのか 色が見える仕組み(2)(ブログ"色と光と")
色の認識(Recognition of Color)(光と色の世界)など 
光の3原色に基づき、視神経も3種類あればよいとするヤングとヘルムホルツの仮説は、実際に3種類の錐体(すいたい)細胞の発見されて裏付けられ、
色に反応しない捍体(かんたい)細胞も見つかり、現在の定説を形作っています。*3色型以外の人もいます。(4色型色覚), (5色型色覚)
                                                                                        (2015.04.25)                
 
 
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オリヴァー・サックス『火星の人類学者』訳:吉田利子 ハヤカワノンフィクション文庫

◎ 続いてトピックのメインテーマである脳と視覚の関係に関する時代的認識の変遷を、著作から要約していきます。(p59~ 要約) 

 1884年、神経科医のヘルマン・ヴィルブラントは、同じ 視覚障害でも
 「視野の大半が見えない者、色覚がほとんどない者、それに、形が認識できない者などがいること」から
  「脳の第一次視覚野には、「光」と「色」と「形」を認識する 異なる視覚中枢があるのだろうと推測した」(部位の特定までは至らなかった)

 「4年後、スイスの眼科医ルイ・ヴェレ」が色盲に関連しているかもしれない場所を見つけた。
  患者は60歳の女性で、脳の発作による左後頭葉の障害から右の視野が色を失い、灰色に見えるようになった。
  死後脳をヴェレが調べてみると 「視覚野のごく小さな部分(紡錘回と舌状回に異常がみられた」ため
  そこに「色覚の中枢が見つかるだろう」とヴェレは考えた 

Lingual_gyrus_small.gif舌状回Fusiform_gyrus_small.jpg紡錘状回


 ヴェレの説は当時の定説と合致しなかったため「彼の観察は疑問視され、検査は批判され、検証には欠陥があると言われ」、
 「解剖学的にも色覚中枢というものの存在余地はない」とされ、
 「色覚中枢がなければ、独立した色盲もない」ので、以後”大脳性色盲”は神経学の問題ではないとされた。」


  さらに、第一次大戦で銃弾で視覚野に損傷を負った兵士を、ロンドンの著名な神経科医ゴードン・ホームズ(ボディ・スキーマ-脳内の身体図式-という概念を初めて提唱した)
 が調べ、視覚障害の症例200のうち、色盲だけの患者が一人もいなかったことで

 「単独の大脳性色盲はあり得ない」ことが実証データによって証明された、というのが専門家間での常識になった。
(p66~)
 「ロンドンのセミール・ゼキは生理学レベルで、すなわち麻酔をほどこしたサルの視覚野に微小電極を差し込んで、
 色の刺激に対する神経の反応を測定することを試みた。
 1970年代はじめ、ゼキは画期的な発見をした。 サルの脳の両極にある有線前野V4と呼ばれる)という小さな部分が、
  とくに色に反応するらしいことをつきとめたのである。」

  この発見は、権威ある神経科医ゴードン・ホームズが、データで実証的に証明した、脳に色覚部位はない、という定説を
  真っ向から否定するもので「神経学会を震撼させ」た。
  「ゼキの反論しようがない優れた実験」が1973年に発表されると、人の色盲の症例が見つかりはじめた。

 「1970年代はじめ、ゼキは、(*サルの)V4に波長には反応しないが色に反応する細胞があることを発見した」。
 「V4のそれぞれの細胞には視覚の多くの部分に関する情報が(*V1の細胞からV2という中間構造を介して)入ってくる。
  各波長の明るさV1にある波長に反応する細胞によって検知されるが、
  (*サルの場合)V4にある色の記号化細胞によって比較されるか関連づけられて、はじめて色が感じられる。」 
  「色覚はほかの初歩的な視覚のプロセス」(動き、奥行き、形の認識)等と同じく、
 「前提となる知識を必要とせず_神経学者のいう「ボトムアップ(*下位領域から上位領域への押し上げ伝達)プロセスによって得られるものらしい。」
 「実際に、V4を電気的に刺激する実験を行うと、色の輪とそのまわりの暈(かさ)が「見える」。色の幻覚である。

  「色を生みだす器官はV4」である可能性もあるが、「色自体は脳と心のほかのたくさんのシステムに信号を送り、
  変換され、同時にそちらからも信号を受けとって影響される。
 こうして、記憶や期待、連想、それに世界を共感できる意味のあるものにしたいという願望と 色を結びつける
 統合がなされるのは、もっと高いレベルの働きによる。
」    (2015.04.26)
*引用書の学術的部分のほとんどは"254~256 備忘録 「脳神経科医 オリバー・サックス」" の255:(さくらの読書スイッチ)に元文が引用されてます


※実はゼキの発見には異論もでてきて、まだ決着がついていないようです(2014年現在)※
1.ザキは、サルを使った実験で、色認識の専門部位としてV4を発見、報告したわけですが、
 その後のサルV4研究で、色彩以外のいろいろな機能がV4(サル)に見いだされて、もう色専門領域といえないようです。
"マカク属サルの第4次視覚野における色と傾きの処理にかかわる機能的な構造"谷川 久.2010
"大脳皮質V4野の神経活動が微小奥行きの弁別を担う"塩崎博史,田辺誠司,土井隆弘,藤田一郎.2012
2,特に議論となっているのは、
 ヒトでV4とされている部分は、サルのV4と同じなのか?ということです。
ヒトV4とされている場所には色判別機能が見あたらないという報告もあり、
サルV4と同じ機能を担う部位は別の場所にあるのではないか?
・2001_"人間の視覚野における「背V4」はどこにありますか?網膜、地形と機能の証拠"Roger B.H. Tootell & Nouchine Hadjikhani (タイトル-グーグル翻訳)
・2014.3「脳内の色のカテゴリエンコーディング」(グーグル翻訳)
「断固として色をエンコード脳の領域は、まだ確実に同定されていない。」論文アブストラクト(グーグル翻訳) 
 グーグル翻訳によれば、fMRIでヒトを調べると、色に対し
 hV4(ヒトV4とされている領域)からかなり離れた「中前頭回」や小脳の一部が活性化した、と報告されてるようです。
 他にも実験内容によって色々な部位が活性化した過去の論文にも触れているようです。
F2_large.jpg
 マカク猿のV4Vで報告されていたこと(レチノトピー)が、ヒトで調べたV4Vでは異なる、とも言っているようです。

・2014.9”人間のV4はどこにありますか?皮質折りたたみからHV4とVO1の位置を予測”
 アブストラクト(要約)をグーグル翻訳で見た限りでは、解剖学的にhV4(ヒトV4)の位置を特定しようとする論文で 、
 前年に別グループが行ったfMRIを使った精神物理学(Psychophysics)的なアプローチと合わせて
 最近はV4とVO1(腹側V3の前方、V4の下)あたりに色認識と関わる領域があることは合意を得られ始めているような感じ印象です。
 
 ここまで見てきたように、専門家間で広く認められた定説でもひとつの発見ですぐひっくりかえったりしますので、
 今後どうなるかはわかりませんが、とにかく色の脳内処理は、色相や輝度などに応じて複雑にいろいろな部位が関わっているようで、
 一筋縄ではいかないようです。


"モバイル"用wikiでは『視覚野』の項が分割掲載されているらしく「V4」の項目が独立していました。他の項目がない分読みやすいです。 →視覚野/5.V4
 
 
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       全色盲になった画家についての補遺                                     (2015. 04.27~29)
 
 オリヴァー・サックスはセミール・ゼキ(サルV4の発見者)に、この大脳性色盲という「異例の患者」のことで電話をかけ、相談した。
 ゼキは興味をもち、すぐニューヨークまでやってきてI氏を検査するチームに加わった。
 モンドリアン図を使った検査の結果、I氏の第一次視覚野に基本的な問題はなく、
 視覚前野(とくにV4、あるいはその関連分野)が障害の原因だろうとチームは考えた。
 しかし当時の脳検査「CAT(*CT?_引用者註)でもMRIでも異常は見つからなかった。」(p70~)


 「当時の造影法ではV4の小さな異常を検出できなかったためか
 あるいは、構造上の異常ではなく、代謝異常だけだったためかもしれない
 あるいは、主な異常がV4自体ではなく、そこにつながる構造
 (V1のいわゆる「ブロッブ(*斑点 blob-色覚に関連するとされる) あるいは
 V2の「線条領域
(*blobからの投射を受けV4その他へ投射する-”形態知覚異常と最近の話題”仲泊 聡.2003p81
にあったためとも考えられる。」と説明している.
                    

生化学者フランシス・クリック[/color](DNA二重らせん構造の発見者のひとり。ノーベル賞受賞後、脳-特に視覚-の研究に転向)にもサックスは相談していました。
 クリックは、 「ブロッブと線条皮質という小さな部分は代謝が非常に盛んで、ごく一時的な酸素欠乏にもきわめて傷つきやすいのではないか」
 I氏は「一酸化炭素中毒」(事故による排気ガス漏れ、あるいは排気ガス漏れによる事故)による影響で色覚中枢に傷害が起きたのかもしれない、

 とサックスに言いました。


結局、第一級の神経科医が、世界的に有名な研究者に相談しても、
ジョナサン・Iに対する有効な治療法は見つかりませんでした。(2015年現在でも無理でしょう)
しかし彼らはひとつだけ「現実的な助言」をすることができました。

 ジョナサン・Iは中間的な波長の光のときモンドリアン図形をもっとも明瞭に見ることができたので」
 ゼキ博士の提案で、中間的な波長だけを通す緑のサングラスをつくり、
 「I氏はとくに明るい日光のもとではこのメガネをかけるようになった。I氏は喜んだ。
 色覚を回復することはできなかったが、コントラストの状態がよくなり、形や輪郭が見やすくなったからだ。


 「I氏は最初、自分の視覚的世界が忌まわしい、異常なものに変わってしまったと感じた」
 「I氏は錐体で、また波長を感知するV1の細胞でものを見ているが、それよりも高次の色をつくりだすV4の細胞が働かない

 ふつうはV1がつくる像は、それ自体としては経験されず、すぐにより高次のレベルに送られてしまい、
 さらに処理されて色の知覚になるので、わたしたちには想像がつかない。
 V1の生(なま)の像は意識されないからだ。ところがI氏は、これを見ている。脳の障害のために、
 色をつくるべき刺激が色を構築するまえのV1の不気味な世界、言ってみればどっちつかずの奇妙な、
 色のあるともないともえいない世界に閉じ込められてしまったのだ」
(p74)[/color]

全色盲となった画家ジョナサン・Iは、一時、自殺まで考えたといいます。けれども時間の経過が彼の心境をすこしづつ変化させていきました。

 「事故から三年ほどたったころ、イスラエル・ローゼンフィールドが、I氏の色覚を回復できるかもしれないと言った。
 波長を比較するメカニズムは損なわれず、V4(あるいは、それと同等の部分)だけが損傷しているのだから、
 少なくとも理論的には、ランドのいう関連づけを脳のほかの部分で行なえるよう
 「再訓練」できるはずで、そうすればいくらか色覚が回復するのではないか
というのである
  意外だったのはI氏の返事だった。

 「いまでは世界をべつの見方で見ているし、調和のとれた完全なものと感じているから、
 治るかもしれないといわれてもぴんとこないし、むしろ反感を覚えるという。
 もう、色は以前の意味を失ってしまったので、色覚が回復しても,,たぶん、ひどく混乱するだろうし、
 自分には理解ない感覚に当惑して、せっかくつくりあげた視覚的世界の秩序が乱されるだろう


 しばらく煉獄さまよったあげく、ようやく彼は-神経学的にも心理学的にも-色盲の世界に落ち着いたのだ」。

事故前のジョナサン・Iの絵         全色盲になって2ヶ月目の絵    事故から二年たった頃の絵(自分には見えない色を一色だけ使っている)
colorblindpainter1.jpg     colorblindpainter6.jpg     colorblindpainter7.jpg  [絵は全てクリックで拡大(右クリック推奨)] 
                                                                                  (from"Jonathan I -A true colorblind painter"


 「先天性色盲の患者クヌート・ノルドビーはつぎのように書いている。

   色の物理学と色の受容体のメカニズムに関する生理学について徹底的に学んだが、
  それでも色の真の性質を理解する助けにはならなかった。」                       (p75) 
                          
  
「色についてのよく知られた現象」について記したあと、ニュートンは、感覚についての考察をやめてしまい   
 「どんな方式、あるいはどんな動きによって、光が心に色の幻を生み出すのか」
 に関する仮説をたてようとはしなかった。
 それから三世紀、依然としてそうした仮説は出されていないし、 この疑問には永遠に答えが出ないのかもしれない。 」 (p80)
          
 
 
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『もうひとつの視覚』メルヴィン・グッデイル/デイヴィッド・ミルナー 訳 鈴木光太郎・工藤信雄 新曜社(2008年 原著2004)
(導入部要約)
スコットランド人女性DF(ディー・フレッチャー)は、1988年、自宅プロパンガスの換気不備で漏れ出した一酸化炭素により、浴室で昏睡状態に陥った。
一命はとりとめたが、回復後なにも見えなくなり、皮質盲(後頭部(低次視覚野)傷害により視覚表象が全て失われる)と診断された。
幸い視覚能力は回復したが、物の形が認識できなくなっていた(色覚/質感認識は正常)。
丸と四角の見分けもつかず、たとえばコップの形も大きさもわからなかった。
にも関わらずDFは、形の違うものを一度で正確に掴むこともでき、足元に置かれた高さの異なる障害物を足をあげて正確に避けることができた
(が、障害物の形も高さも答えることはできなかった)。
研究者の中には彼女の視覚障害を精神傷害、または詐病と疑う者までいた


 著者のグッデイル&ミルナーは彼女の視覚障害の原因が、「LO野」の損傷にあることを解明しネイチャーに発表しました。
 この本は「LO野」損傷をガイドとして二つの視覚経路に関する認識を深めていくという流れになっています。


1. LO野を含む腹側経路について。(同書第5章「経路のなかはどうなっているか?」)※太字は引用者
(*DFの「視覚形態失認」の原因)
高い空間分解能を持つMRIを用いた最近の撮影によって,,物体の知覚にもっとも関与する両側の腹側経路(LO野)の損傷が著しいことが明らかになった。
線画を意味のない断片としてではなく特定の物体の表現として見ることを可能にする決定的な領域,,LO野が機能しないと、
 構成部分のたんなる集合と全体とを区別する構造(あるいは「ゲシュタルト」)を見る能力が損なわれるのである。


脳機能画像研究によって、顔と場所の知覚にそれぞれ専門化した領野が存在することが確認されている。たとえばMITのナンシー・カンウィッシャーは
顔領野」を確認し、ここを紡錘状回 顔領域(fusiform face area:FFA)」と名づけた。

もうひとつの領域(海馬傍回 場所領域,Parahippocampal place area:PPA)は、建物や光景の写真で活性化する
日用品(たとえば、果物、カップ、テレビ、花瓶など)と関係する領野も確認されている。
外側後頭領域(lateral occipital area:LO野)と一般に呼ばれるこの領野は、完全な物体の写真と、部分をばらばらに配置した写真を観察してるときの脳活動を
fMRIで撮影し、この二つの画像を引き算することで明らかにされる

色や顔、場所に関係した領野は、後頭葉と側頭葉の境い目付近の底部に隣り合うように位置し,,
Parahippocampal_gyrus_animation2.jpg海馬傍回   Fusiform_gyrus_animation.jpg紡錘状回(後頭側頭回) Constudproc_300dpi.jpg場所・顔・物体領域 7_LO_3.jpg
これよりは外側面にあるLO野と一緒にひとつの領域を成している」「異なる領域間でどの程度重複があるかは議論の余地があるにしても、それぞれが独立している

すなわち、私たちの知覚体験は、汎用的な物体認識システムによって生み出されるのではなく、一連のなかば独立した視覚モジュールによって生み出されるのである。

(p157)両眼視野闘争の際の視覚的意識の研究」
「(*ナンシー・)カンウィッシャーは、フランク・トンらとともに、一方の眼には顔の写真、もう一方の眼には建物の写真を同時に提示し、その際の脳の活動を記録した。
被験者にはあるときは建物の写真が、またあるときには顔の写真が見えたが、二つが同時に見えることはなかった。
顔が見えていると報告(*レバー押し)したときには、FFAがよく活動し、建物が見えていると報告したときには、PPAがよく活動していた。
FFAとPPAの活動は、被験者が意識的に知覚しているものを反映しており、網膜上に投影されているものを反映しているわけではなかった。
 ダラム大学の神経科学者、ティム・アンドリュースも,,「顔と花瓶
(*ルビンの壺)」の多義図形を用いて、同じような問題を検討している。
20150112023543.jpg

両眼視野闘争では競合する像の知覚が生じるように、この多義図形でも、見えるものがその時々で変化する。(*黒い花瓶か白い二つの横顔)
花瓶のような物体が、FFAではなく、腹側経路のもうひとつの領域である外側後頭領域LO野)」を活性化させることを利用し」「FFAの活動と比較した。
結果は明白だった。知覚の変化は、FFAとLO野の間の活動の変化と強い相関があった。つまり、被験者は同じ画面を見ているのに、
脳の活動はFFAとLO野の間で切り替わり、それと同時に、「見えるもの」も変化したのである。

一言で言えば、腹側経路の神経活動と視覚的意識」との間には強い相関関係がある」(p150~)
「おそらく、意識に達しない視覚情報も処理され、腹側経路の高次の分析を受けている。
いわゆる無意識的知覚(主観的には見えない閾下刺激が行動に影響をおよぼしうる),,は確かに生じるが、
それは、背側経路によってではなく、腹側経路の活動によって引き起こされる

視覚刺激によって誘発された背側経路の活動,,も視覚的な意識を生じさせないが,,それが無意識的知覚に関係しているということにはならない。
無意識的知覚ということばは、そのような知覚処理が原理的には意識的なものでありえるということを意味している。
(下線-原文では傍点)

2. 背側経路
DFは、知覚能力に著しい障害があるにもかかわらず、視覚運動制御が保持されているという際立った強力な症例である。
     運動領野(背側経路)関連の記述(P88~
顔、色、場所を処理する場所は、脳の底部の互いに近いところにある。,,
「運動領野」はそこから離れた側頭葉の外側面にあり、LO野のちょうど上あたりに位置する。 
この領野は、セミール・ゼキによって三十年ほど前に最初のサルで確認され、彼はこの領野がV1から直接投射を受けていることを示した。

彼はV5と命名したが、通常はMT野と呼ばれている
運動盲として知られる特殊な傷害..では、動きを見る患者の能力が失われる。運動盲の患者は、
静止した物体なら完璧に見ることができるが、比較的速く動いている物体がすぐに見えなくなる

腹側経路の場合と同様、ヒトには独立し専門化した背側経路のモジュールが存在する
現在、ヒトの背側経路は、頭頂間溝(intraparietal sulcus:IPS)と呼ばれる長い溝のなかにほぼ位置することがわかっている。
ものに手を伸ばす動作、サッケード、ものをつかむ動作それぞれに専門化した領域がこの溝のなかに独立して存在し、
溝に沿って後部から前部末端にかけてこの順に並んでいる

IPS_992px_Gray726_intraparietal_sulcus_svg.jpgクリックで単独拡大(右クリック[新しいウィンドで開く]推奨) 図は、頭頂間溝を上下に開いた態でPRR,LIP,AIP,(及びVIP)を示している
(p90~)
さまざまな位置に光点を提示し、健常者に光点に眼を向けるか、指差しを行うように求めたとしよう。
 指さしを行わなければならないとき、これらのうち第一の領域(いわゆる頭頂葉手伸ばし領域、parietal reach region:PRR)が活性化する。

手ではなく眼を動かさなければならないときには、すぐ隣の領域(外側頭頂間溝領域、latetal intraparietal area(*LIP野))が活性化する。
(「最近の研究では,,この領野は、眼球を動かさないときでも、視覚的光景のなかにある物体から別の物体への注意を切り替える上で重要な役割を果たしているようだ(p145)」)
目標物にをつかむとき,,三つの領域の最前部(前部頭頂間溝領域、anterior intraparietal:AIP野)のみが実質的に活性化の増加を示す。」
「3つの領野-手伸ばし、サッケード(*眼球運動)、つかむ動作に関係した領野-
」などの
背側経路モジュールは,,系統発生的に古い低次の脳部位にある感覚運動制御器官(橋、上丘、小脳など)とも連絡し,,
眼球や四肢の基本的運動を生み出す役目を担っており、正確な運動出力の値を決める。
(p89~)
より新しい頭頂・前頭モジュールは、高次の「統括」システムを構成していると考えることもできる。このシステムのおかげで、脳幹のより古い、
より「反射的」な視覚運動ネットワークを柔軟に制御できるのだ。
 
 
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3. 腹側経路と背側経路に関する著者らの考え。

 視覚には 「知覚のための視覚」 と 「行為のための視覚」 があり(p66-77)
知覚と行為では、視覚情報処理がまったく異なる。それらは時間の点でも異なっている。
行為の場合にはきわめて短時間だが、知覚の場合には時間の制約はない。
二つのシステムは、用いる値の点でも異なる。 知覚は物体にもとづいた相対的なものだが、行為は観察者の視点に依存し、実際の計測値をもちいる。
知覚システムは知識にもとづいてトップダウン的に働くが、行為システムは、光学的配列をもとに、ボトムアップ的なやり方で自動的に働く。
」(p133)
背側経路の活動が意識されることはないので、「知覚」という用語を用いるのは適切ではない。
背側経路は、外界の視覚的表象を与えるという仕事をしているわけではない。しているのは、視覚情報を行為に直接変換することだ。
(p160~)
視覚は単一のものではなく、私たちの体験する視覚現象も視覚脳の働きのひとつの側面しか反映していない。
 視覚が私たちのために行うことの多くは、体験の外にある。
実際、私たちの行為の大半は、本質的に自動的なシステムによって制御されており、まったく意識にのぼることのない視覚的計算を用いている。


確かに、脳の構造の点では、二つの経路が相互に連絡していることを明確に示す証拠がある。しかし、
腹側経路が、背側経路にも理解できるように意図した目標物の位置を座標系内でどのように表示しているのか

結局「腹側経路は光景にもとづく座標系で機能し、観察者を基準にするのではなく、外界にあるさまざまな物体を基準にして、
そのなかにある物体がどこにあるかを知っている。
しかし、ものとつかむといった行為を制御するためには、背側経路は、ほかの物体との位置関係によるのではなく、
手に対してその物体がどこにあるのかを、
」「ボールを蹴るといった行為なら、背側経路は足に対してボールがどこにあるのかを知らなければならない。
 つまり、二つのシステムはまったく異なる準拠枠を用いている(実際、違う言語を話している)
」(p141)
  (グッデイル&ミルナーの基本思想)
究極的には、脳が行うことはすべて行為のためである
そうでなければ、脳は進化しなかったはずである。」「自然淘汰は行為の産物に作用するのであって、思考だけの産物に作用することはない。
(P150)

二つの経路相互の連絡についての著者らの仮説。 (p141~)
二つのシステムに送られる情報が同一の源 ―網膜と一次視覚皮質のような初期の視覚領野― に由来するという事実を利用する
低次の視覚情報処理装置には、眼に映る光景の二次元の「スナップショット」が含まれている。
この情報は、二つの経路に別々に送られ、異なる目的のために使われるが、どちらの経路も実際には双方向性がある。つまり、
二つの経路の高次領域から、一次視覚皮質への逆向きの投射が多数ある
」「最近の研究では、逆向きの投射のほうが通常の上行性の投射よりも数が多い
このことは、二つの経路が、共有する入力信号源へのこうした逆向きの投射を通して、間接的に連絡し合っていることを意味する。
(*グッデイル&ミルナーの2004年仮説のイメージの概要だけならこれで充分だが「体外離脱」に関係する可能性があるかもしれない箇所を追加引用)(p142~)
(逆向きに投射された)初期段階の信号は依然として網膜座標で符号化されているので、
この共通した準拠枠を用いて、腹側経路は背側経路のために目標物の位置に印をつけることができる。

目標物が網膜マップ上で表示されれば、背側経路が用いる必要のあるどんな座標系にでも変換することが可能になる。
(*ものを掴む場合)背側経路はまず、頭部を基準に眼球の位置を計算し、次に身体を基準に頭部の位置を計算して、
最後に身体を基準に手の位置を計算する。こうすれば、手に対して目標物がどこにあるのかわかる。

つまり背側経路は、いったん目標物の網膜上での位置がわかれば、その情報を多くのさまざまな行為を制御するのに必要な形式にいつでも変換できる。
最近のfMEI研究(*2004年当時)による証拠は、LIP(*頭頂間溝の真ん中あたりにある眼球運動に関連した領野)
最新の注意の「サーチライト」をなんらかのやり方で腹側経路に送っているということを示唆している。

著者らは、「みな推論にすぎず、かなり単純化して考えているようにみえます。
いまのところ、二つの経路がどのように連絡し合っているかについては確実なことがわかっているわけではない。
」と断っています。

関連
・  DFに関連したグッデイルの最近の論文(2014)グーグル翻訳で読む限り、DFが物を把持する能力は触覚フィードバックよりも視覚フィードフォワードに依ると言ってるらしいです。 
                                   (google翻訳依存につき不確か)(著書ではフィードフォワードはボトムアップ(上行系)。逆はトップダウン=フィードバック(遠心系))
 
・  グッデイルの論文リスト
・  ミルナー(A. D. Milner): 患者DFに関する2012年論文_googleのページ翻訳が不能で内容はおぼろげにしかわかりませんが、LO野の位置が示された図があります.
    →(a)患者DFの脳右半球.青色で示した部分がLO野 (b) 底部から見たD.F.の大脳半球(LO野の障害が両側性であることを示す)(”横断翻訳”)(2015.05.12閲覧)
・  pooneilの脳科学論文コメント[カテゴリー別保管庫] 腹側視覚路と背側視覚路 Goodale & Milnerに触れてます 

 ※日本語インターネットだけを見ている限り今のところ門外漢には"LOC(Lateral Occipital Complex)"とLO野(lateral occipital area)の関係が、よくわかりません。
京大系サイトではLOCを「高次物体処理領野」とし、小嶋祥三氏は京大名誉教授でもありますが「脳と心」第2章では「外側後頭複合領域」とし、
順天堂大学の北澤茂氏の資料P31では「側方後頭皮質」と訳語も一定していないように思えます。
小嶋氏のpdfにはこの本の著者Goodaleの論文も取り上げられているが、その際の表記は [LO野]ではなく[LOC]となっている。グッデイルのこの本ではLO野は腹側経路の重要な一部として位置づけられていますが、
小嶋氏は、「対象特異的脳領域」とし腹側経路から外しています。
専門家間で語彙の定義や見方の一致がまだないという事なのか、2004年頃と最近では呼び名と範囲が変更されたのか、
日本語しか読めない門外漢にはわかりません。

(偶然なのか、理由があるのか門外漢には判りませんが日本の脳関連サイトでLO野の詳細な記述を見かけることはほぼなく、wikipediaや脳科学辞典にも全く記載がないのは不思議です。
(2015年2月8日現在-サイト内検索 ヒット件数ゼロ)

*文中に出てくるOSM(オブジェクト置き換えマスキング Object substitution masking)について。
・『注意をコントロールする脳』苧坂直行編 2013(社会脳シリーズ3)

短時間呈示された二つの刺激が、時間的・空間的に近接する場合に、両者の間に知覚的な妨害効果が生じることをマスキングという」
「二つのアルファベット(*たとえばKの後にM)が同じ位置にそれぞれごく短時間(たとえば50㍉秒(*0.05秒)ずつ続けて呈示された場合、
どちらも明瞭に見えるかというとそうではない。後続の「M」は明瞭に知覚される一方で、先行する「K」はしばしば認識できなくなる。

この現象は、後続刺激が先行刺激の見えを時間的に遡って阻害することから、逆向きマスキングと呼ばれる。
..二つのアルファベットの間に充分な空白時間(500ミリ秒(*0.5秒)程度を挟むと、もちろん「K」も「M」もしっかり認識できる。
クラウディング(*空間または時間的に近接した妨害)は今この文章を読んでいる瞬間にも生じており、
少し上下左右に離れたところに文字があるのは分かっても、混み合い過ぎていて何の文字かは実際にそこに眼を向けないと分からない。

**OSM(オブジェクト置き換えマスキング)は、
たとえば二つの刺激(ターゲットとその認知を妨害するマスキングオブジェクト)を並べて同時に呈示しても、
ターゲットが先に消え、マスキングオブジェクトが少し長く残存すると、ターゲットの正答率が落ちる現象をいう。

 以下、同書よりLOCに関する記述。
カールソンら(Carlson er al. 2007)は、fMRI順応(fMRI adaptetion)と呼ばれる手法を用いて、
刺激条件は同一であるにもかかわらず、OSMが生じてターゲットが報告できなかった場合には、
オブジェクト認知にかかわる脳領域の外側後頭複合体(lateral occipital complex:LOC)でターゲットが表象されていないが、
ターゲットが報告できた場合には 、LOCでターゲットが表象されていることを示した。
したがって、OSMによってターゲットに関する意識的知覚が生じないときには、
LOCにおけるターゲット表象が残存するマスク表象に置き換わっている可能性が示唆された。
」(p171)
 
 
   

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最終更新:2015年10月30日 04:56