ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 翠星石の家庭科(おあ氏部分

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蒼「授業長引かせすぎたかなぁ…。次の授業まで時間がないや。急がないと・・」
休み時間も残り僅かな廊下で、蒼星石は競歩にも近い早歩きで職員室へ向かっていた。
無駄のない動きで廊下をたむろする生徒の雑踏を切り抜ける。
「翠星石先生ってうざくね?」
翠星石という名を聞き、ふと足を止めた。
私語で溢れかえる廊下の中で、蒼星石は翠星石の名に敏感に反応した。
「よくあんなに口が悪いのに教師やってられるよなぁ」
「あぁ、あれは完全に俺らを見下してるね」
生徒による教師の悪口ほど辛いものはない。人にものを教える立場として仕方の無いことだが。
できれば聞きたくなかったが、足は完全に動きを止めた。
「でも何故か一部のヤツはあいつを崇拝してんだよな。『翠星石先生は最高だって』って」
「あいつ生徒に体売って評価得ようとしてんじゃね?」
「ははは、あり得るー。まぁ一応美人だしな」
気付いた時には、蒼星石はその生徒の方へ向きなおしていた。
蒼「翠星石先生が、どうかしたのかい?」
「あ、蒼星石先生・・!!」
翠星石の悪口を言っていた生徒は、教師の悪口を教師に聞かれた事を気にする様子はなかった。
それどころか、蒼星石に賛同の声を求めようとさえした。
「蒼星石先生ー。翠星石先生って性格悪くないっすか?」
蒼「どうしてだい?」
「だってあの口の悪さはありえないっすよ。蒼星石先生を見習えっての」
蒼星石はその容姿と、誠実さから、男子生徒と女子生徒から絶大な信頼を得ていた。
特に、女子生徒からの人気は他の教師を圧倒していた。
自分のことを良く言われたが、今は全く嬉しくなかった。


「あいつ、絶対俺らのこと見下してますよ」
生徒はそう言うと、一緒に話していた男子生徒と笑いあった。
そして蒼星石にも賛同を求めるかのように笑いかけた。
蒼「そんなことないよ」
「え・・・?」
声は穏やかだったが、蒼星石の目は笑っていなかった。生徒は思わず息を呑んだ。
蒼「ボクから見て、彼女ほど君たちの事を考えている先生はそうそういないと思うよ」
「え、え~、そうっすかぁ?」
蒼「君たちは知らないだろうけど彼女は毎日明日の授業はどうしようかって考えてるんだ。
これで生徒は楽しく授業できるだろうか、分かりやすいだろうかってね。
今日の授業は良くなかったって涙したこともあるんだよ」
「・・・ほ、本当ですかぁ?」
生徒は、普段の翠星石からはとても想像できないと言いたげだった。
蒼「翠星石先生はボクと一緒にいるとき、いつも生徒の話をするんだ。
今日はあの子があんなことを言った、あの子が寝ていて悲しかった、とかね。あ、君のことも話していたよ。」
「え?俺のこと・・・?」
蒼「うん。君はノート作りがとっても上手だってね。授業の内容を理解してくれていてとっても嬉しいって。
でも、最近は寝てばかりで悲しい。そう言っていたよ。」


「で、でも翠星石先生は俺のノート見て字が汚いって言いましたよ」
蒼「翠星石先生は恥ずかしがり屋だから。自分の本当の気持ちをなかなか伝えられないんだ。
けど、表面上の言葉にとらわれずに、翠星石先生の言動を見てごらん。
彼女が君たちの事をいかに想っているかということが分かるはずだよ」
「・・・・・・俺ら、酷いこと言ったのかな」
生徒たちは、ようやく翠星石への悪口に対して罪悪感を感じたようだった。
それを見て、蒼星石はそっと微笑み、生徒たちの頭を優しく撫でた。
蒼「そうだ。今度職員室の翠星石先生の所へ、勉強を教えてもらいに行きなよ。
先生、口では文句言うかもしれないけど絶対に喜んでくれるよ。」
「いつも寝てる俺らが行ってもいいのかな…」
蒼「大丈夫。君たちは、翠星石先生にとって大切な、そして愛すべき生徒なんだから…。」
蒼星石はそう言うと、今度は小走りで職員室へ向かったが、ふと立ち止まり、先程の男子生徒たちのほうへ振り返り、そっと笑い掛けた。
蒼「もちろんボクにとっても、ね」





放課後の職員室、一日の激務をこなした教師たちが安堵の表情を浮かべている。ただ一人を除いて。
翠「はぁ・・・」
翠星石は一人、デスクで頭を抱えていた。
生徒による自分の悪口を聞いてしまった。教師として避けられないものと知りつつも、やはり悲しかった。
翠「翠星石は、嫌われているです…」
もはや明日から授業をする元気も勇気もなかった。
「あ、あの、翠星石先生・・・?」
突然後ろから声を掛けられた。驚いて振り返ると、そこには二人の男子生徒が立っていた。
この二人は、間違いなく翠星石の悪口を言っていた張本人である。翠星石は緊張した。
翠「な、なんの用です…?」
まさか面と向かって文句を言いに来たのだろうか。翠星石は逃げ出したくなった。
「その、これ・・・」
しかし、文句を言われることはなく、代わりに一冊の教科書が手渡された。
紛れも無く、自分の教科だった。
翠「え・・・?」
「いやぁ、勉強教えてもらおうかなぁ、なんて」
よく見ると、もう片方の手にはノートと筆記用具があった。
翠星石は勢いよく立ち上がると、ひったくるように教科書を受け取った。
翠「しょ、しょーがねーなです!いつも寝てるから分からなくなるです!
ほ、ほらこれに座って待ってろです!!」
翠星石はそう言うと自分の椅子と、反対側にあった金糸雀の椅子に生徒を座らせ、給湯室へ向かった。


帰ってきた翠星石の手には、3人分の紅茶があった。
「え、先生これ・・・」
翠「か、勘違いするなです!紅茶は翠星石が飲みたいから淹れてきたです!お前たちの分はついでです!!」
翠星石は押し付けるように紅茶を渡すと、教科書を開いた。
翠「お前たちが分からないのはどうせここだろうです!」
翠星石が指差した場所は、まさに男子生徒が聞こうと思っていた場所だった。
「そうです…。でもどうして…」
翠「お前たちが寝てる授業ぐらい覚えているです!それに、ここは小テストの結果が特に悪かったです!」
数百人の生徒を受け持つ教師として、一人一人のことを覚えるということは並大抵のことではないはずである。
この時二人は、廊下で蒼星石の言った言葉を思い出した。

蒼「ボクから見て、彼女ほど君たちの事を考えている先生はそうそういないと思うよ」

翠星石の指導は、口が荒く一見乱暴に思えるが、その実は生徒への愛情で溢れていた。
本人はその表現の方法を知らないのであろう。
男子生徒は、何も知ろうとせずに翠星石の悪口を言ったことを後悔しはじめた。
「あの・・・」
翠「その・・・」
男子生徒と翠星石がほぼ同時に話しかけた。
翠「な、なんです?」
「せ、先生から先にどうぞ…」
そう言われたらこちらから話すしかない。翠星石はぽついぽつりと話し始めた。


翠「その、もし翠星石に授業で問題があったら、言って欲しいです…。
翠星石なりに考えて授業してるですが、やっぱり生徒の意見を聞かないと…」
翠星石が視線を落とす。その姿は、いつも授業で大口を叩く姿とはかけ離れていた。
そこには、誰よりも生徒を想う繊細な女性教師がいた。
「あ、あの先生…!!俺…」
翠「・・・?」
「俺、先生のこと誤解してたみたいっす」
翠「え・・・?」
「先生が俺たちのことそんなに考えてくれてるなんて知らずに、先生のこと悪く言っちゃって…」
「俺も・・・、すいません」
男子生徒たちは、頭をかきながら恥ずかしさのためか下を向いた。
ふと見ると、翠星石のもつ教科書が震えていた。そしてぽたぽたと、雫が落ちる。
驚いて見上げると、翠星石は肩を震わせて泣いていた。
「せ、先生!?」
「俺ら、なんかまた悪いこと言っちゃいました!?」
翠「な、なんでもないです…。目にゴミが入っただけです」
翠星石は涙をぬぐったが、その度に目からは新たな涙が滴った。
そんな翠星石に、横からスッとハンカチが差し出された。
「あ、蒼星石先生・・・」
蒼「生徒の前で泣くなんて情けないなぁ」
蒼星石はそう言うと、男子生徒に微笑みかけた。来てくれてありがとう、と言っているようだった。
翠「う、うるさいです…!!」
蒼「ふふ、ごめん。はい、これ差し入れ。頑張ってね」
蒼星石は机にクッキーを置くと、自分のデスクへ戻って行った。
涙ながらに生徒に教える翠星石を見ながら、蒼星石がそっと呟く。
蒼「翠星石先生…よかったね」