「急性乳酸菌中毒」(2007/04/28 (土) 23:55:20) の最新版変更点
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暑い日だったと思ったら、寒い日が突然やってくることもあるこの季節。
そして、この春風の季節が過ぎ去り、雨がこの空を支配する。その、一時の雨の後に、夏が我々のもとへと来る。
夏は我々に、慣れていて、それでいて新鮮な刺激を与えてくれる。
だが、我々はその刺激にやがて飽き、新たな刺激を欲するようになる。
秋の到来、そして、冬。我々は、常にこの新鮮さと、飽きのなかで、身を任せながら漂っているだけなのだ。
こうした日々の流れの中で、今日の放課後の職員室の彼女は、ただただ己の欲望を満たすために、存在していた。
「やっぱり、暑い日に飲む冷たいヤクルトは最高だわぁ」
その彼女は、人によっては物足りなさを感じるかもしれない、小さな容器の中の乳酸菌飲料を何本も、何本も飲み干していた。
まだまだ足りない。そう、彼女が発するオーラは、底知らずのような欲望をさらけ出していた。
しかし、この乳酸菌飲料は、20本ほども飲めば、体が限界のメッセージを送るようになる。
彼女とてやはり人間、自らの限界は分かっていた。だが、彼女は止まらない。
限界を超え、ランナーズハイのように、エンドルフィンが大量分泌する領域に突入した彼女は、ひたすらに飲み続ける。
それが、自らに課せられた運命であるかのように。
彼女の同僚らは、その熱意を普段の仕事にも生かして欲しい、と一様にあきれたまなざしで彼女を見やる。
未だに飲み続ける彼女に、ふと異変が起きた。突然倒れ伏す彼女。突然のことで職員室にどよめきが走る。
普段、彼女との口げんかが絶えない彼女の同僚のひとりは、
「まったく……。水銀燈、ふざけるのもいい加減にしなさい。……ちょっと、聞いてるの!?
……そうよ!こういうときこそくんくん探偵を呼べば―――」
と、狼狽しきり、彼女から返事が帰ってくることもなく、意味のないメッセージをも送る。
「真紅先生落ち着いて!今救急車呼んだから!」
「そ、そうよね。こういうときは救急車なのだわ……」
やがて、彼女の同僚達が呼んだ救急車が学園に到着した。
そして、そのまま彼女は救急車に乗せられて、病院へと向かったのであった。
「急性乳酸菌中毒ですね」
と、医師が馴れた口調で彼女の同僚達に告げる。
彼女の同僚達は、仕事を早々にきりあげ、病院へと一目散に向かった。そこで、告げれられた彼女の病名。
医師からの説明によると、短時間に多量の乳酸菌を摂取することによって起きる、中毒の一種だそうで、
ひどい場合には死に至る、と、彼女の同僚達には説明された。この、聞きなれない病名に、医師は最後にこう付け足した。
「最近発見された病気でして……」
その説明に、彼女の同僚達は愕然とした。まさか、乳酸菌でこんなことになるとは、と。
彼女は、集中治療室に入ったまま、一向に出てくる気配がなかった。
待合室で、彼女の帰りを待つ彼女の同僚達は、みな自責の念にかられていた。なぜ、なぜあのときとめなかったのだろう、と。
彼女のことを心配する声が飛び交い、そして、沈黙がその場を支配するようになっていた。
そして、彼女の同僚達のなかでも比較的幼い二人、雛苺と金糸雀は、今にも泣き出しそうで、
さらに、果てしなく長く感じる時が、彼女の同僚達の心を蝕んでいた。
「あの子は、水銀燈は……」
彼女、水銀燈の同僚の一人、真紅が、突然話し始めた。
「あの子は、確かにヤクルトを大層気に入って、いつも飲んでいたわ、昔から。でも、こんなことになったのは初めて……。
もし、水銀燈が居なくなってしまったら、私は……」
普段、水銀燈との口げんかの耐えない真紅だが、その長い付き合いの中で、水銀燈との深いつながりをひしひしと感じていた。
たとえ口げんかしようとも、彼女達は離れることなく、いつも近くにいたのだから。だからこそ、真紅は恐怖感に襲われていた。
得体の知れぬこの敵に、何もできず、ただ時の流れに身を任せる事しかできなかった。
その真紅の言葉に、彼女の同僚達は、何も言えず、彼女達もまた、この時の流れに身を任せる事しかできなかったのである。
そんな彼女達を覗く二つの影が、彼女達の死角から、その困惑の視線を向けていた。
「なんか、出づらいわぁ……」
と、特徴のある小さな声が、行く当てもなくただよう。
「まさか、ドッキリでしたなんて、ねぇ……」
「いっそ死んだことにしておく?」
「ふざけないで頂戴」
この二人こそ、この壮大なドッキリ作戦の仕掛け人、水銀燈とローゼンである。
いつものように暇をもてあましていたローゼンが、テレビのバラエティ番組のドッキリ企画を見て考えたのであった。
そして、このドッキリに、水銀燈も仕掛人として参加していた。
よもや、このような事態なるとは、二人ともが予想だにしていなかったが。
突然、なんだか、変な気配がするの~、と心の中で感じた雛苺が、おもむろに席を立つ。
「えっ、ちょっと、こっち来ないでよ」
「僕たちもうおしまいだねぇ~」
まるっきり対照的な二人のヒソヒソ声をよそに、雛苺はそこめがけて一直線に進む。
賽は投げられた。
「あ~っ!」
「どうしたの?雛苺」
真紅の声とともに、彼女達もそこへと向かう。
そこには、バツの悪そうな苦笑いをした水銀燈と、半ば開き直ったような笑顔のローゼンが居た。
ドッキリでした、のプラカードをアピールするかのように掲げながら。
その後、水銀燈は、一向に離れようとしない雛苺と金糸雀に抱きつかれながら、真紅からきっつ~いお灸を受け、
便乗して説教を垂れる翠星石と、それをなだめる蒼星石、そして、安堵の表情を浮かべる薔薇水晶、雪華綺晶に囲まれたまま、長い夜を過ごした。
それに懲りたか、当分は仕事を真面目にやっていたそうだ。真紅との口げんかは相変わらず、毎日行われているようだが。
片や、主犯格であるローゼン。こちらは、当分校庭の『校長の乳酸菌漬』というオブジェに飾られたままのようだ。
かくして、学園に平穏な日常は戻ったのであった。
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*急性乳酸菌中毒は存在しない病気です。
暑い日だったと思ったら、寒い日が突然やってくることもあるこの季節。
そして、この春風の季節が過ぎ去り、雨がこの空を支配する。その、一時の雨の後に、夏が我々のもとへと来る。
夏は我々に、慣れていて、それでいて新鮮な刺激を与えてくれる。
だが、我々はその刺激にやがて飽き、新たな刺激を欲するようになる。
秋の到来、そして、冬。我々は、常にこの新鮮さと、飽きのなかで、身を任せながら漂っているだけなのだ。
こうした日々の流れの中で、今日の放課後の職員室の彼女は、ただただ己の欲望を満たすために、存在していた。
「やっぱり、暑い日に飲む冷たいヤクルトは最高だわぁ」
その彼女は、人によっては物足りなさを感じるかもしれない、小さな容器の中の乳酸菌飲料を何本も、何本も飲み干していた。
まだまだ足りない。そう、彼女が発するオーラは、底知らずのような欲望をさらけ出していた。
しかし、この乳酸菌飲料は、20本ほども飲めば、体が限界のメッセージを送るようになる。
彼女とてやはり人間、自らの限界は分かっていた。だが、彼女は止まらない。
限界を超え、ランナーズハイのように、エンドルフィンが大量分泌する領域に突入した彼女は、ひたすらに飲み続ける。
それが、自らに課せられた運命であるかのように。
彼女の同僚らは、その熱意を普段の仕事にも生かして欲しい、と一様にあきれたまなざしで彼女を見やる。
未だに飲み続ける彼女に、ふと異変が起きた。突然倒れ伏す彼女。突然のことで職員室にどよめきが走る。
普段、彼女との口げんかが絶えない彼女の同僚のひとりは、
「まったく……。水銀燈、ふざけるのもいい加減にしなさい。……ちょっと、聞いてるの!?
……そうよ!こういうときこそくんくん探偵を呼べば―――」
と、狼狽しきり、彼女から返事が帰ってくることもなく、意味のないメッセージをも送る。
「真紅先生落ち着いて!今救急車呼んだから!」
「そ、そうよね。こういうときは救急車なのだわ……」
やがて、彼女の同僚達が呼んだ救急車が学園に到着した。
そして、そのまま彼女は救急車に乗せられて、病院へと向かったのであった。
「急性乳酸菌中毒ですね」
と、医師が馴れた口調で彼女の同僚達に告げる。
彼女の同僚達は、仕事を早々にきりあげ、病院へと一目散に向かった。そこで、告げれられた彼女の病名。
医師からの説明によると、短時間に多量の乳酸菌を摂取することによって起きる、中毒の一種だそうで、
ひどい場合には死に至る、と、彼女の同僚達には説明された。この、聞きなれない病名に、医師は最後にこう付け足した。
「最近発見された病気でして……」
その説明に、彼女の同僚達は愕然とした。まさか、乳酸菌でこんなことになるとは、と。
彼女は、集中治療室に入ったまま、一向に出てくる気配がなかった。
待合室で、彼女の帰りを待つ彼女の同僚達は、みな自責の念にかられていた。なぜ、なぜあのときとめなかったのだろう、と。
彼女のことを心配する声が飛び交い、そして、沈黙がその場を支配するようになっていた。
そして、彼女の同僚達のなかでも比較的幼い二人、雛苺と金糸雀は、今にも泣き出しそうで、
さらに、果てしなく長く感じる時が、彼女の同僚達の心を蝕んでいた。
「あの子は、水銀燈は……」
彼女、水銀燈の同僚の一人、真紅が、突然話し始めた。
「あの子は、確かにヤクルトを大層気に入って、いつも飲んでいたわ、昔から。でも、こんなことになったのは初めて……。
もし、水銀燈が居なくなってしまったら、私は……」
普段、水銀燈との口げんかの耐えない真紅だが、その長い付き合いの中で、水銀燈との深いつながりをひしひしと感じていた。
たとえ口げんかしようとも、彼女達は離れることなく、いつも近くにいたのだから。だからこそ、真紅は恐怖感に襲われていた。
得体の知れぬこの敵に、何もできず、ただ時の流れに身を任せる事しかできなかった。
その真紅の言葉に、彼女の同僚達は、何も言えず、彼女達もまた、この時の流れに身を任せる事しかできなかったのである。
そんな彼女達を覗く二つの影が、彼女達の死角から、その困惑の視線を向けていた。
「なんか、出づらいわぁ……」
と、特徴のある小さな声が、行く当てもなくただよう。
「まさか、ドッキリでしたなんて、ねぇ……」
「いっそ死んだことにしておく?」
「ふざけないで頂戴」
この二人こそ、この壮大なドッキリ作戦の仕掛け人、水銀燈とローゼンである。
いつものように暇をもてあましていたローゼンが、テレビのバラエティ番組のドッキリ企画を見て考えたのであった。
そして、このドッキリに、水銀燈も仕掛人として参加していた。
よもや、このような事態なるとは、二人ともが予想だにしていなかったが。
突然、なんだか、変な気配がするの~、と心の中で感じた雛苺が、おもむろに席を立つ。
「えっ、ちょっと、こっち来ないでよ」
「僕たちもうおしまいだねぇ~」
まるっきり対照的な二人のヒソヒソ声をよそに、雛苺はそこめがけて一直線に進む。
賽は投げられた。
「あ~っ!」
「どうしたの?雛苺」
真紅の声とともに、彼女達もそこへと向かう。
そこには、バツの悪そうな苦笑いをした水銀燈と、半ば開き直ったような笑顔のローゼンが居た。
ドッキリでした、のプラカードをアピールするかのように掲げながら。
その後、水銀燈は、一向に離れようとしない雛苺と金糸雀に抱きつかれながら、真紅からきっつ~いお灸を受け、
便乗して説教を垂れる翠星石と、それをなだめる蒼星石、そして、安堵の表情を浮かべる薔薇水晶、雪華綺晶に囲まれたまま、長い夜を過ごした。
それに懲りたか、当分は仕事を真面目にやっていたそうだ。真紅との口げんかは相変わらず、毎日行われているようだが。
片や、主犯格であるローゼン。こちらは、当分校庭の『校長の乳酸菌漬』というオブジェに飾られたままのようだ。
かくして、学園に平穏な日常は戻ったのであった。
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・急性乳酸菌中毒は存在しない病気です。
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