ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki まつりのあと ~強欲な黒、傲慢な黄そして嫉妬の翠~

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『まつりのあと ~強欲な黒、傲慢な黄そして嫉妬の翠の三重奏~』

 ここは都内に在る私立有栖学園。
今日は一年の中で最も盛り上がる文化祭の最終日である。
そこにはさまざまな年齢の老若男女、人種が渦巻いていた。
それもそのはず、この学園の文化祭は三日間行われる。それに対して一般の入場は自由なのだ。
生徒たちの家族から始まり、その親戚、他校の生徒、友達の友達などと多岐に渡って押し寄せてくる。
一部のマニアがここぞとばかり撮影にも来るが、一つしかない出入り口である入場門にて
毎年来場者の所持品チェックと身体検査が行われる。
実に念入りに調べるので、この学園を盗撮することは特級クラスのミッションだというのは
マニアたちの間では定説になっている。

 生徒たちは学園が行うそうした配慮のおかげで、全身全霊文化祭を楽しめるのだった。
もうお昼を過ぎたのにまだ来場者の列は尽きない。
この現実に現れたカーニバルに皆は乗り遅れないように急ぐ。
まるで幻の中で生き急ぐかのように―――。


 ――――窓の外は賑やかな声で溢れていた。それをじっと見つめる女性がいる。
全身を黒と白の編み上げで包み、長く綺麗な銀髪をストレートに下ろし、
窓の外を見つめる眼は冷ややかで少し褪せた紅色の瞳だった。
彼女は退屈げに外を見つめている。
全身からは近寄りがたい空気みたいなものを発していた。
彼女が美人すきるというのを差し引いても異常なくらいに。
すると気が変わったのか、もう用はないと言わんばかりに早々にその場を離れていった。
その口元に微かな笑みを浮かべながら。


同時刻:学園内のとある部屋にて――――


 学園の中では人があまり通らない場所。
そこにその部屋があった。薄暗いその部屋にはすでに二人の女性がいた。

 「遅いですね…」
立ちながら不満げに呟くのは、その中の一人。
彼女は緑色を主体にしたロングスカートドレスを着ており、暇を玩ぶように長い茶色の髪を指先でくるくると回している。
何気ない仕草も彼女が行えば、それは何か特別な意味を持つものだと勘違いしてしまうだろう。
そしてそれを見つめる双眼の色は互いに違っていた。
左には鮮やかな翠、右にも鮮やかな赤を配したオッドアイ。

もし“解る人”が見れば、彼女を“不完全な美”と称するだろう。
それほどまでに彼女は美しかった。
次の行動を取るまでは――――。

 「あ~もぅ!遅ぇですぅ、遅ぇですぅ!!」

苛立ったのか、目の前の机を両手でバンバン叩き始めた。
先程の深窓のお嬢さま然とした雰囲気はもう微塵も感じられない。
それを見ていたもう一人の女性は――――。

 「気長に待てばいいかしら、翠星石」

部屋に転がっていたパイプ椅子に座って実にゆったりとしている。
その時、わずかに開いていたカーテンの隙間からの光が彼女を照らした。
照らされたその髪と眼は同じ色の碧。服装は黄色を主体としたツーピーズである。
片手にはいつの間に用意されたのか、紅茶が入ったカップを持っている。


 「遅れてくるのはいつものことかしら。紅茶でも飲んで優雅に待つのが得策かしら」
その紅茶を運ぶ動作は彼女が言うように、正に優雅だった。
翠星石と呼ばれた女性は少し不満げにしている。
「金糸雀はイヂワルですぅ……」
怒らせたくないから、口を尖らせて小声で言う。何とも小さな抵抗である。
しかし、それが聞き逃されることはなかった。


 「―――何か言ったかしら?」


金糸雀と呼ばれた彼女は口調はにこやかに聞こえるが、その眼は全く笑ってはいない。その眼は殺意すら感じさせた。
獣のカンもしくは嗅覚と言えばいいのか、とにかく金糸雀の視線の意味に気づいた翠星石は急いで弁解する。

 「いいい、言ってねぇ…ですよ?」
 「そう…じゃあ質問を変えるかしら…何で“焦ってどもっている”のかしら?」
 「そ、それは―――の、喉が乾いてて上手く口が滑らねぇから、ですぅ…」
 「だったらこの紅茶を分けてあげるかしら。さぁ、お口を開けるかしらー。はい、アーン」

無理矢理口を開かせて、まだ熱々の紅茶がたっぷり入ったポッド口を直接翠星石の口に突っ込んで飲ませた。

 「――――ンーンー!……ガボッ……ガボッ……ゴボッ!……プハッ!!な―――何しやがるです、金糸雀!!」

熱々の紅茶を飲んだというのに平気な顔で怒鳴りつける。普通は火傷の一つもするものだ。
しかし金糸雀はそんなことは気にしない。喧喧囂囂と怒鳴っている翠星石など、どこ吹く風だ。

 「これぐらいどうってことないかしら」
 「どうってことあるです!強制的に飲まされて……私を陸の上で溺死させるつもりですか!?」

 「あなたが“それくらいで”死ぬわけないかしら。ねぇ―――“庭師”さん」

それを聞いて翠星石は怪訝な顔をする。

 「何のことですぅ?」

そんな翠星石の発言に金糸雀は少し眉をひそめた。
そして、何かを思いだしたかのように肯く。
 「―――あ……そういえばあなた……そうね、そうだったかしら。ごめんなさい、さっきのは忘れて」
そして再び椅子に座り、ゆっくりと紅茶を飲み始めた。
 「訳わからねぇですぅ……」
怒るのに疲れたのか。翠星石も椅子を引っ張り出しドガっと、座った。

 二人が椅子に座って五分後に変化が訪れた――――ドアノブに手がかかる音。
二人ともドアが開く音に反応して立ち上がる。
ドアが開き、外の光が部屋の中に入ってきた。
そして侵入者がゆっくりと入る。
顔は逆光により確認はできない。男か女かも判らない。
二人は身構えた。たがしかし――――。


 「ちょっとぉ……何してるのぉ?」


気だるげな女の声を聞いて一気に力が抜けてしまった。

 「『ちょっとぉ何してるのぉ…』じゃねぇですよ!!」

 「少し遅すぎるかしら……水銀燈」

 「ごめんなさい。ちょっとチェックしてたのよぉ」

水銀燈と呼ばれた女性は少しも悪くないという口調で言った。

 「やっぱ何か合図みたいなものを考えておくべきだったかしら」
 「今度からそうして欲しいです……このままじゃ心臓に悪ぃですぅ」
気分悪げに胸を撫でる翠星石を見て、水銀燈が背後に忍び寄る。

 「もぅ……そんなこと言っちゃ……イ・ヤ♪」

言い終わると同時に、フッ…と耳に息を吹きかけた。

 「ヒィヤァァッッッ!?」

とてもいいリアクションを返す犠牲者、翠星石。
少し涙目になって水銀燈を睨むが、すぐに金糸雀に抱きつく。

 「ヒィェェェン…!かなりあ~すいぎんとうがイヂワルするですぅ~」

よしよしと頭を撫でながら、金糸雀は水銀燈に向き直す。
 「あまりそういうことはしない方がいいかしら。この子がまた不安定になるかしら」
まるで、あなたはお姉さんなんだから妹を大切にしなさいと叱る母親のように水銀燈を諭した。
 「はぁいはぁい……それよりそろそろ“話"しない?」
 「そうね。ほら翠星石、涙拭いて。ここに座るかしら」
まだ泣いていた翠星石を宥めつつ、金糸雀も椅子に座った。水銀燈も適当な椅子に座る。


 「さて……そろそろ文化祭も終るわねぇ」
 「ようやくかしら」
 「そうねぇ、ようやく計画を実行に移せるわぁ―――って、翠星石もう泣くのはよしなさぁい……」
 「ウゥゥ……わかったですぅ」
 「いい子ねぇ。それでいいわぁ―――話の続きなんだけど」

本格的に話し出すため、グッと前に出る水銀燈。
「ここの学園の文化祭は三日間連続で行われる。入場制限は多少あるものの大体フリー、正直数えてられないぐ らいの人間がここに集まるってことねぇ。ここからが本題……この文化祭の総収益ってどれくらいの額か知ってるぅ?」
もったいづけるように水銀燈は二人に聞いてみる。
 「一人が大体3,000円から5,000円落とすと考えて、一日の入場者数はわからないけど……一万はいくかしら?」
その答えに水銀燈は肯定した。

 「……仮に一万づついったとして、最高額からの計算だと……約一億五千万ってことになるかしら」

それを聞いた翠星石は愕然となった。 
 「い、一億ぅ!?」
 「そういうことになるかしら」
金糸雀の回答を聞いていた水銀燈は鷹揚にかぶりを振った。


 「金糸雀まだまだねぇ。正解にはゼロが“もう四つ”付くわぁ」


それを聞いた翠星石はまた愕然となった。
 「い、一兆を超えるですかぁ?一体この学園はどうやってそんな収益を上げてるですか!?」
混乱する翠星石を横目に金糸雀は冷静に水銀燈に問う。
 「それは何故かしら?」
その問いかけに満足そうに微笑む水銀燈。
 「それは簡単。この三日間だけ敷地内に裏カジノが存在するだけよぉ」
生徒たちの神聖なる学び舎の中に裏カジノがあると断言した。
もはや一般的な常識では測れない会話になってしまっている。
それを平然と話す彼女達が正常なのか、それとも受け入れられない方が異常なのか。
 「だってそうじゃなきゃその金額は出ないでしょ?」
金糸雀は片目を瞑って椅子に寄りかかる。
 「なるほど……そういうこと……よくばれないものかしら」

 「ここが"有栖学園”だから、よ。ここって可笑しいわよぉ。監視カメラの数が通常の学校の二十倍、加えて遠赤外線センサーに外敵排除のためのレーザーガンナー、コンピュ―タも過剰な防護プログラムを展開、某国のスパイ衛星もここだけはっきりとは写らないそうよ。多分ジャミング機能もデフォなんでしょうよ。それで夜になれば学園内を徘徊する警備員代わりのオート・マタ(自動人形)まで出てくる。ああ、これはホントかどうかわかんないんだけどぉ。この学園、ご丁寧に地下シェルターまであるらしいわよぉ……呆れるくらいここって―――狂った要塞ね。こんな所で勉強する生徒たちが可哀想に思えるわぁ……」

そう呟く水銀燈を見て、金糸雀が


 「でも、あなたにはそんな気さらさらないかしら」


と冷たく言うと――――。


 「やっぱぁ……わかる?」


悪戯がばれた子供みたいにニンマリと笑った。

 「バレバレかしら。水銀燈、昔より嘘が下手になったんじゃないかしら?」
 「うそぉ?それこそ性質の悪い嘘よぉ」
そんな感じで盛り上がっている二人とは別に翠星石はまだ――――。 


 「一兆……一兆……一兆……一兆……」


出てきた金額の大きさにより少々壊れかけていた。

それに気づいた金糸雀は―――。
 「ちょっと翠星石、そろそろ正気に戻るかしら」
首筋にチョンっと指先で突いた。
 「痛ッ……アレ?私どうしてたですか?」
 「大丈夫、大丈夫。気にしない気にしない」
水銀燈はポンポン肩を叩きながら翠星石を椅子に戻した。
話を戻すように金糸雀が切り出す。


 「―――で?決行はいつかしら」
 「もちろん―――今夜」


水銀燈は一切の間も与えずに即答した。
 「―――急過ぎですぅ。危険ですぅ」
 「だからいいんじゃなぁい。本当におバカさんねぇ…翠星石は」
 「ムキ―!お馬鹿さんって言った方がお馬鹿さんなんですぅ!!」
激昂した翠星石を見て金糸雀は溜息を一つ。
 「翠星石、水銀燈は今夜だからこそ奪い取るチャンスがあると考えた。だからそう言ったのかしら」
 「そ、そうなんですかぁ?」
さっきまで怒っていた翠星石が嘘みたいに消沈した。
 「まさか今日いきなり奪いにいくバカはそうはいないかしら。私たちはそのバカになるのだけど―――ねぇ水銀燈」
 「そうよぉ。今日一日だけ三日間の総収益を保管してるのよ。次の日には秘密裏に特殊な銀行に行くそうよぉ……どうせろくな金融屋じゃないだろうけどねぇ」
 「それで……今夜なんですかぁ?」

――――パチン。

水銀燈は指を鳴らし、そのまま人差し指を翠星石に向ける。


 「Exactly(そのとおり)!!」


 「でもぉ……危険がイッパイな気がするですぅ……」
あくまで弱気な姿勢を崩さない翠星石。
それを見かねてか、翠星石の不安を打ち破ったのは――――金糸雀である。

 「大丈夫かしら。すでに“アリス”は仕掛けてあるかしら」

 「“アリスぅ”!?」
 「仕上げは今夜分かるかしら。楽しみにしてるといいかしら、翠星石」
翠星石は、分からないという表情を浮かべるも何とか納得した。
 「わ、わかったですぅ」


 「それじゃ決行は深夜00:00時。後は、各自必要な準備を済ましておくこと―――いいわねぇ?」


 「わかったかしら」
 「了解ですぅ!」

二人の返事に満足した水銀燈は、部屋を出ようとする。
 「ああ、そうそう。二人ともそろそろ顔出しときなさいよぉ。一応私たちはここに”教師”としているんだからぁ。
 先生がサボってちゃ生徒たちに示しつかないでしょう?」
 「わかっているかしら。これを飲み終えたらすぐに」
そう言ってゆっくりと紅茶を楽しむ。
 「それならいいけどねぇ―――翠星石」
 「は、はい!」
いきなり声をかけられて、翠星石は背筋をピーンと伸ばした。
 「いや、そんなにしゃちほこばらなくてもいいからぁ。アンタはどうすんのぉ?」
 「私は金糸雀と一緒に出るです……人ごみはキライですぅ……」
 「―――そ。じゃあ今夜ね」

そしてドアは閉まった。再び部屋の中は薄暗くなる。ここには時計も無いので、時間の流れが曖昧になっていく。
今何時だろうと思っても窓からの光では大体の時間は分かっても細かくはわからない。
そんな不安定な時間が流れる場所に二人はまだ椅子に座っていた。

 「ねぇ金糸雀」

沈黙に耐えられなった翠星石が金糸雀に話しかけた。
 「何かしら、翠星石」
 「成功する……と思うですか」
 「“する”というより“させる”というのが正しいかしら」
 「そーいうのが聞きてぇんじゃねぇですぅ……金糸雀や水銀燈は怖くないんですか?」
 「そういうのはなるべく考えないようにしてるかしら」
 「どうしてですぅ?」
 「恐怖はいざという時、精神とは別に身体を強張らせる。ピンチの時は何があろうと止まっていけない―――  身体も思考も、細胞さえも―――わかったかしら?」
 「難しぃですぅ……」
いつの間にか、椅子に体育座りの体勢をしていた翠星石は膝に顔を埋めた。
 「そんなに難しく考えることはないかしら。要するに余計なこと考えるな……ってとこかしら」
 「えらいシンプルになったですね」
 「あなたにはそれぐらいで丁度いいかしら」
 「ヒドイですぅ~!」
 「そろそろ出ましょう。一応、見回りが私たちの仕事だし」
椅子を立ち上がり、部屋を出ようとする金糸雀。そしてそれに付いて行く翠星石。
 「―――待って、待ってですぅ~」

 一人はただ黙々と前を歩き、もう一人はただ喧しくそれに付いて行った。
部屋の近くの窓からも人々の賑やかな声が響いてくる。彼らは気づかないまま今日を終えるのだろう。
今夜この学園に起こる事を。それはあまりにも硝煙と血に塗れたものだと。
幸せは糾えるがごとく、カーニバルはまだまだ続く。定められた刻限まで。


 ―――――そして、この世界の果てまでも届きそうなパレードが終る時、この物語は新しい顔を見せ始める。

 ―――――その時まで、しばしのお別れ。


 To Be Contiued…