猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

カラス01

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

 


  体に冷たい風が吹き抜ける。寒さを感じて起き上がると、そこは崖の上だった。空を見上げると、細く欠けた二つの月が俺を見下ろしていて、無数に輝く星々が、それらを装飾していた。崖下は、遠く霞んでいて、見えない。
「……夢か」
ぼそりと呟く。
直ぐに理解した。布団に入って、起きれば、これだ。猿でも違和感を覚えるだろう。
しかし、異様にリアルだ。この崖は、どうやら高いところらしく、パジャマだと寒くて仕方ない。
どうせリアルな夢なら、女の夢が良かった。学校を辞めてから何ヶ月、女の胸部を鑑賞していないことか。おっぱいマイスターの名が廃る。
「起きた?」
「うわっ!」
突然聞こえた声に、冷や汗がどばっと出た。まるで自慰行為を母に見られたときのような羞恥心。出来るだけ何でもない風に咳をして、思い出す。これは夢だ。
ほっとして後ろを見ると、少年がいた。辺りは暗くて、姿が分からない。声も、声変わり前の男子か、ハスキーボイスな女性なのか判別つかない。唯一分かるのは、背丈が低いことだけだ。
少年が首にぶら下げた、鏡のブローチが、月明かりに反射した。
「キミ、ヒトだよね?」
喋り方もどこか中性的だ。
「ああ、如何にも。君は人じゃないのか?」
「如何にも」
そう言って、翼を広げてみせた。二の腕から手首にかけて、漆黒の翼が生えている。ばさりと羽ばたかせ、性能を確認する。
嘗てない程リアルな、ファンタジーな夢だ。
「名前は?」少年が訊く。
俺の夢の人物(?)なのに、俺の名前を知らないのか。
「俺は檜山祐樹。君は?」
「ボクはイヴ」
イヴ。確か、外国の、女性の名前だったか。しかし、一人称が『ボク』? ますます性別が分からなくなってきた。
一瞬会話が途切れたのを察知した俺は、イヴが話そうと口を開く前に決心して、疑問を訊いてみることにした。
「イヴ、君の……その」
「……性別?」
ドキッとした。
「はあ……初めて会った人はみんな訊くんだよね……」
「あ、いや、暗くてさ。顔が見えなくて」
何とはなしに言い訳をしてしまう。日本人の性……いや、俺だけか?
「じゃあ、これで分かる?」
ムスッとした声でそう言うと、イヴの右手の人差し指の先が、発火した。
「ちょちょちょ! 燃えてる!」
焦ってイヴの手を取りかけたが、イヴは面白そうに笑った。
「魔法だよ、魔法」
「…………」
魔法て。そんな簡単に言われても。でも確かに、全然熱そうじゃないし、火はそれ以上大きく燃えなかった。
イヴは唇の辺りに火を近づけた。火の灯りに照らされて、その顔が明らかになる。
選定が始まった。脳をフル稼働させて、性別を確認する。失敗は許されない。
二択だ。女か、男か。
「……女だな」
イヴは、はっとしたような顔になった。まちがえたか? いや、そんな筈は……
「ユウキ!」
と、イヴは俺の名を叫び、ひしと抱きついてきた。
どうやら正解だったようだ。
難しい問題だった。彼女の顔は美しかった。それは、“中性的な”美しさ。もし男なら『イケメン』と女子に崇められ、女なら『イケウーメン』と男子がほめそやすような、そんな顔。髪もショートカット。顔のパーツも、整っているが、性別を決める手は、そこにはなかった。
じゃあどこで決めたか?
俺は、満面の笑みの少女の瞳を覗き込み、優しく微笑んだ。

胸の谷間さ。

火はなにも、顔だけを照らしていた訳ではないのだ。
まあ、谷間と言うか、『波線のへこみ部分(~)』みたいな、発展途上中の小さなものだったし、ブローチの鏡が、火の灯りを反射したりして、胸筋のそれと判別しずらかったが、おっマス(おっぱいマイスター)にかかれば、お茶の子さいさい朝飯前だ。
しかし、当の本人はそんな不純な途中式には気づいておらず、柔らかい、リアルなおっぱいの感触を、俺に与え続けていた。愚かな娘じゃのう。
「初めてで気づいてくれたのはユウキだけだぁ~!」
「光栄デス」
なんだか良心の呵責。謎だ。
良心の訴えを無視し、俺は、恍惚の表情で抱き返そうとすると、彼女は、気付いたように言った。
「あ、そうだ。ユウキ。ちょっと惜しいけど……送ってってあげるよ」
「どこに?」
まさか現実に? 今度の夢はそういうコンセプトなのか? 『さあ、現実の扉まで送ってってあげよう』みたいな? そりゃねぇぜ。
イヴは俺の肩に手を当てたまま、少し離れて、きょとんとした顔で言った。
「どこって……ユウキのご主人様のところへ?」
「……つまり、俺が現実社会の奴隷だと言いたいのか」
「へ?」
こんな素晴らしいおっぱ……夢から覚めたくない。女性と話したのは何ヶ月ぶりだった。この時間を失いたくない。上手く、はぐらかすか……それとも、覚めるまでの間に好き放題やるか。
姑息な事ばかり考えていると、ふと、頭の中の悪魔が囁いた。
(ヤれ)
天使も現れる。
(ヤったらいいんじゃないスか。何か嫌な予感するけど)
(そういう予感って、大抵外れるやん?)
(ンだコラ)
(あ? やんのか?)
二人は喧嘩を始めた。同じ意見のはずなのに、何で争うんですか!
「戦争反対!」音速で右手が伸びる。
「きゃっ!?」
確実に女の子の悲鳴だった。俺の手のひらは、彼女の臀部を揉みしだいていた。
「うおおおおお!!」
尻もまたよきかな! よきかな!
「ちょっ、やっ……ぁ」
ヤれ。悪魔とも天使ともつかぬ声が急かす。夢から覚めてしまう前に、最後まで――

「やめろ!」
「おがっ……!」
彼女の本気の怒号と共に、おおよそ女性とは思えない、強烈な右肘が、みぞおちに直撃。俺はどさりと、その場に倒れ込んだ。
「も、もう! 乙女のお尻を触るなんてっ!」
「……っ……ぇぅ…………」
息が出来ない。吐き気もする。視界が揺れている。口から垂れる涎を止められない。意識も朦朧としてきた。
地面の冷たい感触。彼女の、土を踏む音。
ああ、
「……あれ? ちょっと、大丈夫?」
まさか、
「ユウキ? おーい」
薄々気付いてたけど、ああ、けど、まさか、もしかして、
「……夢じゃ……ない…………?」
「ユウキー!?」
最後に「うっ」と呻いて、俺の意識は、完全に途絶えた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー