猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

オオカミケダマ物(仮)

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オオカミケダマ物(仮)

 
 
 俺の名は雪野 楓(ゆきの かえで)。女のような名前だと言われるが、れっきとした男だ。
 特技はその天才的とも言えるフライパン捌き。
 小学生の頃には、すでに近所のファミレスなど及びもしないレベルに達していた。
 故に我が家では、お祝いの時に外食した経験など無い。
 並の料理やでは俺が作る方が美味いし、あんまり高い料理屋へ行く経済的余裕もなかったからだ。
 高校は調理師のための学校に通った。そこでも俺はダントツの一番だった。
 俺が手を掛ければどんな安物の食材からも、最高の料理が出来上がり、
在学中にあっても、その技術はプロ並みと囁かれていたものだ。
 実際その実力は、高校卒業と同時に東京に所在する最高級レストランに就職してしまうほどだ。
 元々はド田舎に住んでた俺だが、高校卒業と同時に晴れて上京した訳だ。
 だが、そんな俺にも悩みといえる事がある。俺のプライドを全否定するような問題だ。
 俺が上京しレストランで働き始めてから、すでに一ヶ月が経っている。
 しかし、このレストランのオーナーシェフであるしけたジジイは、俺に皿洗いと掃除以外の仕事をさせようとしないのだ。
 終いには俺だって堪忍袋の緒が切れる。俺は閉店時間に厨房へジジイを呼び出して、問い詰めている所だ。
「何故だ! 何故アンタは俺にフライパンを握らせない!
分かっているだろう!? 俺の技術は誰にも真似する事などできない。
俺は誰よりも美味い料理が作れる! そう思うからこそ俺を雇った筈だ!」
 料理に関するセンスにおいて、俺の右に出る奴などいない。
 俺よりも精妙に調理器具を扱える奴を、俺は見た事が無いし、そもそもそんな奴はいる筈が無い。
 だが、ジジイは随分生え際が上にある白髪頭を右手で掻くと、鼻で笑い、俺に言ってくる。
「その理由が分からない内に、この店で貴様の料理を出す訳にはいかん」
「俺の何処に問題がある! 適当な事を言って、どうせ俺の才能を妬んでいるのだろうッ!?」
 俺がジジイを人差し指で差しながら叫ぶと、あいつは「残念だ」とばかりに首を振った。
「おまえは自分の技術に対する誇り以外、何も持っていない。
料理に向けるにしても、客に向けるにしても、おまえには慢心と過信がある。
確かに技術面だけなら、料理の味だけなら、近い内おまえはワシを超えるだろう。
場合によっては、料理界の歴史に残る偉人となる筈だ。
しかしおまえの慢心を捨て切れない内は、フライパンを握らせるつもりはない。
おまえが今のまま成長し続けたとして、料理の神髄に辿り着く事は出来ん!」
 料理の神髄? そんなモノは生まれた時から理解しているよ。
 俺は料理人になるために生まれたと信じている。それは俺の才能が、何よりもの証拠だ。
 それを黙って聞いていればこのジジイ、好き勝手に貶しやがって。
 そこまで言ってくれるのなら、俺だって考えがある。
「訳が分からないな。料理に必要なのは才能、そしてその才能を裏打ちするための努力だ。
それだけが重要なんだ。それを信じて、俺は1日の内のほとんどを料理の修行に費やして来た。
それが分からない店にもう用はねェ。俺は出て行く。そして俺の店を作ってやるさ。
俺を理解できない奴の所に居たって、腕が鈍るだけだ!!」
 俺は被っていたシェフの帽子を投げ捨て、自ら仕入れた食材と、
調理器具を入れた鞄を引っ掴み、厨房の扉を蹴り開けて出ていった。
 格式張った歴史を持っているだけの古臭いレストランなんて、俺には似合わない。
 俺は俺の実力を認める場で、俺だけの料理を作る。俺の作り出す嗜好の味で、世界を変えてやる事だってして見せるさ。
 ここではない何処かで、俺の実力を最大限に発揮できる何処かで――――
 
 
×××
 
 
 ドアを閉めて歩き出した瞬間、妙な感覚に陥った。
 立ち眩みをしたかと思うと、次に目を開けたとき俺は、見た事も無い荒れ野の中に倒れていた。
 ロクな作物さえも育たないような痩せた土地だという事は、一目見ただけで分かる。
 これではあまり上質な食材は期待出来そうもない。
 吹きすさぶ風は冷たく、身も凍る感覚とはこの事を言うのだろうか?
 痩せた土地に作物が芽を出したとしても、霜にやられてしまいそうだ。
 俺は寒さにかじかむ手を地面に突っ張り、ゆっくりと置き上がった。
 見渡す限り建物は見えず、所々に雪の積もった荒野が広がっている。
 ゴツゴツとした岩が点在して、見かけにも美しさに欠ける。とんだ場所に来てしまったものだ。
 (――そもそも、何故に俺はここにいるんだ?)
 一番重要な筈のその疑問だが、俺の脳内にその疑問が浮かび上がったのは、食材に関する思案の次だった。
 頭の中での優先順位が『上質な食材が手に入るかどうか』>『何故ここに来たのか』になっている。危ない危ない。
 ここが温暖な気候で、豊満な土をしていたなら、その疑問に考えが及ぶのはさらに遅れていた筈だ。
 俺は、今の状況について考えながら、深い溜め息を漏らした。
「ちっ。夢にしてはリアルすぎるし、何がどうなったのか説明してくれる奴はいないのか?」
 周りを見回しても、人影どころか小動物の一匹も見当たらない。手掛かりはゼロか。
 俺もよくよく運の無い男だ。神様は俺に才能を授ける事ばかりに気を取られて、俺に運を授け忘れたんじゃないだろうな?
 こんなふざけた場所に――
「おまえ、ここで何をしている? 余所者の利益になるような物はない筈だが?」
 ッ!? 背後から低音の女の声が聞こえた。俺は慌てて振り向いたが、開いた口が塞がらない。
 今さっきまで誰の気配も感じなかった。
「バケモノ……?」
「ヒト……!?」
 しかし、それは相手も同じようだ。真っ白い毛皮に包まれ、オオカミの顔をしたそいつは、俺と同じように口をあんぐり開けていた。
 顔からはイマイチ性別を判断できないが、ボディラインは女のそれだし、ふむふむなるほど……中々の巨乳だ。
 全身を毛皮が包んでなくて、顔がオオカミじゃなければ魅力的かもしれない。胸と尻以外に余分な脂肪もついていないし。
 ……まあ、顔と180㎝を超えるだろう身長が、全てを台無しにしているので、スタイルは大して意味を持たなかった。
 俺がこいつを女性と見なしていないのは、この相手を“彼女”やら“女”と呼称しない事でも明らかなはずだ。
 冷静さを取り戻し始めた頭脳でそんな事を考えていると、相手も徐々に冷静になっていたようだ。
 口を閉じて一歩一歩俺に近付いてくる。嬉しさのあまり興奮しているのか? やや足取りがフラフラしていた。
「最近はめぼしい賞金首にも出会えていなかったが、ヒトのオスを見つけるなんて、運がいい」
 
 口の端を吊り上げながら歩いてくる、そいつの漏らした言葉は、
明らかに俺を格下と見なしてのものと理解してもいいだろう。
 生まれ付き、分不相応に粋がる奴はあんまり好きではない。俺は直ぐにそいつへ言っていた。
「うっせぇ。バケモノが獣臭い体で近寄るんじゃないぜ。
こっちは客商売だってのに、臭いが移っちまったらどうしてくれるんだよ。
俺の半径2メートル以内に近付くとしたら、全身の毛皮を剃って体を洗ってからにしな!」
 目の前のそいつの瞳に、怒りの炎が揺らいだのを俺は確かに見た。
 何か触れてはいけないものに触れてしまったのかもしれない。
 だが、それはかまわない。罵倒しているのだから相手の痛い所を突かなくては意味がないではないか。
 口げんかは、相手を傷つけて泣かしてやってナンボだ。
「ヒトの分際でナマイキを言ってくれるな。……少々痛い目に遭わせて連れ帰るぞ!」
 そいつはいきなり俺に飛び掛かって来た。それも、常人からは想像も及ばない瞬発力と身のこなしでだ。
 やはりバケモノだ。獣人なんかフィクションだけの存在と思って、こいつも着ぐるみか何かだろうと
心の何処かで疑っていたのだが、人間に真似出来ない動きをされてしまっては、認めるしかないな。
 それにカッとなったらすぐ手が出るなんて、バケモノらしい思慮に欠いた行動だ。
「あまり俺を甘く見てると痛い目に遭うぜ!」
 きっと油断があるのだろう。動きが直線的で軌道を予想する事が簡単だ。
 フライパンの上で跳ねる炒飯の方が、まだ良い動きをする。
 俺は身をかがめてそいつの腕の下を擦り抜けると、
一緒にここへ来たらしく少し離れた場所に落ちていた、俺の鞄のところまで走った。
 しかしあいつも中々やる。あっという間に方向転換すると、今度は油断のない動きで俺へと走ってくる。
 あいつは走りながら右拳のストレートを放とうと構えた。流石に俺の運動能力で、それを避けきる事は出来なさそうだ。だが――
「なんとー!」
 神聖な調理器具をこんな事に使うのは気が引けるが、
俺は鞄から取り出した二本の包丁の刃を相手にかざし、その拳を受け止めた。
 思わぬ反撃への戸惑いと刃物への警戒から、バケモノは失速したのだがが、
元々勢いが付いていた事も有って、止まる事は出来なかったらしい。
 右ストレートを包丁で受け止めた腕には、痺れるような衝撃が流れ、包丁を手放しそうになってしまうが、
長年使い続けたこの二本の包丁は、もはや俺の手の延長だ。そう簡単に放しはしない。
 なんとか俺が耐え切ると、包丁を伝ってバケモノの拳から流れる血が、俺の手まで滴って来た。
 生きたまま食材の生物を捌くこともあるし、俺は割と血への耐性がある方なので、さして気にならない。
 しかし相手はどうも違うようで、バケモノはそれを見て目を見開くそして一言、
「血……っ!」
 
 そう掠れた声で悲鳴を上げ、フラフラした足つきで後退りすると、気を失って倒れてしまった。
 いきなり襲い掛かってくるわ、自分の血を見たぐらいで気を失うわ、随分と忙しいバケモノだ。
 だが、これは俺にとっての好機だ。
 今さっきは運が良かったが、この後コイツが目を醒ましたとして、俺の力でねじ伏せる事はどうみても不可能っぽい。
 なら今の内に、身動き取れない様に近くの岩へ縛り付けてしまえばいいのだ。
 ロープなら、少し離れた所の岩陰に置いてある、こいつのらしい鞄の中から出て来た。
 しかし古臭く年季の入った鞄だ。中身もロープの他は、
すでにシメられた兎と、読めない字で補足された人相書きくらいのモノだ。
 兎の毛皮に手を添えると、恐らく息の根を止めた後、一晩中この寒さの中で放って置いたのだろう。冷たく凍っていた。
 冷凍庫要らずとも思ったが、中途半端な寒さで凍らせると内組織が崩れ、味が落ちてしまう。
 保存は利いてもそれでは意味がない。せめてマグロ漁船ぐらいの冷凍設備が無くては話にならないな。
 ……いけない。全ての事を料理方面に結び付けて思考してしまうのは、悪い癖だ。
 とりあえずは身の安全を確保するため、こいつを岩に縛っておくという当初の予定を、実行に移さなくては。
 目を醒ましたら、ついでにここが何処か聞こうか。言葉を喋っていた筈だ。
 とにかくこのバケモノを持ち上げて、岩の所まで運ぶ事から始めなくてはな。
「……っとと!? ちっ、こいつ重いな」
 そいつを持ち上げようとしたが、意外に重く俺はふらついて倒れてしまった。
 しかもバケモノを押し倒すような形で倒れてしまった事が、非常に不本意だ。
 大きな胸の谷間に、顔を偶然挟んでしまっても、運が良いとは思わない。
 女の胸なのに甘い匂いなど微塵もしないし、真っ白い毛皮が鼻の中に入って、くしゃみが出そうになる。
 この寒い中で暖を取るという意味なら、ふかふかの毛皮もあって、
まあまあの状況だが、異性に接している感覚は抱けない。
 しかもこいつ――
「胸が堅い。揉まれた事一度も無いんじゃないか?」
 興味本位での行動だったが、深く後悔してしまった。
 マシュマロなんて甘くて柔らかいもんじゃない。もっと硬い。見かけの大きさだけで騙された。
 俺は深く溜め息を吐いて立ち上がろうとしたが、不意に肩をつかまれる。少々マズった。
 暗闇の中に落っこちていたあいつの意識が、今のでまた覚醒してらしい。
「おい、おまえ何をしている?」
「……やましい事はしてません。君じゃ勃たないから」
 肩を掴む手に力が入る。痛ッ……痛い! イタタタタタ!
「それ以上爪立てると血がでるぞ……!」
「あっ」
 やはりと言うかなんと言うか、途端に俺の肩を掴む手が緩んだ。
 
 血を見て気絶する狼なんて、狼なのだろうか? 一体どれだけヘタレなんだこいつは。
 もしかするとこいつの正体は、狼の皮を被った羊か? それなら血が苦手なのも納得できる。いや出来ないか。
 いやそれよりも血が苦手なんて、毎月の女の日はどうしているんだ? 捕まえて来た兎を捌く事ができるのか?
「なあ、出会ったばかりでこんな事言うのもアレだが、ホントおまえって女としても狼として終わってるな」
 いけない。つい本音がこぼれてしまった。この口めっ! おまえはいつもご主人様に迷惑をかけて!
 案の定、俺の肩に置かれたこいつの手に、再度力が入る。痛い。メチャクチャ痛い。
「本当に狼としても女としても終わってるかどうか、おまえで試してやろうか?」
 牙を剥いて唸り声を上げながら、どすの効いた声でそう言われると、結構な迫力だ。
 子どもの頃に親と行ったサファリパークよりも、遥かに迫力がある。
 俺も離れようとしたのだが、放してもらえる筈も無い。
 そのため俺は、こいつを押し倒したような姿勢という、
重ねて言うが心の底から不本意な体勢のまま、こいつと見詰め合わなければならない。
 どうやってこの状況を脱出するか、俺は頭を悩ませるが、思ったよりも直ぐに答えは出た。
「俺、実は病弱なんだ。このままじゃおまえの顔面に吐血しそう……、ゴホッゴホッ!」
 いかにも演技臭い素振りで咳をする俺を振り解き、あいつは物凄い勢いで離れていった。
 仮病だったのだが、あいつにはそれを考慮するほどの頭も余裕も無かったらしい。
「わ、私の前で血を吐いたりはするなよ……。絶対にするなよ!」
「心配しなくてもそんな事はしないさ。今のは仮病だからな」
 あいつの全身の毛が逆立ち、眉間にはしわを寄せ、尻尾を不機嫌そうに振りながら、当然牙を剥いて唸り声も上げている。
 なるほどその様子は、まさしく狼そのものだ。
 さっきの『狼として終わっている』という発言は撤回しよう。まだ2割ぐらいは生きていた。
「まあ、冗談はここまでで終わりにするぞ。とりあえずここが何処だか教えてくれ。
日本には狼顔の女なんていないから、日本じゃないよな?」
「そうか。落ちて来たばっかりなのか。ならその生意気な態度も頷けるな。
良いだろう。おまえが何者でここが何処なのか、私が教えてやるよ」
 そいつは勝手に納得して、今の状況について掻い摘んで話してくれた。
 あいつの名前はジーンで、賞金稼ぎ(!?)をして生活しているが、
最近はめぼしい賞金首がいなくて、少々お金に困っていたらしい。
 血を見ただけで気絶するヘタレ狼が、どうやって賞金稼ぎをしているかは、
あえて聞かないでおいてやろう。それが優しさだ。
 そして俺は、元々いた世界とは別の世界であるここへ“落ちた”と言う話しだ
 この世界じゃ俺みたいな“ヒト”は珍しく、奴隷として大変高値で取り引きされ、
俺ぐらいの歳の若い男のヒトなら、真面目に働くのバカらしくなるぐらいの金になるらしい。
 また、奴隷としての扱いだが、ヒトはこの世界でもっとも貧弱な種族であり、肉体労働には向かない。
 ならどうやって働くかというと、『性』奴隷としてご奉仕させられるそうだ。
 なんとふざけた世界だろう。幼い頃から料理の神童として名をはせた俺が、何故性奴隷にならなければならない。
 そんなクソッタレな道理に従ってやるつもりはない。だから俺は言ってやった。
「ジーン、一つだけハッキリさせたい。俺は性奴隷なんかになるつもりはねぇぜ。
俺の独力でこの世界を生き、相応の地位に上り詰めるだけの技量を、この俺――雪野 楓は持っているんだ!」
 ジーンは俺の言っている事の意味が分からず、途惑っているようだった。
 理解の遅い奴だ。俺の言った事そのまんまの意味だというのに。
 さて、どうやって説明してやろうか……。
 
「ん?」
 ――ぐぅーっ。
 無い頭を稼動させて考えたせいか、ジーンの腹部から虫の鳴き声が鳴った。
 あいつはおこがましくも、乙女のように恥じらいをもった仕草で腹部を押さえ、
白い毛並みが微かに赤みを帯びた気がした。
 女としては当然の反応だろうが、ヤツがすると何故だか腹が立つ。
 しかし、こいつが分不相応に女らしい態度を取っている事など、今は問題ではない。
 重要なのはこいつが空腹だという所だ。俺と会った時少しふらついていたのも、それが原因だろう。
 そしてこれは、俺にとっても丁度いい機会だ。見せてやるぜ俺の力を。
「いいぜ。腹が減ってりゃ客だ。俺の飯を食わせてやるよ」
 ジーンはまだよく分かっていない様子だが、そんな事は関係ない。行動で示す訳だ。
 あいつの鞄に手を突っ込み、兎を一匹取り出す。
 ジーンからは「どうするつもりだ!? それは後で売ろうと思っているんだぞ!」と声が飛ぶが、それを無視して次に自分の鞄に手を突っ込む。
 中から出したのは、携帯用ガスコンロやら料理機具一式、調味料やハーブなどの香草だ。
 まな板の上に兎を乗せ、包丁で皮を剥ぐと、一番美味い部分の肉を切り取る。
 それをガスコンロの火で軽く炙って解凍し、切り刻んだ香草や塩コショウと一緒に布に包み、
さらにその上にオリーブオイルを掛け、絶妙な手加減で揉む。
 この作業が終了すれば、後はフライパンで炒めるだけのシンプルな料理だが、だからこそ調理者の実力がストレートに現われるのだ。
 余り強く肉を揉めば食感が変わるし、ただでさえ中途半端な冷凍で味が落ちているので、それを補いうな味付けも必要だ。
 ただ美味しいだけじゃなく、さらにその上を目指すのならば、やる事は非常に多い。
 そして俺は、その全てを何の苦労も無くやってのける。つまり俺の超人的な技量のなせる技だ。
 例えば、携帯用ガスコンロでは厨房にある業務用ガスコンロと違い、大した火力は期待出来無い。
 だが俺はその困難を乗り越えて、兎の肉を絶妙な仕上がりに炒めている。
 一般の料理人が、業務用のガスコンロを使って料理するよりも上手く、美しくだ。
 火の通り具合を一点の曇りも無い観察眼で見極め、精妙なる手捌きでフライパンとフライ返しを操り、肉をひっくり返す。
「ここから凄いぞ」
 小瓶に入れたワインをフライパンの上に振り掛けると、ボォッと小さな火柱が上がった
 調理の様子を指をくわえて見ていたジーンが、ビックリして尻餅をつくほどだ。
 ――頃合いだ。
「よぉーく見とけ! この俺の生き様をなぁッ!!」
 そう。料理は俺の生き様だ。
 どんな些細な料理であろうと、俺の作り出す味は食べた奴の頭の中に永遠に残る。
 そしてそれこそが俺が生きた証となり、俺の名を世界に轟かせるんだ。
 フハハハハ――いかんいかん。熱中しすぎてトランス状態になりかけてしまった。自重せねば。
「ほれ、出来たぞ」
 全体に掛かった時間はおよそ十数分ほど。中々のタイムだ。携帯用ガスコンロでなければ、さらに上を狙えた。
 俺がフライパンを大きく振るうと、肉たちは空中高くへと舞い上がる。
 俺はその間に、用意してあった紙皿を肩の高さで構えた。
 空中を舞っていた兎の肉は、寸分違わずその紙皿の上に落下し、美味そうに湯気を立てている。
 それをジーンに突き付け、俺は言った。
 
「これが、俺が俺だけの力で生きていける理由だ」
 ジーンは突然の展開に付いて来れなかったらしく、阿呆のような表情でその料理を見ていたが、
香草とワインと肉汁が織り成す神秘の香りに、鼻孔をくすぐられたようで、すぐに俺へ尋ねた。
「これを……私に?」
「他に誰がいるんだよ? これは間違い無く、おまえに食べて貰うために作った料理だ。
冷めないうちに食えよな」
 あいつにも多少の戸惑いはあったらしいが、やはり空腹には勝てないに決まってる。
 俺から引っ手繰るように皿を手に取ると、肉の一切れを手で掴んで口の中に放り込んだ。
 少々マナーが悪いが、フォークや箸のストックはなかったし、何より相手は空腹のケダモノだ。
 人並みのテーブルマナーを期待するのが間違っている。
「……ッ!」
「どうした? 言葉も無いほどに美味かったのか?」
 俺は冗談のつもりだったのだが、まさにその通りのようだ。
 ジーンは良く味わってから口に含んだ肉を飲み込むと、すぐに次の肉を口に入れる。
 驚愕に目を見開きながら、絶えず口を動かし続けていた。
 荒れ野に吹く風は微弱なものへと変わっており、ジーンが口を動かす音がクリアに俺の耳へ届く。
 それからさらに時間を掛け、ジーンはなごり押しそうに最後の一切れを飲み込むと、左目から一筋の涙を流し、言った。
「こんな、こんな美味い料理は初めて食べた……。
これならおまえの生意気な態度も、異様なまでの自信も、全てに納得が行くな」
 素直な感想は嬉しい。だが、涙まで流されたのはさすがに初めてだ。正直どう対応すればいいか分からない。
 だが、こういうのも悪くないのかもな。
 上から目線であら探しするだけが取り柄の、しけた評論家とかに食わせるよりずっと。
 自分の料理で誰かに感銘を与えられるなら、それは料理人として非常に名誉な事だ。
 俺は柄にも無く頬を染めながら、最大級の賞賛を与えてくれた相手に言ってやった。
「俺は“おまえ”じゃねぇ。楓だ。雪野楓」
「カエデ、か。優しい名だな。おまえには似合ってない」
「似合ってなくて悪かったな。名づけたのは親なんだから仕方ないだろ」
 俺が返す言葉で憎まれ口を叩くと、ジーンは生意気にもプッと吹き出した。
 俺の何処にそんな笑える所があるんだ?
「とてつもなく傲慢なだけの嫌な奴だと思ったら、意外に可愛げあるんだな。子どもみたいだ」
 誰が子どもだ。俺はすでに18歳。喫煙と飲酒は認められないが、結婚できる年齢だぞ。
 親から自立して自分の稼ぎで食っていけているし、料理以外にも家事全般もそつ無くこなせる方だ。
「おまえだって女として終わってるくせに、年上のお姉さんぶってるんじゃねぇよ」
 勢いでつい言ってしまったその言葉に、ジーンの目の色が変わった。やはり気にしている事なんだな。
 まあ、その気持ちも分からなくはないけどさ。
 俺だって小学生の時なんかは、女の子と間違われるような、華奢で中性的な顔立をしていたし、
女みたいな名前してるのもあって、結構からかわれていた。
 しかしよく考えてみると、男が女に間違われる=女に見えるほどの美形、つまり初登場時アスナイのようなもの。
 反面、女が男みたいな外見をしているというのは、
女らしからぬゴツさと暑苦しさを持ち合わせる、つまりエルメス兄貴である。
 私見だが、例えジーンの男気に惚れるやつがいたとしても、女らしさに惚れるやつは一人もいないはずだ。
 俺は憐れみ半分見下し半分の視線をジーンに向けるが、ジーンは黙ってうつむいている。
「……」
 
 まだ黙り続けるか。いい加減にしてくれ。場の空気が完全に凍り付いているぞ
 確かに俺は言い過ぎたかもしれないし、おまえが傷付いたのも分かるけど、仮にも賞金稼ぎがこんな事で凹むな。
 しかし、とりあえずは謝罪ぐらいして置いた方がいいのかもな。
「俺もちょっと言いすぎたかもな。……てオイ! 聞いてんのか?」
 ジーンは俺の言葉に顔をあげて、じろりと目を見つめてきた。
 ――ッ!!
 なんとなくヤバイ。全身の細胞が危険信号を出しているような、そんな衝撃が走った。
 どうせならこめかみに稲妻が走るような演出の方が好みだが、危険を知らせてくれた自分の本能を無下にはできまい。
 俺は、一歩また一歩と後退りしていく。
「逃げるな」
 ジーンが俺の腕をつかむ。
「好き勝手言って、本当に女として終わっているかどうか、おまえ自身で確かめてみろ!
そこまで言うんだから、何されたって平気だろうな?」
 賞金稼ぎと言うだけあって、こいつの体術は相当のものだ。
 いきなり俺の視界が空を向き、気付けば押し倒されていた。
 と言うか、俺自身で確かめろってこういう事か?
 どんな神経をしてればこういう結論にたどり着くのか、おまえの頭をカチ割って脳ミソ調べてやるぞ。
「できる筈も無いことを言うな。それと、このベルトはどうやって外すんだ?」
 ああ、それなら真ん中を軽く押し込むと、カチって音がして外れるぞ。
 ――って、脱がすな脱がすな! なんでおまえみたいなのに逆レイプされなきゃならないんだ!
 ああもう、そんな乱暴にナニを掴む奴があるか! イテテテテ。
「……勃たないな」
「こんな状況で勃つ訳ないだろ!」
 聞いちゃいないな。狼の鋭い目で俺のナニを穴があくほど見つめ、思案にふけっている。
 これで相手がアイドル級の美人なら文句無しのシチュエーションだが、おまえに見つめられても興奮できないぞ。
「じゃあ私が起たせてやる。このままだと私の負けだ!」
 おまえの中の勝ち負けの規定がよく分からないけど、プライドが高くて負けず嫌いなのはよく分かった。
 生きていくうえで非常に苦労する性格だ。俺も同じだから分かる。
「うおっ?」
 あいつは俺のナニを強引に引っつかむと、口を大きく開いて咥え込んだ。
 その瞬間、俺が本気でビビッていたのは秘密にしておこう。
 心配は杞憂だったのだが、ジーンの口と来たら鋭い牙が生えてて、
そんな口で一番大切な部分を咥えられるなんて、怖いに決まってる。
 だが、一旦口に含まれると、悔しいながらその生暖かい感覚に身体が反応してしまった。
 思えばもう2週間近く射精していなかったはずだ。反応してしまうのはその所為だ。絶対にそうだ。
 上京してから付き合ってた彼女とは、二人っきりの時間が取れなくて気まずくなった挙句、スピード破局だったし、
最近も料理の技量を上げる事だけ考えてて、自慰をする間も惜しんで料理を作っていた。
「ほうだ? わはひらって、やれはれひるはろ?(どうだ? 私だって、やればできるだろ?)」
 イマイチ呂律が回っていないが、その言葉には、不本意ながら同意しておく。
 確かに長い舌が巻きついてきて、尖ったマズルは俺のナニ全てを咥えこむ事が可能だ。
 時おり牙に掠る事もあるが、むず痒いぐらいの刺激に先走りが出てしまう。
 
「おま、もうやめろ……!」
「られがやへるは!(誰がやめるか!)」
 そう返してくるジーンの瞳には、勝利の確信に打ち震える何かがあった。
 ダメだ。絶対に出してはいけない。心を落ち着かせろ。素数を数えるんだ。
 ここで衝動に駆られて射精してしまえば、ジーンの思う壺だ。
「ほふぁほふぁ、ほんらりはたくはってるほ(ほらほら、こんなに硬くなってるぞ)」
 どうとでも言え。どうせもう、何を言っているのか本格的にさっぱりだ。
 とにかく今は、押し寄せる快感のうねりと言うか、門を突破してあふれ出そうになるモノをひたすら抑えるだけだ。
 しかし、時間をかけるほどにジーンはコツを覚えてきている。
 もうそろそろ、俺にだって限界が……
「あっ、つ、やっぱもうダメだ!」
 ――ドピュッ
 やはり俺は男だった。欲望には逆らえない。
 腰にはジーンが腕を廻してがっちりと固定してあり、咄嗟に引き抜くこともできなかった。
 ジーンの口の中に2週間出してない分を、思いっきり吐き出してしまった。
 あいつはいきなりあふれ出したそれに戸惑っているようで、すぐに口を離すと、激しくむせ返った。
 口の端からは精液が微妙に垂れているが、白い毛皮のおかげであまり目立ってはいない。
「うぅ、コホッ……。こ、こんなに出るなんて、聞いてなかったぞ?」
 いや、そう言われても射精の量をコントロールできる訳じゃなかろうに。
 そもそもそっちから押し倒してフェラチオなんてしてきたんだろ。
 俺は立ち上がって脱がされかけたズボンを直しながら、非難がましく言ってやった。
「うるさいうるさい! とにかく今ので私の勝ちだ。
私が女として終わってるわけじゃないって、おまえにも分かっただろう?」
 犬みたいに尻尾をブンブン振り回して、喜ぶほどのことでもないだろ。
 大体、今のはお前に負けたんじゃない。男という性(サガ)に負けたんだ。
 抜くなんて一人でもできる作業をさせたって、これっぽっちもおまえの勝利にはならんよ。
 と言うか一人でエロ本読みながら抜いたほうが、もっと早く抜けるはずだぞ。
「なら証拠を見せてみろ!」
「おまえなんかに見られてたら、ちっとも興奮しねぇよ!」
 証拠を見せろとか子供か。さっき出したばかりだろ。エロ本だって無いだろ。見られてたら気まずいだろ。
 おまえはアホの子かと問いたくなるな本当に。そういうの“悪魔の証明”って言うんだぞ。……あ、違ったか?
 まあそんなことはまだ捨て置ける。それよりも、俺はこんな奴に押し倒されてフェラされて出しちまったのか。
 今さらながら恥ずかしさが湧き上がってくる。ああ、穴があったら入りたい!
 というかここの住人は、どいつもこいつもこんなに性に対して開放的なのか?
 それともこいつが、度を超えたアホの子というだけか?
 頼むから誰か教えてくれ。俺にはこの愛の方程式は難しすぎるっ!
 許容量を超えて予想外の出来事が連続するため、俺の繊細な心と脳みそはもはやオーバーヒートだ。
 しかし奴は追い打ちをかけるように俺に問いかけてくる。
「なら、おまえはまだ私を女として認めないと言うんだな?」
「んなもんとっくの昔に結論が出とるわい!
いーか? 俺が女と認めるのは人の顔してて毛皮に包まれてない、お淑やかな大和撫子だ。
そもそもおまえなんか、喋り方からして論外なんだよ。しかも賞金稼ぎだぁ? ふざけんな!」
 
「な、何を言う……」
 少々言い過ぎたかもしれないようで、ジーンは俺の言葉にわなわなと肩を震わせ、うつむいた。
 見かけはちっとも女らしくないくせに、何でこんなところでそんな反応をするんだよ。
 あーもう、女らしくない格好で女みたいな仕草しやがって、中性的な外見の奴ほど扱いに困る人種はいない。
 だが、俺の不安は杞憂だったようだ。どうやらこいつは、本格的にアホの子らしい。
 ジーンはゆっくりと顔を上げると、獲物を狩るような鋭い眼で俺の双眼を見つめ、俺に人差し指で差して言った。
「決めた。捕まえたらすぐに売ってやるつもりだったが、おまえは私の召使いにする!」
 は? 今なんて言ったんだ? 願わくば俺の空耳か聞き間違いであって欲しいんだが。
「おまえを私の召使いにすると言ったんだ、カエデ!」
 嫌だ。誰がおまえみたいなしみったれた狼の召使いになるか。
「黙れ。異論は認めない。
いいか? 好き勝手言われてこのままにしておくなんて、狼としてのプライドが許さない。
だから私は決めたんだ。実力でおまえを見返してやるとな」
 さいですか。そいでもって、それと召使いの件とどんな関係がおありで?
 あなた様のことですから、さぞかし目を見開いて驚くような計画があるのでしょうね。
「その通りだ。よく分かってるじゃないか」
 ちっ。俺は舌打ちをした。
 こいつは皮肉の通じない人種だ。今後回りくどい皮肉は控えるとしよう。
 俺は脳内のメモ帳にそのことを書き残し、ジーンの言葉の続きを待つ。
「女として終わってるだの、狼としても終わってるだの、そこまで酷評した相手に惚れてしまったらどうする?
私なら、万が一おまえに惚れてしまったとして、ハラワタが煮えくり返るほど悔しくなる筈だ。
そこでだ、召使いとしておまえを側に置き、私に惚れさせてやる。
そして、プライドと恋の狭間で苦しんでいるおまえを、思いっきり嘲笑ってやるんだ!!
ついでにおまえを私専属の料理人にして、毎日美味しい料理も食えるしな。どうだ、完璧だろう?」
 なあジーン、俺は気付いたんだ。おまえがどんな人間なのか、よく分かった。おまえはアホの子じゃない。
 そんな言葉じゃ表しきれない凄味が、おまえにはある。
 それは構わない。構わないさ。しかしだな、頼むからその沸騰した脳みそで組上がる妙案に、俺を巻き込まないでくれ!
「俺がおまえに惚れるとか、そもそもあり得ないだろ。常識的に考えて……」
 ジーンの計画を真っ向から否定する言葉だが、これでも慎重に言葉を選んだつもりだ。
 あんまり回りくどいとジーンには伝わらないって、さっき分かったしな。
 だが、俺の回答は奴も予想していたらしく、思ったよりも落ち着き払った態度で返してくる。
 「チッチッ」と舌を鳴らしながら人差し指を振る仕草は、異様にムカついた。
「そう言うと思ってた。だがな、男女の仲は分からないものだって、死んだ私の両親も言ってたぞ。
私の母さんもケダマで、全然男に持てないし、たまに言い寄ってくる相手もホモだったりで散々だと言ってたけど、
それでも私の父さんと出会って、その間に私が生まれたわけだ。
カエデだって何かこう、命の危険に曝されたところを私がバビュンと救い出して、とかそんな事で惚れる筈だ」
 アホ。んなもんあるか。ありがちな物語に陶酔しすぎだ。そんなご都合主義の展開に流される俺だと思うか?
 大体おまえな、そういう危機的状況で心の通じ合ったカップルは、総じて長続きしないというデータがあるんだ。
「長続きする必要はない。おまえに敗北感を与える時間があれば充分だ」
 
 頭が痛くなってきそうだ……。騙されると知っていて、そんな悪女を好きになる男がいるのか?
 万が一いたとしても、それは悪女が物凄いテクニックと美貌をしている場合だろう。
 しかしジーンの場合は、美人でもないし女らしさなんて堅い胸と尻ぐらいだし、喋り方もあんなだし。
 そして悪女には悪女の魅力があるが、こいつにはそれすら一切無い。
 俺がおまえに惚れるとしたらそれは、惑星直列が起こるとか、冨樫が連載を再開するとか、
ヤムチャが悟空に圧勝するとか、それほどの事態だぞ。
「おまえはな、自分が男を騙せるほど色っぽい美女だと思ってんのか?」
「うるさいうるさい! やってみなければ分からないだろ!
今に吠え面をかかせてやるから、覚悟していろ!」
 そう言うとジーンは俺に飛びかかってきた。そして本日二度目の『気付いたら空を見ていた』だ。
 だが今度は、俺の目の前にジーンの顔が来るように押し倒されている。
「な、何をするつもりなんだ?」
 俺も気付かないほど鈍感じゃない。押し倒されているのは分かっている。
 けどな、認めたくないんだ。女と称すのもおこがましいバケモノに押し倒されてるんだぞ。
 しかもそいつが、俺を押し倒しながら照れたようにモジモジしてるんだぞ。
 ただでさえ気に入らないの相手なのに、押し倒しておいてその煮え切らない態度が、さらに気に入らない。
 そしてジーンは、やはりモジモジした口調で俺に話しかけてくる。
「私は……ケダマだし口下手だし、男を魅了できるような取り柄はない。
けれどおまえを負かすための、ちゃんとした覚悟はしている。
その、私のはじめてをおまえにやるから、だから……覚悟してろよ」
 ……これは、なんと答えればいいか分からない。まさか処女だとは。
 つーか何なんだ? 『処女をやるから覚悟してろ』普通の女の言葉じゃないぞ。
 とりあえず、さほど人生経験の豊富ではない俺に言える事など、ただ一つだ。
「ジーン、おまえもう少し自分を大事に出来ないのか?
処女とちゃちなプライド、どっちが大事かもう一度考えてみるんだ。
……俺はおまえを女だと認めるよ。外見はあれでも、中身は普通(?)の女だ。俺が保証する。
だから、もう一度よく考えて決めるのがいい。このままじゃ、絶対に後悔する」
 なんというか、我が身可愛さもあるとはいえ、
一人の相手のためにここまで親身にアドバイスしてやったのは、これが初めてだ。
 思えば自分の才能に酔いしれて、周囲は何となく小馬鹿にしていたな。
 だが、こうやって誰かを改心させる事が出来れば、それはそれで気分の良い事かもしれない。
 さてジーンはどんな反応をしてくれるやら――
「カエデ……おまえっていけ好かない奴だと思ってたが、そんなに私のことを気遣ってくれるのか?
うぅ、誰かにこんなにも優しくして貰ったのは、初めてだ……」
「お、おい。泣くほどの事じゃないだろ!? ほら、ハンカチやるから拭けよ」
 この反応には少し焦った。こいつも色々と苦労しているらしいな。
 ポケットに手を突っ込んで真っ白いハンカチを取り出すと、それをジーンに手渡しながら思案した。
 ジーンは未だにポロポロと涙を零しながら、俺のハンカチでそれを次から次に拭っている。
 未だにジーンは俺を押し倒している体勢のままなので、拭き損ねた涙が俺の顔に落ちてくるのは問題だな。
 それに正直寒いんだが、今それを言い出せる雰囲気じゃない。
 ジーン、頼むから早く泣きやんで、そして俺の上から退いてくれ……。
 だが俺の期待は、真っ向から裏切られた。
 
「カエデ、私は……。悔しいけど、何か妙な気分だ……」
 え? この展開はもしや……。
「今まで私のことを気遣ってくれたのなんて、父さんや母さんくらいだった……。
その二人もかなり前に他界して、それからずっと一人で生きてきたんだ。
ケダマだからってみんな私をバカにして、誰も私を対等に見てくれなくて。
だけどおまえは、私と対等の立場で口論してくれて、しかも最後は女だって認めてくれた。
私は、カエデがはじめての相手でも、後悔しない……。
いいや。私の……、私のはじめてを奪って欲しいんだ……」
 ジーンが俺の身体をきつく抱きしめ、尖った口先が俺の唇と重なった。
 待てっ! ちょっと待てっ! 俺はこういう展開を望んでいたんじゃない!
 俺はジーンをふりほどこうとするが、奴の力は異常に強い。俺の腕力では到底無理だ。
 かといって、女と認めるような事を言ってしまった手前、ぶん殴って振り払う訳にもいかない。
 うぅ、ジーンの舌が口の中を這いずり回って、俺の舌と絡んでくる。
 不覚にも温かくって少し興奮してしまった。歯列をぞりぞりやられたりするのに、弱かったんだな俺。
「ぷはっ。カエデ、少し顔が赤くなってるけど、もしかして照れてるのか?」
「そんな訳があるか! 毛皮の固まりに抱きつかれたら、暑苦しくって誰でも赤くなるさ!」
 少しムキになって否定している俺は、自分でもなんだか滑稽に思えてしまう。
 そりゃぁ俺も男だし、これでジーンが美人な普通の人間の顔をしていれば、惚れてたかもしれない。
 実際、ジーンの話しには同情すべき余地はあるし、
そういう相手がいれば、手を差し伸べたくなるのは人間として当然だ。
「ジーン。こんな事はやめないか? 絶対におまえのためにならない」
「いいや、そうやって私の事を気遣ってくれるから、私はカエデを好きになってしまったんだ。
自分が言ったことの通りになってしまったみたいで、凄く悔しいけれど」
 そうだった。こいつはアホの子なのだ。言葉の裏の意味を汲み取ってくれない。
 俺が暗に『拒絶している』という事が分からないのだ。
 ジーンはもう一度俺にキスをしてくると、自分の服を脱ぎ始める。
 ここは寒いが、ジーンは毛皮のおかげで大した防寒が必要ないようで、思いのほか薄着だった。
 上着代わりであろう革製の軽装の中は、布製の服でその下はノーブラ。
 下半身もスパッツの上に薄いズボンを履いて、後はブーツだけ。あと腕にもグローブを付けていた。
 寒空の下で露わになっていく、白い毛皮に包まれたスマートな肢体。スタイルだけならモデルとしても通用するレベルだ。
「私の身体……どう思う? 一応目立った傷は何一つないはずだ。
今まで血を流さないように戦ってきたから」
 そういう言い方はやめて欲しい。正味な話しおまえを直視できなくなる。
 本当に、ボディラインだけならかなりのものなのだ。
 だから裸にさえなれば、全身を包む白い毛皮の分を差し引いても、充分に男を欲情させられる筈だ。
 恐らく今までは、男の前で裸になる機会さえなかったから、こうして今も処女なんだろう。
「ああ、身体は綺麗だと思うよ。巨乳だし無駄な肉もないし」
「良かった……。バカにされたらどうしようかと思ってたんだ」
 あいつはほっと胸を撫で下ろすと、また俺にキスしてくる。連続3回目だ。
 常に不意打ちで拒絶する隙がないのは、狙ってやっているのか?
 大体俺は物静かな女が好みで、こうも積極性ばかり強いのは趣味じゃないんだよ。
 誰だってアスカより綾波、ハルヒより長門の方が好きなはずだ。俺だってそうだ。
 そんなわけで、今ここでジーンを抱くわけにはいかない。
 何とか回避する方法を見つけねば。……ジーンを落胆させずにと考えてしまうのは、まぁ仕方ないな。
 
「なあ、ここは寒くないか? おまえは平気かもしれないが、俺は結構つらいんだぜ?」
 こう言っておけば裸にならなくても済むだろう。ジーンは俺を気遣ってくれると思うしな。
 だが、こいつに常識的な反応を期待した俺がバカだった。
 この狼は、常に俺の願う回答の斜め上を射止めてくれる。
「そうか、ヒトの身体には随分な寒さの筈だな。
……こういうときは、裸で身体を温め合うのが一番だって、どこかの本で読んだ気がする。
あの、カエデ……。私が暖めてやるからな……」
 ジーンはいっそう強く俺に抱きつき、硬い胸をこれでもかと押し付けてきた。
 確かにジーンの身体は温かい。暖を取るにはもってこいだ。だが俺の望んだ展開じゃない!
 尽く失敗する自分の目論見に自失していると、ベルトにジーンの手がかけられた。
「寒いようだし、カエデは裸にならなくてもいいからな」
 ダメだ。もう直接拒絶するしか選択肢は残っていない。
「ジーン、やっぱりやめに――」
「それ以上言わないでくれ……」
 俺の口にジーンの手が添えられた。ビックリしてあいつの顔を見ると、泣いている。
「カエデ、会ったばかりのおまえに言うのは筋違いだって分かってる。
だが、私を拒絶しないで欲しいんだ。
私だって恋の一つや二つはあった。でも全部相手から拒絶されて終わりだったよ。
私に優しい声をかけてくれる相手なんて、誰もいなかったんだ
でもカエデは優しく私に言ってくれた。
多分、他人に向ける当然の言葉だと思うけど、私にとってはとても飢えていたものなんだ。
それをカエデが与えてくれ、対等の立場で見てくれて、嬉しくて堪らないんだ……」
 驚いた。天然スルーをされていたが、内面ではこんなに色々と抱え込んでいたのか。
 ジーンはその胸の内を俺に話すと、次は俺の胸に顔を埋めてすすり泣いている。
 やっぱり中身はそこらの女と変わらないようだ。
 なんだ? もう仕方ない。目の前でこんなに苦しんでいる“女”を見捨てては、男の名折れだ。
 俺はジーンの頭に手を置いて、そっと撫でる。ふさふさの毛皮はさわり心地も抜群だ。
 ジーンは驚いたように顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「いいか? よく聞け。俺はおまえに惚れた訳じゃないぞ。
とりあえず、おまえみたいにメソメソしてる女をほっとくのは、忍びないなと思っただけ。
だから今の俺がおまえに抱いてる感情は、ただの同情だ」
 耳の痛い言葉のようで、ジーンの瞳からまた涙が流れた。
 やめてくれそういうの。言ってる方もつらくなってくるんだよ。
「だけどな、これからおまえについていって一緒に暮らしてれば、
そのうち同情が愛情に変わるかもしれない。変わらないかもしれない。
とにかく今は、おまえを拒絶しないしおまえの召使いにもなってやる。
それでいいだろ? もちろんおまえから材料を受け取るけど、毎日料理も作ってやる」
 こういうとき、どういう風に行動すればいいのか、経験がないので昼メロでやってたようにしておこう。
 俺はジーンの頬に手を添えると、ゆっくりと顔を引き寄せて鼻先にキスした。
 うぅ、なんかしょっぱい。湿ってて冷たい。
 ジーンは数秒の間ボーッとしていたが、次の瞬間には、涙腺の底が抜けたように涙があふれ出した。
 
「カエデっ! カエデっ! ありがとう……。
おまえは本当に優しくて……、私、なんて言ったら……。
何か、カエデを好きになったのが悔しいって想いまで消えてしまったよ」
「あー、分かったから泣くな泣くな。ほら、俺より年上なんだろ?」
「ヒトの年齢に直せば、私の方が下の筈だ……」
「それでも泣くな。メソメソしてると幸せが逃げるぞ」
 第一、いつまでも泣かれていては非常に対処法に困ってしまう。
 強気で鈍感だと思ってた奴がこんなに泣いていれば、どう反応するか迷わないほうがおかしい。
 とりあえずジーンの泣きやむまで、頭を撫でてたり背中をさすったりと、子どもを泣き止ませるような方法をとる。
 予想外効果は大きく、大泣きしていたジーンも次第にくすん、くすん、と小さく鼻をすする程度にまで泣き止んだ。
 なんだかそういう姿を見ていると、不本意ながら心が動いてしまう。案外と可愛い。
「うぅ、グス……ッ。カエデ、泣かなかったら幸せも逃げないんだな?」
「笑ってると尚良し。日本のことわざにも“笑う門には福来たる”ってあるぐらいだ」
 ジルは両目の周りを何度も腕で拭い、ようやく泣き止んだ。まったく世話が焼ける。
 俺の言ったことわざの意味をイマイチ分かってないようで、ジーンは首をかしげているところだ。
 そのまんまの意味だと言うのに、物分かりの悪いこと。
 どれ、一つ俺が手本を見せてやろう。秘技『シェフ流営業スマイル(プライスレス)』だ。
 店を訪れた客に見せるのと同じ、満面の笑みをジーンに向けながら話しかける。
「笑ってるといいことが起こるって事さ」
 会心の出来だ。今までこのスマイルを受けて、俺に好印象を抱かなかった客はいない。
 が、スマイルの前に素の状態を見せていたためだろう、ジーンの反応は芳しくなかった。
「カエデ、おまえがそんな顔すると気持ち悪い……。
頼むから気難しそうなしかめっ面に戻ってくれ」
 そう言ってくるか。なら仕方ない。やっぱり素出しの状態が一番だ。
「まあいいか。とりあえず、よく泣き止んだな。偉い偉い」
「なっ!? どういうつもりだ、ガキのくせに!」
 やっぱそういう風に怒るか。やっぱ狙った通りの反応を返してくれる相手は、からかい甲斐がある。
 しかし『ガキのくせに』は心外だな。さっきおまえが『ヒトの年齢になおせば私の方が年下』って言ったばかりだろ。
 俺は小さく鼻で笑うと、なおも喚こうとするジーンを抱きしめた。
 個人的に逆レイプという展開は好きじゃない。
 こういうのは男がリードしてナンボのものだし、ジーンだって自分から行動するのは恥ずかしい筈だ。
「さ、そろそろ始めるか? おまえも毛皮があるけど寒いのに変わりはないだろ?」
「お、おまえ、いきなり積極的になったな」
「自分が優位に立ってないと気が済まない性格なんだ。気にすんな」
 小声で「いくぞ……」とあいつの耳に言うと、息がくすぐったかったのかピクピクと揺れた。
「ひゃっ!?」
 ジーンの股に右手を伸ばして、恥部を軽く撫でる。それだけでジーンはあえぎ声を漏らした。
 他人に触られる事自体が初めてなのだから、恥ずかしくて堪らないんだろう。
 俺が体勢を変えてそこを覗き込もうとすると、ジーンは恥ずかしそうに股間に手を添える。
「隠したら意味ないだろ」
「だ、だってぇ……!」
 
 俺が手を握ると、ジーンはされるがままに手をどけて、俺の目の前に恥部を露わにしてくれた。
 綺麗なピンク色だ。さすが一度も使われていないだけある。
 今度は手探りでなく、ちゃんとそこを見ながら、中指を奥へと差し込んでいく。
 ヒトと同じように処女膜があるようで、何かと指の動きを制限しようとしてくる。
 それを半ば無視して強引に指を動かすと、ジーンは痛みに歯を食いしばった。
「大丈夫か?」
「死ぬほど痛い……」
 ジーンの瞳がまた潤んできた。頼むから泣くなよ。というか賞金稼ぎのくせにこんな事で泣くな。
「じゃあ、しばらくこのままで慣らすけど。この先に進めるのか?」
「進めるに決まってる! バカにするなよ、少し慣らしたらすぐに入れたって大丈夫だ!」
 ここでそんなに食いついてくるか。こいつのプライドの形はイマイチ分からないな。
「まあいいか。指、動かすぞ」
「あうっ、」
 中指をぐにゅっと動かすと、温かい膣内の収縮を感じ取れた。
 あんなに力強かったジーンの腕は、力が入らずまるで子どものように華奢な力で俺に抱き、
ジーン自身も俺が指を動かすたびに、壊れたマリオネットのように震えている。
 空いている方の手で頭を撫でて、また鼻面にキスをしてやると、幾分かジーンの身体の震えは止まった。
 同時に、ある変化も起こってきた。ジーンの恥部から溢れてくる、粘性の液体。
「初めての割に、結構早く濡れるんだな」
 そう言った瞬間、ジーンの身体がビクリと跳ね、恥部は締め付けを増した。
 もしかするとこいつ……。
「ジーン。おまえってもしかして、言葉責めに感じるタイプか?」
「そんな訳があるか! 恥ずかしすぎて、なんか身体が強張っただけだ!」
 やはり否定するか。なら試してみるまでだ。
「そういうこと言っといて、もうこんなに濡らしてるのはどう説明すんだよ?」
 そう言いながら指を恥部から抜くと、絡みついた粘液をジーンに見せびらかした。
 ジーンは何も言わずにその手から顔を背け、俺には聞こえないほど小さな声で、何かブツブツ呟いている。
 やはり刺激が大きすぎたようだ。ジーンの体温が一気に上がった気がする。
「だって、仕方ないじゃないか……」
「ん?」
 ジーンが言ったが、俺は何が仕方ないのか分からず首をかしげた。
「き、気持ちいいんだから仕方ないだろ!
好きな相手に抱かれるって、自分で思っていたよりずっと、ずっと気持ちよかったんだよ!
ああっ、もう! 処女にここまで言わせてくれて……!
せ、責任取れよ。ここまで言わせたんだから、絶対にずっと私と居て貰うからな」
 なんだかプロポーズともとれなくもない発言だな。それほどの事を俺はしたのか?
 けど、一人の相手からそんなにも多大な好意を寄せられるのは、悪い気分じゃないな。
 ジーンはこんなで、俺は放っておけば絶対に立ち直れないっぽいし、頼られるのも悪くない。
「分かってる。おまえは頼りないし、俺がついてないとダメみたいだしな。
とりあえず、当分は一緒にいてやるよ」
「当分じゃダメ――ッ、あぅ!?」
 
 その言葉にもジーンは食い付こうとしたが、愛撫を再開すると、あいつの口からは嬌声しかでなくなる。
 指の本数をさっきまでの1本から、人差し指も加えて2本にすると、また痛みでジーンの身体が跳ねた。
「もう少し慣らしたら、次は本番に行くぞ」
「あ、ああ。分かった……」
 緊張して身体を強張らせるジーンの背中を空いた手で撫で、「そんな緊張すんな」と出来る限り優しい口調で言った。
 だがジーンの緊張は中々解けず、ガチガチに身体を固めながら俺の指を締め付けてくれる。
 なんとかならないものか……。こんなに緊張されてはこっちもやりにくい。
「ジーン、ちょっと耳を貸せ」
「どうしたんだ?」
 ジーンは何の疑いも持たず俺の口元に自分の耳を近寄せてくる。
 俺はその耳に向かって、「ふっ」と息を吹きかけた。
「ひゃふっ!?」
 ジーンの反応は予想以上だった。全身の毛を逆立ててビクッと身体を震わせる。
「いいい、いきなり何をするんだ!」
「緊張が解けただろ?」
 いきなり耳に息を吹きかけられて、脱力しない奴なんていない。
 そりゃ最初の一瞬は今まで以上にジーンの身体が固まったが、今はもうフニャフニャに緩んでいる。
 俺はここぞとばかりにジーンの上に覆い被さった。
「寒いし俺は服脱がないままだけど、勘弁してくれよ」
「あ、ああ……」
 さっきのハプニングの効果は順調に持続しているようで、もうジーンの挙動にぎこちなさはなくなっていた。
 俺は、ジーンを弄っているうちに不覚にも堅くなっていたそれを、汚れを知らない花弁にあてがう。
 それだけで奴はまたもビクリと身体を震わせた。
 自分では処女だとか初めてを強調してるが、そういうのに限って実はエッチに興味があったりするんだよな。
 あれだ。女子校に耳年増が多いのと同じ原理だ。理論は分からんが。
「行くぞ、歯ぁ食い縛れ……!」
「ウッ、あ……!」
 しまった。ここは『力を抜け』と言うのが定石ではなかっただろうか。
 だがもう遅い。もうカリの部分までジーンの膣口に埋まってるし、
奴は俺に言われたとおり歯を食いしばって痛みに耐えている。
 今さら『やっぱ力抜け』などと言おうものならムードが台無しだ。このまま続けるしかあるまい。
「痛くても泣くなよ? あと俺の背中に爪立てたりするなよ?」
 ジーンは痛みで言葉が出ないようで、コクコクとうなずくことで返した。
 俺は奴の背中を撫でながら、ゆっくりと肉棒を押し込んでいく。
 ときおり喉の奥から苦しそうに声を出しながらも、ジーンはよく耐えている。
 そして俺の肉棒が、遮る膜を無視して奥へ進んだとき。
 ――ぷちっ
 破れた。痛みにジーンの身体が強張り、爪は立てられなかったが、相当強い力で抱きしめられた。
 正直痛かったが、相手がもっと痛い思いをしているときに、自分が大した事ない痛みで音を上げるのは嫌だ。
 俺はジーンの抱きしめに耐えて、さらに奥まで肉棒を侵入させていく。
 ジーンの中はかなり熱く、しかも処女なだけあって相当強く締め付けてきた。
 ぶっちゃけて言うと、少しぐらい痛みがあった方が、丁度いいぐらいに快感を妨げて、早漏れせずに済むかもしれない。
 これだけ優位に振舞っている手前、早漏れでは格好が悪いではないか。
 
「奥まで入ったぞ。よく頑張ったな」
 ジーンにそう言ってやりながら、俺は奴の頭に手をのせて撫でた。
 まだ少しきついようで、少しだけ口の端を吊り上げたかと思うと、ジーンは言葉も無く喘いだ。
「大丈夫か? 痛いだろうし、おまえがいいって言うまで動くのは待ってやるよ。
あと自分の股間は覗くな。おまえは多分気絶するから」
 俺がそう言った瞬間、また奴の恥部がビクビクと収縮し、俺を締め付けてくる。
 突然の刺激に門まで出かかった液体を、俺は気合で押さえ込む。動いてないのに出して堪るか!
 自分との戦いに気が行ってしまい、ジーンに肩を揺すられるまで気付けなかったが、奴が俺に話しかけてくる。
 だが、痛みに耐えながらのか細い声は、耳を澄まさないと聞くこともできないほどだ。
「動いて、いいぞ……。わた…しが、これぐらいの痛みに耐えられないと、思ったのか……!」
 批難がましい目つきで、俺を睨み付けてくるジーン。
 いや、こっちはおまえを気遣っただけなのに、なんで切れられなきゃならないんだよ。
 はぁ……。これからの召使い生活に対して、非常に不安を覚えるな。
 こんだけ価値観が違って、共同生活とやらはつつがなく続くものなのか?
 まあ、なんの問題も無く進んでしまうのも、それはそれで詰まらなさそうではあるし、今は忘れておこう。
 先のことに対して勝手に不安になるより、目の前の情事をビシッとバシッと決めることを考えなくては。
「ジーン。おまえが動いていいって言ったんだからな」
「分かって…る、……!」
「途中で“やめて!”って女みたいな声で叫んでも、やめてやらないぞ」
「誰が、そんなこと…・・・! だ、大体私は……、元から…女だ!」
 オーケー。これは合意のうえということだな。分かった。
「じゃあ、動くぞ」
「ん……ッ!」
 痛みに大声を上げられてはかなわない。俺はジーンの口を自分の口で塞いでから、ズンズンと腰を動かし始めた。
 思ったとおり、キスの所為で外に漏れはしないのだが、ジーンの口の中にはくぐもった悲鳴が響く。
 俺が突き上げる度に奴の体はビクビクと振るえ、俺を抱き締める腕に力をこめ、下の口も抜群の締まりをみせる。
 膣の内壁を擦り挙げて、子宮口を突き上げると、ついに耐えられなくなったジーンがキスを振り払って吠える。
「い、痛い痛い!! 頼むから少しやめろ!」
「うわ、何だその情けない声は。ジーンらしくないな」
「だ、だってぇ……! 痛ッ、痛くて、何か、何か変なんだ。
ジンジンして痛いのに、痛いのに身体が熱い……!」
 必死に訴えかけるジーンの目には、涙がたまっていた。
 音を上げたら思う存分おちょくってやろうと思っていたが、泣かれては寝覚めが悪い。
 一時動きを止め、肩で息をしてるジーンの背中を撫でながら、俺は奴が復活するのを待った。
「カエデ……、なんか今さらだけど、少しだけ怖くなってきた」
 息を整えたジーンは、俺の顔を見ないように抱きつきながら言う。
 俺は黙って頷き、奴もそれを察して続きを話した。
「カエデは精一杯妥協して、私と一緒に居てくれるって言ってくれたけど、でも私はそれだけじゃ安心できない。
今までずっと一人で生きてきたから、どうしても不安に感じてしまうんだ。
こんなのカエデを裏切るような事だし、そんな自分を私も軽蔑してしまう。
だけど、カエデに言って欲しいんだ。いつまでも一緒に居てくれるって。
私のことを好きだって。私を絶対に一人にしたりしないし、私だけを見てくれるって……」
 
 ジーン、おまえ。そこまで本気になっているのか? さっきも充分本気だったが、今はそれをも越えてるぞ。
 うぅ、ここまで言われたら俺も責任を持たなきゃダメなのか?
 それに、なんていうか他人からここまで真摯に思いをぶつけられたのも初めてで、少々揺らいできてるぞ俺。
 ……えぇい。こうなれば当たって砕けろだ。
 運命なんて信じてないが、このしみったれた世界で
最初に出会った相手とこうなるのも、何かの因果なのかもしれないしな。
 それに狼の顔してることを除けば――それが最大の問題点でもあるが――ジーンは結構いい奴だ。
 まあ側に身を置いて損をする相手じゃないだろう。
「ああ分かった。信じる信じないはおまえ次第だが、おまえの事は結構気に入った。
まあ、なんて言うかさ……。好きか嫌いかで言ったら、好きな部類に入ると思うぜ。
それにおまえがもう、一人じゃ暮らして行けなさそうだし、ジーンが望む限りずっと側にいてやるさ。
どうだ? 満足だろ。ここまで言わせてまだ足りないとかほざいたら、本気で切れっからな」
 これは言ってて恥ずかしいな。ここで一句作って訴えかけたいぐらいに恥ずかしい。
 しかもジーンがいつまでも黙ったままで何も言わないから、恥ずかしさが倍増だ。
 このままじゃ、おまえの中に突っ込んだまま動きを止めている俺の肉棒が、恥ずかしさのあまり萎えてしまうぞ。
 おらおら、それでいいのかこの狼女。
「うぅ、カエデぇ……」
 ジーンはゆっくりと顔を上げて、俺の目を見つめてくる。そのウルウルした目をやめてくれ。
 やっぱり俺は女の涙に弱いのか? 男の涙なら、いくら見ても心が動かない自信があるのに。
「ありがと……。やっぱりカエデは優しいんだな。
誰かを好きになって良かったと思えたのは、親を除いてカエデが初めてだ」
 ヤツは俺にひしと抱きつくと、口を俺の耳元に近付けて囁く。
 あいつの尻尾は、餌を貰う飼い犬のそれのように、力の限りブンブンと振れていた。
「そろそろ痛みは引いたから、動いてもいいぞ。
それに今は、痛みに耐えられないなんて絶対にないしな」
 そうか。じゃあ遠慮なくいかせて貰うぞ。
「ああ、おまえは身体が丈夫だから、立てなくなるなんてないんだし、手加減無しにいくぞ」
 俺は触れるだけのキスをすると、ジーンの腰を掴んで深く腰を動かした。
 奴は「アォオンッ」と本物の狼みたいな声をあげ、体をビクンと揺らす。
 そのあとも、俺が突き上げる度に声が漏れるが、それは女の嬌声というよりは、獣の喘ぎだ。
「おまえって、実はこういうの好きだったりするんじゃないのか?」
 胸の突起を人差し指と親指で摘まんでくりくりしながら、
意地悪い声でそんな事を尋ねると、ジーンの身体がいっそう熱くなった。
 反論の一つでもしたそうに俺を睨んでくるが、諦めろ。
 今のおまえの口から出てくるのは、アウ、アウ、というワンコ声だけだ。
 しかしヤツは、俺のアイコンタクトを無視して口を開く。
「アウゥッ、アォッ、あ、アフッ、ゥウンッ」
 ほらな。ジーンが口を開いても、言葉の代わりにこんな喘ぎ声が聞こえてくるだけだ。
 犬のような鳴き声を出してしまったのが恥ずかしいのか、ジーンは視線を伏せて俺の胸に顔を埋めた。
 可愛いだなんて思ってやるつもりはないぞ。ちょっとぐらい女らしいところもあると再認識するだけだ。
「そろそろイくぞ、しっかり腰を据えろよ!」
 いよいよ俺は我慢の限界に来て、これまでより性急な動きでジーンに腰を打ち付けていく。
 肌で感じるジーンの息遣いも徐々に荒いものになり、身体が反応しているのが分かる。
 同じくらいの時間で仕上がるとは、体の相性は割りと良いのかもしれない。
 
「ぐぅ、出すぜッ……!」
 ドピュ、ビュッ――!
 ジーンの奥へと余さず流れ込んでいるのが分かる。
 注がれた熱い液体に、あっちもイってしまったようで、ジーンは俺の腕の中で小刻みに体を震わせながら、
膣全体で肉棒に吸い付き、最後の一滴までも搾り取るように締め上げてくる。
 前に付き合っていた彼女とやったときとは、比べ物にならない快感だ。
「――ふぅ。ジーン、よく頑張ったな」
 俺は荒くなった息を整えながら、奴の頭をよしよしと撫でる。
 子ども扱いにジーンはムッとしてるんだろうが、尻尾が振れているのも動かしようのない事実だ。
 人の思考が尻尾に現れてしまうなんて、ヤツもな種族に生まれたもんだ。
「じゃあ、抜くぞ」
 2度目の射精により半ば萎えかかった肉棒に、ジーンの膣は名残惜しそうに吸い付いてくる。
 その力に逆らって腰を後ろに引いていくと、
「きゅぽっ」とワインの瓶からコルク栓を抜くように、恥部から肉棒が抜けた。
 すでに割れ目なんてものじゃなく、だらしなく口を開いて
ヒクヒクとしているそこは、非常にいやらしくそそるものがある。
「う、カエデ……。あそこが何か変な感じなんだ。どうか、なっちゃってないか……?」
 自分の意思とは無関係に男を求める恥部に、ジーンは何かしら不安感を感じた様子で、俺にそう尋ねてきた。
 どうかなっているというか、ジーンの体は本人の思っているよりも、性欲が強かったという事だろう。
 何せジーンは狼だ。ヒトよりも野生が濃くて性欲が強くて、それが当たり前だな。
「別になんともなってねぇよ。よく分からんけど、初めてなら普通の反応だと思うぜ」
「本当か?」
 ジーンは俺の答えに疑わしげな表情で、上体を起こして自分の股間を覗き込もうとした。
 そんなことしてるが、自分のいやらしい場所を見て、純粋な乙女心が傷付く覚悟はできてるのか?
 大体今おまえのお○んこからは血が――そうだ。処女喪失の所為で出血している!
「あ、見ちゃダメだ! 別に今じゃなくてもいいだろ?」
「どうしたんだカエデ? 別に自分のなんだから見たっていいだろ」
 俺の制止を振り切って、ジーンはついに自分の股間を覗き込む。
 すでにヒクつきは収まっていたが、そこからは愛液や精液と一緒に、
真っ赤な血が筋になって流れ、恥部周りの毛皮を赤く染めていた。
 そこを見つめながら、ジーンが凍りついたように動かなくなり、やがて一言。
「血……」
 
 ――ドサッ。
 ジーンの身体が地面に倒れこみ、俺は慌ててその体を抱き起こそうとするが、やはり結構重い。
 全身が筋肉質なのに加え、ジーンの身長は俺よりも高く、ぱっと見180cmはある。
 しかも気絶している所為で全身の力が抜けているのも、その重さに拍車をかけていた。
 人間、身体をだらんと脱力させている方が、力んでいるときよりも持ち上げにくいのだ。
 やっとの思いでジーンの身体を引き摺るように移動させ、
最寄の岩にもたれかからせる事ができたが、その時には俺は随分と息が荒くなっていた。
「あー、まったく手間かけさせやがって」
 いくら毛皮があっても、この寒さの中で裸にさせておくのは不安なので、
自分の暖を取る意味もあり、俺はジーンに寄り添って腰を下ろした。
 行為の前に気絶したときも結構早く復活したし、今度もそう時間はかからないだろうが、用心するに越した事はない。
 ジーンの横で暖を取りながら、俺は今日起こった出来事について、頭の中で整理してみようと試みる。
 だが、あまりにも現実離れした事象の数々に、それは思ったよりも難航した。
「あんまり急展開すぎて、俺の頭がどうにかなりそうだ……」
 ジーンの顔を横目に見ながらそう呟くと、俺は頭を抱えて再度思考の渦に潜っていった。
 ぶっちゃけて言うと、考えてどうなるというものでもないのだが。
 
 
 

 
 
 
 
 

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