猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

オスヒトとマダラネコ

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オスヒトとケダマネコ

 

 父に教えられて登山をはじめて、もう二十年になる。
 最初は傾斜のゆるい岩肌を這うように登ることから初めて、今では傾斜九十度の難所も平然
と登れるようになっていた。
 岩肌をよじ登るなんて、なにが楽しいのか分からないと言う奴は多いが、俺もなにが楽しい
のかはわからない。ただ、トレーニングをさぼって登れなくなるのは嫌だった。かんが鈍るの
も耐えられなかった。だから、半ば義務感に駆られるようにひたすらに登っていた。
 そんなある日、命綱なしでやってみないか、と誰かが言った。
 俺は命を捨てたいわけではないから当然断ったが、ほんの十メートルだから大丈夫だろうと
拝み倒され、ほんのお遊びの気分で付き合うことに決めた。
 たどり着いたのは森の中だ。断崖絶壁の十メートルほど上の方に、それなりの広さの岩棚が
見える。傾斜はほぼ垂直に近いが、まぁ八十度といった所か。落下した場合、叩きつけられる
のは当然硬い地面だ。
「落ちたら死ぬよな」
「落ちなきゃしなないよ」
 俺の呟きに、友人が当たり前の答を返す。
 しばらくあれこれと、どうやって登るか、どのルートを通るかと話し合い、俺たちは登り始
めた。お互いに岩登りには慣れていたし、そこそこのスリルを欲していた。それに、落ちない
という自身もあった。
 だがどういうわけか、俺は落ちた。
 手が滑ったとか、足場が崩れたとか、そういうのではない。友人が先に岩棚にたどり着き、
俺に手を差し伸べていた。お疲れ、と、友人は笑っていたように思う。
「ばいばい」
 どん、と、それなりの力で突き落とされた。一瞬の浮遊感。命綱つきでの落下には慣れてい
たので、気を失う事は無かった。空が遠ざかる。
 背中から地面に叩きつけられ、血液が飛び散った。全身を多い尽くす血液が身を切るように
冷たい。俺は血液に沈みこんでいた。
 空が近い。背中に痺れるような痛みを感じ、俺は呻き声を上げてのた打ち回った。頭が空を
突き抜ける。

 視界が黒く染まり、俺は目を覚ました。

 ぐっしょりと汗をかいていた。
 寝苦しい夏の夜だ。この家に冷房などという気の利いたものは無い。
 頬を伝って顎から滴る汗を拭い、俺は目頭を覆って軽く頭を振った。
 ベッドの下から呻き声が聞こえる。そちらい視線を投げると、白い下着に包まれた尻が見え
た。だが生憎と白くない。おまけに毛深い。
「何があったにゃ! なにごとにゃ!」
 甲高い声をあげ、毛深い尻の持ち主が飛び起きた。
 どうも俺がうなされてベッドから叩き落したらしい。
 再びベッドによじ登り、汗にまみれた俺の顔を覗き込むその顔も、尻と同様に毛深い。とい
うより、全身が毛で覆われてるのだ。
 二年前に川で拾った俺の飼い猫だ。ただし二足歩行する。おまけに喋る。新聞を読む。あろ
うことか魔法を使う。
 俺は夢から覚めてもまだ夢の中にいた。もう二年はこの夢の中で生きている。
「……なんでもねぇ。いつもの夢だ」
 溜息と共に猫の頭を撫でてやり、ついでに喉をかいてやる。猫は幸せそうに目を細め、ぐる
ぐると唸りながら、長い髪から覗くねこみみをわずかに伏せた。
「汗、流してくる」
「我輩、ミルクあっためとくにゃ」
 笑って、足音も立てずに台所へ走っていく。俺はベッドから起き上がり、気だるい体を引き
ずって風呂場へと向かった。
 この家は、外から見ると丸太の掘っ立て小屋でしかないが、中に入れば4LDKのマンショ
ン並みの広さがある。キッチンバストイレ付き。元の世界の俺の部屋よりよっぽど上等だ。
 ただし前述したとおり冷房が無い。なぜかこたつはある。
 場所は広大な湖のすぐ近く。水源はそこだ。ポンプらしきものも無いのにどうやって家まで
水を引いているのかは知らないが、とにかく家に水は通っていて蛇口もシャワーもある。
 俺は熱い湯を頭から浴びて汗を流し、ふらふらと居間へ向かった。恐らく今夜はもう眠れな
い。光も漏れるドアを開くと、猫が先に熱そうにミルクを舐めていた。
 その隣に腰を下ろし、俺もホットミルクを傾ける。猫は何も言わなかった。夢の内容は、前
に一度話してある。猫は俺の過去についてあまり詮索してこなかった。だから俺も猫の過去を
知らない。
 俺が持っている情報は極わずかだった。ここは異世界で、俺は元の世界から落ちてきた落ち
モノだということ。俺達の種族はヒトで、高級奴隷なのだということ。特に俺のように若いオ
スは高値で男にケツを貸す仕事が多いらしい。心底死にたくなる話だ。
 ちなみに俺は、クマのマダラみたいなのだという。俺の身長は百九十センチ近い。おまけに
ロッククライマーだったためかなり暑苦しい体格をしてる。クマと呼ばれてもそれほど違和感
は覚えなかった。
 そしてこいつだ。この猫。こいつはケダマで、この辺りの土地の持ち主だ。この世界の女は
普通、ヒトに獣の耳が生えたような格好をしているらしいので、こいつは特殊な存在らしい。
しかもどうも、悪いほうの意味で珍しい存在のようだ。髪があるだけまだマシなのだという。
 とりあえず、これが俺の知っている全てだ。
 山の何処でなにがとれるとか、どの餌でどの魚がつれるとか、そういうことは随分覚えた。
だが俺はこの山から一歩も出た事が無く、こいつもずっと山にいる。
 極たまに街に買出しに出かけるが、それも気が進まない様子だった。
「暑いにゃね」
「だな」
「涼みに行くかにゃ?」
「やめとけ。湖に落ちるぞ」
「落ちないにゃ」
「落ちたじゃねぇか」
「落ちてもおまえがいるから平気にゃ」
 俺は猫を見なかった。猫も俺を見ていない。
 結局、俺たちは湖の周りをぐるりと回る散歩に出かけた。二つの月が照らす森はぼんやりと
明るく、猫はあちこちと忙しなく走り回っては俺の元に戻ってきた。
 ヒトである俺の目彼見れば、十六程度のほんの子供だ。だが実際は六十をとうにこえていて、
その半分はずっと一人だったという。
 身長は俺の胸まであるかないか。胸だけは無駄に発達しているが、もちろん胸毛自慢のおっ
さんよりもはるかに毛深い。
「きもちいいにゃー」
 湖に素足をひたして猫が幸せそうに笑った。
 その隣に座り込み、俺も湖に足をつける。身震いするような冷たさに、蒸し暑さも吹き飛ぶ
ようだった。
「泳ぐか」
 俺の提案に、猫が瞳を文字通り輝かせる。
 もともと下着姿のようだった猫は下半身をおおう下着を残して全て脱ぎ、俺を差し置いて湖
に飛び込んでいった。
 初めて会った時、こいつは水が苦手だといっていた。溺れたら死ぬからだ。泳ぎは得意でな
いらしい。
 元々上半身に何も来ていなかった俺は、猫が幸せそうにざぶざぶ泳いでいるのを眺めながら
一緒に湖に身を沈めた。
 この湖は深くて、すこし陸から放れただけで俺でも足が着かない。それでも猫は、すっかり
と安心して楽しげに泳ぎ回っていた。
 少し寒くなって、陸に上がる。
 草が暖かい。
 草の上に寝転がりながら空を見ていると、ふと、仰向けに寝転んだ俺の上に猫がよじ登ってきた。
「冷えたにゃ。あっためるにゃ」
 潤んだ瞳で命じられ、俺はたっぷりとした猫の乳房に手を伸ばす。
 こいつは俺の飼い猫だ。だが時々、俺はこいつの飼いヒトになる。奇妙な依存関係だった。
もう二年も続いている。嫌では無い。
「にゃ……ふ、にゃぁ……ん。にゃ……」
「おいケダマ。ちょっと腰浮かせろ」
 素直に腰を浮かせた猫の、下着のまたぐら部分をずらす。とろりと糸を引いた愛液が俺の指
にからんだ。その指を猫に舐めさせ、奥まで可愛がってやる。
 喉を撫でてやった時より激しく、猫がぐるぐると喉を鳴らして喜んだ。下から突き上げると、
口を半開きにして嬉しそうに喘ぐ。
 激しくうねり、絡みついてくる肉が、根元から俺を締め付けていた。小さな体相応に、猫の
中は驚くほど狭い。
「ふにゃぁあ! にゃあ、い、ひん、にゃ……い、いく、にゃぅ……! わがは、い、も……
もうだめにゃぁあ! だめぇ、だめにゃぁあ!」
 叫んで、猫が俺の上で盛大に仰け反った。
 弾力のある大きな胸が激しくゆれ、直後にそれが俺に押し付けられる。
 繋がったまま俺に倒れこんできた猫の尻尾を優しく絞るようにさわってやると、猫は鼻をな
らして身を捩った。
 眠気が襲ってくる。
 構いはしない。どうせここには誰も来ない。
 俺たちはそのまま眠り、そして俺は夢を見なかった。

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