ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki

想いは空へ

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匿名ユーザー

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金糸雀のデスクに一通の便箋があった。
だが、その便箋には切手も貼られていないし住所も書かれていない。
ただ真ん中に大きく
『みっちゃん』
と言う5文字が書かれているだけだった。

真「金糸雀、これ貴方が書いたの?」
ちょうどデスクに戻ってきた金糸雀に真紅が尋ねる。
金「うん」
真「名前はともかく、住所がないじゃない。
それに切手もないし」
当然の指摘をする。
宛先がないと、届くものも届かない。
だが金糸雀は少し寂しげに笑って首を横に振った。
金「いいのかしら……。この手紙は、これだけで届くのかしら」


――――想いは空へ


金「お疲れさまかしら~」
金糸雀は職員室をあとにする。
真「…………」
その背を真紅は黙って見つめる。

放課後、金糸雀はいつもとは違う道を歩いていた。
あの便箋はしっかりと手に握られている。
金「この辺りも………変わったかしら」
ぽつり、と呟く独り言。
それもいつからか自分の癖になってしまっていた。
『……でもそんなアンニュイなカナも激萌!』
金糸雀はハッと後ろを振り向く。
そこには幼い自分がいた。

泣いている。
泣きながら誰かに謝っている。
彼女の手には壊れたアンティークドール。
金『ごめんなさい!ごめんなさいかしらぁぁ!!』
もはや叫び声に等しい謝罪は、『誰か』の腕に消えていった。

『いいのよ、カナ』

『あの人』と過ごした日々は決して忘れる事のできない、心の一部。
優しい温もりが、金糸雀に伝わる。
金「………」
手をのばす。幻影へ。
でも、突如、鏡が割れたかのようにその過去は崩れていった。
手は孤空を掴む。
目の前に残るのは冷たいアスファルト。
金「……あるわけないかしら」
可笑しくて、金糸雀は自嘲した。
視界が霞んで見える。
その原因に最初金糸雀は気付かなかった。いや、気付かない振りをした。

――急に霧がでてきたのかしら

気付かないまま先に進みたくて、金糸雀は足を必死に前に進めようとする。
だが、その真実への拒絶も長くは続かなかった。


真「金糸雀……貴方、どうしてこんなところで泣いてるの?」

思わぬ人物の登場に、金糸雀は思わず後ろに倒れそうになる。
金「しっ……真紅!?何やってるのかしらこんなところで!」
真「散歩よ」
きっぱりと言い切った。
だが真紅の格好は学校の時に着ていたスーツのまま。
そして、自慢のブロンズの長髪も少し乱れていて、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
金糸雀の瞳に映る彼女が散歩中とは到底思えない。
視線が気になったのか、真紅はそのブルーの瞳で金糸雀を逆に睨んだ。
真「……貴方こそこんな見知らぬ土地で何してるのよ」
聞かれ、金糸雀は思わず口籠もる。

金「カナは………」

金「……………」
真「……………」
少しの間、沈黙が二人へ降りた。

真紅の視線は、ゆっくりと金糸雀の手に移る。
学校で見た手紙。
それを見て真紅は少し複雑な表情を浮かべる。

金「………真紅?」
静寂を破る。
どうしたの、と彼女を呼んだ瞬間、
真紅は黙って金糸雀の腕を引いた。
バランスを崩しそうになり金糸雀は中姿勢を取る。
金「な、何するのかしら真紅!!」
何が起こったのかわからずに声を荒げながら真紅を見上げた。
だが真紅は呆れたような表情で金糸雀を見つめ返すだけ。
真「さっさと行くわよ」
金「……え?」
最初、金糸雀には真紅が何を言っているのかわからなかった。
対する真紅は、少し苛立った様子で言い放つ。

真「早くしないとくんくんが始まってしまうじゃないの」

言うと真紅はふいっと顔を向ける。
その表情はいつも通り無表情である。
金「真紅…………」
真紅の意志に気付き、金糸雀は少しぽかん、とする。
思わず嬉しくなったが、お礼を言ったところで
今の真紅には突っぱねられるだけだろう。
なので金糸雀は姿勢を正すと敢えて何も言わずに、ただ微笑んだ。


                  ○

やはり、と言うべきか。
数分かけて2人が辿り着いた場所は古びた寺。
本堂の前を通り過ぎ、細い道を少し歩くと
そこにたくさんの墓石が広がっているのが見えた。
真「…………」
金「………あと少しかしら」
墓地の入り口へ足を踏み入れる。
見るとここは高台に位置しているせいか、
階段の長さが半端でない。
金「一番上かしら。……大丈夫?」
真「愚問よ」
2人は上っていく。
しかし、決して表情には出さないが
真紅は、高低の激しい墓地に少し疲れ気味だった。
金糸雀を伺うと、全然疲れた様子を見せていない。
真「………慣れてるのね」
金「………まぁね」
エメラルドの髪を揺らしながら金糸雀は前を歩く。
その背を真紅は追う。
上まで上り切ったのはその数十分後の事だった。

この墓地の頂上は有栖学園周辺の町並みを全貌できる位置にあった。
いつきてもいい景色かしら、と金糸雀は言った。
もちろん真紅はそれに同意する。
と、突然金糸雀はある場所で足を止めた。
金「……ここかしら」
雪花石膏のような白さをした墓石が、そこにはあった。


金糸雀はまず、墓の前にしゃがみこむと
ハンドバッグの中からお香を取出し、焚く。
金「今日はお花がないかしら、ごめんね」
墓石に優しく語りかけながら、金糸雀は手を合わせた。
倣って真紅も手を合わせる。
金「ありがとうかしら、真紅」
真「いいえ……」
普段からよく人が来るのだろうか、その墓はとても綺麗にされている。
金糸雀はそっと墓の傍の椅子に腰をかける。
真紅も金糸雀の隣に座る。

しばらく無言が続く。
耳を通り抜けるのは森林の騒めき、烏の会話だけ。
二人の背を橙色の光が照らす。
でも、話を促す気には到底なれなかった。
金糸雀が話してくれるまで、いや、話してくれなくても。
真紅は待つ。
その時そっ、と。自然の音に交えて金糸雀が呟く。
金「………カナが教師になった理由は、ここにあるのかしら」
金糸雀は懐かしみながら天を仰いだ。


忘れられないあの日が、金糸雀の脳裏を走る。

公園のブランコに二人、座って話していた。
『カナは将来何になりたいの?』
『もちろんバイオリニストかしら!』

『みっちゃんは?みっちゃんは何になりたいの?』
少女は金糸雀の質問にくすり、と笑う。
『私はね………学校の先生になりたいんだ』


―――――みっちゃん

物心つく頃からずっと傍にいた。
悲しいときも、つらいときも、嬉しいときも。
一緒に泣き、笑い、励まし合ってきた。
親に言われるまで本当の姉と気付かなかったほど、
姉妹のように接してきた。
それがみっちゃん。
金糸雀にたくさんのモノを与えてくれた少女。
そして金糸雀を導いた少女。

『先生?どうして?』
幼い金糸雀は純粋に理由を知ろうとする。
みっちゃんは少し考えたあと言葉を選びながら話はじめた。
『うーん………』

みっちゃんは学生ながらドールコレクターだった。
可愛いもの好き、がエスカレートした結果だろうか。
それが災いしてか、クラスの皆からは、
《変人・オタク》のレッテルを貼られ
彼女に対するイジメも頻繁に行なわれていた。
―――彼女が登校拒否になるのも時間の問題だった。
『“とうこうきょひ”?』
『学校に行きたくなくて、ずっとお部屋にいることよ』
『みっちゃんも“とうこうきょひ”だったのかしら?』
『うん』
そう明るく速答する彼女にそんな時期があったことなんて
金糸雀には想像できなかった。
『でもね、そんな私を変えてくれた人がいたんだ』

それが、当時の担任。
毎日自分の部屋からでてこないみっちゃんを案じ、
一日も休む事無く通い続けた男気の強い女の先生。
でも決して無理に学校へ連れていこうとはしなかった。
先生はみっちゃんのドールの自慢話を、真剣に聞き、
みっちゃんの想いを尊重してくれた。
そんな彼女にみっちゃんも段々心を開いていった。

彼女の熱い心に打たれ、みっちゃんは学校に復帰したのである。
『……先生だけだったんだ。私の事をわかってくれたのは』
みっちゃんは、ふっ、と微笑み金糸雀に向かい合う。
『私も先生のように子供たち一人一人の自由を大切にしてあげたいの。
そして慕われる先生になりたい』
と語って、ふと金糸雀を見苦笑した。
『ごめん、難しすぎたかな?』
金糸雀はぶんぶん、と首を振る。
『そんな事ないかしら!みっちゃんは絶対いい先生になるかしら!』
言うとみっちゃんは急に飛び付いてきた。
『―――あぁーん!ありがとうカナァァァァァ!』
『キャァァァァみっちゃん!ほっぺがまさちゅーせっちゅー!』

いつも通りの光景がそこにあった。
金糸雀もみっちゃんも、心から笑った。

まさか

それがみっちゃんとの

最後の会話とは思いもしなかった


みっちゃんと別れ、家に帰りついた時に届いた


突然の訃報。





―――みっちゃんが、死んだ



その後何があったかは覚えていない。
気が付けば、金糸雀の目の前には普段より肌の白さが目立つ
みっちゃんが横たわっていた。
白い着物に身を包んだ彼女は、微動だにせず、ただ、堅く目を閉じていた。

『みっちゃん………?』

震える声でみっちゃんを呼ぶ。
普段ならすぐに返ってくるだろう返事は、
どれだけ経っても返されることはなかった。

『みっちゃん、どうしたの?』

再び問う。
『ねぇ、みっちゃん』
『金糸雀』
母が肩を押さえる。
それでも金糸雀は話し掛け続けた。

『みっちゃん、なんでこんなところで寝てるのかしら?』

『早く帰るかしら。みっちゃんの卵焼き、また食べたいかしら』

『みっちゃ………』



最後まで言うことができなかった。
金糸雀の頬を一筋の涙が伝う。
泣いたら、自分は彼女の死を受け入れることになるから、
泣いてはいけない、
そう思っていたのに。

『―――――――』

薄暗い部屋に、金糸雀の絶叫が響いた。
声が、涙が枯れるまで、彼女の声は途切れることはなかった。



その日を境に金糸雀は自身を忘れ、
学校へも足を向けなくなった。
外へ出るときは決まって『彼女』のいる所。
当時の金糸雀の背丈より高い石の前で、ただ何をするまでもなく
ぼんやりとたたずむ。

『みっちゃん、今日は天気がいいかしら』
ぽつりと呟いた言葉は白い石へ吸い込まれる。
『みっちゃ……』
『景色がいいねぇ、ここは』

誰かの声が、金糸雀の声を制した。
声の方向を見ると、
そこには腰まで長い赤み掛かった髪をもった
スレンダーな女性が、風を受けながら立っていた。
『……こんなところに建ててもらえて、こいつも幸せだろうね』
女性が墓へ近づく。
金糸雀は瞬間的に彼女の侵入を拒否した。
ここは、金糸雀のただ一つの領域であった。
過去に捉われた自分の。

が、そんな力すらなく、金糸雀はただ
女性の成り行きを見守るだけしかできない。
女性は墓の前で手をあわせると、何かを一言二言呟く。
金糸雀はじっとその人を見ていた。

『……おまえ、昔のこいつみたいな顔してるなぁ』
ふ、と自然にいわれ、金糸雀は顔をあげた。
『………みっちゃんと知り合いなんですか』
『こいつはな、昔あたしが受け持ってた奴なんだ。
しばらくは学校に来れてなかったんだけどな』
その時金糸雀は漠然と理解した。

――この人が、みっちゃんを救った先生

『……あいつも今のお前みたいな顔してたよ。
生きることに疲れた、飽きたってな』
『……………』
『だからかな、あいつが生き生きしながらあたしに
夢を語ってくれた時は、本当にうれしかったな』
『……夢?』
金糸雀は一言聞き返す。
彼女は笑って言った。
『あたしみたいな先生になりたい、ってさ』


       ○


『…………先生』
金糸雀は彼女を先生と呼ぶ。
みっちゃんに会いに行くと、彼女がいる時がある。
金糸雀も、領域侵入を嫌がる事もなくなった。
今の金糸雀の中では唯一、心を許している人かもしれない。
呼ばれ、彼女はそっと金糸雀の側に座った。
『……なんだ?』
言葉こそぶっきらぼうではあったが、
優しい口調で聞いた。
『決めたかしら』
彼女はふぅ、と息をつく。
この後金糸雀が発する言葉を見通したように。


『……カナは、教師になるかしら』

風が、そっと彼女の頬を撫でる。
まるで、みっちゃんが側にいるような錯覚に捉われた。
『どうしてだい?』
先生は静かに聞いた。

『もう、みっちゃんはいないかしら』

『でも、わかった』

『カナがみっちゃんを忘れない限り、
みっちゃんはカナの中にいるって』



『みっちゃんはカナに数えきれないほどたくさんのものをくれたかしら』

『カナはそれを返すことができなかった』

『だからカナは、教師になる』

『教師になって、みっちゃんの夢を叶えたいかしら』

先生は、黙って金糸雀の話を聞いていた。
『それに……』
金糸雀は彼女を見て言う。
『カナも、先生みたいな教師になりたいかしら』

ありがとう。

彼女は呟いたあと、金糸雀を胸に抱いた。


       ○

金「………手紙はね、近況報告。
来る度にここに置いていくかしら」
そう言って金糸雀は立ち上がると、
雨等に濡れてよれよれになった以前の手紙を取り出した。
そして、新しい手紙を置く。
金「………変でしょ。大人になった今でも
こんなことしてて」
真紅は黙って首を振った。
外はすっかり夕方で、そろそろ7時になろうか、と言う時間だった。
金「ありがとう、付き合ってくれて」
真「……謝る必要はないのだわ」

金糸雀は哀しげにほほえんだ。
普段の彼女からは想像できない大人の笑み。

今の彼女の背丈は、墓石より高い。
成長したかしら、と金糸雀は呟く。


しばらく石の前で佇む彼女の肩を真紅はそっ、と抱いた。
真「……貴方の想いは、きっと彼女に届いているわ」
金「………ありがとう」
真「彼女のためにも、しっかり頑張りましょう」
金糸雀は柔らかく微笑んだ。
悲しみではない、希望の笑みで。


どちらが言うわけでもなく、その場を離れ、帰路につこうとする。
その時、金糸雀の頬を風が撫でた。
足を止め、振りかえると、そこには『彼女』がいた。
『私はずっと見てるからね』

そう聞こえた気がした。

「―――カナは、これからも頑張るかしら」
言うと、金糸雀は振り返らずに先に進む真紅まで駆け足で追い付き
再び歩きだした。
二人の背を、オレンジ色の夕日が照らしていた。

TO.みっちゃん

しばらく来れなくてごめんね。
カナは相変わらず元気にやってます。
いろいろ大変だけど、充実した毎日を送っています。

最近、なぜみっちゃんが教師を目指したのか
わかってきた気がします。
生徒達に自分の得た知識を捧げ、糧として社会に飛び立ってもらえることは
とても嬉しいこと、と身を以てわかったからです。

カナは先生になれてよかったと思います。

ありがとう、みっちゃん。
返しきれないほどたくさんのものをくれて
本当にありがとう。


FROM.金糸雀

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