頭ぶつけて
「あふぁ…」
大口を開けて欠伸をする。
久しぶりの休日に特に何もすることがなく日向ぼっこをする、と言うのは少し虚しいが、
平均的な独身の雄犬ならそんなもんだろう、と自分を慰める。
「ちっくしょー。彼女がいるのがそんなに偉いのかよ」
と友人達(もういっそ『元』を付けてやろうかと思う)に予定を聞いたときの顔を思い出
す。
一人残らず「遊ぶ約束はしてたけど彼女優先w」と言う顔をしていた。
自分もまあ、彼女が欲しくない訳でも無いというかむしろ欲しいんだが、どうにも口下手
な所があったり趣味が料理で特技が家事全般だったりするのであまり積極的に女性に話し
かけられない。
一応軍人をやってはいるものの、前線配備されるような部署ではないし、されたいとも思
わない。
どこまでいっても自分はつまらない奴なのだ。
「あー、なんか…面白くなくてもいいから暇つぶしになるような事起きねーかなー」
そんな事を愚痴りながらゴロゴロと休日が潰れていくのがいつもの生活だ。
ただただひたすら虚しい。
後で思い返してみると死にたくなるほど無為に時間を浪費している。
かと言ってする事と言えば家の掃除をするか部屋の模様替えをするぐらいなものだ。
そして掃除はとっくに済ませてしまい、部屋の模様替えは前回の休日でやったばかり。
詰まる所、今日はもうこうしてゴロゴロとしているしかないのだろう。
と、その時。
「あれ、曇った?」
突然日が翳った。
だが先程まで思いっきり晴れていたしそれには雲ひとつなかったはずだが。
上を見上げる。
「は?」
何か落ちてき
ゴ チ ン ☆
頭がズキズキする。
何とか一週間缶詰して完成したブツの納品を済ませ、煙草を補充しようとマンションから
外に出た瞬間、階段から足を踏み外した。
うわ、と思い痛みを覚悟するが、何故かいつまでたってもそれが来ない。
それどころかずっと落ち続けている感じがして「あ、夢か。じゃあそろそろ『がくんっ』
て来て目が覚めるな」とか考えてたら突然頭が何かに激突した。
夢でも痛いものは痛いんだなー、とか考えていたら地面に横たわっていた。
…現実だったらしい。
何か体に違和感を感じるがとりあえず何処も折れてはいないみたいなので安心する。
ふと何か妙な物が見えた気がする。
人だ。
ラフなシャツにボロボロのジーンズ、ぼさぼさ髪の女が隣に倒れている。
うーわあたしとまるっきり同じ格好。
あたしの場合は缶詰だったし風呂入ってなかったし(一服したら入って寝るつもりだった
けど)そういう格好でも仕方ないけど、普通に外出歩けるかっこじゃないね、これは。
とは言え多分あたしがコケたのに巻き込んじゃったっぽいし、介抱は必要かなー、とか考
えてるとうめき声を上げながら女が身を起こした。
あーよかった。クリスマス前のこの歳で過失致死なんてやらかしたくないやね。
ま、一応声をかけて笑い話にでもしてさっさと帰るかな。
「だいじょう…って、ええっなにこの声!あたしこんな声ゴツかった!?って何この腕
毛!つか全身毛深っ!キモっ!」
毛深いっていうか毛皮?何コレ?なんなの一体?
「あいたた…一体何が…て声が変な感じ…」
起き上がった女と目があった。
「あたしっ!?」
「俺っ!?」
数瞬。
「「っぎゃあ~~~~~!!」」
二人の声が重なった。
後に『ディープダイバー』と呼ばれる事になる犬とヒトの冒険者コンビが誕生した瞬間で
ある。