猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

こちむい 逃走!? ホワイトデー

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こっちをむいてよ!! ご主人様  逃走!? ホワイトデー

 
 
 師匠に一番に教えてもらったお菓子は『キャラメル』であった。原料は砂糖と水ながら
ほのかな甘さの中に僅かに舌を刺激する苦味が古来より多くの人々を魅了してきた。
『山猫亭』でのバイトのあと夜のキッチンで師匠と何度も練習した。何度も失敗して
ニガ甘い失敗作を食べ、何度もしょっぱい涙を流したものだったっけ・・・
 そんな事を思い出しつつ小鍋の中のクリームをかき回すぼく。そろそろ余計なことを
考えていると失敗してしまうところだ。目の前にはバニラエッセンスやバター、苦労して
この日のために仕入れた白色蜂蜜などが置いてある。今日作るのはホワイトキャラメル。
カラメルソースのキモである苦味の隠し味は入れつつも綺麗な白色を残したいのでその
バランスは細心の注意を払う必要がある。
 水分が抜けていく様子を目ではなく、かき回すしゃもじの抵抗で測りながら他の材料の
投入時期を探る。

 「・・・完成・・・」
 すぐに一部を残して純白に近いキャラメルを半球状の型に流し込む。冷やしてから
残ったキャラメル液を接着剤代わりにして大きなキャンデーボールを作る。そして
キツネの国製の綺麗な模様の蝋紙で包み、小さなリボンをかけて完成!
 「えっと・・・ご主人様に、リナ様にユナ様・・・ミルフィ様に・・・あとソラヤ君にも上げようかな・・・」
 これも買ってあったヘビの国のエキゾチックなデザインの小さな布袋にキャラメルを
詰めながら作業をしていると、
 『コロコロ・・・』とキッチンの作業台からキャラメルの一つが転げ落ちてしまう。
 「あっ、しまった・・・」
 慌ててしゃがみこむぼく。でもキャラメル玉はキッチン内の作業台の奥、隙間に入り込んで
しまい、ぼくが体の位置を変えたり、いっぱいに手を伸ばしても届きそうで届かない。
うんうんと声にならない唸り声を上げて格闘していと不意に玄関のドアが開いた。
 

 「にゃ~、疲れたにゃあ、あのコピーババア達、毎年モタモタしやがってにゃあ」
 「やっぱり今年も明日の王室奉仕活動は誰も手をあげなかったな」
 「あたりまえですの~。明日はあの日ですの~」
 ドヤドヤと入ってくる三人のネコ姫たち。どうやら朝礼のあとでそのままこの部屋に
やって来たらしい。ちなみに『コピーババア』というのは恐れ多くも陛下の妹である
イーリスとセレーネのことである。当然、マナが『ババア』と言えばフロ・・・
いや恐ろしいので説明は省略。そして朝礼の『王室奉仕活動』とは王家の姫君が国民に
奉仕する仕事を割り振ることで、上は兵を率いての他国遠征から、下は子供の遠足の
引率まで様々な仕事をこなす。これは姫様たちの王位継承順位に関わるほか、税金を
納める平民たちが『王家なんていいもんじゃない』などと思わせる事には役立っている。
だって失敗すれば母親から殺され、真面目に奉仕活動をしない姫様はイワシが主食に
なるなんて、このカネ余りのモノ溢れ、かつ飽食享楽のネコの国では死ぬ以上にイヤ過ぎる。
 「ん・・・召使い君は留守か・・・」
 マナの召使いを気に掛けているリナがひょいとキッチンを覗く。召使いはその
カウンターの背後にいて慌てて出ようとするがうまくいかない。
 「お茶が飲みたいですの・・・リナ、ティーセット取って来るですの――っ!! 」
 「ええい!姉を使うな姉を・・・」
 キッチンを覗き込んだせいで他の二人がさっさとソファに陣取ってしまい、仕方なく
リビングと続きのキッチンへ向かうリナ。
 「にゃふ、リナ、ティーセットはカウンターの上にあるにゃあ」
 「おお、これか・・・むむ、お茶請けに手製のチョコチップクッキーがある」
 「・・・あっ、ぼくが・・・」
 カウンターへと近寄るリナ様にやっとキャラメルを拾った召使いはその向こう側から
慌ててゴソゴソと外に出ようとするがユナ様の言葉で動きが止まる。
 「チョコといえば明日ホワイトデーですの、何貰えるか楽しみですの――っ!」
 「ほ、ほっ、ホッ、ホワイトデー・・・ついに異性から貰える日が来るとは・・・100の戦、
1000余の決闘に勝ち残ったのは明日という日のため・・・くくっ・・・」
 男泣きのリナに慌ててマナは言う。
 「どうせキャンディーかにゃんかを渡して終わりにゃ、なに過大な期待をしてるにゃあ・・・
大体この前のバレンタインだって自分にリボンつけてここに全裸で乗り込んでアイツを
泣かせたくせににゃあ・・・」
 あまりお金のない召使いに贈り物を用意させるのは流石のマナにも気が引けた。せめて
召使いに小遣いをあげる代わりに暴走しがちな妹達が余計なプレッシャーかけないよう
せこく口先のみでフォローしようとする。ちなみにそんな事をいうマナはその前に体中に
チョコを塗りたくって召使いに迫り、おろし立てのシーツをいきなりダメにして半べそを
かかせた事はもちろんおくびにもださない。


 『えっ!? ・・・キャンディーじゃだめなのかな?嬉しくないかな・・・?』
 ぼくはご主人様の言葉を聞いて凍りついた。
 とたんにやっと手におさめた大きなキャラメルボールはとても冷たい氷の塊のように
感じて呆然と手の中を見つめる。
 『考えなきゃ・・・何か他のもの・・・』
 残された時間と費用が召使いの頭を駆け巡る。召使いはカウンターの向こうでクッキーの
チョコチップの数で揉めている三姉妹の不毛な騒々しさにも負けること無く凄まじい集中力で
考えるのであった。
 「そうだ・・・これなら・・・」
 召使いがやっと立ち上がったのは、マナの秘蔵の映像フィルムをユナの部屋の大画面で
見ようと三姉妹がそそくさそわそわと部屋を後にしてしばらく経った後であった。

 召使いは布切れやらソーイングセットを探し出し作業に入る。マナがベロベロに酔っ払い
深夜まで帰ってこなかった事もあり、誰にも知られずに作業は終了する。
 「よし・・・できた・・・」
 召使いは満足げにうなずく。それはまさにこの召使いは主人のネコミミ三姉妹と似たもの
同志ということがイタイほど判る代物であった・・・


 翌朝、ホワイトデーの当日。マナのはからいで今日は二人の妹が朝食に招待されていた。
 「あ・・・ぼくちょっと・・・」
 朝食の終盤で召使いがさり気なく奥に引っ込むと同時に食卓は極度の緊張状態に包まれた。
 テーブルのいつもの席にはざっくりと適当に結んだポニーテールにパジャマ代わりの
長Tシャツにホットパンツ姿のマナ。二日酔いなのがミエミエで半覚醒のままコーヒーを
すすっている。
 その横はロココ調のフレアドレスで鎮座ましましてるユナ。持参した銀のフォークと
ナイフを優雅に使っている。背が足りなくて椅子から足をぶらぶらさせているのはご愛嬌。
ベーコンエッグと各自で焼くトーストの朝食ではこのフル盛装はつりあわないこと
おびただしいが、ホワイトデーのために目いっぱい着飾ってきているのだ。盛んに召使いが
消えた先を気にしていた。
そしてこの緊張状態を作っている主犯がユナの向かいにいる。『カチカチカチ・・・』と
フォークを皿に当て、震える手でベーコンエッグを口に運んでいるリナである。
 事もあろうにライトメイル、いわゆる猫国赤色軽装胸甲騎兵の姿でマナの部屋に
推参していた。あの長い方天戟こそないものの、腰には肉厚の狼国謹製の大太刀が
ズドンと刺さっている。リナにはリナの理想とするような贈り物を貰うシュチュエーションが
あるのだろうが・・・
 「くる、くる・・・ついにこの時が・・・」
 ベーコンエッグを寄り目で見ながら危なく呟くリナはマタタビ中毒者のように危険いっぱい
である。
 マナはそんな二人をうんざりしながら見つめる、さっき席を外した召使いが戻るまでの
辛抱と、軽い二日酔いの頭をはっきりさせようとコンソメスープとコーヒーをかわりばんこに
すする。

 いい加減に焦れたマナが声を出して召使いを呼ぼうとしたとき廊下の影からほんの少しだけ
召使いが顔を出して呼びかけてきた。
 「あ、あの・・・」
 「なんにゃあ?」
 マナは主人の余裕を見せつつ、声だけで召使いに答える。
 「あ、あの・・・ホワイトデーなんですけど、キャンディーとかじゃ物足りないと思って・・・」
 廊下の影でモジモジしている召使い。
 「にゃふ?」
 「「お、思って・・・!? 」」
 身を乗り出す二人のネコ妹たち。今にも襲い掛かりそうな勢いに召使いは観念して
リビングのドアの前に『ぴょん』と飛び出した。

 「「「・・・・・・」」」

 目の前に出てきたのはいつもの召使い。パリッとしたチェック模様のカッターシャツに
アーミー調の黒っぽい半ズボン。その色に合わせたハイサイソックスの足元はスポーティな
スニーカー・・・しかし・・・
 頭にヘアバンド、そこになぜか銀色の猫耳が付いてる・・・ついでに半ズボンのお尻の部分は
膝ぐらいまでの銀色ネコ尻尾がフルフルと揺れていて・・・
 「ご主人様たちって女の子の姉妹だけだから今日だけぼくが弟になってあげま・・・はうぅ、
な、な、なってアゲるにゃん!! 」
 恥ずかしそうに言う召使い。そして同時に白々しいほどの沈黙が部屋に満ち、逆に召使いの
表情が朱に染まっていった。本物の方の耳を真っ赤にして召使いは言う。
 「はうぅ・・・やっぱり、ドン引きですよね・・・今すぐ着替えて・・・ぐはあぁっ!! 」
 召使いの胃の辺りにタックルをかましてきたのはユナ。
 「な、名前は『ユリス』なんですの――っ!! それでいつもは愛しのお姉さまに『ユリちゃん』
って呼ばれていて本人は女の子みたいで嫌がってるフリをするんだけどちょっぴりシスコン気味で
お姉さまの留守の時にお部屋に忍び込んでベッドに置いてあった着替えたばかりの下着を
いけない事に使っているところを忘れ物を取りに戻ったお姉さま・・・もちろんユナのことですの
に見つかってなし崩し的に二人は禁断の関係になってしまうんですの――!!!!ぜはっ、
はふっ、ひふっ!!!!!」
 過呼吸を起こしながら一気に自分のでっちあげた中二設定をまくしたてるユナ。
 「はわわわわわ・・・ご、ご主人様っ」
 その勢いに召使いはうろたえるのみ。助けを求めて自分のご主人様を見やる。

 「モ、モエ――――ッ!! モエ――――ッ!! 」
 突如として雄たけびこくマナ。
 「ひいいいいっ、ご主人様が壊れた――っ!! 」
 「かにゅ――!うみゃ――!! 」
 そして両手を前に突き出し召使いへとゆっくりと迫る。まるでゾンビに襲われる公務員を
主人公にしたゲームのようである、捕まれば18禁の要素も十分に入って来るだろう。哀れな
召使いは腰にユナをかじりつかせたまま、あたふたと逃げ惑うが床に倒れていた物体につまずいて
もつれ倒れる。
 「うわっ・・・!? り、リナ様っ!!!!」
 それは絨毯に広がるほどの血にまみれたリナ。かつてこの大陸にこれほどリナを出血させた
者がいたであろうか・・・
 「ネコ耳ショタマダラ・・・我が萌道に一片の悔いなし・・・ぐふぅ・・・」
 いまだに鼻から大量に出血しつつリナは言う。言葉の最期でリナの鼻から立派な赤い鼻提灯が
出た・・・

 それからが大変だった。誰が今日ぼくとデートする権利を得るかという話し合いに名を借りた
罵り合いを耳をふさぎながらやり過ごす。更には手に炎をまとわせ、太刀を構え、両手に王水やら
塩酸やらの入ったフラスコを握り対峙する時を経て結局『じゃんけん』で今日のイベントの
主催者が決まったのであった・・・それは・・・


 「ふふふ・・・我が弟のマサムネよ、たまにはこうして無心で走るのも良いだろう?」
 「はい、姉上気持ちがいいですね気候もいいですし」
 ぼくは隣の馬上のリナ様を見上げて言う。隣にはリナ様の愛馬の『セキテイ』が並足で
パカパカと走っている。結局デートというよりはリナ様が自分の仕事ぶりを見学させる
という事になった。その仕事は副業と化している道場主としての仕事であった。当然走る主役は
ぼくではなく・・・
 「おいっ貴様ら!! かけ声が小さいぞっ、気合をいれろっ!」
 「へ~い・・・わっせー、わっせー・・・」
 気の抜けた返事をするのは動きやすい道着をまとった若いネコ娘たち。リナ様とぼくの後ろを
二列に並んで走っていて、頭には赤い鉢巻やバンダナを巻いている。ちょっとふて腐れた感じが
するのは自主的に道場にやってくる者だけでなく、親が躾に困って手におえない不良娘を
引っ張って来たり、街で悪さをしているあばずれ娘をリナ様たちが無理やり道場にさらって
くるかららしい。ちなみにどんなヤンキーな女の子たちでも3ヶ月程度で真人間になり、3年で
いっぱしの勇者に教育してしまうのだから『かわいがり』とは不思議なものであります。
 不肖の弟子達を睨みつける顔をコロリと変えてリナ様は続けた。
 「・・・あ、マサムネは一緒に叫ばなくていいぞ、お前の美しい声がつぶれたら我が人生の損失
だからな、うむうむ」
 そんな満悦のリナ様に列の遥か後から抗議の声。
 「ケッ、デートコースの設定も出来ずに、わざわざ体内に乳酸を溜めるにゃんて・・・
これだからあの脳筋ネコは・・・」
 「そうですの~、はふぅ、はふぅ・・・」
 列のしんがりには二人のネコ姫が・・・。
 部屋着代わりの、のびのびつんつるてんの黒い学校ジャージすがたのマナ。ポニーテールで
眼鏡なしの『ごくせん』と言うところだが熱血には程遠く、スタートから約20歩でもう
どうでもよくなってる。
 片やユナは落ち物のグレーのブルマ、そして上着の胸に大きく『4ねん3くみ ユナ』と
書いた体操着で決めてきたものの、生来の運動不足で息も絶え絶えであった。

 「ほら、あと半分!声出して行けっ」
 「へ~い」
 ペースが上がる。ぼくは後ろを見て慌てて言う。
 「あ、姉上、ユナ様が遅れていってます」
 「ん?よいよい・・・自分の速度でゆっくりくればいいのだ・・・おいこらそこっ!飢えた目で私の
弟を見るな!マサムネが減る!穢れる!」
 とメチャクチャな事を言うリナ様。そしてぼくの視界の端に勝手にスルスルと隊列から外れる
ご主人様の姿が・・・
 「ははは・・・そうですよね、自分のペースで・・・あっ!? こ、今度はご主人様が勝手にゲーセンに
入って行っちゃいましたっ!」
 「そうか、最近レアカードを手に入れたと言っていたから『ケモ耳大戦Ⅲ』でもやるのだろう、
うんうん・・・それに二人が消えるのは計画通り・・・」
 ぼくはリナ様の最期の言葉は聞き取れなかったけど、久しぶりに走る爽快感にそんな
細かいことは汗とストレスもろともどっかに消えていった・・・

 街を一周して道場に戻った。道場は結構和式っぽくて日本の柔道道場のような構え。
門の横には立派な杉板の看板が墨痕も鮮やかに掛けられている。

 『漢女塾』

 「なんて読むんだろ・・・?」
 ぼくは頭をひねりながら道場の玄関をくぐろうとした・・・がピタリと立ち止まった。
玄関の扉の横には張り紙がしてあった。

 『男子禁制!』

 「あ、あのぅ・・・これ・・・」
 ぼくは振り返って言う。後には満面の笑みを浮かべたリナ様と門下生さんたち。
 「ぼく男の子・・・」
 「全く問題ないぞ、ほら・・・ここに・・・」
 リナさまはぼくの両肩に置いた手を離し背後から指差す。
 「・・・えっ・・・!? 」
 張り紙の隅に小さくマジックペンで文字。

 『美味そうなショタを除く』 

 「あ、あの・・・姉上、ぼく夕食の用意をしなくちゃ・・・はは・・・」
 引き攣った声でいうぼく。『ぎゅ』と両肩に置かれた手に僅かに力が込められた。
『逃がさない』という無言の意思表示。
 「マサムネ・・・次は組み手の時間だぞ、立派な『オトコ』を姉に見せてみろ」
 「キャー、『オトコ』ですって!」
 耳元でリナ様の声。そしてその後で道場生たちの黄色い声がした。『カラリ』両開きの扉が
音もなく開く。目の前に清潔な板敷きの道場が広がる。それが実際の気温より寒々として
見えるのは何人もの血や体液を吸ってきた歴史のなせる業なのか・・・
 『トン』
 両肩をそっと押された。軽く押された筈なのにぼくはたたらを踏んでそのまま道場の中心まで
よろめいてなぜか道場の真ん中に予めセットしてあった台に抱きつくように体を支える。
それは学校の跳び箱に似ていて・・・なぜ角の下のほうに手錠が付いているんだろう?そして台の
横腹に銘板が貼ってあった。『尋問練習用拘束台 らぶらぶチェアーくん1号』とか書いてある・・・。
 『・・・・・・』
 これはヤバイと鳥肌を立てながらぼくは慌てて起き上がろうとする。だが周りには屈強な
門下生達にとっくに囲まれていた。
 「ひっ・・・!? た、助け・・・」
 唯一の脱出口である入り口を塞いでいたのはリナ様。ゆっくりと、堂々と鎧を脱ぎ捨て
下着のみの全裸になる・・・ご主人様とはまた違うベクトルの完璧なプロポーションが露わになる・・・
 「えっ・・・!? あ、あぁ・・・」
 ぼくはドギマギしてリナ様から目が離せない。そのままリナ様は門下生の差し出す道着を
ぼくの目の前で着替えていく。鎧を脱いだというのにリナ様の肉体がより戦闘的に見える・・・
名匠の作る日本刀とかライフルに欲情するってこういう事なのだろうか・・・。ぼくが目を奪われて
いるうちにリナ様は赤い緋袴を着けるとぼくに向き直る。ちなみにノーブラだ、しっかり確認して
しまった・・・
 「何を恐れる、単に乱取りの稽古ではないか・・・さあこい!マサムネ」
 「・・・そ、そんなのうそ・・・」
 でも、袴姿のリナ様は結構キリッとして格好良くて、なんかウソでも弟で誇らしく思って
みたりもしてしまって・・・それに本当に稽古をつけてくれるのかも・・・。なんて思ってしまったり
しなかったり・・・
 「来ないならばこちらから行こう・・・『乱取り』始めっ!! 」
 リナ様がぼくに突撃して来た。キリッとした様子から一変し、明らかに劣情と欲望に負けた
表情であった。というか、なぜわざわざ着た道着を脱ぎ捨てて来る!?
 「だ、だまされた――っ!! 」
 「いくぞ!! す、スキだ――――っ!! 」
 「ひいいいいっ!! それは『スキあり』ですっ!もうだめだこの人!!!!」
 ぼくは『ルパン三世跳び込み』をして来たリナ様を辛くも転がってよける。
 「ぬおっ、逃すかっ!! 」
 「ひいっ!? 」
 むんず、と掴まれるシャツ。ボタンが3、4つ引き千切れたのを利してぼくはシャツを
そのまま残して立ち上がる。
 「あっ、待て・・・ジョギング後の美少年のシャツのにほい・・・クンカクンカ、はふぅは~・・・」
 短絡的かつマニアックな欲望を満たす事により、行動が遅れるリナ様。いよいよダメだこの人・・・。
ぼくが扉に向かってダッシュするとリナ様に忠実な門下生達がぼくの前に立ちふさがる。
 「逃がすと基礎体力訓練になっちゃうわよ!」
 「捕まえて解剖しちゃいましょ!! 」
 「こら、まって・・・」
 「いやああん、さわっちゃた――っ!! 」
 ぼくは門下生達の足を掻き分けて、ドアの外へ・・・というところで足首を掴まれ道場の中へと
逆戻り・・・いったいぼくはどうなるの?


 「あわわわわわ・・・」
 捕まったぼく。結局やっぱりぼくは『らぶらぶチェアーくん』に拘束される事となった。
跳び箱台似た部分にうつ伏せになるように押さえつけられ、腕の辺りの手錠により固定される。
なんで道場にこんなものが・・・どうしてこんなに手馴れているのか・・・?それぼくを囲む
ケモ耳門下生達の妖しげな期待に満ちた雰囲気など、どう考えても碌なことが起こらないことを
暗示しているようで・・・。
 しばらくすると道場のロッカー室のとなり、『総師範室』と書かれた引き戸がガラリと開いて
再びリナ様が登場。さっきの緋袴は脱いで上着のみの格好だ・・・え、ちょっと・・・
 「ふふふ・・・ついにこの時が・・・」
 「な、なっ!なんですかそれはっ!!!!」
 ぼくは絶叫した。リナ様の腰。はだけた道着の上着の間、下の方から突き出ているのは
男性器を模した作り物の張り形・・・道着の影で腰にしっかりと固定されている皮ベルトがちらりと
見えた。
 「マサムネ恐れるな、ちゃんと優しくしてやるぞ・・・いつか私の姉上に奪われるぐらいなら
いっそ今、自らお前の初めてをもらってやるからな・・・」
 憑かれたような瞳でぼくを見ながら手渡されたローションをトロトロと模型に塗りこめる・・・
ヌラヌラとぬめ光り、粘液をしたたらせるディルドは地球外生物のような感じでさらに恐ろしさが
増したよう。そのままゆっくりとぼくに近寄ってくる。
 「だ、誰か――っ!! 大声出しちゃうんですからっ!助けて――っ、犯される――っ!! 」
 「甘いわっ!全員『漢女塾歌』斉唱!」
 リナ様の掛け声と同時に門下生全員が手を後に回し、足を肩幅に開くと鍛えた肺活量で高らかに
歌いだす。

  ~ケモ耳漢女の生き様は~
  ~色なし~恋なし~情けなし~
  ~漢女の道をひたすらに~
  ~歩みて時にダッシュする~

 窓枠を震わせるほどの合唱にぼくの声は完全にかき消されてしまう。ぼくの背後に回るリナ様。
ぼくは拘束されていない足をバタバタさせるが楽々とリナ様に抱え込まれ制圧されてしまった。
 「やだやだやだ!離してください――っ!! 」
 「ふふふ、物欲しそうにシッポをふりたくりおって・・・全裸ハイサイソックスも捨てがたいが
ここはシッポをそのまま残して・・・むふふ・・・それそれ」
 リナ様は爪を出すと慎重に作り物のシッポが取れないよう、お尻の部分だけを『ビリビリ』と
引き裂いていく。ぼくはじたばたと暴れるが手錠は手に食い込むし、動くのはお尻だけで
暴れれば暴れるほどここのダメ人間たちを興奮させるだけのような感じがする。
絶体絶命のぼくだった・・・


 「うっさいわねー」
 イーリスはいきなり沸き起こった騒音に近い歌声に耳を塞ぎながら道場の横の道を歩いている。
特異なのは菫色の艶やかなカクテルドレスに挿した黒鞘の太い日本刀。
 「あの筋肉姫の手下達の悪い癖なんでしょうねぇ」
 やはり薄ピンクのドレス着たセレーネが形よい眉を顰めながら言う。やはりドレスの腰に
不似合いな剣帯を巻き、日本刀を挿していた。フローラ本人ではないが、その姿形に恐れをなして
大通りの人通りはほとんど無い。
 「あによ、悪い癖って・・・?」
 「どうもねぇ、時々カワイイ子を連れ込んで悪戯しちゃう見たいなのよねぇ、ほら、あいつ等、
毎日しごかれてリビドー溜まりまくりじゃない・・・今日はどんな子が犯されてるのかしらぁ・・・」
 「・・・どうする?摘発する?」
 『チャキ』と腰に挿した日本刀の鯉口を切るイーリス。よくよく見ればイーリスとセレーネの
肩にはタスキが掛けてあり大きく『王国治安維持デー 一日隊長』と大書してあった。
 「やめましょう、めんどくさいしぃ、どうせ踏み込んだトコロで和姦になってるんだから・・・」
 まだ続く騒音という歌声にうんざりしながら言うセレーネ。イーリスは悔しそうに言う。
 「くっ・・・この仕事を押し付けた小娘どもがイチャイチャして、王妹の我々が寒風のなか
奉仕活動なんて・・・」
 ワナワナ震える手で愛刀の『ミランダ』の柄を握り締める。 

 ちなみにセレーネの刀は『シリーン』という。その二本の刀はキツネの国から贈られた名刀で
『なむぅあみだぶぅつう』と『しゃんじぇんしぇかい』と読むらしい難しい漢字が
刀身に彫ってある。今、違う名で呼ばれているのはそれぞれの刀で斬った人物の名前が正式名称の
代わりにつけられているせいで、『ミランダ』は前々女王。『シリーン』は前女王である。

 閑話休題。ストレス溜めまくりのイーリスのわき腹をつつくセレーネ。
 「イーリス・・・あれ・・・」
 橋の袂で二人のネコ耳若者の姿・・・。

 「カオリちゃん、これを受け取ってください」
 「まあサダキチさん・・・これを私に・・・」
 「や、安物だけど・・・カオリちゃん、僕は前から君のことが・・・」
 「えっ・・・サダキチさん・・・わ、私も・・・」
 赤面しながらうつむく二人。やわらかで優しい沈黙が二人をつつみ・・・
 「おお――っと、そこまでだ!! 」
 「その怪しい取引の品を大人しく出しなさい、確認した後バラバラにして川に投げ捨てますから」
 イーリスとセレーネが無粋に割って入る。人畜無害な商家のネコ耳青年と田舎娘に余りな
言いがかりである。
 「ついでにそこの手代の方は番所で朝までたっぷりと取り調べてやる・・・ウフフ」
 見る見る顔を青くするカップル。
 「ひいいいいっ!しっと団だあ――っ!! 」
 叫んでダッシュで逃げ出すふたり。
 「あっ、こら待ちなさい人聞きの悪い」
 「まてッ、この危険物不法所持の容疑者!」
 と大人げ無く刀をすっぱ抜いて追いかける王妹二人。もちろん街の人たちは見てみぬフリを
しているのは毎年恒例の出来事だからである。2月14日と3月14日はモテない王室の人間が
無茶苦茶をする日と決まっているのだ・・・きまってこの二人組ではあるが・・・。
 
 「「カップルなんてみんな爆破よ――っ!! 」」

 今日一杯このしっと団の活躍は続く・・・


 さて、助け出されそこねた可哀想な召使いの運命に戻る。和風の道場の中、多くの門弟達に
囲まれ視姦されながら絶体絶命のマナの召使い。朗々と轟く塾歌斉唱のなか、その声に
かき消されながらも召使いは叫ぶ。
 「やだやだ、助けて――っ!! 」
 声を限りに叫ぶ召使い。
 上半身裸で身をよじるネコ耳シッポ少年。足こそつながれていないが、シッポを残すために
半ズボンは大事な部分だけ破られているので下半身は内股でモジモジとしか動かせない。
その被虐心を煽る無防備な姿は門弟達の興奮をさらに高めさせることになり合唱のボリュームは
いやが応にも上がっていく。そして股間に張り形を生やしたリナが召使いのお尻の谷間に
タパタパと余ったローションを垂らすと興奮は最高潮に達し、門弟達の声は歌というよりは
絶叫に近くなる。
 「さ、マサムネ・・・姉上と一つになろうぞ・・・や、やさしくしてやる・・・」
 「だめ・・・そんなの大きすぎっ・・・ああっ・・・」

 はだけた道着の間から惜しげもなく立派な胸の谷間をさらしながら股間の張り形で召使いの
入り口にあてがう・・・白い肌に卑猥な色の張り形がくっついて・・・
 
 観念したように召使いが唇を噛み、抵抗を諦める・・・
 閉じた瞳、睫に絡んだ涙が一筋、『つぅー』と滑り落ちて・・・
 特に意味はないが師範室の花瓶に生けられた牡丹の花が花弁ごと『ぱたり』と落ち・・・
 召使いにのしかかったリナが荒い息と共に一気に腰を前に押し出そうと・・・

 ふいに玄関で切羽詰った声。
 「ま、待って!今部外者は立ち入り禁止・・・きゃああっ!」
 『ドバーン!!!』
 爆炎により弾け飛ぶ道場の扉。もうもうと立ち込める煙に道場生たちは合唱をやめ、
「すわ道場破りか」と色めき立つ。もうもうとした煙が多少薄くなり始めるとそこに現れたのは・・・
 「ご、ご主人様っ!」
 召使いが生色を取り戻して歓喜の叫びを上げる。
 「や、やっぱり来てくれたんですね・・・助けてご主人様!」
 マナは煙に咽ながらいう召使いを『判っている』とばかりに手で制して、『イ――ッ』と
叫び声を上げつっかかってきた命知らずなケモ耳門下生を感電させたり、燃やしたり、
蛙にしたりする。リナが慌てて召使いから離れて叫ぶ。
 「ええい、ふがいないっ!戟だ、私の戟をもてっ!!」
 マナを遠巻きに囲む門下生一人がリナの朱塗りの方天戟を転がるようにして抱えて持ってくる。
リナは軽々とそれをしごくとドスの聞いた声で言う。
 「ずいぶん早いお帰りで・・・姉上」
 「にゃふ『SRでぃんすれいふ』をゲットしたから早めに切り上げて来たにゃあ・・・」
 破壊による煙がスモークのように流れ、二人の姉妹の上半身が薄っすらと見えては、幻のように
霞むのを繰り返す。その迫力にしわぶき一つできない門下生達。
 「ずいぶんおもしろい事をしてるみたいにゃあ・・・こいつはわたしの召使いにゃあ・・・」
 マナの手の平で雷撃が『パチッ』と弾ける。
 「むむ・・・いつかは決着をつける時が必要だと思っていた・・・」
 『ヒュン』と太い戟を棒切れのように軽々と回転させるリナ。その刃は空気さえ切り裂けそうだ。
 開けられた引き戸から煙が抜けていく。視界が回復した時に始まる・・・門下生は戦慄を持って
二人を見つめ・・・そして薄っすらと視界が戻る。マナが『くわっ』と目を見開いて叫び一気に
跳躍した!
 「そういうイイ事をする時はわたしが先にゃ――っ!! 」
 煙が薄れやっとマナの全身が見えた。なぜが下腹部にぺニバンが装着済み。恐ろしいことに
マナが吼えるとドギツイ色の張り形から触手のようなウネウネとしたものがいっせいに蠢く
ではありませんか・・・
 「させるか――っ!! 」
 リナも同時に飛ぶ。魔法と刃が空中で噛み合う。場所を入れ替えてまた対峙する二人。マナの
ジャージの裾はハラリと切れ中の白い太ももが見えた。リナの道着の袖も大穴が開きブスブス
言っている。
 「なかなかやりますな姉上・・・」
 「にゃふ・・・最初にリナに剣を教えたのはわたしにゃあ」
 ニッと笑う二人。数奇者ならば身代の潰すほどのカネを払っても惜しくないであろう
『大陸無双』と『天才』の戦いがこの下町の道場で行われていた。
 真剣な二人。しかし股間にはショッキングピンクとパッションイエローの張り形がにょっきりと
生えているのは実にシュールであり、世紀の戦いのはずが場末の企画もののAVと化していた。
召使いはそんな戦いを眼前に見ながら叫ぶのだ。
 「もうダメだこの国!・・・だれかタスケテ――っ!! 」


 戦いの結末は1分と続かなかった。勝利のあかつきに手に入る美味しそうな賞品を目の前にして
じっくりと我慢できる二人ではなかったからだ。
 「ぬぅ~、食らえ奥義『新月斬』!」
 「は、離れて~っ!胴体輪切りになるわよ~!」
 「にゃんと!? にゃらばこっちは『爆炎招来』!」
 「ちょっとこんな狭いところで大魔法を使わないでよ!」
 逃げ惑う門下生たち。そして互いの気の早い最終奥義が真っ向からぶつかり合い・・・

 『ちゅど~ん』

 大爆発。ふっとぶ門下生達。炎系と真空系の技が互いを打ち消しあったせいか、火災は
起こらなかったものの道場は半壊、衝撃波のせいでほとんどの門下生が失神している。


 爆心地に近いぼくは派手に吹き飛ばされた。そのまま凄い衝撃によって気を失う。
 「あれ・・・ここは・・・?」
 短時間の失神から目が覚める。ここは更衣室であった。破壊の範囲から免れている
ブロックのせいか、倒壊による埃よりも女子更衣室特有の甘酸っぱい匂いが漂っている。
 「あれ・・・?外れてる・・・」
 手首を見れば薄っすら跡が残っているものの、手錠はぐんにゃりと曲がって緩くなっており
手を引き抜くことに成功した。ぼくを拘束していた忌まわしい『らぶらぶチェアーくん』は
バラバラになっていた。どうやら吹き飛ばされ道場の壁を突き破り、更衣室に到達。そのときに
ぼくに対する衝撃の身代わりとなって『らぶらぶチェアーくん』はバラバラになってしまった
のであろう。ぼくはゆっくりと立ち上がる。
 「は、早く逃げないと・・・あわわ、でもぼくハダカだよ・・・このまま街に出てあのしっと団に
捕まったら二度とお日様を拝めなくなっちゃうよ・・・」
 うろたえながら周りを見ると穴の開いた壁の傍のロッカーが衝撃でひん曲がり、そのうちの
一台のドア部分が歪んでいた。目が釘付けになるぼく。心の中の天使と悪魔が戦っている。
 『・・・・・・・・』

 しばらくして・・・
 「あうぅ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・後で必ず返しますから・・・」
 泣きながら更衣室の窓から脱出する召使いの姿があった・・・


 「ええい!テロリストかと思えばイワシ姫じゃないの」
 「そしてお騒がせサル山の大将の脳筋姫君ね・・・」
 道場の前の路上で説教をしているのは、王国治安デーの一日隊長であるイーリスとセレーネ
であった。当然目の前にはマナとリナ。可哀想にというか自業自得というか路上で正座させられ、
首から『爆弾貧乏テロリスト』『脳筋ショタ強姦魔』とプラカードを掛けられていた。
 「お城に帰って陛下の裁きを受けるかしら」
 セレーネがおどろおどろしく言う。
 「うにゃぁ」
 「くっ・・・」
 ビクッと身を震わせるマナとリナ。が、イーリスはうって変わってにこやかに言う。
 「ふふふ・・・なーんてね、今日は二人とも朝までここで正座な、これで勘弁してやるよ・・・
あ~あ、可哀想に・・・ホワイトデーの思い出がチョコ一つもらえずに夜っぴて正座なんてな~」
 「にゃ~っ、お城の自分の部屋で反省したいにゃあ!」
 「そ、そんな殺生な!」
 王妹二人はもう踵を返し、いままでの復讐とばかりに楽しげに言う。
 「あ、途中で逃げたら陛下に言うから。王国治安デーを狙って爆破テロをした犯罪者が
いるそうです~って・・・」
 「きっとアレだな」。半眼になってイーリスが物まねをして言う。
 「法律は何のためにある、わざわざフローラを煩わせるな・・・斬れ」
 そっくりの容姿でこんなことを言われると流石のマナも背筋を震わせ、二人がっくりと肩を
落とすのであった・・・
 「じゃあね、ばいば~い」
 セレーネが軽く言い、なんのためらいも無く二人の王妹は姪達を残し帰宅していく。
 可愛い召使いのためにここで死ぬわけにはいかないマナとリナはぐっと耐えて正座をする。
同情したくもあるが阿呆なプラカードと正座の股間からにょっきりと突き上げている張り形の
せいで悲劇を通り越し、喜劇になっているのは言うまでもなかった。
 もうダメだこの星・・・

 「ひもじいにゃあ、さむいにゃあ・・・」
 『ぐきゅ~』
 「うにゃっ、腹の虫で返事するにゃ!」
 「ううっ・・・なんでこんな・・・」
 責任を押し付け合い不毛な罵り合いの後、春先のネコの国はまだ薄ら寒く二人の体力を容赦なく
奪っていった・・・
 「余計なイベントにゃんて企画しにゃきゃ良かったにゃあ・・・」
 「そうですなあ・・・せっかくのホワイトデー・・・うううっ・・・」
 青い月が出始めていた。そんなうつむく二人に膝に影が差す。
 「「・・・?」」
 正座のまま顔を上げると薄暗がりの中に女の子がいた。
 
フリルがふんだんに使われた黒色のジャンパースカート、厚底ローファー、そしてショートカット
の髪には大きなフリル付きのリボンカチューシャ。カワイイ系の服装ながら体のシルエットは
スラリとした中性的な感じでじっと見つめたくなるような魅力があった。あいにく大きすぎるほどの
フリルリボンのせいで表情が隠れ読み取れない。月夜に銀色のネコ耳とシッポが濡れたように光る。
 その女の子が正座の二人に手を出した。手のひらの上には小さな袋。
 「くれるのきゃ?」
 おそるおそる手に取る二人。キラキラ光る太目の毛糸で編んであるヘビ国の巾着袋であった。
そして中から転がり出たのはいくつかの大きなキャラメル。
 『・・・・・・!!!!!』
 飢えていた二人は礼も言うのもそこそこに反射的に口に入れてしまう。
 「にゃふあ~!美味しいにゃあ、甘いにゃあ!」
 「くうううっ、甘さが沁みる・・・くふぅ・・・涙が・・・」
 夢中で口の中をもごもごする二人。硬い雰囲気のゴスロリネコ娘がホッと安心したように態度を
和らげたように感じた。それに気がついた二人は慌てて居住まいを正して言う。
 「にゃふ?もしかしてわたしにくれるために持ってきたのかにゃ?」
 びくっ!? とゴスロリネコ娘は下を向いて顔を真っ赤にして言うのだ。
 「べ、別にわざわざ渡そうと思って作ったんじゃないモン!ざ、材料が余ったからついでに
作っただけなんだから!さっさと残さず食べて下さいっ!もう知らないんだからっ!!」
 そのまま駆け出すゴスロリネコ耳少女。
 「ああっ!? 待たれよ!」
 リナが腰を浮かせ呼び止めるが振り向きもせずにかけて行く少女。薄暗がりにひらりと
フリル付きのスカートがめくれ、銀色のシッポの下の真っ白な太ももに可憐なインナーと
ガータベルトを見て鼻の下を伸ばすマナとリナであった・・・。せっかくの良い場面も股間の
ぺニバンでだいなしであったのは言うまでもない・・・というか、マナの張り形の触手がまだ
動いているのだけれど動力源はなんなのだろうか・・・

 リナが溜息をついて言う。
 「ふう・・・まあ貰うなら異性が良かったが、これで良いか・・・明日召使い君に謝らないとな・・・」
 マナが首をひねる。
 「にゃふ?どっかで見た様な人物に服装だったにゃあ・・・ふにゃあ、考えをまとめる糖分が
たりないにゃあ、ひょいパク・・・はみゅはみゅ・・・」
 「ぎゃああああっ!そのキャラメルは私のだ~っ!氏ね、というか本当に死ねっ!」
 正座の夜は騒がしく更けていく。


 一方・・・。
 元道場跡をスコップでザックザックと掘り返す人物が一人。体操着にブルマの人物は泣きながら
言う。
 「ふえ~んですの――っ!お気に入りの着替えたドレスが見つからないですの――っ!!
いくら探しても見つからないですの――っ!! 」
 ユナは鼻をクスンと鳴らしながら、突き刺したスコップに寄りかかる。
 「疲れたですの・・・今日は帰るですの・・・」
 とちょっと離れたブロックの方で声がする。 

 「きゃあああんっ!! まちなさ~い!あなた、凶器チン列罪の容疑なのよ~っ!」
 「ほら!そこのネコ娘逃げるなっ!やさしくしてやるから、そのスカートの中のすっげえのを
よく見せろ!触らせろっ!! 」
 「うわあああん!あそこで風さえ吹かなければ――!なんでこうなるの――っ!」

 「しっと団もこんな時間までしつこいですの・・・はふう・・・」
 ユナは額の汗を拭い空を見上げた。

 正座してる二人も、スコップをふるう少女も、ゴスロリ女装召使いもきっと同じ月を見てる・・・。


                                       おしまい

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