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最高で最低の奴隷Ⅱ 下劣な金儲け 第1話

 
 
 広々とする荒れ地の中、ポツリと建築物が建っている。
その建築物は俗に砦と呼ばれる物だった。
高く堅牢な外壁は大砲の砲丸さえはじき返し歩兵を阻み、巨大な鉄扉は一度閉ざされれば何物も受け入れぬ鋼鉄の盾と化す。
拠点防御に置いて最高に有力で、最大に労力と手間と維持費が掛かる建築物。
 それ程大きな物でなくても、小さな領地の一年分の収入を僅か一月で食い尽くす金食い虫。
その真新しい巨大な壁に穴が空く。
否、巨大なそれは穴ではない。
大人の虎人が余裕で通れる程の道、
堅牢さがその存在意義である外壁は、いとも容易く粉砕されその存在意義を否定される。
一瞬遅れて砲撃のような爆発音が響く。
それからは簡単だった。
 
 次々と壁が粉砕されて開いていく道、そして一瞬遅れて響く砲撃音。
僅か十数秒で砦の壁は囓られたリンゴのような痛々しい姿を晒していた。
しかしそれだけでは終わらない。
 尾を引く風切り音と共に何かが放物線を描いて落下してくる。
それは先が丸くなった円筒形の物体だった。
下から見上げれば体感速度は驚く程遅いその物体は、実は秒速数十メートルという高速落下物。
その物体は設定された高度まで落下すると爆発。
そしてその中身をぶちまける。
 
ぼうっ、、、
 
中身が降り注いだ場所が一瞬で燃え上がる。
無論一発ではない。
前述の壁の粉砕と同じく、それは次々降り注いで砦の中に炎を振りまいていく。
十数発と降り注いだ時にはもはや砦は、紅蓮の囚人服を纏った死刑囚かのように赤く炎で染まっていた。
 
しかしそれでもまだ足りない。
全てを終わらす終焉の証は未だに来ていない。
風の唸りが聞こえる。
先程のが落下音とするならば、これは飛翔音、、、
 落ちる音ではなく飛ぶ音、しかしその音は弓矢のように優雅な物ではない。
風を無理矢理かき分け、豪風を纏う巨大な物体が非常識に空を飛翔し迫り来る。
神殿の柱程の太さを持ち、哀れなる贄に完全なる滅亡を届けるためにそれは空を駆ける。
在るべき時、在るべき場所において、それはあるべき事を成し遂げる。
それが砦の上空に達すると、バラバラに分解し中身が降り注いだ。
 それをなんと表現するべきだろうか、
降り注いだ中身は城の真上に到達するなり閃光を放ち爆発し、その力を振りまいて全ての形ある物を破壊へと導く。
爆風が全てを粉砕し、熱が全てを焼き滅ぼす。
そして光が消え、土埃が晴れた時、もはやそこには元砦の残骸しか存在しない。
焦土と化した大地に名残惜しげに残り火がくすぶっているだけだった。
 
「目標消滅まで一分二十秒、なかなかだね」
ホッソリとした指で双眼鏡を目から離し、セリスは独白する。
「長距離用対物ライフルで相手の出鼻を挫いて、ナパーム弾の戦車砲でパニックを誘発、混乱した所にミサイルでの完全殲滅、攻城戦においては実に効率的だとは思わない。ご主人様」
手に持った懐中時計を離しながら、セリスは背後を振り返る。
 その視線の先には机に突っ伏しながら涎を垂らし、幸せそうに惰眠を貪る主が居た。
「……………」
セリスは優しげな微笑みを浮かべると、水が注がれた洗面器を用意して時計を再び手に取る。
さらに反対の手で主の頭を持ち上げ、洗面器の真上まで移動。
そこで手を離す。
 当然ながら、頭は重力に引かれて落下、、、
ぼしゃん、ピッ、、
セリスの指がタイマーを押し時間を計測する。
ぶくぶくぶく、、、
五秒経過、
ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく、
十秒経過、
ぶくぶくぶくぶくぶくぶく、
二十秒経過、
ぶくぶくぶくぶ、、、
三十秒経過、
………………………………………
「………………」
四十秒経過、
 
 さすがにまずいかと思い始めた頃、ミリアが跳ね起きる。
「げっはっ、げっはっ、!!」
「おお、凄い。四十五秒も呼吸せずにいられるなんて、いっそ素潜りでもしたら」
タイムを見て心から感心する召使いを余所に、ミリアは気管に入った水を吐き出す。
「あ、はっ、がっはっ、あんた、がっ、は、あたしを殺す気?!」
怒鳴ろうとしても気管に水が入っているため、息切れに紛れて千切れ千切れにしか聞こえない主の言葉に、セリスは頬を掻いた。
「いや、何か幸せそうな夢見てたみたいだから、少し刺激をくわえてみようと思って」
「心臓が止まるかと思ったじゃないっ!! かよわい女の子になんて事するのよ!!」
「ご主人様、言葉の使い方を間違ってるよ。かよわいは儚いとか脆いとかデリケートとか言う意味で、頑強とか丈夫とか言う意味じゃないんだよ」
 したり顔で訂正するセリス、当然の事ながらミリア少ない理性は切れる。
「あんたねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
「それより」
怒れる主からさらりと視線を外し、召使いは再び双眼鏡を手に取った。
「見てみなよ。我が領地の軍事力を、魔法を使わずに文字通り城を破壊できる火力なんてそうそうないと思うけど」
「……………別にいつもの演習と変わらないじゃない」
ミリアの言う通り、こんな様子は彼女達の軍隊では見慣れた光景だった。
「まあ、それはそうだけど、少しはしゃっきりしなよ。仮にも機巧なる戦姫なんて仰々しいあだ名を持っているんだから」
 
機巧なる戦姫(きこうなるいくさひめ)、
数あるミリアのあだ名の一つで、僅かな兵力でありながらその武器、兵器を駆使して百倍の敵を無傷で撃滅殲滅し尽くした覇軍を指揮する彼女に、人々が畏怖と尊敬の念を込めて謳った名前である。
「あのね、それは他の人達が勝手に言ってるだけじゃない。第一、あたしは一度もこの軍隊を指揮したことはないんだけど」
迷惑そうなミリアにセリスは苦笑する。
「何を言ってるのさ。僕がこの軍隊を指揮しているなら、とうの昔にこの大陸を統一しているよ」
 まるで朝食のオムレツを焼くような軽い口調でセリスは言う。
しかし、それが冗談などではないことをミリアは知っていた。
セリスの正に魔王の如き奸計とその圧倒的力に、この軍隊が加われば洒落や冗談ではなくマジで大した苦労もせず大陸統一が出来るだろう。
目の前の召使いの言う通り、この大陸の統一など彼にとっては朝のオムレツ焼きと大差ない些事なのである。
「それをご主人様は、僕に命令して止めさせてるんだから、この軍隊はご主人様が指揮してるような物でしょう」
「…………それはそうだけど」
「それにせっかく僕が苦労して、演習場を貰ってきたんだから使わなきゃ損だよ」
本人の言う通り、この果てしなく続く荒れ地はミリア達の軍隊専用の演習場としてセリスが国王自ら賜ってきた物だ。
そしてこの演習所こそ、ミリア達の軍事力の証でもあった。
 
 この地は元々公爵の一人が納めていた国内でも屈指の大領地だったのだが、ある時その公爵が反乱を起こしたのだ。
地理的に国のど真ん中の上、近隣の貴族達がその反乱に荷担したためその鎮圧は容易な事ではなく、あわやの所で大規模な内乱をおこしかけたのだ。
その鎮圧を行った部隊こそ、ミリアの私軍だった。
反乱軍数十万に対し、ミリア達鎮圧軍はわずか三百人程、
誰もが反乱軍の勝利を疑わず、鎮圧軍の完全敗北を予見した。
そして戦火が切られた時、皆が予想した通り殲滅戦が始まることとなる。
ただし、立場が逆転して。
 戦争に置いて剣や魔法が主流である反乱軍に対し、鎮圧軍が用いた戦法は遙か遠距離からの攻撃であった。
ライフル、戦車砲などを使った鎮圧軍の攻撃は、矢も魔法も届かぬ遙かな遠距離から、反乱軍を一方的に攻撃した。
ナパーム弾や毒ガスなどの未知の兵器を駆使する鎮圧軍に、反乱軍は混乱し統率を乱すことになる。
トドメとばかりに飛行船を中心に組まれた航空部隊による絨毯爆撃が、地形ごと反乱軍のほとんど全てを問答無用で吹き飛ばしたのだ。
反乱軍の領地が業火が燃え盛るこの世の地獄と化すまで僅か一時間、、
その後三日三晩燃え続けた炎が消えた時、その地は草一本生えていない焦土と化していたのだ。
 
後に『ナインデルの争乱』の呼ばれたこの内戦は、ミリア達の技術力を国内はおろか国外まで知らしめる事となった。
それまで主に国王軍の一部だけが購入していた武器や兵器を、世界中の軍隊や犯罪グループが奪い合うように買い漁り、ミリア達の領地の財政は国庫より余程潤沢になった。
『貰う物さえ貰えば、親の敵にすら売りつける』というコンセプトの元、世界中の主な犯罪組織や軍隊の間にミリアの領地で造られた武器、兵器がばらまかれた。
さらには売り出された商品より、遙かに高性能の武具や兵器を装備した部隊を編成し、それを他国と契約して一時的に貸し出したりする傭兵商売を始める事となる。
無論、人でなしのセリスが関わっている以上、それだけでは済むはずが無く、非合法な仕事にも手を出していた。
武器、麻薬、人、顧客が居る限り決して途絶えることのない闇の取引の仲介や、世界中の優秀な人材を雇い、その国の機密情報を対立勢力に売却したりと、合法非合法を問わず活動し続け、売った顔と手に入れた金とコネを最大限に利用しミリアの地位と権力を押し上げていった。
その結果、今では独立国並みの自由裁量と、大国並みの財源を手にして、ミリアは国内有数の権力派閥の長の椅子に座っている。
 
 その権力を駆使して手に入れたのがこの演習場だ。
兵器を作る工場から、航空部隊も待機できる超大型の軍事基地、世界中の最新設備を詰め込んだ研究所に、演習用に立てられた様々な建築物、
大陸でもこれだけの軍事基地を持っている国家はそう多くあるまい。
ましてや一領地がその全てを管理下に置いていることなど皆無だろうに―――
「第一、演習なんかあんた達だけでやりなさいよ。あたしは仕事で疲れてるんだから――」
「じゃあ、はい」
ミリアの眼前に、どこに持っていたのか山のような書類が置かれる。
「疲れを忘れるぐらい、仕事をすれば解決だね」
「するかっっ!!」
ミリアは書類の束をセリスに投げ付けたが、軽く受け止められる。
「全く、少しは仕事の能率を上げなよ。これから色々書類が増えるんだから」
「って無茶言わないでよ!!」
 さらりと言われたその言葉にミリアは全力で拒否する。
セリスが持ってくる書類は、ミリアにとって今でも充分いっぱいいっぱいなのだ。
これ以上書類が増えることなど想像もしたくない。
 
「何が無茶だよ。僕が雑務を全部こなしているから、ご主人様は書類仕事だけでやっていればいいんじゃないか、何なら仕事を交換してみる?」
「そ、それは、遠慮しておくわ」
 セリスの仕事、主に新兵器の売り込みや外交の交渉や犯罪組織への武器の売買なのである。
明るみに出た日には、一族徒党斬首にされてもおかしくないような交渉も中に含まれているため、その交渉は騙し、欺き、裏切り、騙ると言う素人が参加した日には人間不信に陥ること間違いなしのどす黒い物となるのだ。
ミリアも何度か連れて行かれたことがあったが、隣で聞いているだけで気分が悪くなってくるのだ。
「それがいいよ。ご主人様は交渉できる程理性的じゃないんだから」
「な、何よ。失礼ね!!」
「悪口や蔑称を言われたぐらいで、すぐ怒り出すのは交渉人として致命的だよ。そのせいで、僕がどれだけ無駄に動いたことか」
「う、ぐ―――」
 実際、交渉に重大な交渉にミリアが立ち会わないのは、本人が苦手意識を持っている以上に交渉人であるセリスが、断固として拒否するからである。
権力者にとっては必須な技術と言うことで、初めのうちこそ何度かセリスに連れられ、その特訓のために出向いていた。
しかし、ほぼ毎回問題を起こし、しまいには国際紛争を引き起こしそうになったりして、結局セリスは主の交渉術の育成を断念したのだ。
そして、それまでの損害全てを計算し金額で表示したところ、一国の国家予算に匹敵する程の額となり、それを見た時にはさすがのミリアも自分の才能のなさにかなり落ち込んだ。
 
「だ、だってなんて言うか、聞いてるだけでむかむかしてくるのよ。こっちの事情に付け込んで金額を吹っ掛けてきたり」
「それに目をつぶるのが大人って言うんだよ。損は投資であり、利を産むための母なんだから、後に倍にして取り返せばいいだけじゃないか、損しない者に利は付かず、利が欲しければ損しなければならない。利を持ち続けるには、小さく損をし続けるのが最良なんだ」
まるで出来の悪い生徒を受け持った教師のように嘆息してから、ミリアに見えないように苦笑して小さく呟く。
「―――ま、そう言う所が好きなんだけどね」
「え、なんか言った?」
「いやいや、こっちの話し、それより僕はブラックマーケットの説明会があるからこれでね」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 ミリアの制止を聞かず、セリスは部屋を退出する。
後には山程の書類とミリアだけが残された。
「あいつっ!! いつか絶対ぎゃふんと言わせてやるんだから!!」
 いつもする固い決意だが、未だに成就されていない。
不機嫌そうに尻尾を揺らしながら椅子に乱暴に腰掛ける。
そのまま山と積み上げられた一番上の書類を手に取った。
書類に記載されているのは、セリスが設計した武器の設計図だ。
公的にはミリアが設計したことになっているが、この領地のほとんど全ての武器や兵器の設計はセリスの領分だ。
ミリアはその設計図にサインをするのが仕事である。
(未だに、これが何の設計図だか分からないのよね)
数式と化学式と専門用語が手を繋いでダンスを踊っているのだ。
理数系を親の敵のごとく憎んでいるミリアに理解できるはずがない。