猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

アオとクロ小話01

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アオとクロ 小話1



早朝の城は日差しが気持ちいい。
城の門番は夜勤なのかいつもけだるそう。
挨拶して門をくぐる。
城の入り口に顔見知りを見つけた。

「よう、クロ」
「おはようございます、ファンガスさん」

ファンガスさんは片耳の白ネコ。
先生のお友達で城の兵隊さん。
他のネコよりも頬の毛が長くて、先生に似てる。
僕の2倍ぐらい背が高い。

「どうしたンだい、今日は」
「師に頼まれて、ラグスさんにお使いです」
「神官長に? こんな朝っぱらからご苦労サン。
 さっき正堂で朝の祈りをやってたっけなあ」
「ファンガスさん、休暇はいかがでしたか?」
「結局ダラダラ寝ちまったよ。
 仕事で疲れちまうと、やる気が出なくてよォ」
「今夜、宜しければ夕食をご一緒にいかがですか?」

ファンガスさんの眼がくりっとこちらを見る。

「クロちゃんからお誘い頂けるとはうれしいなァ  夕食なんてケチなこと言わないで夜通し、
 ホテルでアツーい一時を過ごそうゼ?」
「あははは。楽しそうですけど僕には早そうです。
 師がこの間の礼がしたいと言っておりまして」
「なァんだ、旦那のお誘いかい。
 じゃあんまワクワク出来ねえなァ」

おどけながらも残念そうなファンガスさん。

「私も、腕によりをかけますよ。
 ご都合がよければ夕方6時頃お越しください」
「わかった、ンじゃ、よらせてもらうよ」
「お待ちしております」

いつ話しても面白くて優しい人だなあ。
にこやかなファンガスさんに手をふって別れる。




「この職についてから、溜息の量が増えた」

神官長のラグスさんが息を吐きながら言った。
ラグスさんもネコで、毛皮は灰色。
ずいぶんなお歳みたいで、ヒゲが長い。
正装のラグスさんしか僕は見たことがなかった。
いつも怒ったような、シワの多い渋い顔をしている。

「お体の具合がわるいんですか?」

じろりとこちらをみて、再度ため息。

「心臓がな。
 どこぞの山猫が暗躍するおかげで
 不安に胸の負担がかかりっぱなしだ」
「は、はあ……」
「……ふ すまんな
 あやつに意見出来るのが君だけなのでな。
 つい愚痴ってしまうのだ。許してくれ」

神官長ともなると、いろいろ大変なんだろうなあ。
ラグスさんに師からの書類を手渡す。
最初のうち機敏に動いていたその眼は、 読み進むに連れてどんどんつかれた感じになった。
眉間のシワも増えている。
読み終えると、やっぱりため息。

「……死傷者もなく済んでよかったな。
 行方不明者は出来る限り見るに耐える状態で
 返してくれと伝えておいてくれたまえ」
「はい、承りました」

ラグスさんは机に両腕で頬杖をつく。
眼をつむってしばらく黙っていた。

「……朱に交われば赤くなるというが、
 くれぐれも君は毒されてくれるなよ」
「?」
「……なんでもない。
 ご苦労だった」

 お辞儀をして、オフィスから出た。




 家に帰ると、途中で調達した食材を食卓に置く。
ホールには誰もいない。暖炉も火が消えたままだ。

先生を探して廊下を歩く。
先生の部屋をノックしてみても、返事はなかった。
それならばと、地下室へ向かう。
館には、貯蔵庫だったらしい石張りの地下室がある。
地下へ下る階段の扉の前はじめじめして暗い。
扉から出てくる師とちょうどばったり顔を合わせた。

「やあ、どうしました」
「只今戻りました。
 夕食の買出しに行ってきました。
 使う分をより分けて頂こうかと思いまして」

 階段の下から声がする。
男の情けない泣き声――というか叫び声。

「わかりました。
 今いいところなので、区切りがついたら伺います」
「お願いします」

 先生にレグスさんからの言伝を報告する。
先生は礼をいって再び地下へ降りていった。
階段に響く足音に泣き声が大きくなる。
先生の背を見送って扉を閉めた。

「さーて、
 頑張ってファンガスさんを驚かせてあげよっと」

 僕は夕食の計画を練りながらその場を後にした。
窓の外の庭園には、柔らかな午後の日差しが満ちていた。

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