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太陽と月と星02」(2009/06/07 (日) 22:56:08) の最新版変更点

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<h3>太陽と月と星がある 第ニ話</h3> <p style="line-height:140%;"><br />  今日も今日とて雪が降るネコの国のとある地方都市。<br />  窓の外はこんもりと雪が積もり、イヌもネコもネズミも子供は外を駆け回り、<br />  大人は無言で帰宅を急ぐ。<br />  そんな姿を窓から眺め、ああ、部屋の中っていいなぁとしみじみ思う今日この頃です。<br />  ヘビな御主人様は、冬眠したいと言いながら日々を過ごしています。<br />  あまりに朝辛そうなので、湯たんぽになりましょうか?と訊ねたら返事をしてくれませんでした。<br />  失敗。<br />  <br />  <br /><br />  御主人様曰く、「居候一号」のサフは雑種らしいのですが、毛色は黒銀と灰白の毛皮をした狼顔のわんこです。<br />  今は冬毛で覆われ、まるでぬいぐるみのようです。<br />  小さな体に不釣合いな太い手足。<br />  しかも肉球ピンク。<br />  尖った耳の内側もほんのりピンク。<br />  鼻先もまだらピンク。<br />  眼だけが薄い蒼で、将来の姿をいやおうなく期待させます。<br />  そんなナリで私の服の裾を掴み、きらきらした目で<br /> 「キヨカ、耳かきしてくれる?」<br /> 「ぜひ」<br />  世の中に神様っているんだなー、と思う瞬間です。<br />  現金だなぁ、私。<br /> 「サフずるい。ちーも」<br /> 「喜んで」<br />  ふにふに幼女とふわふわワンコの両手に花状態です。楽しいです。<br />  背後から凄い目線を感じるのですが、きっと気のせいだと思う事にします。<br />  ジャックさん、そろそろ帰らないと夜道は危険ですよ。<br />  ですから帰りましょうよ。明日に響きますよ。<br />   <br />  居候とペットではどちらが格上か微妙なラインだからなのか、<br />  外見上は私の方が年上だからなのか、二人ともまだ子供だからなのか、<br />  サフもチェルも私がヒトだということをあまり気にせず接してきます。<br />  というか、まだ二人は親元にいるべき年代だと思うのですが…ペット風情が何か言える立場でもありませんけど…。<br />  <br />  サフの頭を膝に乗せていると、隣に座っていたジャックさんがテレビを見ながら口を開きました。<br /> 「キヨちゃん、なんか欲しいものある?」<br />  不意にそんな事を言われ、一瞬ピンク色の扉を連想してしまいました。もちろん大竹のぶ代ボイス。<br />  今は綿棒で耳をいじっているんだから、…動揺、させないで欲しい。<br /> 「そうですね、明日食べたいものありますか?」<br /> 「んーとね、ちーはねー、シチューがいいな」<br />  ジャックさんの膝の上に座ったチェルからテレビから目を離さずに返事が来ました。<br /> 「なら、肉とパンとキノコが欲しいです」<br /> 「じゃーオレは豆も入れて欲しいなー」<br /> 「善処します」<br />  闇鍋シチューか、そういえばカレーがあると知った時、御主人様に「マジで!?」とか言っちゃったんですよね…。<br />  ジャックさん曰く『王都の方には専門店もある』そうなんですが、<br />  なにせここはネコの国でも地方の方なので山の幸に恵まれていても、手に入らないものが多いのが…。<br />  御主人様は流通がどうとか、大手企業の市場寡占がなんとか言っていましたが、結局カレーのルゥは手に入らず。<br />  私は香辛料から作る技能は持っていませんので。<br />  ああ、あつあつのねぎたっぷりカレーうどん。<br />  福神漬けたっぷりの大盛りカレーライス…。<br />  <br />  思わず遠い目になってしまった自分に叱咤し耳かきを再開しようとした所、<br />  膝がぬるりとしたので見下ろすと、サフがよだれを垂らして寝ていました。<br />  <br />  子供だから仕方ないとはいえ…。<br />  <br />  ぬるぬる…。<br />  <br />  悪戯心で耳に息を吹き込んだら、ひゃうんとか言われました。かわいい。<br /> 「起きました?」<br /> 「どきどきした」<br />  口元を拭ってあげお風呂に入るというのを見送り、次のチェルを探すと何故かジャックさんがスタンバってました。<br />  いや、ぐって、親指立てられても…。<br />  チェルは食卓にノートを広げ、鉛筆を握り眉間に皺を寄せています。<br />  ああ、お勉強タイム突入でしたか。<br />  御主人様が隣に座り、何事か教えているのが微笑ましいというか、なんというか、なんというか…。<br />  いいなぁ…勉強…。<br /><br /> 「さあさあ、キユちゃん!初えっちみたいに優しくしてね!」<br />  成人ウサギの頭、重いです。<br />  いきなり足が痺れて来ました。<br />  ああ、触られると余計に痺れがっ<br /> 「めいどさんのひざまくらーひざーふっともー …また甘いもの買って来るから、もうちょっと柔らかくなろうね」<br /><br />  この人、ホントなんでネコの国にいるんでしょうか。<br />  <br />  足の痺れが納まったところで無言で耳をひっくり返し観察。<br />  あ、汚れてる。<br />  さすがに自分でするのは限界があるのか、非常にやりがいのある事になっています。<br />  いやいや、別にわくわくだなんてしてませんけど!<br />  していませんよ?ホント、気のせいです。<br />  <br />  深呼吸して、意識を集中し<br />  <br />  <br />  <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />  <br /> 「あっ いたいっ もっとっ 優しくっ あぁっんっ やぁっ」<br />  <br />  騒音が気になるものの、気に留めずに集中。<br />  凄いです。大きな耳だけに凄いことになっています。<br />  手持ちの綿棒が使い物にならなくなったので選手交代を考えていたところ、<br />  ふと手元が暗くなり、照明の方を振り返ると御主人様が無言で佇んでいました。<br />  逆光で表情は分かりませんが、手には雑巾を持っています。<br /> 「これから拭き掃除されるんですか?」<br />  手を止め訊ねると、御主人様は尻尾をうねらせ、重々しく頷きました。<br />   <br />  <br />  <br /><br />  <br />  <br /> 「<br />   ぎゃあっ ちょっ きよちゃっ!?つつめた!つめた!!!<br />      だっ がっくん!!! ああああああああああっ<br />                                  <br />           え?             あ<br /><br />               そこはやめっ  耳はっ耳はっ<br />  <br /><br />                                               アーッ  <br />                                                         」<br />  <br />  <br />  いつも口数が少なくて表情の分からない御主人様ですが、ジャックさんとはよくじゃれています。<br />  じゃれるときはいつもある眉間の皺がとれ、ほんの少し口元が吊上がり笑顔らしきものが浮いているように見えます。<br />  美少年は笑顔もいいなぁ、と心の中で感嘆したり。<br />  ジャックさんが私で遊んでいると、御主人様が乱入というのがパターンなようです。<br />  仲いいなぁ。<br />  あ、ちなみに私は遠くからお二人を見守っています。<br />  ノートを広げ、悪戯を増やしているチェルを見ると、不満げに唇を尖らせていました。<br /> 「いいなーたのしそうーちーもあそびたいなー」<br /> 「もうちょっと頑張ってから加わってください」<br />  ところで、いつの間にかお風呂から出たサフが物凄い勢いで落ち込んでいるのですが、何があったんだろう。<br />  声をかけたら物凄く気まずそうな表情を浮かべられました。<br />  なんでだろう…嫌われるようなこと、したかな…。<br />  <br />  <br />  <br /> 「おい、」<br />  チェルのノートを見せてもらっていると、御主人様からお呼びが掛かりました。<br />  妙に満足げな雰囲気を漂わせています。<br />  その後ろではジャックさんが女の子座りで耳を撫でながらなにかブツブツ言っているのがホラー過ぎます。<br />  なんか、…事後っぽくて凄くイヤ。<br />  いえ、御主人様の行動に口を出す気はありませんが、…なんとなく。<br /> 「なんか、欲しいものないのか」<br />  流行ってんでしょうか、その質問。<br /> 「明後日の晩御飯のおかず ですね。あと小麦粉が切れそうです」<br />  御主人様の眉間がぴくっとなりました。<br />  何が失言だったのか…。<br /> 「あ、入浴剤もそろそろ空になりそうです」<br /> 「そんなもの、自分で買いに行け」<br />  さっきと打って変わって固い口調です。<br />  もしやお怒りですか。<br />  確かに御主人様かサフしか買い物にはいけないとはいえ、御主人様をパシらせるのは問題です。<br />  まぁ私もここで飼われる様になってずいぶんと体力戻ったし、買い物ぐらいは行けるかもしれません。<br />  その前に問題がありますが。<br /> 「それなら、必要なものがあるんですが」<br />  子供の前で言うのはちょっと触りがある気がします。<br />  いえ、私がヒトだって言うのは二人だって分かりきっていることなんですが、そういう配慮って子供には必要な気がするので。<br />  多分、まだ。<br />  席を立って御主人様の横に立ち、お耳を拝借。<br />  ターバンの裾が頬をくすぐるのがちょっとこそばゆい感じです。<br /> 「外に出るなら、首輪が必要なんですが」<br />  御主人様の目が見開かれ、ウサギだけにやっぱり聞こえたのか、いつの間にか復活したジャックさんが眼を瞬かせました。<br /> 「ほら、無いとノラだと思われますし」<br />  御主人様はヒトを飼うことに関して疎い部分が多いようです。<br />  というか、普通はこういう知識が必要ないんでしょうから仕方ないことなんでしょうが。<br />  そういえば、首輪っていくらぐらいするんだろう?<br />  あまり高くなければいいのですが…。<br />  初めて着けられた時はあんなに必死で抵抗したのに……皮肉な話です。<br /> 「キラちゃん、ちょっとここ座って」<br />  ジャックさんが床を指したので取り合えず正座。<br />  また名前違うけど、もう訂正するのも面倒です。<br />  足に御主人様の長い尻尾がちょっと当たるのは多分役得。<br />  ひんやりざらすべ。<br />  出来ればいつか触らせてもらいたいなぁ…。<br />  そして、ジャックさんは無言で懐をまさぐり、出てきたのは太い皮製の首輪、鎖つき。<br />  準備万端ですね。<br />  買う手間が省けたというか、常備しているジャックさんはいったい何者なんだろう…<br />  …ホントに医者なんだろうか。<br />  ジャックさんはソレを私の前に差し出し、真面目な顔になり<br /> 「これ付けてちょっと上目遣いでオレの事、御主人様っ(はぁと)て呼んでみ゛っ!!」<br />  御主人様の尻尾がジャックさんの頭に見事ヒット。<br />  凄く痛そうな音が響きました。 <br /> 「ジャックさん、大丈夫ですか?」<br /> 「大丈夫じゃないのは、お前の頭だ―――ッ!!」<br />  御主人様、ご乱心。<br />  肩を捕まれ、かくかく揺すぶられました。<br />  目が回る目が。<br />  御主人様、指に圧力掛かりすぎです。<br /> 「キヨカーもう寝るから、お話して」<br />  動きが止まりました。意図的かどうか分かりませんが、チェルに感謝です。<br />  しかし手は放されたものの、頭の中がくるくる…。<br />  ううチェル更に肩揺すぶるのやめて下さい…。<br /> 「お話、今日どんなのがいいですか?」 <br />  御主人様、また怒っているみたいで、無表情です。あー…。<br /> 「あのね、この前のゾウの話がいいな」<br />  <br /><br /><br />  <br />  チェルのリクエストに応え、更に町のネズミと田舎のネズミまで語って疲労困憊です。<br />  途中からもぐりこんで来たサフもついでに寝かしつけ、気分はお母さんです。<br />  いえ、自分がヒトだとは自覚していますが、やっている事は大体そんな感じなので…。<br />  あんなパワフルなお子さんを育てるんだから、この世界のお母さんて最強なんじゃないでしょうか。<br />  起こさないようにそっと部屋を出ると、キッチンに御主人様がいらっしゃいました。<br />  ジャックさんはもう帰ってしまったのか、気配がありません。<br />  まだ怒ってるのかなー…と様子を伺ってみれば。<br />   <br />  一人晩酌。<br />  <br />  御主人様、侘しいです。<br />  尻尾も心なしか元気がありません。<br />  せっかくの美形台無しです。これはいけません。<br />  <br />  試しに作ってみた味付け卵と自作漬物…もといピクルスを小皿に盛って空いている椅子へ。<br />  <br />  先日からお酒禁止を言い渡されてるので私は飲みませんが。<br />  言われなくても言われなければ飲みませんけど。未成年だし。<br /> 「御主人様」<br />  睨まれました。その上、溜息です。ここは機嫌をとりたい所です。<br />  取り合えず、おつまみを差し出してみました。<br />  御主人様が卵好きと言うのは把握済みです。<br /> 「宜しかったら」<br />  無言でつまむ御主人様。指先が綺麗です。<br />  ええ、手フェチですが、なにか?<br />  ちなみに御主人様の口元がちょっとだけ緩んだのも見逃していませんよ。<br />  役得です。<br /> 「いかがでしょうか?塩足りていますか?」<br />  あっという間に無くなってしまったのが返事だと思うことにします。<br /> 「あのですね、御主人様」<br />  あれ、微妙に眉間に皺が寄ってしまった。<br />  無言でグラスを傾けています。<br /> 「先程の首輪の件なのですが」<br />  こちらを見る御主人様。<br />  御主人様の瞳はヒトと違う虹彩で思わず見入ってしまいます。<br />  ああ、もしやこれがヘビに睨まれたカエル状態…ちょっと違うかな。<br /> 「良く考えたら、首輪はマズいので撤回させて頂こうかと思いまして」<br />  グラスが空のようなのでお代わりを注いで、<br /> 「ヒトが居るって思われたら、強盗とか来ますから」<br />  多いみたいですよ。ヒト=落ちモノ=高価=お金持ちですからね、普通。<br /> 「みなさんに何かあったら大変ですし」<br />  …なんで眉間の皺が深くなってしまうのでしょうか。<br />  何か言いたげでしたが、結局何も言わず…この無言に凄く緊張するんですけど…。<br />  不意に手を伸ばされシャツの襟を捲られました。<br />  まさか、ここでするんですか、あ、まだお風呂入ってないんですけどーいいのかなー第一回目ここで…<br /> 「おまえなぁ」<br />  御主人様、いきなり脱力しています。何か萎えるようなことしましたか、私。<br />  もしや内心を発言しましたか。それは相当恥ずかしい。<br /> 「痛いならいえ、痣になってるじゃないか」<br />  顔近いです。<br /> 「どこですか?」<br /> 「ここだここ、さっき掴んだときだな、早く言えバカモノ」<br />  ああ、かっくんかっくんされた時ですか。角度的に見えないのですが、…後で見ておこう。<br /> 「気がつきませんでした」<br />  アレくらい、痛いの内に入りませんし。<br /> 「いや、俺が悪いんだが、お前も… なんでもない」<br />  そう言って、鎖骨の辺りをまじまじと見つめ、<br />  私の顔を見て―――手を放し、早く服を戻せとぶっきらぼうに言われました。<br />  言われたとおりボタンを嵌め、見上げると何故か苛立った表情で指先で顎骨を触られました。<br />  <br /> 「お前、もうちょっと食え痩せ過ぎだ」<br /> 「御主人様、デブ専でしたか。これは意外」<br />  あ。<br />  <br />  でこぴん一回で済みました。<br />  痛かったです。<br />  </p>
<h3>太陽と月と星がある 第二話</h3> <p style="line-height:140%;"> <br />  冬のある日、御主人様が鉢植えを持って帰ってきた。<br />  <br />  赤い素焼きの鉢に黒い土が詰められ、紙製の札が刺してある。<br />  <br />  小学校でこういうの育てたな、とふと思い出した。<br />  あの青いプラスチックの鉢植えは、まだあるだろうか。<br />  もう、捨てられてしまっただろうか。<br />  <br /> 「日の当たる所におき、土が乾いたら水をやるように」<br />  小さなメモを読み上げる御主人様。<br />  一番安全そうなキッチンの窓際に、その小さな鉢を置いた。<br />  <br />  毎朝様子を見て、少しだけ霧吹きで水をかけた。<br />  <br />  一週間後、芽が出た。<br />  頼りない小さな芽が今にも枯れてしまいそうで、触れることも出来ない。<br />  <br />  毎朝、御主人様に聞こえないように小さな声でおはようと挨拶した。<br />  <br />  はっぱがだんだん伸びてきて、細い茎が風に揺れて折れそうなので風の当たらない所に移動させた。<br />  日のある時間が少しずつ増えてきて、部屋の中はどこにおいても日が当たるようになってきた。<br />  <br />  いつも同じ場所じゃきっと退屈だろうから、時々場所を変えると潰しそうになった御主人様に怒られた。<br />  <br />  <br />  そのうちつぼみが膨らんできて、少し色づいた。<br />  <br />  <br />  ある朝、花はきれいに咲いていた。<br />  <br />  <br />  たんぽぽだった。<br />  <br />  思い出より少し濃い黄色い花を見て、息をするのが苦しくなった。<br />  <br />   <br />  <br />  御主人様は今日も私の後ろで、新聞を読むフリをしている。</p>

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