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泣かないで、泣かないで、笑って! 第3話

 
 
 耳元で小さなくしゃみが聞こえた。
 薄い掛け布団の中、半覚醒した羊司が薄く目を開くと、長い羊の耳をしたかわいらしい少女がむず痒い顔をしながら身体をすり寄せてくるのが見えた。
「んぅ~……」
 少女は未だ意識が夢の中なのか寝言をもらす。
 ああ、これは夢だなとぼんやりとした意識の中、自分も寒いので少女のやりたいようにさせる。
 落ち着ける場所を見つけたのか、少女は羊司の胸元に額をつけた。 小さな手が彼の服を掴み、そのまま引っ張る様に身体を密着させる。
「……すぅ」
 落ち着かない顔をしていた少女が、穏やかな表情を浮かべ安らかな寝息を立てる。
 その安らいだ表情に羊司は笑みをつられた。 他人が見たらそれは幸せに眠る仲の良い兄妹に見えたかも知れない。
 暖かく柔らかい少女の感触に眠気を刺激されたのか、彼もまた夢の世界へ旅立とうとする。
ふとウェーブのかかった少女の髪が鼻にかかった。
 肩甲骨までの長さしかない真綿のようなおぐしに顔をうずめながら、羊司は少女の匂いを楽しむ。 ほのかにミルクの香りがした。
 羊司は虚ろな状態のまま、たまにぴくりと動く少女の羊の耳を眺めながらも少しずつ思考が回復に向かう。
 通算八度目、少女の耳が動いた時、彼のもうろうとした意識が急速に目覚めた。
「……はっ!?」
 気の抜けた声を発し、羊司は目を疑った。
 小さな寝袋に十代半ばと思われる少女が眠っている、これはまあいい。 そして、その少女を抱きしめた自分がいる。 これは非常によろしくない。
 目の前で無防備に眠りこける彼女の存在に、羊司の頭が混乱をきたす。
 ――なぜ、俺の隣に見知らぬ女の子が?
 もしかしてやらかしてしまったか、と羊司は責任の取り方を思案する。
 結納まで思考が飛んだとき、少女が身じろぎした。
 羊司は驚いて身体を離そうとするが、彼女の小さな手がそれを許さない。
 それどころか更に身体を擦り付けようと、少しずつ近づいてくる。
「ちょ、コリン、それやばいから!」
 焦ったように言ってから気が付いた。 そうだ、この少女はコリンだ。
 昨日の事が走馬燈の様に蘇る。
 動物の世界に落ちた事、少女に逃げられた事、奴隷になった事、主人が出来た事、狼男に襲われた事、そしてそれを自分が殺した事。
 まるでファンタジーの世界じゃないかと思う。 
 額に手を覆い被せ、溜息をついた。 隣を見るとその時出逢った彼女が先程のように寄り添い、何の悩みもなさそうに無垢な表情を覗かせている。
 一切の疑いも無く穏やかに笑みを浮かべて眠る少女の姿に、波が引くように動揺も収まってくる。
 羊司は彼女が目覚めるまで、安らかに眠るその横顔を眺めていた。
 目を覚ましたコリンが最初に見たものは、男の妙に生暖かい視線だった。
 ただでさえ対人恐怖症的な少女は、男に抱かれている、至近距離から顔を見られているという事実から理解するまで数秒の時を要した。
 結果、悲鳴。 森中に響いたのではないかと彼が思うほど、少女の悲痛な声は響いた。
「ふ、ふぇぇ……」
「悪かった、いや本当に」
 コリンは掛け布団を頭から被り、涙目で羊司を非難する。
 何とか落ち着いたのか、叫び声を上げることは無くなった。
 その気を見逃さず、羊司は寝袋の上で正座して、低く頭を下げ謝罪する。
「すまん、昨日はギター弾いて、携帯食っぽいパン食ってそこのブランケットに包まれて隅っこで寝た様な気がするんだが……」
 羊司は少し離れた場所に敷かれたシートと適当に丸められた毛布を指差す。
 一息つき、静かに語る。 
「いつの間にかコリンの寝袋にダイブしてたっぽい」
「ヒグッ……」
 その直球の言に、しゃくりあげる少女。 
「責任の取り方がわからないから……好きなようにしてくれ……ただその、出来れば出て行けって、言わないでくれると助かる」
 そう言って頭を下げる。 暴力を振るわれるという事は無いだろう、が追い出されるという事は十分過ぎるほどありえる。 
 一人で自分の世界に戻れるか、それ以前に生きていけるか、答えはノーだろう。 しかし少女が強硬に出て行くように旅を続けられないと言ったらそれを拒否することは出来ない。 
 気弱な子だとは理解している。 だからこそ強姦魔(未遂と思いたい)とは一緒にはいられないだろう。
 頭を下げたままの状態でそう思う。
 正直記憶が無いので、何を言っても言い訳にしかならない事は理解していた。
「あの……私が、呼んだんです……」
 おそるおそるといった感じで、掛け布団から顔を出すコリン。
 初めて悲鳴と泣き声以外を聞かせてくれた事と、少女の意味不明の言葉に、羊司は間の抜けた顔を勢いよく上げた。
「ひっ!」
「ああ、悪い。 ごめんなさい」

 またも頭から布団を被り視線から逃げるコリンに、羊司は頭を垂れこっそり溜息をついた。 
 コリンの説明によると、夜中に寒さで震えていた俺を気遣って、寝袋に連れ込んだ。
 上下取り外し可能な厚めの寝袋だから楽に寝袋に入れることができたが、狭いのでどうしても寄り添う形になってしまった。
 朝、先に自分より早く起きて気付かれないうちに寝袋から出るつもりだったとの事……らしい。
「それで俺の方が先に起きちまって、結果コリンと顔を合わせることになったって事か」
「はい……」
 恥ずかしそうに俯く少女を見ながら、羊司は誤解が解けたようでほっとする。
 羊司は申し訳なさそうに顔を上げない少女の頭に手を乗せる。
 被せられた手に驚いて顔を上げるコリン。
「ええと、だ……ありがとう」
「い、いえ……」
 先程も感じた少女の柔らかい髪を撫でる。
 壊れ物を扱うように優しく漉く羊司の手に、ふとコリンは今は亡き両親と兄弟姉妹を思い出した。
 
 ――お父様の手……。
 脳裏に浮かぶのは穏やかで優しい父と母、そして戦争の最中にはぐれてしまった妹や死んでしまった兄や弟、そして自分。
 国と言ってもそれ程大きくも豊かでもないが、確かにあった自分の居場所。 少女は羊司の荒れた手から、様々な楽しかった日々を思い出し、追想に浸った。

 ――やべぇ、どうしよう。
 俯いたままの少女を宥めようとしてつい頭を撫でてしまった。
 すぐに振りほどかれると思っていたが、少女は幸せそうに目を閉じされるがままなっており、むしろもっとして欲しいとばかりに顔をすり寄せてくる。
 コリンの嬉しそうな表情に、羊司は顔を赤く染める。 鼓動が徐々に速くなってゆくのが自分でもわかる。
 ――手、止めるわけにはいかないよな…… 
 こんな安らかな顔してるんだから、と羊司は誰かに言い訳するように自分に言い聞かせた。
 テントの外から鳥の鳴き声が聞こえ、コリンは正気に返ったと同時、すぐに亀のように丸くなりながら器用に後ずさった。
「ご、ごめんなさい」
 赤く染まった顔を隠すようにコリンはまたも顔を布団に隠す。 羊司も同じくらい赤い顔をしていたが、この時だけ少女に顔を見られなくて良かったと思う。
「いや……俺も悪かった」
 後頭部に手を当てぺこりとおじぎする。
 その姿にますます恐縮する少女。
 もともと口下手な少女と、話すことは好きだが原因が自分にあると言う事でうまく言葉を紡げない青年。
 お互い気まずい沈黙が続いた。 羊司は無意識に頭を掻いて何とか話題を探そうと視線を泳がせる。
ふとコリンが注意していないと聞き逃してしまうほど小さく呟いた。
「……お父様、見たいだと思いました」
「えっ? ……そうか」
 ――コリンの両親はもういないんだった。
 羊司は昨日ゴズマが言っていたことを思い出す。
「お父様はよくこうやって撫でてくれたんです。 大きな手で何度も、優しく」
 手を伸ばし宙をゆっくり何度も撫でる仕草をする。 穏やかな瞳は、過ぎ去った幸せな日を見ているのだろう。
 懐かしむ顔をする少女に、羊司は微笑ましさよりも痛ましさを感じた。
「コリン、君は――」

 ――これからどうするんだ?
 途中まで言いながら言葉を噤む。 容易に言ってはいけない気がした。
 狼男、ゴズマといったか――あいつが言うからには、この目の前で眠るコリンという少女はお姫様らしい。 既に国も無くなり家族も皆殺されてしまったが、未だに追っ手がかかってる。
 その中でそれまで何不自由なく暮らしてきたであろう一国の姫がどれだけ苦労してきたかはわからない。 それなのに、興味本位なんかでどうするかなんか聞けない。
 コリンが自分の口から言うまで聞かない、と心に誓う。
 迷惑をかけるだろうが、離れもしない。 そして困ったら相談してほしいと思う。

「まあ俺はコリンについて行くだけだ」
「?」
 羊司の呟きが聞こえたのか、コリンは意識をこちらに向けた。
「何か、言いました?」
「ああ、いや。 何でもない」
 そうですか、と話は終わったとばかりに立ち上がる少女に、ふと悪戯心が湧く。
 シートの上のブランケットを片付けようと足を伸ばすコリンに、羊司はほんの軽い気持ちで言い放った。
「寝てるとこ眺めるなんてデリカシー無かった。 超ごめん」
 立ち上がったままの状態で固まった少女に、軽く笑いかける。
 その言葉を理解したのか、じわじわと瞳に涙を集めるコリン。
 頬を涙が伝う。 その姿にギョッとする羊司。
「ふ……ふえええぇぇぇん」
 落とした毛布にまたも全身を包まりながら、大声で泣き出す少女。
 ――幾らなんでも泣く沸点低すぎんだろ!?
 しまったと思うにはもう遅い。 羊司は己の失敗を悟り、頭を抱える。

 土下座まで始めたヒトの男と泣き止まない羊の少女のやりとりは一時間にも及んだ。


 テントの外で二人は食事を作る。
 昨日と変わらぬ冷えた空気と眩しい太陽の日差しを浴びながら、羊司は一箇所に袋詰された食材を確認する。
 表面が白いジャガイモっぽいものや赤色の人参っぽいもの、牛肉っぽい謎の肉など少し齧って味を確かめ、これなら作れないこともないかと調理にかかった。
 謎の肉を鍋に入れ煮込み、何度もアクを取る。 皮を切った黒い玉葱のようなものを半分に切り、人参の味がした人参のようなものやジャガイモっぽいものと一緒に鍋に入れた。
 後は適当に香草を放り込む。
 コリンは手際のいい羊司の姿に唖然としていたが、高校時代から今までレストランや定職屋でアルバイトをしてきた本人にとって食事を作るのはお手の物だった。

「かぼちゃ、チャーシューメン、明太子、コンビーフ――」
 羊司は鼻歌を歌いながら木べらで鍋をかき回している。
 手料理を誰かに食べてもらい喜んでもらえるのを期待しているのだろう。
「ビーフステーキなキス、キスフライ、フライドチキン、キンピラ、ラッキョ――」
 異国の歌と羊司の作っている料理が気になるのかコリンは何度もこちらを伺う。
 その手にはすり鉢とすりこぎが握られており、昨日手に入れたきのこを粉末状にすり潰している。
「今日もダンス、ダンス、ハッピー・ダンス」
 火加減を調整し終えると、羊司はコリンの方を向いた。
「これで暫く煮込んだら完成だから……コリン?」
「は……はいっ」
 突然声を掛けられ、とりあえず返事をする。 その際すりこぎに力を入れ過ぎ、すり鉢が鈍い音を立てた。
「暫く煮込まないといけないから、その間これからの指針を教えて欲しいんだけど」
 これから自分はどのように行動すればいいのかわからないので先に聞いておく。 迷惑はかけるだろうが足は引っ張りたくない。
「え、えと、普段なら薬になる植物を採集した後テントを畳んで次の土地へ移動するんですが、今回はまだそれほど集まっていないので、もう少しここで探すために野営します。 ヨウジさんは自由にしてくださって結構ですよ」
「いや、ヒモにはなりたくないから……コリンの薬の原料探し手伝うよ。」
 健康体である自分が、年下っぽい気弱な少女一人に生活の面倒をかけるのは男としてどうかと思う。 
 羊司の面子の問題だった。
「はぁ、人手が増えるのは正直助かりますが……それじゃあ食事が終わったら行きましょうか?」
「ん、了解」
 だし汁をすくい味見する。 少し味が薄い気がするが悪くはない。
 コリンは粉状にしたきのこを小さな皮袋に詰め、似たような袋が入った鞄に入れる。
「ところでヒモってなんですか?」
「げふっ」
 コリンの純粋な疑問に思わずむせかえる羊司。
「あ、あのっ、私変なこと言いました?」
「けほっけほっ……いや、言えなくも無いが……出来れば忘れてくれ」
「はぁ、よくわかりませんが、わかりました」
 気まずそうに言葉を濁す羊司に、コリンは首を傾げた。

 羊司の作った食事はとても美味しかった。
 コリンは普段は一人で食べていた食事が二人で食べるとこうも違うのかと驚いた。 少食である自分が2杯もお代わりしたほどだ。
 後始末は俺がすると言う羊司が汲み置きしていた水で皿を洗っている姿を眺め、物思いにふける。
 ポトフ、と言ったか。 羊司の作った料理の名前だ。
 確かにポトフという料理は、名称が違いこそすれ自分の国にもあった。 以前まで住んでいた宮中でもかなりの頻度で食膳にのぼっていた。
 裕福な国ではなかったが、きっと今食べていたものより随分と金はかかっていただろう。 あの頃は当たり前のように食べていたそれが、今ではとても懐かしい。
 いつの間にか記憶の海に没頭し俯いていたらしい。 ふと歌が聞こえ顔を上げると、羊司はまた聞いたことの無い異国の歌を歌っている。 
 ――楽しそうな顔……。
昨日の夜もそうだった。 羊司がギターを弾いてくれるというので、つい頷いてしまった。 人嫌いな自分が、だ。
火をたき、果実をつまみ、切り株に腰掛けながら羊司の歌を聴いた。
 笑みを浮かべ、自分を笑わせようと、人殺しをした罪悪感を紛らわせようと、この世界でのヒトとしての不安を一時でも忘れようと歌った彼は、最初幾度か暗い翳を落とすことが多かったが、次第に吹っ切れてきたのか陽気な笑みを終始浮かべていた。
コリン自身も随分と久しぶりに笑った気がする。
 あの時笑っていた顔と似ている。 コリンは羊司の顔を見ながらそう思った。
先程コリンは羊司が寒そうにしていたから一緒に寝たと言ったが、本当の理由は少し違う。
夜、昼間の事で悪夢にうなされているのか、必死で宙に手を伸ばし涙を流す羊司の姿を見ていられなかったのだ。
彼の肩にも届かない小柄な身体で羊司を抱きしめ頭を撫でてやると、いつの間にか彼は穏やかな寝息をたてていた。
 そして久しく忘れていた人の温もりに、いつしか自分も夢の世界へと旅立っていた。
 ――あんなに暖かかったのは久しぶり……。
 目が覚めたときは顔から火が出るほど恥ずかしかったが、羊司はきちんと自分に謝ってくれた。 そして、頭を撫でてくれた。 優しかった父に似た大きな手で。
 コリンにとって羊司はどのように扱えばいいのかわからない存在だった。
 しかし今は少し違う。
 羊司は、何の力も持たないヒトで、死にそうになっても諦めず最後まで自分を裏切らなかったヒトで、逃げてるだけの自分とは違い前へ進もうとする強いヒトなのだろう。
 ――頼ってもいいのかな。
 昨日の今日なのに信じてもいいという自分がいる。 
 自分は弱い人間だとコリンは理解していた。 一年前、流浪のみになってから何度も騙されそうになった。 その時は頼れる友人が傍にいて事なきを得たが自分一人になると何一つ判断できない。
 ふと、自分をいつも一番大切にしてくれた侍女の姿が頭に浮かぶ。
――人を簡単に信じちゃ駄目よ。 それが男なら尚更だからね。
 2ヶ月前に離れ離れになってしまった友人の言葉を思い出す。
 彼女は人を簡単に信じるなと言った。 しかし羊司は自分を信じて助けてくれた。
 彼女の言葉と彼の行動に、思考が何度もループする。
 いくら悩んでも結論が出ず、羊司が呼びに来るまでコリンの葛藤は続いた。

「なあ、これは大丈夫か?」
「それは……トラフグダケですね。 味はとてもいいらしいのですが猛毒を持ってます」
「駄目じゃん」
 引き抜いた黒と白の模様をしたきのこを投げ捨てる。
 のんびりと薬草を採集する二人。 食休みもかねているのでそれほどテントから離れていない。 
「寒冷地なのに意外と生えてるもんだな」
 羊司はコリンから借りた上着の上に大きな籠を背負い、周囲を見渡しながら歩いている。 見るもの全てが珍しいのか、子供のように落ち着きが無くフラフラと歩く。
 コリンは灰色の麻の服と膝丈の紺のスカートの上に、昨日着ていた白い外套を羽織った姿である。
「あ、包清花。 羊司さん、お願いします」
「ほいきた」
 指差された白い花をつけた小さな草を引き抜き、籠にいれる。
「あの赤い実がついた奴は?」
 羊司が指し示した先には赤い実をつけた木があった。 丸くて赤いそれは羊司の世界にある林檎を思わせる。
「玉稟、ですね。 甘くて美味しいですよ」
「たくさんあるな……ちょっと取ってくる」
 そう言うなり羊司は玉稟のなっている木へと向かう。
 背を伸ばし、赤く熟れた実に手を伸ばすが、わずかに身長が足りずに届かない。 
 思案に暮れた羊司は、落ちていた枝で玉稟を数度叩き落とし、籠の中へ入れる。 それを何度か繰り返してコリンの元へ戻った。
「ほらっ」
「ありがとうございます」
 手渡された玉稟を受け取り、コリンは嬉しそうに笑う。 早速齧ってみると口の中に甘い蜜が滲み出る。
「っつーか完全に林檎だな、形は少し違うけど」
「ヨウジさんの世界にも玉稟があるんですか?」
「ああ、俺の世界のはもっと縦に長いんだ。 味と色は同じだけど、やっぱりこういうところで違いが出てくるな」
 そうなんですか、と感心の声を上げ彼女は玉稟を齧った。 
「そういやコリンはよくそれだけ植物の名前や性質を知ってるな」
 羊司は籠に手を突っ込み、黒い花をつけた植物や白い種を取り出した。
「これは――ミシブスマだったっけ?」
「はい、根を煎じて飲むと熱さましの効果があります」
「こっちの白いのは?」
「モルガドの種ですね。 磨り潰して水に浸すと気持ちが落ち着く芳香剤になるんです」
「よくわかるな」

 多種多様な植物が籠の中に所狭しとひしめきあっている。 それら全ての性質や名称をコリンは暗記していた。
「人に会わなくてお金を得る手段はこれぐらいしか思いつかなかったんです。 花とか、きのこの名前や作用は侍女に教えてもらいながら覚えました」
 彼女は寂しげに笑いながら言った。 少女の辛さを笑顔で隠す姿を見て羊司の心は罪悪感に駆られた。
 ――口にすべきではなかった。
 羊司は自身の浅はかさを悔やんだ。
「あ、でもですね。 私自身、花とか見ることは好きですし、このお仕事は全然辛くないんですよ」
 羊司の沈んだ顔を見て、慌ててコリンが取り繕うように言う。
 彼は顔を上げるが、すまなかったという沈痛な表情を崩すことができない。
「私も人見知りなところがありますから天職だと思ってるんです」
少女は微笑む。 
「そのお友達も死んでしまったわけじゃないですし、ちょっとはぐれちゃっただけですし」
 寂しさを隠し、今までの苦労を見せず自分を心配してくれる彼の為に笑顔を見せる。
「落ち合う場所も決まってるんです。 クトもいますし今は……ヨウジさんもいますし、寂しくはないですよ」
 羊司の目が見開かれる。 コリンは穏やかな顔を羊司に見せている。
 何も答えることが出来ず、羊司は玉稟を握ったまま驚いた表情で少女を見つめた。
 コリンは羊司からそっと視線を外し、そっと玉稟の幹に触れ空を仰いだ。 そして数秒目を閉じ物思いにふけ、滅んだとは言え一国を担う者としての覚悟を決めた目で羊司に向き直った。
「ヨウジさん、私の素性は知ってますよね」
「……ああ」
 自分が殺した饒舌で酷薄なゴズマの姿が浮かぶ。 脳裏に奴が言っていた亡国の姫という言葉が思い出される。
「私は一年前までこの地から南東の方にある……今は無いですけれど……自然公国、ルブレーの第二王女でした」
 少し休みましょう、と言って少女は幹にもたれかかる。 羊司もそれに習った。
「山岳地帯で国土も小さく、誇れる商業も毛織物しかない貧しい国でしたが、争いも起こらない平和な国でした……あの日までは」
 少女の顔が険しくなる。 両手に持った玉稟の実を強く握り締める。
 感情がこみ上げてきたのか、押し殺した声で話すコリンを羊司は不憫に思った。

「武力をほとんど持たない国です。 大群を率いてやってきた彼らは瞬く間に城を占拠しました。
 私と妹は侍女の一人に連れられ何とか逃げ延びることが出来ましたが、優しかった両親や兄と弟、お喋りが好きな侍女や生真面目な料理人、陽気な庭師の方達は皆その屍を晒していました」
 そのときの光景を思い出し、涙が薄っすらと目じりにたまる。
「妹とも離れ離れになってしまいました。 脱出を手助けしてくれて私にいろいろな事を教えてくれた侍女も二ヶ月前に追っ手に襲われ、姿が見えなくなりました」
 最悪の瞬間をどうしても考えてしまう。 それはふとした事で思い出したり、夢となり眠っている間に襲ってくることもある。 少女はこの二ヶ月間ほとんど眠っていなかった。
「復讐する、という事も考えなかったわけじゃありません。 でも、子兎一匹殺せない、人見知りをする自分が、数千を超える人口を持つ大国ワーグイシュー、私たちの国を滅ぼした彼らに適う力はありません。 ですから――」
 コリンは涙を浮かべた顔で無理に笑った。
「仕方なかったと、諦めてるんです」
「そんな……」
 その少女の言葉に彼は愕然とする。
 簡単に諦めたわけではないだろう。 何度も悩んだ末の決断でだろう。 両親や兄弟、国民を殺され許せるわけが無いだろう。
 しかし少女の言う事が正しいと言う事も理解していた。 国が相手では人殺しに対しての法的手段も意味をなさないだろう。
 かといって少女に武器を取れなどとは絶対に言えない。 羊司はコリンに戦えなどと無責任な言葉を放つことは出来なかった。
「そうだよな……」
「はい……そうなんです」
 羊司にと言うより、自分に言い聞かせるように彼女は言った。
 承諾の意を示した羊司は、学生鞄程の大きさのナップサックを開いた。
 その中には小さな皮袋がたくさんあり、どれがシガラを詰めてある袋かわからない。
 何度か間違った皮袋を開け、やっとの事で赤い粉の入った袋を見つけ出す。
「あったよ」
 鞄から皮袋を取り出し、コリンの元へ持ってくる。
 彼女は礼を言って粉を一摘みし、鍋の中へと入れた。
「それは元の場所へ戻しておいてください」
「はいよ」
 言われたとおりに鞄に直し、コリンの調理する姿を眺めることを再開する。
 コリンはもう諦めたのか、羊司の方を見ずに真剣な顔で料理に取り組んでいる。
「後はさっき作ったスープを温めなおして……出来上がりです」
 ピーマンっぽい物と玉葱っぽい物の肉炒めと、切ったサツマイモのような物が数個入ったのスープ、固そうなパンをそれぞれ用意していた皿に盛り付ける。
「それじゃ、冷めないうちに食べましょう」
「おう」
 羊司は手を合わせ、スプーンを取った。

「お味はどうですか?」
 コリンはヒトに初めて食べさせる食事に、不安な顔をしながらも興味津々といった目を向けながら聞いてくる。
 ――昼間の俺もこんな顔をしていたんだろうな。
 羊司は顔には出さず苦笑して、プアールをスプーンで掬って食べる。
「うん、美味い」
「良かった……」
 安堵の表情を見せコリンも食事を始める。
「これは何ていう食べ物?」
「プアールとアルケールとブッフーモドキの炒め物です」
「こっちのは? 浮いてんのさつま芋っぽいんだけど」
「ワイコのスープです。 パンはそのままでは少し固いので浸して食べてください」
「なるほど」

 言われるままパンに漬けて数度スープの中で踊らせ、ふやけて軟らかくなったところを齧ってみる。
「甘……」
 蜂蜜を水で薄めたような味だった。 指で取ったワイコを食べてみると、思ったとおりさつま芋の味がした。 
 ――まんまさつま芋の蜂蜜漬けじゃんよ。
 確かに美味しいが完全におやつだ。
 隣を見るとコリンはワイコとスープをスプーンで掬いながら美味しそうに食べている。
 これが異文化の食事か、と羊司は納得するが、これは単にコリンが甘党で好みの問題であった。
 これは後回しにしようと羊司はブッフーモドキにスプーンを伸ばした。

「ヨウジさん、あの……御迷惑でなければ、また歌を聞かせていただけませんか?」
 夕食も終わり食器の片付けを済ませた後、コリンは地べたにシートを敷いて横になっている羊司にお願いする。
「歌……? ああ、いいよ」
 羊司もまたコリンのお願いを無碍にすることは出来ず、胸焼けを我慢しながら起き上がる。 甘い物は嫌いではないが夕飯として出すのは勘弁して欲しかった
 立ち上がった彼は重い足取りでテントに入り、ギターを手に取り戻ってくる。
「希望はある?」
「えっと、昨日の夜に聞かせて頂いたあの……世界中どこだって、笑いあり、涙あり……」
「『小さな世界』だな。 わかった」
 数度弦を鳴らし、喉の調子を整えるように咳をして、軽く発声練習をする。
虫のざわめきも聞こえない静かな夜に星と月が二人を照らす中、息を整えた羊司は穏やかに愛用のギターを弾き歌い始めた。
「世界中どこだって、笑いあり、涙あり――」
 昨日少女は羊司の歌う異世界の音楽をたくさん聴いたが、中でもこの『小さな世界』が一番好きだった。 優しく、平和で、幸せな歌詞が彼女の心を捉えたのだ。
 少女は目を閉じ、正面で歌っている彼の歌に耳を傾ける。 
「みんな、それぞれ助け合う、小さな世界――」
 心が温かくなる。 彼女にとって暗闇は嫌なものだった。 友人で侍女の彼女が居たときは寂しくは無かったが、一人になると途端に恐怖が襲ってくる。
 城から逃げ出した初日は暗闇の恐怖に怯える暇もなかったが、二日目、侍女が食料を調達してくると言って一人になった夜、コリンは生まれて初めて独りぼっちとなった。
 追っ手の心配もあったため火を焚くことも出来ず、少女は一人泣きながら夜を過ごした。

「世界はせまい、世界はおなじ、世界はまるい――」
 二ヶ月たった今でも少女は夜陰に怯えなかなか眠る事が出来なかったが、昨日は命の危機にあったばかりだというのによく眠れた。 目の前で歌う彼のおかげだった。
「ただひとつ――」
 羊司と出会ったあの日、いつものように人に羊の王女だとばれないように外套のフードを被り薬草を探しに高原へと探しに来てみると、今の様に彼が見たこと無い楽器を弾きながら歌を歌っていた。
 聞いた事の無い旋律とところどころに含まれる謎の言葉、気になってこっそり近づくと、不意に声をかけられた。
 その後妙な事を口走りながら追いかけてくる彼から必死で逃げ出した。 知らなかったとは言え自分と同じぐらい悲惨な境遇に陥っている彼から。
「世界中誰だって、微笑みあえば、仲良しさ――」
 コリンは帰るべき家が無い。 羊司は帰ることが出来ない。 その事実から彼女の心の中に少しだけ同属意識が生まれ、喜んでしまった。 自分と同じような境遇の人間がいる、と。 根が優しい少女はすぐにそんな悪意を持ってしまった自分を恥じた。
 そして一人の寂しさを味わっている彼に、同情とお詫びの気持ちも含め一緒に行かないかと誘ったのだ。
「みんな、輪になり手をつなごう、小さな世界――」
月明かりしかない暗い森に男の優しい歌声が響き渡る。
少女は終始微笑みながら彼の歌を聞いていた。

「そろそろ休むか」
「それじゃ、今日はここまでですね」
 その後は羊司の選曲で何曲か弾いた後、歌ってる途中で欠伸をした羊司の発露で休む事となった。
 立ち上がった二人は獣除けの為、火を灯したままテントに戻り、それぞれ折りたたんだ毛布と寝袋を広げる。 
 お互い顔は少し赤い。 今朝一緒の寝袋で寝たことを思い出したのだろう。
 気持ち若干距離を離し、羊司はシートを敷いた。
「それじゃ、お休み。 コリン」
「お休みなさい、羊司さん」
 毛布に潜り込み、目を閉じる。 朝から歩き回った所為か、程なく眠気がやってきた。
 眠い目でコリンの方に顔を向けると、寝つきがいいのか仕事と気疲れからか彼女は既に寝息を立てている。
 羊司はそのまま睡魔に身を任せた。

「う……くぅぅ……」
 夜中、コリンはあまりの身体の熱さに目が覚めた。
 身体を起こすと、全身が信じられないほどに火照っている。 慌てて寝袋の掛け布団を捲ると、全身びっしょりと寝汗をかいていた。 
「な、なんで……?」
 夜の空気は満遍なく冷えているが、それでも熱い身体は酷く濡れた身体を寒いと感じることが出来ない。
 顔が高潮し荒い息を吐く。 豊乳の多いヒツジの中では比較的小ぶりな胸が必死で自己主張し厚手のシャツを持ち上げている。 コリンは今まで感じたことの無い身体の変化に狼狽した。
 ――ヨウジさん!
 この姿を見られたくない、と慌てて眠っているであろう彼の方を向く。 隅っこの方で未だに眠ってはいる彼が酷く寝苦しそうにしている。 よく見ると彼も、自分と同じぐらい大量の汗をかいている。
 気付いていない様子にほっとするコリンだが事態は改善されたわけではなく、身体の高ぶりはさらに強くなってゆく。
 彼女は不安から両腕を交差させ身体を抱く。 必死でその考えを打ち消そうとするが、どうしてもその思考を払拭できない。
 彼女はこの感覚を知っていた。 以前、月経が始まった頃から情操教育として学を受けたことがあるし、自分でそれを解消したこともある。
 ――私、まさか……発情して……
 ふと交差した右腕が彼女の胸の先端を軽く擦った。
「ひぅっ!」
 全身を迸る快感から間の抜けた声を上げてしまい、慌てて彼を起こしてしまったのではないかと確かめる。 相変わらず寝苦しそうな顔をしているが、幸い気付いていないようだ。
 コリンはゆっくりと身体を上げ、外に出て水でも飲んで落ち着こうと立ち上がる。
 この高ぶり方は異常だ。 どんどん理性が薄くなっているような気がする。
 意識をしっかり持とうと出来るだけ音を立てないように努めるが、身体中が過敏になり過ぎている。
 歩くたびに下に何もつけていない胸はシャツに擦れ、快楽中枢を刺激する。 そのつど汗は流れ、気が狂いそうなほど子宮が熱くなった。
 彼女はこの症状が一過性のものであると判断し、何とか外に汲み置きしたままにしたの水筒にたどり着こうとする。
 震える足を叱咤しながら、一歩ずつ踏みしめながら歩く。
 羊司の枕もとで、彼を起こさないように音を立てずに進む、が突然羊司が呻き声を上げながら身体を動かす。
「うぅ……」
「ひぁっ!」
 寝返りを打つ羊司に驚いて、コリンは体勢を崩してしまう。 敷いてあるシートに足を滑らせそのまま彼の元へうつぶせに倒れた。

「ぐふぅっ!」
「痛っ!」
 突如感じた柔らかな重量物に羊司は肺の空気を全て吐き出し奇妙な声をあげた。
クッションの代わりになった彼に倒れこんだコリンは一瞬何が起こったかわからなかった。 驚きで目を見開き、羊司を見つめる。
「えぇと……コリン?」
「……あっ」
 眠気など一発で吹き飛んだ羊司に声を掛けられ、やっと現状に気付く。 自分は彼が寝ているところを突然のしかかって、抱きしめている状態だと。
「ご……ごごごごめんなさいっ!」
赤くなった顔を更に朱に染め、口早に彼に謝る。
「本当にごめんなさいっ! 躓いてしまって、そんな気は無かったんです」
「いや、俺は大丈夫だから……」
「すぐにどきますっ、すぐにどきますからっ!」
 何度も羊司に向かって謝罪する少女に、自分が悪いことをした気になってくる。 動揺して上手く立つ事の出来ないコリンを慌てないように静めようと肩に手を置いた。
「ひゃうっ!」
「うおっ!? ……ごめん」
 肩に触れた瞬間、彼女は突発的に身体を振るわせて手を払いのける。
 手を伸ばしたまま呆然とする羊司の目を見て、彼女は酷く罪悪感に駆られた。
「すみません……」
 俯き、小さな声で彼に謝る。
「いや……平気だから」
「迷惑だったわけじゃないんです。 本当です。 ただ、今は……」
 伏せた顔をあげようともせずに、胸元に手を置き荒くなった呼吸を抑えながら話す。
 最初は未だ彼女が自分に慣れていないからだと思った。 しかし大量の汗を掻き、過呼吸する彼女に羊司は異変を感じた。 彼女の動作の一つ一つが彼の不安を掻き立てる。
「本当に大丈夫か? すごい汗かいてるし、呼吸も何かおかしいぞ? 胸が痛むのか?」
「だ、大丈夫ですから。 気にしないで下さい……」
 そう言って心配ないと言い張るコリン。 顔を背けようとする彼女を身体を無理に曲げて覗き込む。
「どう見ても大丈夫そうに見えな――」
 そこまで言って羊司は言葉を止めた。

「あ……う……」
 たどたどしい口調、涙で潤んだ瞳、朱色に染まった頬、荒い吐息、のしかかった彼女の柔らかな感触と甘い匂い。
 明らかに体調に異常をきたしている彼女に一瞬見惚れてしまう。 
 この状態はいろいろヤバイと心の中で警報が鳴り続けているが、当の本人は上の空だ。
「はぁ……」
 邪な感情が理性を蝕む。 無理に身体を離そうとするが、のしかかったままの状態の少女は動こうとしない。 むしろ徐々に近づいてきている気がする。
 切羽詰った羊司は早口に言った。
「コリン、少し身体をずらしてくれ」
「……」
「コリン!」
「あ……え……何、ですか?」
 心ここにあらずといった状態で返事をする。
「もう休んだほうがいい。 布団に戻るんだ」
「わかり、ました」
 ぼんやりした瞳で羊司の顔を見つめる。 ゆるゆるした動作で彼の腰の横に手を置いて身体を持ち上げようと彼女は力をこめた。
「く、ふぅ……」
 腕を震わせ上体を上げるが、すぐに力が抜けて羊司の胸元に鼻先から倒れこむ。
「あ……」
「おい、コリン! 大丈夫か?」
 それほど厚くはないが顔から胸板にぶつかったのだ。 さぞ痛かったであろうと心配するが、彼女は顔も声も上げようとしない。 かわりに聞こえてくるのは少女の息遣い。
「はーっ、すーっ、はーっ、すーっ」
「お、おい。 コリン?」
 呼びかけても反応せず、少女は顔をうずめたまま呼吸音を響かせる。
「すーっ、すーっ、はーっ、すーっ」
 その様子にまさか、と思う。
しかし一度立った疑念は払拭できない。
言うべきか言わぬべきか躊躇しつつも尋ねてみる。 
「もしかして、コリン。 俺の匂い……嗅いでる?」
 一瞬肩を大きく震わせ、コリンは羊司の胸に額をつけたまま固まった。
服を握り身体を硬直させ、しばし照準した後わずかに頷く。
 そのしぐさに凍りつく洋司。 自分で言っておきながら頷かれたら頷かれたで、どの様に反応すればいいかわからなかった。

「ヨウジ、さん……」
 顔を上げ、熱っぽい瞳で羊司を見つめる。 その柔らかな肢体の感触と潤んだ瞳から目を離せず、羊司は扇情的な姿の彼女に唾を飲んだ。
「あー……なっ、何だ?」
 コリンは羊司の肩に手を置いて上体を上げ、ゆっくり彼の顔に自分の顔を寄せる。
 昨日初めて会った人見知りする少女が、陶然とした顔でやらかそうとしている行為に気付いた羊司は慌てて彼女を止めようとする。
「ちょ、ちょっと待て! コリン――」
「……ごめん、なさい!」
 一言詫びの言葉を入れ、彼女は彼に口付けた。
 逃げようとする羊司の首に腕を回し、引き止める。 固定された頭を押さえながら、少女は小さな舌で羊司の口を割り無理やり舌をいれた。
「んぅ……ぷぁ……はぁぁ……」
「は、んふ……ん……ん、ん……」
 幼さを残しているが十分美少女と呼べる女の子に押し倒されて執拗に口付けされ、羊司の限界まで堪えていた抵抗はすぐに瓦解した。
 羊司も舌を伸ばし彼女に絡める。 くちゅくちゅと何度も粘液が交わる音がたち、時折どちらともなく唾液を嚥下する。
「はぁっ……ん」
 息苦しくなってきたのかコリンは顔を離し、肩で息をする。 ただ、その淫靡な視線と首に回された腕は彼を捉えて離さない。 数十秒、目と鼻の先の彼を見つめ、再び顔を近づける。
 荒く息を吐いていた羊司もまた呼吸を整え、彼女を迎える。
「コリン……」
「ヨウジさん……」
 再び舌を絡めお互いの唾液を交換しあう。 羊司もコリンの細い腰に手を回し、口付けに夢中になるコリンを抱きしめようとする。
さっきは肩に手を置いただけで過剰に反応されたが、今回はむしろ当然そこにあるべきといった感じに彼女は彼が抱きしめやすいように身体を動かし補助する。
「んじゅ……じゅ…じゅう……」
「はぷっ……ぷは……じゅる……じゅる……」
 倒れている羊司の腰に両足を広げ圧し掛かっている彼女を抱きしめ、何度も舌で唾を運び、飲ませあう。
 その度に羊司は理性が薄れてゆくのを感じた。
「んぐ……」
 そのうち物足りなくなってきたのか、羊司は上半身を曲げ、ゆっくりとコリンを押し倒そうとする。

「んっ~~~~」
 身体を倒され仰向けの状態になり、コリンの股間に羊司のモノが触れる。
 既に羊司の股間はズボンを持ち上げるほど勃起しており、彼女の寝巻きのズボンにゆっくりと彼のモノを擦る度に言い知れない快感が少女の身体を襲う。
 初めて味わう男性器の感触にコリンは身体を何度も振るわせる。
 いつの間にかコリンも腰を前後に動かしていた。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
「はぁーっ、はあーっ、くっ……」
 このままではすぐに出してしまうと判断した羊司は、コリンの肩を抑え、無理やり動きを止めた。
 彼女は切なそうな顔をして、羊司を見上げる。
「あの、ヨウジさん……」
 未だ燻った身体を持て余しているのだろう。 続きをして欲しいと言葉にするのは躊躇われるのか、しきりに目で訴えている。
 羊司は無言のまま、彼女をシートの上に押し倒した。
 少女は熱に浮かされたように情欲に流されており、普段の庇護欲を誘う顔から、男を誘う妖しげな艶を思わせる顔に変貌している。
 その目は若干の怯えと、羊司の次の行動に対しての多大な期待を映していた。
 経験の無い羊司は、少女のその艶めいた姿に見惚れた。 少女は口に出していないが、先程までの行動はどう考えてもその身体を好きにしていいという意思表示だろう。
 そう思った羊司は、手を伸ばしてコリンの服の上から胸に触れた。
「ん……」
 くすぐったいのか小さく笑う。
 こねる様に優しく触りながら、今度は少し強く揉む。
「んぅっ!」
 堪える様に目を閉じ、体を捻る。 慌てて羊司は手を離した。
「わ、悪い。 嫌だったか?」
「い、いえ。 その……続けてください」
 湯気を出しそうな程赤くなった顔で彼女は言った。 するのはいいが乱暴にされるのは嫌なのだろうと判断し、羊司は今度は慎重にコリンの胸に手を伸ばす。
「ふっ、くぅ……」
 胸に触れると一瞬びくりと震えたが、少しずつ体の力を抜いて彼のされるがままにする。
「はぅ、あっ……ん」
 厚めの生地の上から何度も撫でる。 その度に少女は甘い声をあげ羊司の脳髄を刺激する。 
「ああっ!」
 服を一際盛り上げる先端の突起に触れると一際大きな声を出した。

 小柄な身長に見合った胸を何度も擦りながら、彼は生唾を飲む。
 今度は服の下から中に手を入れ、直接揉みしだく。
「あぅぅ、んあっ、あっ……」
 服の上から触るより鋭敏な声を上げ悶えるコリン。
 その様子に気を良くした彼は、彼女の服をたくし上げ、下着を着けていない柔らかな肌の起伏に口をつけた。
 少女は突然寝巻きを捲り上げられた事に驚いたものの抵抗せずに羊司に身を任せる。
「あっあっあっ……んんぅ……」
 子犬のように執拗に上半身を舐められ、少女は与えられる快感に必死で堪えようとする。
 声を抑え我慢するコリンの姿に嗜虐心を刺激された羊司は、嬌声を上げさせようと更に少女の肌を蹂躙にかかる。
「はぁぁ……コリン……コリン……」
「やぁああぁ……そんなに舐めないで……」
 コリンの懇願を無視し、何度も音を立てきめ細かい肌を吸い、乳首を転がし、身体中に指を這わす。
 嬌声を上げるコリンの朱に染まった肌に赤い印を何度も残し、羊司はそっと愛撫していた手を少女の下半身に伸ばした。
「ひっ!?」
 突然ぞわりとした感覚がコリンの局部を襲った。
 視線を向けると目の前のヒトが胸を舐めながらズボンの股間あたりを何度も擦っている。 初めて襲う未知の感覚に怯え、慌てて羊司の頭を引き離そうと力をこめる。
「う、あっあっ……だ、駄目です、そこは、ふあっ、やあぁん……」
 抵抗するがその力はとても弱々しい。 敏感な場所を撫でられ、身体にほとんど力が入らないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 何とか押し返そうと抵抗する。
「ふっくぅ、はうっ、やんっ」
「気持ち、いいか? コリン」
「変なこと、言わないで下さい! あぁっ!」
 そんなコリンの心情を知ってか知らずか、羊司はとうとうズボンに手を掛ける。 それに気付いた彼女は右手で羊司の頭を押し、左手でズボンを抑える。
「駄目っ、駄目ですっ!」
「誘った方が駄目って言うのは、ゴーサインの意味だろ」
「何を言って――」
 押し戻そうとする手を振りきり羊司は自らの唇で、早口に喋るコリンの口を塞ぐ。
「~~~~~~」
 舌を入れ歯垢や歯の裏を丹念に舐め、暴れる彼女の気が緩んだ隙に無理やりズボンを引きずり下ろす。 既にコリンの下着は濡れそぼっており、はっきりと少女の陰影が浮かび上がっている。
「~~っはあぁぁぁ、ヨウジさん……」
 コリンは止めてくれなかった羊司を睨みつけるが、上気した頬で涙目で睨まれても恐くも何とも無い。
 むしろ普段から喜怒哀楽の怒りが見えない分、その子供っぽく膨れた顔が何とも愛らしい。
 その姿にさらに嗜虐心を刺激された羊司は、のしかかった状態で器用にコリンを抱きしめながら、耳元に顔を近づけ言う。
「嫌だったら止めるぞ?」

 それを言われたコリンは堪ったものではない。 既に全身が性感帯のような状態になっているのに、ここでお預けなどされたら気が狂ってしまう。
 口では嫌がりながらも彼女に止めるという選択肢はなかった。
 消え入りそうな声で彼女は言う。
「……続けて……」
「聞こえない」
「続けて……ください……」
「何を続けるんだ?」
 悪戯心が湧きあがり、わかっているにも関わらずちゃんと言わせようとする。 少女は大粒の涙を溜めて意地悪をする目の前のヒト奴隷を睨んで、今度こそはっきりと叫んだ。
「私の身体を、胸を、腰を、あそこを触って下さい! いっぱい気持ち良くして下さい! 意地悪しないで、下さい……」
 そう言ってぼろぼろと涙をこぼす。
「わ、悪かった! もう意地悪しないから」
 流石に泣かせるつもりまではなかった羊司はコリンを抱きしめ、頭を撫でて抱きしめてやる。
 最下級なヒト奴隷が王族である人間を苛めて泣かせるなど、殺されても仕方がない所業だが、幸いな事に目の前の主はそんな事を思う人間ではなかった。
 嗚咽をもらしていた少女の顔が、少しずつ穏やかな顔に変わる。
 熱っぽい瞳をそのままに羊司に向け、言った。
「続きを、してください……」
「わかった」
 少女は嬉しそうに微笑んだ。

 コリンが身体中が敏感になって喘いでいる中、羊司もまた限界まで高ぶっていた。
 目が覚めた時から今現在まで、いささかも彼の剛直は衰えず、早く出せと言わんばかりに脈動する。 羊司は立ち上がり、コリンから借りた寝巻きの上下を急いで脱いだ。
「わぁ……」
 男のモノを見るのは初めてなのだろう。 感嘆とも驚きとも呼べない声を上げ、羊司のペニスを興味深そうに眺めるコリン。
「あんまり見るなって」
 羊司は恥ずかしそうに言うが、少女の目は彼のペニスを捕らえ離さない。 時折脈動する彼のモノに少女は恐る恐る手を伸ばした。
「何をして――」
「熱い……ですね。 それに、すごく固い」

 ふにふにと撫でながら少女は技法も何も無く、単純な興味で羊司の剛直を弄りまわす。 
 稚拙な愛撫とも呼べない行為だが、先程から少女の身体を触ったり舐めたりといろいろ限界まで堪えていた童貞の彼には、かなりのダメージだった。
「や、止めろ、コリン! それはまずい!」
 切羽詰った声を上げる彼に、今度はコリンの悪戯心がもたげてくる。 慌てる羊司に嬉々としながら亀頭を弄る。
「ふふっ、さっきのお返しです」
 膝立ちで羊司に抱きつきながら、コリンは彼のモノを様々な角度から何度も触ってくる。
 亀頭の先、裏筋、竿、睾丸など、拙い動きで刺激してくるが、それがこの王族の少女が経験の無いと言う事を証明していた。
「びくびくって動いてますよ。 ヨウジさん」
「もう十分、楽しんだだろ……?」
「駄ーー目ですよ。 苛めっ子のヨウジさんにはもっとお仕置きが必要なんです」
 そう言って少女は竿を掴み、力強く掴んだ。
「ぐぅっ……」
「気持ち良くして上げます……」
 頬を染めながらコリンは、王族の情操教育として習った事を思い出しながら、ゆっくりと羊司の剛直をしごきだした。
「うぅ、コリン……は、あぁぁ」
「良いですか? ヨウジさん」
「あぁ……気持ち良い……」
 その言葉に気を良くした彼女は、顔を羊司の股間に近づけた。 羊司はコリンを目で追ってはいたが、頭がもやにかかったように働かない。
 彼女は唾を飲んで羊司のモノを凝視していたが、覚悟を決めたのか、そっと剛直に口付けた。
「うおっ……」
 突如、生暖かいぬるりとした感触に刺激され意識を取り戻した羊司が下を向くと、自分の竿を何度も舐めているコリンの姿が目に入った。
「んっ、んぐっ、ぺちゃ……はぁ……ぺちゃぺちゃ、じゅるっ……」
 一心不乱に竿を舐め、小さな手で何度も亀頭を扱く。 その普段とは全く違う少女の様子に、羊司は上手いとは言えない技術ながら激しく興奮した。
羊司はあっさりと限界を迎える。
「くっ、出る!」
「ひゃあっ!」
 突如、脈動したペニスから勢いよく精液が飛び出し、少女の顔を汚す。 飛沫した精液は顔だけではなく肩や胸など全身に飛び散り、呆然としたコリンはそれを拭おうともしない。
 それを見た羊司は、コリンの生臭い精液がへばりついた身体に、魁惑的な美を感じていた。

「こほっ……苦いです」
 我に返ったコリンが口に入ってしまった精液を舐め、苦い顔をする。 その声で意識を戻した羊司は、しゃがんで彼女の顔を窺いつつも、少女の眉をひそめた顔を見てつい笑ってしまう。
「すまん、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです……」
 笑っている羊司に気を悪くしたのか、彼女は拗ねたように言う。 その仕草が彼女をいっそう幼く見せ、羊司は更に笑みを濃くしてしまう。 それを見てますます不機嫌になるコリン。
「コリンが調子に乗りすぎたからだろ?」
「ヨウジさんが最初に私を苛めたからですよ!」
「わかった、わかった。 俺が悪かった」
 普段気弱な彼女がこうも感情を剥き出しに怒ってくれるのが嬉しくて、つい頭を撫でてしまう。 子ども扱いされているのが気に食わないのか彼女は唇をくい締める。
 しかしその手を払おうとはせず、上目遣いに羊司を睨みつけた。
「ところで、コリン」
「何です――」
「俺もう我慢できない」
 最初から返答を聞く気がなかったのか、未だ膝立ちしてる少女を軽く押し倒し、身体中に指を這わせる。
 少しずつ情欲がおさまってきていた身体はたちまち朱身を取り戻し、コリンは嬌声を上げた。
「あ、んん……ヨウジさん……」
 コリンの最後の下着に手を掛ける。 今度は彼女も抵抗せずになすがままにしていた。
「女の子の気持ちはわからないなぁ……」
 先程の様に怒って暴れると身構えていたが、特に文句も無く下着を脱がされても羞恥に身体を捻るだけで文句を言うわけでもない。
「強引と乱暴は違いますから……」
「あー、すまん。 さっきは無理矢理過ぎた」
 そう言って大切なものを扱うかのように優しくコリンを抱きしめる。 そして、朱に染まったきめ細かい肌を優しく撫で上げ、その度に小さく震えるコリンの反応を楽しんだ。
「はいっ、優しくしてください。 優しく……ふぅんん……」
 甘える様に鼻を鳴らしながら少女は、羊司の手を淑やかに包みこむ。 絡み付く手を気にすることなく羊司はコリンの下半身に手を伸ばし、濡れた膣に触れる。
「んっ」
 敏感に反応するコリン。 陰核には触れず丁寧に周囲に触れ、物足りなくなった所で中指を膣にそっと入れる。
「ひっ、ヨウジさん……」
 コリンは体内に異物が侵入する感覚に、声と身体を引き攣らせる。
 締め付けがきつい彼女の中をゆっくりと犯す羊司の手を、絡ませた手で引き抜こうとするが、大事な場所を扱っているせいかその力は弱々しい。
 時折回転を加えたり、周囲を擦る度にか弱く反応を示す彼女に興奮しながら、羊司は途中で指に抵抗を感じた。
 おそらくこれが処女膜なのであろう。 羊司はコリンに目を合わせると、彼女はコクコクと頷いた。

 入れたときと同じように慎重に指を引き抜く。
「はあーっ、はあーっ、はあーっ……」
 コリンは興奮と緊張が入り混じった息を吐く。 羊司は愛液で光る指を眺めながら、彼女の息が整うのを待つ。
 羊司は勃起したペニスをコリンの陰部にあてがい、浅い呼吸までコリンが落ち着いたところで話を切り出した。
「あーっ……いいんだな? 本当に」
「お願いします……して下さい」
 その言葉を聞いて抑えきれなくなった羊司は、仰向けに倒れているコリンの腰を掴み、一息にモノを突き入れる。
「あっ……あああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
 膜を破った気配を感じ、一瞬遅れてコリンが悲鳴を上げた。 シーツを握り締め
「ひっ……ひっく……痛い、です……」
「よく我慢したな」
 結合部から一筋の血が流れ、しゃくりあげるコリンを優しく抱きしめる。 時間をかけて入れるより、一気に入れたほうが痛みは少ないと思っての行動だが、やはり無茶だったかと思う。
 きつく締め上げる少女の体内を、羊司は痛いぐらいに感じながら、大粒の涙を流す少女に労わりの声をかけた。
「大丈夫か? コリン」
「はい……もう、平気です……」
 コリンは下半身を襲うこれまで感じたことの無い激痛に堪え、涙で濡れた顔で無理に笑みを浮かべる。
 震える手で羊司の背中に腕を回し、力をこめる彼女を、羊司は早く痛みが過ぎるようにと信じていない神に願う。

「ヨウジさん、もう、大丈夫ですから」
 どれほどの時間たったかわからないが、ふいにコリンは言った。
 羊司がコリンの顔色を伺うと、先ほどまで青白くなっていた顔がかなりマシになっている様に見えた。
 震えていた手も落ち着きを取り戻したのか、先ほどのしがみつくといった感じから抱きしめるといった状態になっている。
「痛いなら無理するなよ」
「痛くありません」
「本当か?」
「……ほんとはまだほんの少しだけ痛みますけど、ヨウジさん、辛いですよね?」
「平気だ。 余裕っ」
 本当は微妙に振動を与えてくる膣をがむしゃらに動かしたいが我慢する。 それぐらいの甲斐性は羊司にもあった。
「顔が引きつっています」
 顔を明後日の方へ逸らす。
「動きますから……」
 コリンはそう言って、羊司の肩に手を置き膝立ちをして身体を起こす。
「コ、コリン!」
「っ……やっぱり痛くありませんから、羊司さんはじっとしていて下さい……」
 羊司の静止の叫びを無視し、コリンは痛みをこらえながら腰を上げる。 そして羊司のモノをぎりぎりまで抜いた後、大きく息を吐きゆっくりとコリンは腰を下ろす。
 痛まないわけないだろう。 羊司はコリンを抱きしめて動きを止める。

「無理するな、コリン」
「全然無理なんかじゃありません、ヨウジさんに気持ちよくなって欲しいだけです……」
 支離滅裂な彼女の本気の言葉を聞いて
 コリンは腰を抱きしめられている状態で身体を揺すり、性感を刺激しようと無理矢理動く。
「っつぅ……」
 涙をまぶたに集め自分の為に健気に奉仕してくれるコリンに、羊司の心は腹を決めた。
「んうっ!?」
 膝立ちしてゆるゆると腰を動かすコリンを下から思いっきり突き上げる。
「痛っ、よ、ヨウジさ……んっ」
「すぐに終わらせるから」
 座位の体勢のまま、羊司はコリンにキスをする。 
「んふっ、い……あぅ」
 腰を揺すり、羊司はコリンの胸にそっと手を這わす。
 コリンは先程の官能が蘇ってきたのか、所々で痛みに顔をしかめながらもしっかりと反応を示す。
「ひゃうん、はうっ、ああっ」
 羊司の首筋に腕を回してしがみつきながらコリンは嬌声をあげる。 息も絶え絶えな様子で羊司は話し掛けた。
「だい、じょうぶかっ? 少しは、気持ち、いいか?」
「いいです、よぅ。 気持ち……いいですっ」
「そう……か!」
 コリンの反応に気を良くした羊司は、更に激しく身体を動かした。
「はぁっ、くあっ、あ、あ、あううぅ」
 胸の先端を指ではさみ、摘み、擦り、ぐりぐりと押しつぶす。 感度が良いのかその度に過敏ともいえるほど反応を示してくる。
「コリンっ、コリンっ」
 胸に顔を押し付けるコリンを上向かせ、羊司は強引に口付け舌を入れようとする。
「ふあっ!? ヨウジさんっ」
 突然の羊司の行動に驚いて目を見開いたコリンだが、すぐに顔を弛緩させ彼の舌に自分のを絡ませる。 息苦しくなりながらも互いの歯垢をなぞり、口内の唾液を交換し、すすり、音を立て飲み干す。 

「っは……コリンの、甘くて、美味いな」
「はぁぁ……ヨウジさん」
 羊司は朦朧とした意識の中ぼんやりと思う。 女性とキスした事が無いわけではなかったが深く付き合うことが無かったので、今までこんな情熱的な口付けをしたことが無かった。 コリンの唾液は蜂蜜の様に甘く、羊司の舌を狂わせた。
 羊司はコリンの腰を両手で掴み、がむしゃらに腰を叩きつける。
 コリンも最初はぎこちなかったが今では羊司に合わせて腰を何度も揺する。
 限界が近い。
「ふあっ、ああっああん、あぁっ!」
「コリンっ、そろそろ――」
「あはぁ、んあっ、私も、もうちょっとで、あぅっ、イっちゃいます」
 叫びながらコリンは押さえつけるかのように羊司の腰に足を絡める。 
「コリッ……ン、離れて……ヤバイんだって!」
 羊司の理性がギリギリの状態で止めに掛かる。 流石に中に出すのはまずい。
 言っているにも拘らず、少女は離れようとしない。
「あぐっ、もう――」
「ヨウジさん! 大丈夫ですから!」
 その言葉が引き金となった。
「っくぅ」
「はあああぁぁぁああぁぁあぁ」
羊司の中から勢いよく出たモノが少女の中を汚す。
 達したのかコリンもまた身体を振るわせて羊司の精を膣奥で受け止めてゆく。

「あーー……大丈夫か」
羊似顔をコリンの顔から若干逸らしながら、隣に座り毛布に顔を埋めた少女に問いかける。
コリンも毛布から顔を上げることなく答える。
「へ、平気です。 ヨウジさん」
 情事が終わった後、羊司もコリンも今更襲ってきた羞恥のせいでお互いの顔を見ることも出来なかった。 
 先ほどまで感じていた火照りは今はかなり治まっている。 今は早く汗でべたついた体を洗い流したい。
「すみません……いきなり変なことをして……」
 俯きながらコリンは言う。 その言葉に驚いた羊司はコリンを弁明する。
「コリンは悪くない。 俺が、その、もっとしっかりしていれば……」
 顔を上げコリンは言う。
「私が、誘いました。 私が寝起きで抵抗できないヨウジさんを襲ったんです」
「小柄な女の子に圧し掛かられて抵抗できないわけないだろ」
「人間の中では非力な部類に入るとはいえ、私は羊です。 ヒトであるヨウジさんと比べてもそれ程劣ってはいません」
「俺が本気で抵抗したらコリンだって絶対に途中で止めてただろ? 会ってから一日しか経ってないけど、その程度ぐらいは理解してるつもりだった」
「いえ、私が悪いんです」
「違うって。 俺のせいだ」
 そういって二人とも押し黙る。 かける言葉も見つからず二人とも自己嫌悪に陥り、それが延々と頭を回る。
 刻々と時間だけが過ぎてゆく。

「……ごめんなさい」
 ポツリとコリンが呟く。
「やめよう……事故みたいなもんだった」
 自分の髪に手を埋めながら、俯いているコリンに言った。
「それにしてもなんで突然あんな風に……」
 顔を少しだけ染めながら思い出すのはコリンの痴態と嬌声、自身の異常な興奮と高ぶり。
 健全な男として適度に発散させているが、あそこまで興奮するとは。 今思い出しても赤面ものだが、自分はそこまで節操無しだっただろうか。
「その、私も発情したことは以前に何度かありましたが……こんなに気が狂いそうになるほどに発情したのは初めてです……」
 あっ、と話してから自分が何を言ったのか気付いて顔を朱に染めるコリン。
「そ、そう……」
 コリンの言葉に羊司はどう返したらいいかわからず、苦笑いを浮かべることしか出来ない。
「そ、そうだ! コリンはもう身体は大丈夫なのか? えらく身体が熱かったし、意識も虚ろだっただろ?」
「羊の発情は一過性のものですからもう大丈夫です。 まだ燻ってる感じはありますが、我慢できない程のものでもありませんので」
コリンはチラリと羊司を見る。
「ヨウジさんこそ身体、平気ですか? 随分酷く、その、発情されてたようですけど」
「あー……大丈夫。 というか人間って常に発情してるようなもんだし――」
「そんな! 大変じゃないですか、今すぐお薬を!」
 慌ててコリンは薬を詰めたナップサックを取りに行こうとする。
 情事が終わってすぐに服を着るわけにもいかず、全裸のまま胸元に毛布を抑え小走りするが、その度に小さなお尻が揺れるのを羊司はしっかり見ていた。
「あ、あれ? これって香辛料を詰めた方……」
「おーい、コリン。 薬は使わなくても大丈夫だぞー」
 鞄をあけて困惑するコリンに後ろから声をかける羊司。
「ッ! まさか!」
「コリン!?」
 何かに気付いたように毛布を投げ出しコリンはテントを飛び出した。
 裸のまま出て行ったコリンに驚き、追いかけようと羊司も立ち上がろうとするが、すぐに彼女は鞄を抱え戻ってきた。
 それを地面に置いて、鞄を開く。 そして次々に詰め込まれた皮袋を開いていく。
「これでもない、こっちでもない……」
「コリン? もう身体は何とも無いぞ?」
「いえ、そうではなくて……ありました」
 そう言って一つの皮袋を羊司に見せる。
「赤い粉……これってシガラ、だったっけ?」
 コリンが夕食に調味料として使っていたのを思い出す。
 しかしコリンは首を振り、
「これはミタラヅというきのこを粉末にした物です。 あの、昨日ヨウジさんが絶対に食べない方がいいって言っていたあのきのこです」
「……あの赤くてイボ付いてて毒きのこ見たいだって言ったアレ?」
「そうです。 確かに見た目は毒きのこに見えますが、この寒冷地にしか生えない珍しいきのこなんですよ、コレ」
「ちなみに、効能は?」
「疲労回復、虚弱体質改善、滋養強壮――滋養強壮にも種類がたくさんありますが、つまるところ、精力増強……です」
「んなアホな……」
 羊司は頭を抱える。

「あと、私も知らなかったのですが、どうやら媚薬のような効果もあったようですね」
 皮袋を閉じ、鞄にしまう。 そしてコリンはおもむろに頭をさげた。
「やっぱり私のせいです。 私が鞄をしっかり確認しなかったせいでヨウジさんにこんなご迷惑を……」
「違うって。 俺が鞄を間違ったから――」
 これではさっきと同じではないか。
 コリンも気付いたようで、黙りあう。 しかし先程の暗い雰囲気は無かった。
「やめよう」
「ふふっ、そうですね」
 小さく笑いあう二人。
「ところで」
「はい?」
「服着たほうがいいんじゃないか?」
 ニヤリと笑いながらコリンを眺める羊司。
「えっ? 何です――」
 舐めまわすような羊司の視線に気付いたコリンは、今となって自分がどんな姿でいるか気付いた。
 端正な顔が急激に朱に染まり、首筋まで広がる。 
 その瞳に見る見るうちに涙が溜まってゆく。
「……グスッ」
 その場でペタンと座りこむ。
「うわっ、またやっちまったか」
「ヒグッ、ヒグッ、グシュッ。 ふ、ふぇ~~~~~~~ん」
 何でこうなるかなと頭を抱えながら羊司。 とりあえず泣いている少女に隠すものをかけてやるかと思い、落ちている毛布を拾いに行った。


「なあ、これからどこへ行くんだ?」
 テントを畳みながら羊司は尋ねる。
「とりあえずここはオオカミの領地で危険ですから、北上してウサギの国へ行こうと思います。 あそこの人々はみな厚着をしてますからそうそうに正体もばれないでしょうし、食料も乏しくなっているので採取した商品をお金に換えないといけません」
 コリンは小型の鍋を鞄に押し込みながら答えた。
「いくら何でもまたあの狼男みたいなのは出てこないよな?」
 羊司は思い出して青くなった。 流石に剣を持って追いかけられるのはもう勘弁だった。
「ウサギの国の人たちは、皆温厚で優しい種族だって聞いてます。 書物で読んだところ、友愛を美徳にしているそうですから。 ただ……」
「ただ?」
「淫乱な種族だとも聞いてます。 体力自慢のトラの人がその、童貞、を無くすためにウサギの国に行ったら一日で女性恐怖症になったとか、イヌの軍人さんが八人連れなら大丈夫だろうと高を括って歩いてたら突然二十人がかりで襲われたとか……」
 羊司は先程とは別の意味で青くなった。 
「あと、女性も関係無いそうです」
 驚いてコリンを見ると、想像してしまったのか小柄な身体がプルプルと震えている。
「コ、コリン……絶対に一人で出歩くなよ……」
「ヨウジさんも……駄目ですよ」
 そう言って止めていた手を動かしだす。
 羊司もテントのフレームを折るのを再開しながら考える。
 ――俺って本当に生きていけるのかなぁ
 答えは出なかった。