猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

学園010

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真夜中学園放浪記

 
「それいけ、男だらけの肝試し大会ー」
「やめれ、気が散る」
「そうだ、やめたまえ。今は危険な潜入調査中なんだからね」
 草木も眠るミノ三つ刻。校庭のフェンスの南京錠前に三人の少年が群がっていた。
 一人はカモシカのマダラ。その長身をウンコ座りに折りたたみ、ポケットから煙草を出しては
しまい直す。
 一人はヒト。フェンスの扉にかかった南京錠に針金を入れてなにやら動かしている。
 十二分に不審人物。とは言えここまでだったら「不良が夜の校舎で支配からの卒業」の範疇
だったろう。問題は最後の一人だった。
 もこもことしたスェットスーツだった。いや、服のせいではない。着ている者の体型のせい
でもない。着ている者の体毛のせいだった。
 ミステリー同好会会長、クリフ。
 長毛種の例に外れずタイトなファッションが致命的に似合わない。
「夜の学校に忍び込む程度で潜入調査なら、まあそうなんだろうけどな」
「カルロ君、君はこの調査の重要性をまだ理解してないようだね」
「あんな与太話を真に受けるアンタの怖さを今理解しかかってるけどな」
「そういえばさ」
 カルロとクリフの会話にサトルが口を挟んだ。
「ここまできといなんだけど、俺はまだ詳しい話聞いてないんだけども」
「あれ、そうだっけか」
 カルロが答えるとほぼ同時、かちゃりと音を立てて南京錠が開く。サトルはそのままよどみなく
スプレーのサビ取り剤を閂と蝶番にかけ、静かにフェンスの扉を開いた。
「さあ、ここからは慎重に行くよ。いったいどんな警備が敷かれているか不明だからね」
「……自分が普段通っている学校に、何を期待してるのか聞いて良いか?」
 某ゲームのかくれんぼ親父並みに低い姿勢で侵入していく自称名探偵に、鍵を開けた現行犯が
呆れた声で聞く。代わりにめんどくさそうに答えたのはカルロだった。
「巨大ロボだとさ」
「……は?」
「巨大ロボ」
 突飛な単語を聞いたサトルの動きが止まる。たっぷり一分考えた後、可能な限り常識的な解釈を
ひねり出したらしい。
「それはタコのミーナ先生が工作準備室に堂々と飾っているマスターグレードガンダムのことか?」
「いや、プールの底から巨大ロボが出てくるという噂があって、それの裏付け調査だってさ」
 サトルが夜空を仰ぐ。晴れ渡る空は月明かりを皎々と投げかけてくれる。
「……新聞部の仕事だろ。しかもラスキ班の」
「そこから頼まれたんだ、イヌ同士のよしみで。新聞部長としてみりゃ名探偵が何かやらかしても
 OKなんだろ」
 カルロも夜空を仰ぐ。夏の星座が瞬く。天気予報通り雨は降らないらしい。
「彼は売られたのかなあ」
「言葉にしないことが優しさって事もあるだろ」
 先行する秘密工作員には二人の言葉が届いていなかったらしい。
 それが救いである事を、二人の男は月に祈った。

   *   *   *

「さて、ここからが本番だよ。いよいよ敵の本拠地だからね」
「プールの更衣室前で盛り上がるテンションは、涼しさとエロスの2種類だけだと思ってた……」
「水泳選手って人種も含めりゃ3種類だろ」
 珍しく冷静なツッコミに徹するカルロと途中で帰らなかった事を後悔しているサトルを率い、
スネークなクリフはプールの更衣室の扉に近づいていく。そして、当然の事ながら鍵のかかっている
扉で手詰まり、ハンドサインでサトルを呼んだ。
(今の一連の流れを動画に撮っておいて彼女に匿名で送りつけてやれば良かったかなー)
 そんな事を考えながら鍵穴に針金を突っ込む。指の感覚だけを頼りに数十秒動かすと、またしても
簡単にかちゃりと開く。
「見事な手際だね。流石、錠前破りのサトル君」
「そんな二つ名手に入れた覚えはない」
「……つーか、こんなに簡単に開くもんなんだな。鍵って」
「南京錠とかこの手の古い鍵ならな。最近の住居は対策されてるから心配すんな」
 そんな事を言いつつも三人は更衣室建家に入り、そして女子更衣室に向かい掛けたスネークが
両肩を掴まれて止められた。
『まて』
「な、なんだい?」
 まさか二人同時に止められるとは思っていなかったのか。クリフが動揺を見せた。
「……いや、アンタはそう言うキャラじゃないと思ってたんだけど」
「つーかよ、誰も入ってない更衣室に何を期待してるんだ」
「ちょっと待ってくれたまえ。もしかして君たちは僕が性欲をもてあまして女子更衣室に向かった
 と思っているのかい?」
 他になんかあるんかい。という共通見解を喉元で押しとどめ、二人は視線で続きを促す。
「僕がこの調査依頼を受けたのは、同族のよしみと犯罪への憎悪だけじゃない。予防の為だ」
「……予防?」
「ああ、もしかしたらこの女子更衣室に仕掛けられているかも知れない隠しカメラを調査する事も
 目的の一つなのさ。ミツキ君もこのプールを使うわけだからね」
 そう言ってクリフは懐からラジオのような機械を取り出した。
「なんだそりゃ?」
「アマチュア無線用の受信機さ。電波盗撮ならこの方法で見つけられる」
 そう言って、何かの魔よけのようにリグを振り回し続ける探偵をサトルは冷めた目で見守る。
「なあ、カルロ。見つかると思うか?」
「あるかどうかはともかくとして、見つからなけりゃその方がいいんじゃねえか?」
「なんでまた」
「出歯亀程度で死人がでるのは流石に不味いだろ……ん?」
 何かに気付いたようにカルロが壁のポスターに近づく。学校制作の「目指せ!インターハイ」の
スローガンと健康的な水着イラストがかかれたそれの端を、テープをはがしてめくる。つられて
サトルもその手元をのぞき込み、二人はほぼ同時に硬直した。
 ポスターの黒の部分。それが、黒い半透明フィルムになっていた。
 そしてその黒フィルムの下になる部分の 壁 に レ ン ズ が埋め込まれていた。
(覗きかよ!)
(こんな堂々と!)
(建築段階から仕込まないと無理だろこのレンズ!)
(リグに引っかからないのは有線だからか!)
(このポスターも学校制作じゃねえか!)
 即座にそれだけのツッコミを心の中で入れてカルロがポスターを戻す。
 権力者の長くて黒い腕の気配を感じたサトルも、何も言わず壁に背を向けた。
「なあ、サトル。見つかると思うか?」
「やだなあ、覗きなんてエロビデオのやらせじゃねえんだから」

   *   *   *

「さて、そろそろ本番だよ。夜な夜なプールに出現する謎の巨大ロボットの調査はこれからだ」
「巨大ロボットという単語を聞く度に帰りたくなるんだけど……」
「いや、お前がいないと鍵が閉められないし」
 テンションの落差をものともせず、三人の男がプールサイドに立つ。
 当然のように、そこは静寂に満ちていた。
「ふうむ、それでは手分けして怪しい所を探そうか。君たちはそちらに側からぐるっとプールサイド
 を回ってみてくれ。僕は逆側から回る」
「ああ」
 気のない返事をかえして二人はクリフを見送る。地面にはいつくばるように虫眼鏡で観察を始める
探偵を視界から外してほてほてと歩く。
「なんで、こんな与太話であんなに真剣に捜査行為が出来んのかなあ」
「捜査ができればそれで良いんだろ。多分」
「あー、なるほど。手段が目的と」
「というわけで目的のない俺達はテキトーに回って終わりって事で」
「だな。てか、カルロ。お前はなんでこんな事に協力してんだ?メリット無いだろ」
「いや、ラスキから山猫亭のランチタダ券もらったから」
「……てめえ、俺にもよこせ」
「えー?」
「えー、じゃねえだろ!何不思議そうな顔してんだ!」
「バーロー!ペアチケット一枚しかないんだぞ!」
「理由になるかボケ!俺だってもらう権利あるだろ!」
「んなもんラスキに言えよ」
「……むう、それはそうか。ただ、そう言う話ならお前からも頼めよ」
「あーまーそれぐらいはなー」
 だらだらとだべりながら緊張感のない見回りは続く。二人がプールを1/4周ほどしたとき
その声は聞こえた。

「くっくっくっくっく……、ようこそ我輩の実験場へ」 ぷわーん みよーん ゆやゆよーん

 気の抜ける電子音と共に投げかけられたその声の方に振り向くと、果たして其処には怪人がいた。
明らかに二十歳過ぎてるのに白いスクール水着着て更にその上に直接白衣を着て、更衣室の建物の上で
テルミンを弾く片眼鏡の兎耳の怪女。その圧倒的な存在感を感じた二人は即断した。
「帰りがけ、なんか喰ってかえらね?」
「ファミレスか牛丼屋しか開いてないだろ、今の時間」
 見なかった事にした。
 だが、それが出来ない男もいた。
「くっ!何者だ!」
 ちょうどプールの対岸。聞かなきゃ良いのに聞く男がいた。
「ふははははははははは!愚昧!愚劣!痴愚神礼賛!!人に名前を聞く時には、まず自分が名乗るもの
 ではないかな、ミスターヒーロー?」
「ふっ、紳士たる僕が忘れていたよ。僕の名前はクリフ=ヴァレンタイン。……名探偵だ!」
「すげえ。自分の事、名探偵だって迷い無く言い切ったぞ」
「ツッこむなよ。それよりこの辺からならフェンス越えれそうだぞ」
「なるほど探偵か。ならば我輩も名乗ろう。我輩はプロフェッサー=キャルコパイライト!!
 職業はマッドネクシャリスト(総合学者)だ!!」
「マッドネクシャリストだと!?まさかこのプールを巨大ロボットの実験場にするつもりか!!」
「巨大ロボット?そんな少年のロマンは知らないな。我輩の目的はただ一つ!新魔法の実験だ!」
「新魔法……だと……」
「その通り、我輩の新魔法『鰻大量召喚』!!それを行う為に大量の水が必要なのだよ……」
「なんだって、そんな事をしたらプールが鰻風呂になってしまう。そんなところにミツキ君が入ったら
 ……そんなうれ、じゃない危険な事はさせないぞ!!」
 テンションの高い方の二人は、対決姿勢を強め。
「鰻かー。そういや最近食べてないなー」
「スーパーからも姿消したしなー」
 テンションの低い方の二人は、既にフェンスを乗り越えて帰ろうとしている。
 そんなコントラスト深まる夜のプールに、更に新しい声が響いた。
『そんなことはさせない!!』
 何時の間に現われたのか、月光をバックに木の上に立つ5人の人影。その中央の赤い人物がなにやら
ポーズを取った。
「学園のプールに鰻を放つなど……中等部男子の授業のときだけにやるべきだ!スピアーレッド!!」
 それに続けて残りの四人もポーズを取りながら自己紹介らしきものを進める。
「部活で使うんだから変なことしないで!フィストブルー!!」
「誇りあるもの、尊きものとなる為にッ!炸・裂・推・参!!ナックルイエロー!!」
「そんな実験、鰻の養殖場でやれよ!リボルバーグリーン!!」
「誇りあるもの尊いものになります為に、今宵この時この地に推参。ニードルピンク!!」
『五人揃って――スクールファイヴ!!』
 どおん!とポーズを決めた5人の背後で爆発が起きる。
 CGもバンクシーンも使わない、アナログな職人の魂がこもった登場シーンだった。
「……ふたりほどまともな事言ったな」
「まあそういう奴も必要だろ」
「むうっ。またしても我輩の邪魔をするかスクールデイズ……じゃなかった、スクールファイヴ!
 ならば行くがいい、オモチャ獣バイブジャガー。今週こそ奴らを倒すのだ!!」
「みんな、いくぞ!」
『おう!』
「微力ながら、この名探偵も力を貸すよ!」
 かくて、宿命のライバル達の戦いが始まる。この戦いに参加できるのは熱い魂を持った者達だけ。
 よって、熱い魂の持ち合わせのないサトルとカルロは家路についた。

   *   *   *

 後日の話になるが、学園の掲示板にあたらしい学内新聞が貼られた。
 見出しは『プールに現われた毒蛇の群れ。逃げ出した軍の生物兵器――――か?』
 その記事は三日ほど生徒達の与太話のネタになり、四日目には忘れ去られたという。

 

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