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15分前、くじ引きがあった。 いや― くじ引きならば、遥かな昔から何度となくあった。 彼女らは職員室を出で、教室において授業を繰り返した。 元より尋常ではない彼女らに、まともな授業が続くはずはない。 彼女らは、学園に「とある教師」が居ないことに気づかなかった。 授業を繰り返しては実績を失い、実習生並に戻りつつあった彼女らは、 比類無き運を養い、それを武器に同僚に向かって今日の戦いを挑んだ。 それが15分前のくじ引き― 彼女らは猛々しく戦い、勝利した。 職員室内で、イカサマを使う愚さえ犯した翠星石。 その勝利を目にした(一部の)勝者たちは、自らの(イカサマの)技術を高めようと心に誓った。 職員室に平穏が訪れた。 彼女らのおかげで、それは永久に続くかと思われた。 平穏から最も遠いこの学園で、平穏を壊してゆく彼女ら―  ALICE COMBAT -THE MUSIC WAR- 「そんな嘘タイトルはほっといて、とりあえず今週の音楽担当はチビ苺に決定したですぅ♪」 学園に居ない「とある教師」とは、音楽科担当の教師である。 そのため、この学園では週の頭にくじ引きをし、その週の音楽科兼務を決めるというのが慣例化していた。 そして、いろいろと怪しいくじ引きによって、今週の音楽科兼務に選ばれたのは雛苺であった。 なぜくじ引きなのか その理由は、ここの教師のほとんどが、まともに音楽の授業をできないからである。 だが、ごく一部の教師は、それなりに授業を展開する事ができることはできる。 しかし、他の教科との兼務のため、恒常化できないのであった。 一度、全員によるローテーションを組むという話も挙がったが、一部の猛烈な反対によって却下された。 そのため、ここの音楽の授業はくじ引きによる交代制になり、授業がその様相を呈していないのが実情であった。 例えば 謳われない授業、もとい歌うことはなく、クラシックをかけて優雅に紅茶を飲みふけったり… 軍曹ソングの替え歌、「ルテナンソング」(Lieutenant=2等陸尉)を歌いながら運動場を駆け回ったり… と、そういった様々な理由で、さながら混迷の授業と化しているのである。 そして、今週もまた、音楽の授業が始まるのであった。 「今週の音楽担当は、ヒナになったの~、よろしくなの~」 と、陽気に言ってみたものの、雛苺の頭の中は混乱していた。 これから何をすれば良い?どのように展開すべきだ? 曲がりなりにも自分は教師だ、いいかげんな授業はできない。 ならば、まずはどうする? 「……」 とまぁ、頭の中で偉そうな事を考えても、実際はどうにもならない。 しかし、何もしないわけにはいかなく、とりあえず教科書とのにらめっこを開始した。 音楽の授業とはなんだ? 自分の学生時代を思い出しながら、雛苺は考える。 歌、演奏、鑑賞、その中で、自分にもできる事はなんだ? 歌、演奏…、自分には指導するだけの実力も知識もない。 鑑賞…、ただ聞かせるだけではだめ、その曲目について教えなければならない。 ならば、自分にできる事は何があるというのだ。 …いや、むしろ何もできないからこそできる、自分の授業。 何もできない自分が、生徒たちに対してできる事。 「…今日は、みんなに歌を歌ってもらうの~」 雛苺が出した結論。 音楽…、「音」を「楽」しむと書いて音楽。 ならば、純粋に「音」を「楽」しめば良いのだ。 難しい事は必要ない。 今、自分にできるのは、みんなと一緒に音楽の楽しさを知る事。 「それで、力持ちの人に手伝って欲しい事があるの~」 そう言って、数人の生徒を引き連れて、雛苺はどこかへと消えていった。 少しの時間の後、音楽室には倉庫から引っ張り出してきた通信カラオケがあった。 この学校の倉庫には何でもある、某爺さんのPXのように。 それはさておき、音楽室にカラオケを持ち込んだ雛苺。 今日の授業の内容はこう。 好きな歌をみんなで楽しく歌う。 真面目に歌うもよし、ネタソングを歌うもよし。 何も堅苦しく歌を歌う必要はない。友達とカラオケに行くような感覚で歌えば良いのだ。 「楽」しむことに意義がある。 そう考えた雛苺は、カラオケを用意したのであった。 「自由に選曲して、みんなで楽しく歌うのよ~」 さすがに、1時間もない授業時間の制約はあるが、これほどの大勢で歌う機会もめったにない。 生徒たちは、その自由を謳歌した。 教師、生徒の総勢で一緒に歌ったり、誰かが入れたネタソングに笑ったりして、これまでとは違う音楽の授業を「楽」しんだ。 「うゆ~、いっぱい歌って疲れたの~」 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒たちは次の授業のため、別れを惜しむように音楽室を後にした。 その顔は笑顔、意味のある笑顔。 その疲れも、意味のある疲れ。 少なくとも彼らは、「音」を「楽」しんだ。 それだけで雛苺は満足だった。 しかし、これは授業とはいえないだろう。 だが、「音」を「楽」しむ。その原点にも近いのは事実である。 どちらが正しいのかは分からない。 こういった形態の授業があっても良いのかもしれない。 しかし、今の雛苺にとってはそんな事はどうでもよかった。 これから1週間の授業の事。 これから1週間の「楽」しみ。 それだけで頭がいっぱいだった。 そう考えていたら、次のクラスがやって来た。 そして雛苺は、この「音」を「楽」しむ授業を再び開始した。
15分前、くじ引きがあった。 いや― くじ引きならば、遥かな昔から何度となくあった。 彼女らは職員室を出で、教室において授業を繰り返した。 元より尋常ではない彼女らに、まともな授業が続くはずはない。 彼女らは、学園に「とある教師」が居ないことに気づかなかった。 授業を繰り返しては実績を失い、実習生並に戻りつつあった彼女らは、 比類無き運を養い、それを武器に同僚に向かって今日の戦いを挑んだ。 それが15分前のくじ引き― 彼女らは猛々しく戦い、勝利した。 職員室内で、イカサマを使う愚さえ犯した翠星石。 その勝利を目にした(一部の)勝者たちは、自らの(イカサマの)技術を高めようと心に誓った。 職員室に平穏が訪れた。 彼女らのおかげで、それは永久に続くかと思われた。 平穏から最も遠いこの学園で、平穏を壊してゆく彼女ら―      ALICE COMBAT    -THE MUSIC WAR- 「そんな嘘タイトルはほっといて、とりあえず今週の音楽担当はチビ苺に決定したですぅ♪」 学園に居ない「とある教師」とは、音楽科担当の教師である。 そのため、この学園では週の頭にくじ引きをし、その週の音楽科兼務を決めるというのが慣例化していた。 そして、いろいろと怪しいくじ引きによって、今週の音楽科兼務に選ばれたのは雛苺であった。 なぜくじ引きなのか その理由は、ここの教師のほとんどが、まともに音楽の授業をできないからである。 だが、ごく一部の教師は、それなりに授業を展開する事ができることはできる。 しかし、他の教科との兼務のため、恒常化できないのであった。 一度、全員によるローテーションを組むという話も挙がったが、一部の猛烈な反対によって却下された。 そのため、ここの音楽の授業はくじ引きによる交代制になり、授業がその様相を呈していないのが実情であった。 例えば 謳われない授業、もとい歌うことはなく、クラシックをかけて優雅に紅茶を飲みふけったり… 軍曹ソングの替え歌、「ルテナンソング」(Lieutenant=2等陸尉)を歌いながら運動場を駆け回ったり… と、そういった様々な理由で、さながら混迷の授業と化しているのである。 そして、今週もまた、音楽の授業が始まるのであった。 「今週の音楽担当は、ヒナになったの~、よろしくなの~」 と、陽気に言ってみたものの、雛苺の頭の中は混乱していた。 これから何をすれば良い?どのように展開すべきだ? 曲がりなりにも自分は教師だ、いいかげんな授業はできない。 ならば、まずはどうする? 「……」 とまぁ、頭の中で偉そうな事を考えても、実際はどうにもならない。 しかし、何もしないわけにはいかなく、とりあえず教科書とのにらめっこを開始した。 音楽の授業とはなんだ? 自分の学生時代を思い出しながら、雛苺は考える。 歌、演奏、鑑賞、その中で、自分にもできる事はなんだ? 歌、演奏…、自分には指導するだけの実力も知識もない。 鑑賞…、ただ聞かせるだけではだめ、その曲目について教えなければならない。 ならば、自分にできる事は何があるというのだ。 …いや、むしろ何もできないからこそできる、自分の授業。 何もできない自分が、生徒たちに対してできる事。 「…今日は、みんなに歌を歌ってもらうの~」 雛苺が出した結論。 音楽…、「音」を「楽」しむと書いて音楽。 ならば、純粋に「音」を「楽」しめば良いのだ。 難しい事は必要ない。 今、自分にできるのは、みんなと一緒に音楽の楽しさを知る事。 「それで、力持ちの人に手伝って欲しい事があるの~」 そう言って、数人の生徒を引き連れて、雛苺はどこかへと消えていった。 少しの時間の後、音楽室には倉庫から引っ張り出してきた通信カラオケがあった。 この学校の倉庫には何でもある、某爺さんのPXのように。 それはさておき、音楽室にカラオケを持ち込んだ雛苺。 今日の授業の内容はこう。 好きな歌をみんなで楽しく歌う。 真面目に歌うもよし、ネタソングを歌うもよし。 何も堅苦しく歌を歌う必要はない。友達とカラオケに行くような感覚で歌えば良いのだ。 「楽」しむことに意義がある。 そう考えた雛苺は、カラオケを用意したのであった。 「自由に選曲して、みんなで楽しく歌うのよ~」 さすがに、1時間もない授業時間の制約はあるが、これほどの大勢で歌う機会もめったにない。 生徒たちは、その自由を謳歌した。 教師、生徒の総勢で一緒に歌ったり、誰かが入れたネタソングに笑ったりして、これまでとは違う音楽の授業を「楽」しんだ。 「うゆ~、いっぱい歌って疲れたの~」 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒たちは次の授業のため、別れを惜しむように音楽室を後にした。 その顔は笑顔、意味のある笑顔。 その疲れも、意味のある疲れ。 少なくとも彼らは、「音」を「楽」しんだ。 それだけで雛苺は満足だった。 しかし、これは授業とはいえないだろう。 だが、「音」を「楽」しむ。その原点にも近いのは事実である。 どちらが正しいのかは分からない。 こういった形態の授業があっても良いのかもしれない。 しかし、今の雛苺にとってはそんな事はどうでもよかった。 これから1週間の授業の事。 これから1週間の「楽」しみ。 それだけで頭がいっぱいだった。 そう考えていたら、次のクラスがやって来た。 そして雛苺は、この「音」を「楽」しむ授業を再び開始した。

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