猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

プレゼントボックス

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「クーちゃん、クーちゃん!!」
「いだだだだ、ええい乗るな!!毛引っ張るな!!」
「なークーちゃん、ほんとにきぐるみじゃないのか?」
「本物だよ!ていうか偽者ってなんだよ!うわ、わ、首引っ張んな!!!いで、ででで」
「クーちゃんおなか空いたー」
「だから今作ってるだろうが、ちょっとはガマンしろっ!!って、あっ、バカっ、鍋に触るなっ」
「クーちゃん、おしっこー」
「廊下出て右!!」

クーちゃん、つまり俺だが、ていうか俺の名前はクーちゃんじゃないんだが、とにかくまあ俺の家の中は大惨事の様相になっていた。
あれもこれもそれというのも、さっきから俺にまとわりつくまだ幼いヒト、ヒト、ヒト…数えるのも煩わしい。確か15、6匹はいた。いや、20匹か?
「クーちゃんあそんでー」
「ねえ、クーちゃん、クーちゃん」
「クーちゃん」
「クーちゃぁーん」
「クーちゃんってばあ」
「…どいつもこいつもっ!何度言ったらわかるんだ、俺はクーちゃんじゃない!!」
俺が魂の叫びを上げたところで、
「クーランだッ!!」
「クーちゃんっ!」
俺にまとわりついてきゃらきゃらと笑う幼いヒト達には全く通じないのは痛いほど知ってしまった。
ああ、挫けそうだ。


そもそも、なんでこんなことになったかというと―――――。


俺は農夫だ。ごくふつうの、犬の国の貧しい農夫。
夕方、俺はいつもの通り畑を耕しているところだった。日も暮れてきたしそろそろ終わりにするか、と曲げていた腰を伸ばしたとき、何もないはずの空間、そこに、それは、あった。
ピンク色の箱だった。箱の外壁には見慣れないカラフルな模様などが描かれている。箱と言ってもでかい。とにかくでかい。高さは俺の背丈ぐらいで、横幅は高さの二倍とちょっと。俺の目の高さのところには一列に窓がついている、が、内側からカーテンがされていて中は窺い知れなかった。下部には黒い輪が二つ。反対側に廻ってみるともう二つ。見たことの無い、モノ。
「オチモノ…か?」
ぷしゅう、と音がして目の前の箱の一部が開いた。中から高い声がいくつも聞こえてきたので声につられて入ってみると、…果たして、中にいたのは、
「…ヒト…?」
そう、たくさんの幼いヒトだった。何故か皆黄色い帽子に紺色の服、と同じ恰好をしている。
そいつらはこちらを見て一瞬静まり返ったのち、ひそひそと話し合いを始めた。ひそひそというのは顔を寄せ合って話すことの形容で、声がやたらでかいせいで内容はだだ漏れだったが。
「わんちゃんだ!」
「しゃべった!」
「何、あの人、きぐるみ?」
「きぐるみにしたらできすぎだわ」
「ねえ、このワンちゃん何かな」
「きっとゴールデンレトリバーだよ、おれんちの太郎丸といっしょだもん」
「あたしワンちゃんだいすき!」
「ぼくもー」
「おれも」
「わたしも!」
「…おい、お前ら」
「ねえ、ワンちゃん!」
さっきからやたらでかい声で喋っていた…ツインテールの髪型からして多分メス、が俺の言葉を遮った。誰がワンちゃんだよ、と言う前にまた。
「あなた、お名前は何?」
「あ?…クーラン」
これがいけなかった。実にいけなかった。
「クー…なに?」
「クーちゃんじゃない?」
「クーちゃんがいい!かわいいもん!」
「クーちゃん!」
「クーちゃん!!」
「クーちゃーんっ!!!」
例の話し合いで俺の呼び名が決まったらしい。っておい、ちょっと待て。
「俺はクーちゃんじゃない、クーランだッ!!」
俺は訂正の声を上げた。しかし、クーちゃんクーちゃんと盛り上がるチビたちには一切合切全くもって届かなかった。本格的に日も暮れてきたのでとりあえず家の中に放り込み…そして今に至る。
こいつらみんな売ったら何十年かは遊んで暮らせるんじゃないか、とかそういう打算もあったんだが、冒頭の通り今はそれどころじゃないんだ。つーかなんだよクーちゃんて。いい大人に寒気がするわ。


「…飯にするか」
「メニューは?」
「野菜スープとパン」
「えーっ」
「あたしカレー食べたい!」
「ハンバーグがいーいー」
「ぼくオムライス!」
「コロッケ」
「あーもーうるせー!!文句あるなら食うなよ!!」
そう言えばブーイングはぴたりとやんだ。なんだ、躾は一応されてるんだな。
さて、料理が終わって、テーブルにつかせようにもイスが圧倒的に足りないので、多少行儀は悪いが絨毯の上に輪になって座らせる。誰が俺の隣になるかでもめていたが、自然とジャンケンで決めているあたり、先程からの話し合いも含めそういう力はあるらしい。うるさいけど。
「そういえばお前らの名前はなんなんだ」
「なふだにかいてあるじゃん」
「ねー」
「その花が名札なのか?悪いが俺には読めない」
「ひらがななのに読めないの!?」
「だっせー!」
「クーちゃんおとなでしょー」
だったら大人をクーちゃんとか呼ぶなよ。
とりあえず俺の左隣から順に名乗らせたが、なにぶん人数が多い。めちゃくちゃ多い。
「っだー!!覚えられっか!!」
そういうわけで。飯のあと、名札を俺が読めるように書き換えた。どうやら向こうとこちらで使われている字が違うらしいので、ついでにチビ達にも自分の名前の書き方を教えてやった。
「かけた!クーちゃん、かけたよ!」
「ん?いや、ここがちょっと違う。これじゃヤカンだ…え?なんでこんな間違いになるんだ?」
「ねえわたしのは!?」
「ぼくのは!?」
「あたしが先ー!!」
「うるっさい!順番!順番に並べよ!!!」
…なんてことをやってるうちに、一人が「眠い」と言い出して、それにつられて一人、また一人と絨毯で寝始めてしまった。まあどうせベッドも足りないしなあ、と思っていたところだったのでちょうどよかったのだが。
二階へかけるものを取りに行き、戻ってくるともう誰一人起きている奴はいなかった。雑魚寝なのを整頓して、均等にシーツをかけてやる。
「なんで俺、こんなことまでしてやってんだろうなあ…」
先程までとは打って変わって、すっかり静かになった部屋。あどけない寝顔には、なんとなく心くすぐられる物がある。こいつらがヒトでなくて人間なら、な。
だがそこで、でも、と思う自分もいた。
「…やっぱ、売るのやめっかなあ…」
なんていうか、こう…、こいつらの賑やかさには、実はそんな嫌いじゃないのだ。すごい疲れるけど。
農家にありがちの広い家で一人暮らしの俺。両親は50年以上も前に死に、弟以下兄弟はみんな街へ出てしまった。嫁はいない。一人には慣れていた。慣れようとしていた。一言も喋らない日もあるくらいだった。寂しいなんて、…。
そんな中、この騒がしいチビ共は俺の元へ来たのだ。…違うし。別にちょっと楽しいなんて思ってねえし。
ほら、あれだ、これだけ大人数だから、うまくしつければ農作業も捗るかもしれないし、長い目で見れば売るより儲かるかもしれないし。それだけだから。まじで。
うん、それだけだから。売るのやめるのはちょっと様子見るだけだから。
しつけて使えそうなら俺が使うから。それだけだし。いて欲しいとかじゃなくて。断じて。
「………誰に言ってんだろ、俺………」
ああもう、今日は肉体的にも精神的にも本当に疲れた。考えるのももうやめだ。あくびを一つして俺も床に寝そべる。
「おやすみ」


「クーちゃん」
「クーちゃん」
「クーちゃんってばあ」
朝。チビ共の声で目が覚めた。
「あっ、クーちゃん、おはよう」
「おはよー!クーちゃん、おなかすいた!」
「早くしないとようちえんおくれちゃうよー」
「なーしっこしていい?」
「きゃー、ちょっと、やだー!」
「クーちゃーん、クシないのー?かみのけとかしたいー」
「クーちゃん!」
「クーちゃん!!」
前言撤回。やっぱり売っ払ってやる。こいつらほんっとうるさいし躾とか俺には無理。そして俺の名前はクーランだっつーの!


今日は生憎の雨だ。何が生憎って、このパワー有り余ってるチビ共を外へ追っ払えないこと。お陰でもうコップ三つと花瓶が一本割れている。
「走り回るな!!棚をいじるな!!ソファーで跳ねるな!!」
ちょっと吠えて脅しても、余計きゃーっとはしゃがせるだけだと気がついたのはついさっきだ。
大体普通、遊んでる場合じゃなくて、もっとこう、悲観的になるもんじゃないのか。最初っからこいつらには全くそれがない。さっき飯を食いながら説明してやったのに無い。「じゃあ幼稚園いかなくていいの?」「じゅく行かなくてもいいの?」ってそれだけだった。ヨーチエンもジュクも俺にはなんのことだかさっぱりだったが、そうだと言うとやつらはきゃっきゃと嬉しそうに笑っただけだった。
…おい、お前らわかっているのか。知らない世界に落ちてきたんだぞ?父ちゃん母ちゃんいたんだろ?帰りたいと思うだろ?
「でも、だってここ、たのしいし」
「ねー」
「ネー」
「あ、でもクーちゃん、ぼくカレーたべたい」
「あたしもー」
「オムライスー」
「ハンバーグー」
こ、こいつら。


朝飯を作っているとき、以前三軒隣の奴が酒の席で「ヒトいいなー一度でいいから飼ってみたいよなー無理だよなー」とかなんとか言っていたのを思い出したので、そいつなら引き取ってくれるかもしれないと思い魔洸式電信機で打電すると、すぐ行くと返事が返ってきた。
十五分後、本当にすぐそいつは来た。
「おう、随分早かったな」
「ゼェ、ああ、そりゃ、もう、ヒトって聞いたら、ゼェ、急がないわけには…ゼェ、ゼェ」
やたら息が切れているのは察してやって欲しい。この辺は田舎なので三軒隣というと小さな山一つ向こうだったりするのだ。

とりあえずキッチンに通し、茶を一杯淹れて落ち着かせていると、奴らがドアの陰からひょっこりと姿を現した。
そしてすかさず俺たちにまとわりついてくるあたり、その適応能力は流石だと思う。いた、いたた、だから毛引っ張るなって!
「クーちゃーん、だれそれー」
「ともだちー?」
「ね、あの犬なに?」
「えーしらね、雑種じゃね?」
「ざっしゅー!?」
「ってなに?」
「じゃーさ、ざっくんにしようぜ!」
「ざっくんさんせー!」
「ねークーちゃんおなか空いたー」
「クーちゃん、おひるー」
「クーちゃん」
「クーちゃん!」
「クーちゃんってばー!!」

「…こいつらが件のソレなんだが…」
首に一匹、両肩に一匹ずつ、背中に二匹乗せて、両手と両足に一匹ずつぶら下げたざっくん(仮)にいるのか、と聞けば、返ってきたのは即答。
「え、無理。」
だよなー。ですよねー。
まったく、これからもう、俺はどうしたらいいんだ――――いっそ泣くぞ、とがっくりしゃがみこんだ俺の耳に、
「クーちゃん、どうしたの?」
「泣かないで」
「大丈夫?」
「クーちゃん」
と、心配そうなチビ達の声が次々に入ってきて、ほんとにもう色んな意味で泣きたくなった。

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