猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

蒼拳のオラトリア 第二話

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 むかしむかしのそのむかし いぬのくにができるよりも さらにむかしのこと

 みなみのうみをあらしまわる あばれんぼうがいました

 あばれんぼうのなまえは しゃこといいました

 しゃこはとてもざんこくで じぶんのすみかにちかづくものがあると

 そのひとのまえにあらわれ 「ここをとおりたければ おれとしょうぶしろ」といって

 なぐりあいのしょうぶをもうしこみます

 しゃこのこぶしはとてもかたく ちからはいわをもくだくほどだったので

 しょうぶをいどまれたひとは みんな ぜんしんのほねをばらばらにされてしんでしまいました

 そんなむほうをはたらくしゃこのところに あるひ ひとのよさそうなおじいさんと

 とてもうつくしい おんなのひとが やってきました

 おんなのひとをみて ひとめできにいったしゃこは おじいさんにいいました

 「おいじじい そのむすめをおれによこせ そうすれば いのちだけはたすけてやる」

 しかし おじいさんはいいます

 「このむすめは らいげつ けっこんするのです あなたにおわたしすることはできません」

 「うるさい なぐりころされたいか そうだ そのけっこんあいてをつれてこい

 そいつとしょうぶして おれがかてば なにももんくはあるまい さあどうだ」

 それまでだまっていたおんなのひとが それをきくなり おそろしげなかおになっていいました

 「なんとおろかなおとこだろう きさまのようなおとこのよめなど ねがいさげよ

 それほどしょうぶしたければ わたしがあいてになってやろう」

 うつくしいおんなのひとは みるまにおおきく おそろしい ひのとりにかわり

 ひのとりがてんにおおきくいななくと そらから おそろしいひのあめがふりそそぎました

 しゃこはぎょうてんして ひのあめからにげまどい ふるえあがっていのちごいをしました

 「たすけてくれ もうにどとらんぼうはしない ちかう だからひのあめをとめてくれえ」

 「そのことば たしかにきいたぞ」

 そのとたん おじいさんもまた おおきくりっぱな あおいりゅうにかわり

 しゃこはこんどこそ こしをぬかしてしまいました

 「さあ このりゅうおうのまえで いまいちど ちかうがいい

 もうにどと ひとをきずつけぬと」

 「わ わかりました りゅうおうさま もうにどと らんぼうなおこないはいたしません」

 「よし そのこぶし にどと じぶんのためだけにふるうこと まかりならん

 そのちからは こまっているひとをたすけるときだけに つかうことをゆるそう」

 「もしちかいをやぶれば ふたたび ひのあめがふると おもうがいい」

 しゃこはちぢこまり ひのとりとりゅうおうさまに ぺこぺことあたまをさげてちかいました

 それいらい みなみのうみで しゃこになぐりころされるひとは いなくなりました


  ――シャコ族の子供たちが聞かされる伝統的な寝物語より


(※東方の一部地域では火の鳥と竜王の部分が「流れ星」という名の真っ赤な竜に変わっており、
  乱暴者の子供をたしなめるのに「流れ星さまが来るぞ!」と脅かすのだという)



  蒼拳のオラトリア 第二話「謝らないで」



 トリアさんの家に居候することになった俺、岩原南に課せられた最初の仕事は、潮干狩りだった。
 潮が引くのを見計らって、砂浜をひたすら掘るべし、掘るべし!「満ち潮のときは泳いでていい」
というご褒美があるものの、なかなかにハードだ…主に腰が。
 最初のうちは素人ということもありバケツの底にちょっぴりしか獲れなかったのだが、毎日毎日
ざくざくやってるうちにだんだんいそうなところに見当をつけるコツを掴んできたような気がする。
 たまにバケツを一杯にできる日もあるし、そのうち踏んだ感触で貝のありかがわかるようになる
…かも。

 さて、しばらくこの浜で生活してわかったことがある。
 この浜が綺麗なのは、トリアさんが定期的に掃除しているためだった。夕方になると彼女は浜に
出てきて、流木を拾い集めたり、流れ着いた海藻などのごみを取り除いたりしていたのだ。流石に
広い浜辺なので一日に掃除できる範囲は限られているが、それを毎日続けてるからこそ浜は綺麗に
保たれているのだ。
 トリアさんは家でも非常に綺麗好きで、午前中は家から出ることなく、ずっと部屋の掃除をして
過ごしている。…もっとも、朝は血圧が上がらないのかいつもこっくりこっくりしているのだが。
半分寝ながら掃除するなんて、器用な人…シャコ?…だと思う。
 昼食をすませてようやくエンジンがかかってくると、前日に拾い集めた流木や、俺が獲って来た
貝などを持ってどこかへ出かけていく。どこに行くのか特に言ってはくれないのだが、前に話題に
出てきた港の市場あたりだろうと俺は見当をつけている。持っていったものがなくなる代わりに、
別の魚なんかを持って帰ってくるからだ。
 しかし、流木って売れるもんなのか…どんな奴が買ってんだろ。

 そうだ、気になることといえば、居候を始めてそろそろ二週間が経とうという頃の昼下がり。
 いつものように見たことのない野菜なんかを籠につめて帰ってきたトリアさんが、不意に沖の方
をくっと見たかと思うと、籠を振り落としパーカーのような普段着も脱ぎ捨てて走り出したのだ。
 うわ、いきなりストリーキング!?…と思ったら、普段着の下には最初に会ったときと同じ競泳
水着をしっかり着こんでいた。普段から着てたのかよ、とちょっと落胆してる俺の横を駆け抜け、
トリアさんは海に飛び込み、物凄い勢いで沖に向かって泳いでいった。その速さときたらイルカも
かくやというもので、見る間に視界からいなくなってしまった。
 どうやって泳いでんだ、速すぎる…。
 茫然と見送ってから30分ほどして、トリアさんが先程よりもゆったりと、それでもかなり速い
ペースで沖から戻ってきた。浜に辿り着いたトリアさんの手には、出発時には持ってなかった筈の
物品が握られていた。どうみても万年筆…だよな?
「あの、それ…」
「ミナミと同じ世界から落ちてきた」
 落ちてくるのは人間限定じゃなかったらしい。ふと、トリアさんの体をぴっちりと包む競泳水着
に目がいった。
「もしかしてその水着も?」
「…そう、これも落ち物。泳ぎやすくて便利なので使ってる」
 ああ、道理で見覚えのあるマークが入ってると思った。
 しかしこれはまた…ファーストコンタクトのときはばたばたしてたし、月明かりだったのでよく
見られなかったが、トリアさんの細身のボディラインを強調するこの水着は単に布地が少ないもの
よりもずっと扇情的な感じがする。しかも沖まで往復してきたせいか、かなりきわどい食いこみ方
をしているような…。うっ、やべ。
「そ、それじゃ俺は仕事に戻りますっ」
「そう…がんばって」
 反応してしまったものを隠すように後ろを向き、さっさと作業に戻る。黙々と作業してるふりを
しながら、視線はしっかり家に帰ってくトリアさんのお尻に吸い寄せられていた。
 そういや、落ちてからこっち毎日忙しくてシモの処理全然してなかったっけ。余計なトラブルを
起こさないよう、帰る前にさっさとすませちまうか…。

「そういえば、昼のあれですけど」
 その晩、いつものように炉端に腰掛けての夕食中に、少し気になった俺はちょっと質問してみる
ことにした。
「どうして万年筆が落ちてくるのがわかったんです?」
「少し、説明するのが難しい…」
 仮面のふちを指で軽く弄りながら、トリアさんはどう答えたものか悩んでいるようだった。
「もしかして、その仮面にかかってる魔法の力とか?」
「あ、ううん。これは単なる遮光器だから」
「しゃこうきぃ!?」
 俺の脳裏を、あの有名な遮光器土偶が駆け抜けた。え、つまりサングラスみたいなもの?
「私たちの目は、少し光に敏感すぎる。だから、普段からこれをつけてないと眩しくて動きづらい」
「はぁ…それは、不便っすね」
「これは知り合いの彫った一品ものだけれど、特に魔法がかかってるわけじゃないの」
「ふぅん…あの、ちょっと見せてもらっても?」
 そういって手を差し出すと、トリアさんの口元がちょっと困ったように結ばれた。
「ごめんなさい、できればあまり外したくないから」
「そ、そうですか。すみません、不躾なことお願いしちゃって」
「ううん…」
 ちょっと気まずい雰囲気になってしまったかもしれない。
 と、何事か考えていた様子のトリアさんが、とんでもないことを言い出した。
「着けたままでよければ…見てもいい」
「…へ!?」
 それはあれですか、トリアさんの顔をつかんで「ふーむむ」「いいシゴトしてますねぇ」なんて
ことをやれと。何それ、何のプレイ?
「あー、えっと…や、やめときます」
「…そう…」
 光景を想像するとどうにも恥ずかしいのでお断りすると、トリアさんはなにか残念そうに言った。
もしかして期待してたんだろうか…たまにこの人がわからなくなることがある。

 そうして何事もなく一ヶ月が過ぎようとしていたある夜。
 ごそごそという物音で、俺は目を覚ました。

 トリアさんだろうか。いや、トリアさんは部屋で寝ているはず。トイレに起きたにしては方向が
違う…こっちはたしか、物干し場じゃなかったか?
 ふっと、俺の頭の中にある仮説が浮かび上がった。もしや下着ドロ!?
 この世界に下着泥棒というカテゴリがあるかどうかは不明だが、落ち物は結構高値で売れるとも
聞いている。もしかしたら、俺やトリアさんの水着をねらってということも考えられなくはない。
どっちも落ち物だし。
 俺は寝床から抜け出すと、手近なところに転がっていた薪を手に取った。
 そうだ、明り明り…俺は普段着のポケットから携帯を引っ張り出した。
 俺の携帯は、幸運にも防滴仕様だったため落水で壊れることを逃れていた。とはいえ当然電波は
入ってくるはずもなく、日付を確認する時以外はバッテリーがもったいないので電源を切っていた。
充電する手段もないので、今のバッテリーが切れたらそれっきり。俺と前の世界をつなぐ、最後の
かぼそい糸…のような存在だった。
 俺は携帯のライト機能を使うと、わりに明るいそれを頼りにゆっくりと物干し場に近付いていく。
バッテリーの消費が激しい。追っ払ったらとっとと切らないと。
 そして、俺はいよいよ物干し場に踏み入った。やはり中でごそごそとうごめく影がある。
「誰だっ!」
 俺は薪を上段に構え、携帯のライトを不確定名:怪しい影に突きつけた。
 人影はびくりと震え、ライトの光から目を庇った。…待て、この人ってまさか。
「…トリアさん?」
「うっ…」
 俺に名前を呼ばれ、トリアさんがまたびくりと身をよじった。
 その手にはたしかに俺の水着が握られていて、気のせいかそれに顔をうずめていたように見えた。
さらに光の加減の見間違いでなければ、もう片方の手が…彼女の内股に隠れていた。
 え、これって……ええ?
 俺が状況をとっさに判断できないうちに、トリアさんの姿が消えた…と思った次の瞬間、得物を
持った手がひねられ、鋭い痛みに薪が手から離れる。あ、と思ったときには、トリアさんに地面に
引き倒されていた。勢いで手から離れた携帯が地面に落ちるかつんという音が、妙に耳に残る。
「見た…のね」
 地面に転がる携帯からの光で浮かび上がるトリアさんの口元は紅潮していて、息遣いは荒い。
 俺を組み敷いた両手の、内股に消えていた方の手にぬるりと湿った感触があった。
「こんな道具を持っていたなんて…予想外だった。気付かず寝ていてくれればよかったのに」
 さっきのはやっぱり…だったのだろうか。先日、トリアさんの水着姿に欲情して岩陰で処理した
自分自身の姿を思い出す。たしかに、人に見られたい姿ではない。
「ご、ごめん…」
「謝らないで」
 頭の上で両腕をまとめられる。彼女の、あのぬるついた手が自由になった。
「ねえ、気付いていた…?」
 俺の寝間着がわりのTシャツが、ゆっくりとたくしあげられた。彼女の荒い息を感じてぞくりと
背筋が震える。
「私がずっと、あなたの胸板に釘づけになってたこと」
 硬質の指先が、するすると俺の胸板を滑る。湿った指先が先端をかすめ、またぞくりとした。
「この前、私の水着姿に興奮していたでしょう…?」
 気付かれてた、のか…。かあっと頭に血が昇った。
「と、トリアさんだって、いま…!」
「そうよ」
 ぴしゃりと出鼻をくじかれ、言葉を失う。
「あなたは見てはいけないものを見たの、だから…」
 唇が、そっと近付いてくる。
「食べちゃおう、かな」
 唇と唇が、触れ合う…。


 こつん。


 触れ合う直前で、仮面が俺の額と鼻に接触していた。
 なにか、すべて計算されていたかのように、絶妙の距離だった。
「………」
「………」
 沈黙がたちこめる。
 夕食のとき以上に気まずい沈黙がしばらく続いたあと、トリアさんがすっと立ち上がった。
「ごめんなさい…今夜のことは忘れて」
 解放された俺は、ただ黙って頷いた。それで終わり。
 トリアさんは水着を元に戻し、そそくさと自室に消えた。

 どうにも形容しがたい気分で、俺は引き倒された姿勢のまま寝転がっていた。
 助かったというべきか、残念だと思うべきなのか。いや、きっと助かったんだろう。
 だって俺は。まだキスもしてないっていうのに。
 パンツの中で、射精していた。

 忘れられていた携帯のライトが、バッテリー切れで静かに息を引き取った。


(つづく)

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