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セットアップPS2」(2006/04/16 (日) 03:02:08) の最新版変更点

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 とある休み時間のこと。数人の男子生徒が、机の上にゲーム雑誌を広げ、ゲーム談議に耽っていた。 「やっぱヤ○ガスだろ?」 「ええーっ、F○12じゃねえの?」 「でもよー、F○の戦闘シーンのプロモ、見た? 戦闘シーンなのに、キャラがてくてく歩いてやんの。何か、すっげー興ざめじゃね?」  と、生徒の一人がはっと息を呑んだ。 「あなたたちーーっ、まーた学校にこんな物を持ち込んで!!」  真紅だった。するりとゲーム雑誌を取り上げられる。まだ予鈴が鳴っていなかったので、生徒たちはすっかり油断していた。 「で……でも先生、くんくん探偵のゲームの記事も載っているんですよっ」 「えっ……」  没収を恐れた生徒が慌てて取り繕うと、真紅の顔色が変わった。即座に雑誌のページをめくり始める。 「ど、どこ……どこのページに載っているの?」 「ほら、もっと後ろのほう……新作情報のページのところです」  あった。くんくん探偵の不思議なダンジョン、鋭意製作中!! なぜ探偵で不思議なダンジョンシリーズなのか、顧客のニーズを著しく見誤っている気がするが、そこのところは置いといて。  目を皿のようにして、記事を読み耽る真紅。くるりと踵を返すと、そのまま教室を出て行ってしまう。 「え……先生、授業は……?」  結局、持ち去られたゲーム雑誌が返ってくることはなかった。  半年後の木曜日。午後十一時。  真紅は、手に大きな紙袋をぶら下げて、ようやく帰宅できた。 「……まったく、あの莫迦ウサギ……今日に限って残業を押しつけてくるなんて、陰険にも程があるわ! ゲームが終わったら、きっと復讐してやるから、見てらっしゃい!」  部屋着に着替え、テレビの前に陣取る。 「さてと、まずゲーム機本体をセットしないとならないのね」  プレステ2のパッケージを開け、中身を取り出す。ビデオケーブルを取りつけようとして、テレビを裏返したところで、真紅は硬直した。 「ええと……これはどこに挿し込むのかしら?」  入出力端子がずらりと並んでいた。真紅は元々機械に疎く、どれがどれだかさっぱり判らない。ええいままよと挿し込んで電源を投入するが、ちっとも反応は現れなかった。 「どうしたら……どうしたらいいの?」  説明書と首っ引きになって二時間。焦燥感が募った。真紅はとうとう音を上げた。  携帯電話の短縮ダイヤルを操作する。 「蒼星石……蒼星石? すぐに来て頂戴!!」  金曜日。午前二時。 「真紅……いま何時だと思っているんだい? 明日じゃ駄目なの……?」  ふわわ……と大きなあくびをした蒼星石。まだ半分眠っているような口調だ。  それでも来てしまうのだから、蒼星石は人が好い。 「すぐに紅茶を淹れるから、さっさと上がって手伝うのだわ」 「紅茶はいいよ、眠れなくなっちゃう……」  まだ反応の鈍い蒼星石を、居間へと引っぱっていく真紅。テレビの前には、ケーブルやら説明書やらが、乱雑に散らかされていた。  と、くんくん探偵の不思議なダンジョンのパッケージに気づく蒼星石。 「ああ……真紅も買ったんだ、これ。僕もプレイしてる……今ね、ちょうど地下十二階のボスを倒したところ……」  室温が、二度くらい下がった気がした。蒼星石の喉元に、真紅のステッキの先端が突きつけられていた。蒼星石は、一発で目が覚めた。 「ネタばれは、なしでお願いするのだわ……!」 「あは、あは……はははははは……」  乾いた笑いが漏れた。  学校で情報処理の教鞭を振るっている蒼星石は、さすがに手際が良かった。五分も経たずに、プレステ2の起動画面が表示される。 「今から帰ると、三時になっちゃう。今日は泊まってっていい?」 「好きにすると良いのだわ」  真紅は、画面から目を離さない。コントローラーを手に、くんくん探偵のオープニングムービーにもう夢中のようだ。 「じゃあ、そうさせてもらう……」  いつものことだった。この家の家電製品は、ほぼ例外なく蒼星石がセットしたものだ。勝手知ったる真紅の家。蒼星石は、寝室の真紅のベッドに潜り込んだ。  午前四時。 「蒼星石……蒼星石?」 「うーん、何だい、真紅……もう朝なの……?」 「武器だか防具だか装備だか、何だかちっとも解らないのよ……ちょっと来て、教えて頂戴」  結局その日、蒼星石が休めた時間は、正味二時間ほどに過ぎなかった。  しかし、その夜の出来事は、これから始まる地獄の日々のほんのプロローグ。 「な……何ですって!?」  真紅は、ゲームの取扱説明書の最後のページに載せられた告知を見て、唖然とする。  それは、不思議なダンジョンシリーズ恒例の早解きキャンペーン。期限までに定められたイベントをクリアして、表示されたパスワードを送ると、くんくん探偵の特製アイテムがもらえるというものだった。 「こ……これは、何としてでも手に入れなければ……!」  コレクター魂が、ふつふつと刺激された。真紅の戦いが始まった。  それまでは、ほとんどゲームに興味のなかった真紅。ずぶの素人の彼女に、いきなり難易度の高い不思議なダンジョンの攻略は、至難を極めた。  加えて彼女の性格だ。地道に準備を整えず、ついつい先を急いでしまうため、自滅するパターンが多かった。  完徹が日常茶飯事になった。  薬局でユンケルを大量に買い込む。 「今日は……自習にします」  そう言って、教卓に突っ伏した。  蒼星石からは、とうとう着信拒否されるまでになった。  学校の廊下で、水銀燈と出くわす。 「あらぁ、真紅。どうしたの、その目の下のくま……全然隠せてないわよぉ?」 「何でもないわ。それより水銀燈こそどうしたの、コンシーラーがやけに厚めのようだけど?」 「ふふふ、何でもないわぁ、気にしないでぇ……」  両者の間に火花が散ったかに見えた。  救いようのない二人であった。
  とある休み時間のこと。数人の男子生徒が、机の上にゲーム雑誌を広げ、ゲーム談議に耽っていた。 「やっぱヤ○ガスだろ?」 「ええーっ、F○12じゃねえの?」 「でもよー、F○の戦闘シーンのプロモ、見た? 戦闘シーンなのに、キャラがてくてく歩いてやんの。何か、すっげー興ざめじゃね?」   と、生徒の一人がはっと息を呑んだ。 「あなたたちーーっ、まーた学校にこんな物を持ち込んで!!」   真紅だった。するりとゲーム雑誌を取り上げられる。まだ予鈴が鳴っていなかったので、生徒たちはすっかり油断していた。 「で……でも先生、くんくん探偵のゲームの記事も載っているんですよっ」 「えっ……」   没収を恐れた生徒が慌てて取り繕うと、真紅の顔色が変わった。即座に雑誌のページをめくり始める。 「ど、どこ……どこのページに載っているの?」 「ほら、もっと後ろのほう……新作情報のページのところです」   あった。くんくん探偵の不思議なダンジョン、鋭意製作中!! なぜ探偵で不思議なダンジョンシリーズなのか、顧客のニーズを著しく見誤っている気がするが、そこのところは置いといて。   目を皿のようにして、記事を読み耽る真紅。くるりと踵を返すと、そのまま教室を出て行ってしまう。 「え……先生、授業は……?」   結局、持ち去られたゲーム雑誌が返ってくることはなかった。   半年後の木曜日。午後十一時。   真紅は、手に大きな紙袋をぶら下げて、ようやく帰宅できた。 「……まったく、あの莫迦ウサギ……今日に限って残業を押しつけてくるなんて、陰険にも程があるわ! ゲームが終わったら、きっと復讐してやるから、見てらっしゃい!」   部屋着に着替え、テレビの前に陣取る。 「さてと、まずゲーム機本体をセットしないとならないのね」   プレステ2のパッケージを開け、中身を取り出す。ビデオケーブルを取りつけようとして、テレビを裏返したところで、真紅は硬直した。 「ええと……これはどこに挿し込むのかしら?」   入出力端子がずらりと並んでいた。真紅は元々機械に疎く、どれがどれだかさっぱり判らない。ええいままよと挿し込んで電源を投入するが、ちっとも反応は現れなかった。 「どうしたら……どうしたらいいの?」   説明書と首っ引きになって二時間。焦燥感が募った。真紅はとうとう音を上げた。   携帯電話の短縮ダイヤルを操作する。 「蒼星石……蒼星石? すぐに来て頂戴!!」   金曜日。午前二時。 「真紅……いま何時だと思っているんだい? 明日じゃ駄目なの……?」   ふわわ……と大きなあくびをした蒼星石。まだ半分眠っているような口調だ。   それでも来てしまうのだから、蒼星石は人が好い。 「すぐに紅茶を淹れるから、さっさと上がって手伝うのだわ」 「紅茶はいいよ、眠れなくなっちゃう……」   まだ反応の鈍い蒼星石を、居間へと引っぱっていく真紅。テレビの前には、ケーブルやら説明書やらが、乱雑に散らかされていた。   と、くんくん探偵の不思議なダンジョンのパッケージに気づく蒼星石。 「ああ……真紅も買ったんだ、これ。僕もプレイしてる……今ね、ちょうど地下十二階のボスを倒したところ……」   室温が、二度くらい下がった気がした。蒼星石の喉元に、真紅のステッキの先端が突きつけられていた。蒼星石は、一発で目が覚めた。 「ネタばれは、なしでお願いするのだわ……!」 「あは、あは……はははははは……」   乾いた笑いが漏れた。   学校で情報処理の教鞭を振るっている蒼星石は、さすがに手際が良かった。五分も経たずに、プレステ2の起動画面が表示される。 「今から帰ると、三時になっちゃう。今日は泊まってっていい?」 「好きにすると良いのだわ」   真紅は、画面から目を離さない。コントローラーを手に、くんくん探偵のオープニングムービーにもう夢中のようだ。 「じゃあ、そうさせてもらう……」   いつものことだった。この家の家電製品は、ほぼ例外なく蒼星石がセットしたものだ。勝手知ったる真紅の家。蒼星石は、寝室の真紅のベッドに潜り込んだ。   午前四時。 「蒼星石……蒼星石?」 「うーん、何だい、真紅……もう朝なの……?」 「武器だか防具だか装備だか、何だかちっとも解らないのよ……ちょっと来て、教えて頂戴」   結局その日、蒼星石が休めた時間は、正味二時間ほどに過ぎなかった。   しかし、その夜の出来事は、これから始まる地獄の日々のほんのプロローグ。 「な……何ですって!?」   真紅は、ゲームの取扱説明書の最後のページに載せられた告知を見て、唖然とする。   それは、不思議なダンジョンシリーズ恒例の早解きキャンペーン。期限までに定められたイベントをクリアして、表示されたパスワードを送ると、くんくん探偵の特製アイテムがもらえるというものだった。 「こ……これは、何としてでも手に入れなければ……!」   コレクター魂が、ふつふつと刺激された。真紅の戦いが始まった。   それまでは、ほとんどゲームに興味のなかった真紅。ずぶの素人の彼女に、いきなり難易度の高い不思議なダンジョンの攻略は、至難を極めた。   加えて彼女の性格だ。地道に準備を整えず、ついつい先を急いでしまうため、自滅するパターンが多かった。   完徹が日常茶飯事になった。   薬局でユンケルを大量に買い込む。 「今日は……自習にします」   そう言って、教卓に突っ伏した。   蒼星石からは、とうとう着信拒否されるまでになった。   学校の廊下で、水銀燈と出くわす。 「あらぁ、真紅。どうしたの、その目の下のくま……全然隠せてないわよぉ?」 「何でもないわ。それより水銀燈こそどうしたの、コンシーラーがやけに厚めのようだけど?」 「ふふふ、何でもないわぁ、気にしないでぇ……」   両者の間に火花が散ったかに見えた。   救いようのない二人であった。

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