猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

万獣の詩外伝07

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万獣の詩外伝 MONOGURUI 007

 
 
━━ Take.3 素直じゃないんです ━━
 
 ネコは守銭奴の拝金主義者で、血も涙もないサディストなのだという。
 身勝手で空気を読まない、協調の「き」の字も知らない個人主義者なのだという。
 
「会社はね、仲良しごっこする所じゃないのよ、ティルちゃん」
 そう、ネコである彼女の先輩は説法する。
「それを『友達』とか『仲間』とか、バッカみたい。…あくまで仕事の『同僚』でしょ?」
 知性の輝きを湛えた瞳でもって、さも当然の事とばかりに。
「協力した方が都合がいいから、利害関係が一致してるから協力するんであって、
それをラスキみたいに忠誠とかまで行っちゃうのは、はっきり言って、…ねぇ?」
 ネコは『忠誠』なんか誓わない。誰にも『服従』なんてしないし、『屈服』もしない。
 彼女の魂は彼女だけのもの。彼女の世界は彼女だけのもの。
 彼女の財産も彼女だけのもの。自由も、時間も、全て彼女一人だけのもの。
「…愛社精神とか愛国精神とか、ほっんとバカバカしいわよね、何が素晴らしいんだか。
自分は一人しかいないのに、どうしてあんな簡単に自分を犠牲にできるわけ?」
 これ見よがしに、聞こえるように、歯に衣着せず、さも自分は利口だと言わんばかりに。
 ……だが。
 
 
「ちょっとアンタ、聞き捨てならないわね!? もういっぺん言ってみなさいよ!!」
「猫井をそんなクズ共と一緒にしないでよね! そんな三流のチンピラネコ商人共と!」
「そんな事言ってあんたらも本当は猫井が羨ましいんでしょ? うっわ見苦しい僻み」
「あくどい悪徳商人が私達なら、じゃあそれを殺して金を奪い取るあんた達は何?」
「結局力で、暴力で片を付けるんだ? ふーん、へー、大した正義ですこと」
「猫井をバカにしたわね!?」
「猫井の名を騙って散々やってくれたみたいじゃない、覚悟は出来てるんでしょうね」
「いい身分ね。猫井の発明に、猫井の商品に、猫井の技術に散々あやかっときながら」
「良質の製品を、安価で売って何がいけないの!? 正しいじゃない、この上なく!」
「悪いのは技術開発と競争力を磨く事を怠ったあなた達よ、猫井じゃない!」
「猫井技研の技術力は世界一なんだから!」
「知ったような口利かないで! 猫井の事を何一つ知らないあんた達が!!」
「猫井の勝利よ、資本主義の勝利よ!」
「猫井ばんにゃーい♪ はい、全員猫井社歌斉唱!」
 
 
 また、彼女は腰に手を当てて偉そうに言う。
「やーねー、ヒースなんかと一緒にしないでよ。私はあんなのとは比べ物にならない、
やり手で切れ者でクールで知的なバリバリのキャリアウーマンなんですからね」
 そんな彼女に皆が返す。
「どこが」「どこがですか」「…いや、それは…」「…………」「ふむ」「あー…」
 
「ちょ!? なによ全員してその反応は!? どこからどう見ても
やり手で切れ者でクールで美人で理知的アダルトなキャリアウーマンでしょ!?」
「えー」「あー」「いや」「うん」「……」「ん…」
 煮え切らない答えを返す皆に、俄然彼女は食って掛かる。
「…いや、普段は確かにね。普段は確かにやり手で切れ者でクールだけどね」
「普段!? 普段って何!!?」
「す、少し興奮しやすいっていうか、エキサイトし過ぎな所があるかなぁ、とか…」
「興奮しすぎってどういう事よ!? 私は興奮なんてしてないわよッ!!」
 ラスキは必死に興奮状態の彼女を宥めようとするけれど、
「だ、だからその、すぐカッとなる所とか、感情的になるのを控えようっていうか…」
「要するにお前、ヒステリー起こし過ぎだって大将は言って(バキッ)うわらば」
 口よりも先に、手や足が出てしまう女なのは変わらない。
 
 だから問題行動もしばしば起こす。
 
「また……」
「………」
 ブタ箱のお世話になった事も、一度や二度ならず。
 住所不定の流浪人や浮浪者じゃない、立場も身元も割れた社会人なのにだ。
「どうしてこんな事したんだキャロ」
「つい カッとなって やった。 わるかったと おもってる。 いまは はんせいしている」
「……真面目に答える気ないだろ」
 きれいな顔に傷までつけて、乱闘の跡を残す彼女は確かにDQNそのもの。
「だって、あいつら…!」
「……ううん、なんでもない。……なんでもないって言ってるでしょ!!」
 腹に一物持ってると言えば持ってるのだろう、本心を語らないと言えば語らない。
 和合しようとせず群れない彼女らは、常に『どこか』『なにか』で距離を置く。
 
「キャロさんはなんて言うですか……アツいんですよね、結構」
「…うん、熱血だよね。…本人は自分はクール&アダルトだって絶対に認めないけど」
 それでも。
 
 
「『上司の愛人』だとか『実力じゃない』とか、根も葉もない陰口叩いてんじゃないッ」
「ラスキが影でどれだけ骨身削ってんのかも知らないで! この…っ」
「今ふざけた事言ったのはこの口? この口? この口!? この口ッ!!?」
「ヒースは給料分の仕事はするの。それすら出来ない無能が偉そうな口開かないで」
「前身が平民だろうが郵便配達員だろうが犯罪者だろうが、優秀な奴は優秀なのよ」
「騎士?学士?士官?名家? 意味のない経歴自慢にお達者ですこと」
「元王子でも元売春婦でも、大事なのは称号でなくて中身よ、心の在り様と魂の輝き」
「少なくとも鳳也君は、そこで腐ってるあんた達よりずっと態度も意欲も能力も上」
「イェスパーやティルちゃんに手ぇ上げるってんなら、私が相手するって言ってんのよ!」
「あはははは、私に勝てないようじゃ保安部にすら就職できないわね、ざーこ♪」
「上等じゃん! 表出なさいよ! あんたらお好みの方法でぶっ潰してやるからッ!!」
「まとめてかかって来なさいよ!? ボコボコにしてやんわよ!!」
「ハイヒールを脱いだ、この意味が分かる? … 本 気 に な っ た の よ 」
 
 
 ――ネコは守銭奴の拝金主義者で、血も涙もないサディスト。
 ――身勝手で空気を読まない、協調の「き」の字も知らない個人主義者。
 
「…ねぇキャロさん?」
「…なぁにティルちゃん?」
 ――本当にそうなんだろうか?
「本当にキャロさん、『愛社精神』とかそういうの持ってないでござるか?」
「当たり前でしょ? 私、ネコよ? いつだって自分が……自分が一番可愛いわ」
 ――本当にそうなんだろうか?
「本当に皆の事、友達だと思ってない……その、えっと、友情とか…?」
「やめてよティルちゃん、『愛』とか『友情』とか、サブイボ立っちゃう事言わないで」
 ――本当にそうなんだろうか?
 
 
「キャロー、お見舞いに来たよー、大丈夫ー?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!? 何してんのよあんた達、何勝手に人の部屋に――
「うわー、あいっかわらずきったねえ部屋だなぁ、女の部屋じゃねえよ」
「は、入って来ないでよ! か、帰りな……ゲホッ、ゲホッ。ゲホッ」
 
「いや、今年のインフルエンザは特に酷いって聞いたから心配になって」
「……余計なお世話……ゴホ……はぁ、はぁ」
「つかこんなゴミ溜めじゃ治るもんも治んねえよ、掃除してやろうか?」
 
「……勝手にしなさいよ……」
 
――顔が赤いままそっぽを向いてしまった彼女の背後で、くるりと尻尾が丸まった。
 
 
 
 
 

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