↑ 後頭葉に達した視覚情報が背側視覚路[Where経路](緑色)と腹側視覚路[What経路](紫色)に別れて処理される、という考え方
(レズリー・アンガーライダー&モルト・ミシュキン1982)を表す図。(wikipedia)
↓ 眼球からの後頭葉への視覚経路。
一般に眼科では、レンズや眼筋、網膜など入力部の不具合(傷・劣化・不適合・異常など)に対応することが多いでしょうが、
視覚不全の中には入力部から後ろの脳神経に問題がある場合もあるようです。
たとえば、『視覚はよみがえる』の著者スーザン・バリーは、幼児期の斜視によって左右眼の像が同調できず、
脳が単眼処理のみを行うようになったため立体視の機能が働くなったそうです。著者は幼いうちに斜視治療の手術は受けていましたが、
脳が、両眼の入力を受ける細胞ではなく、片視野のみを処理する細胞(眼優位性)を交互にすばやく切り替えて視像処理をし視覚を安定化させたため、
本人も自覚なしに立体視能力を失っていた、と著者は述べています(この著者は脳神経の専門家でもあります)。
幼少時に機能獲得されなかった立体視能力は回復しない、と、当時一般の眼科医は考えていましたが、
著者は、視能矯正の専門医と出会って視能訓練を受けはじめ、続けていると、ある日突然、生涯で最初の立体視を体験したそうです。
どうやら、視覚は眼と脳の、複雑で深い連携を経て成り立つもののようです。
脳の中で視覚機能研究はもっとも進んでいると言われています。とはいえ現在進行形の研究領域なので、
まだいろいろな仮説が並立していて決着がついていない部分もだいぶあるようです。
(例えば、立体視では、「微小奥行き視」を担う脳領域がV4であるとする研究結果が2012年に日本の研究者から発表されています)
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/events/achievement/v4/
○上図では後頭葉(第一次視覚受容野)に至る経路として、
視床の下側部分にある ’外側膝状体(LGB)’ 経路だけを記してますが、
他に、進化史的には古い外側膝状体'外’経路があります。
こちらは意識には昇らない反射的な視覚を担っていて
中脳の上丘を経由して脳幹/小脳/脊髄に連絡している経路などがあります。
「「見えてないのに無意識に見えている」盲視を日常生活シーンで証明」吉田正俊 (生理学研究所・広報展開推進室 リリース)
盲視(大脳皮質の損傷によって視覚意識の上ではまったく「見えていない」のに眼球は光学情報を正常にキャッチしているため無意識下で認識できている現象)は
膝状体外の経路が関わっているという説が標準(スタンダード)のようです。 →
“「無意識の視覚―運動系」によるサリエンシー検出機構の全貌”
伊佐 正 . 「盲視」吉田正俊
(膝状体’外’経路についてはV・S・ラマチャンドランも、『脳の中の幽霊ふたたび』第2章で、盲視のエピソードなどを交えながら詳しく取り上げている)
※外側膝状体’外’の経路については、「末梢神経系のお話し」パーキンソン病 病状 介護日誌(akira
magazine)視神経(Optic nerve)2 の青線-途中で分岐して上丘にいたる線の方、などを参照のこと
高次視覚野を通して「意識が見る」には時間がかかります(およそ0.2~0.4秒くらい)。
反応が遅すぎて間に合わないようなものを無意識に避けたりする場合に、この古い経路が働いているという考えもあります。
*面白いのはカエルの視覚で、
カエルの視覚は、古い視覚経路と同じ顆粒細胞(K細胞)層からなっていて、動かない物体の認識はできず、
動くハエには素早く反応しエサを捉える事ができるのに、紐でぶらさげられたエサが目の前にあってまったく気付かないそうです。
→参考"アマガエルの視覚に関する情報,,,"レファレンス協同データベース