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nフィールドへようこそ」(2006/10/04 (水) 21:15:07) の最新版変更点

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蒼「ふぅ・・・どうしたものかなぁ?」 ある日の放課後、職員室で緑茶を飲みながら蒼星石は考え事をしていた。 水「あらぁ、悩み事?」 同じく職員室でヤクルトをダース単位で飲んでいた水銀燈が聞いてくる。 別に親身になってアドバイスとかそんな殊勝な事は考えていない。 何か面白いことでも無いかと聞いただけだ。 蒼「う~ん、深刻な悩み・・・って訳じゃないんだけどね。授業の事でね」 水「なぁんだ、授業の事なの。つまんなぁい」 教師達の中でも1,2を争うほど生真面目な蒼星石だ。そんな彼女の授業の悩みなんて聞いてもつまらない。 水「数学なんてぇ、何度でも似たような問題を繰り返せば嫌でも覚えるわよう」 適当にアドバイスをし、雑誌を取り出してパラパラとめくる。 蒼「いや、数学じゃないんだ・・・情報の授業なんだよ」 蒼星石=数学担当というイメージが強いが、情報の授業もまた彼女の担当である。 情報の授業とは、コンピュータを使ってワープロソフトや表計算ソフトの使い方、WEBサイトの作り方などを実習で学び、 講義の方ではメディアリテラシーや著作権、プライバシーなどを行っている。 蒼「とまあ、授業内容についてはこんな物なんだ」 水「ふぅん・・・なんだか、中高年向けのパソコン教室みたいな内容ねぇ」 蒼「パソコン教室か・・・確かにそうだね」 水「で?結局何を悩んでるのぉ?」 蒼「簡単に言うと・・・生徒間の格差、かな?」 水「格差?」 蒼星石は水銀燈にこの授業の現状を説明した。 先ほど、水銀燈はこの情報の授業を『中高年向けのパソコン教室』となぞらえた。 蒼星石の悩みはまさにそれだった。 今や一家に一台、個人用のノートパソコン等も含めると2台3台以上PCが普及している。 当然、生徒達の多くは個人用のPCを持っており、授業で行うような事は退屈なのだ。 しかし、これまた当然に未だPCを所有していない生徒も居て、教師としてはそういった生徒に合わせて授業を行わなくてはならない。 その為、できる生徒にとっては更に退屈な時間となり、まともに授業を受けなくなる。 かと言って、できる方に合わせれば、できない生徒はますますできなくなる・・・という悪循環であった。 蒼「・・・と言う訳で、そのバランスをどうやって取るかで悩んでるんだよ」 水「ふぅ~ん・・・大変ねぇ」 完全に他人事といった感じで返事をする。 水銀燈は自分の授業を生徒達に合わせるという事は一切しなかったので、こういった悩みを持たなかった。 蒼「何か良いアイデア無いかな~?」 水「え?!・・・・・・そ、そうねぇ・・・どちらにとっても初めての事をすれば良いんじゃなぁい?」 急に振られて慌てて答える。 蒼「どちらにとっても初めて・・・か。それが思いつかないから悩んでるんだよなぁ」 更なる深みに嵌った蒼星石を横目に、今度はネットでニュースを読み始めた。 それから5分後。 水「これよ、これだわぁ!」 蒼「うわ!?もう、いきなり大声をださな・・・」 水「これ、良いアイデアじゃなぁい?」 蒼「どれどれ・・・・・・え?でも、これが授業なの?それにこんなの企業の協力が無いと・・・」 水「当てならあるわぁ。・・・それに、情報の次は政経だったわよねぇ、一緒にやらなぁい?」 蒼「・・・大丈夫かな?」 水「校長に言えば、即OKでしょうねぇ」 蒼「う~ん・・・ダメ元で聞いてみるか」 受話器を取って校長の携帯に電話をかけて数分話した後、蒼星石は水銀燈にこう告げた。 蒼「OKだって・・・むしろ参加させろって言ってたよ」 水「でしょうねぇ・・・クスクスクス」 それから数日後、コンピュータ室には生徒達と蒼星石、水銀燈と校長、そして見知らぬ人たちが集まっていた。 蒼「えーっと・・・今日の授業は政経と合同で2時間連続で行います」 水「まぁ、中には倫理を受けてる子も居るでしょうけどぉ・・・それを受けに行っても構わないわぁ」 ロ「ねえねえ、早く始めようよ~」 最年長の割に、ゲームを買ってもらった子供のようにそわそわしているローゼンであった。 蒼「校長・・・先にちゃんと説明しないといけませんから」 やんわりと釘を刺してから生徒達へと向き直る。 蒼「今日は皆に楽しんでもらおうと思うんだ。・・・じゃあ、詳しい説明は水銀燈先生お願い」 水「任されたわぁ・・・まあ、簡単に説明するとぉ、皆にはこれからネットワークゲームをしてもらうわぁ」 ネットワークゲームをすると聞いて、教室から歓声が沸き起こった。 水「で、今回特別にとあるネットワークゲームを作った会社の人に頼んでサーバーを一つ持ってきてもらったわぁ」 これで生徒達はこの見知らぬ人たちがその会社の社員なのだと言う事に気付いた。 水「それじゃ、そのゲームの説明はこの人に任せるわぁ」 水銀燈に呼ばれた男性社員は、少し緊張しながらも生徒達に挨拶する。 社員「えー、今回は弊社のネットワークゲーム『nフィールド』を授業に活用したいとの事でしたが、     なにぶんこういう風に利用されるとは思ってませんでしたので、些か緊張しています」 などと言いながら、説明へと移る。 社員「皆さんにはこれから『nフィールド』に出てくるキャラクターとなって実際にプレイしてもらいます。     ですが、ここで製品版とは違う仕様にさせていただきます」 ロ「違う仕様って?」 水「要するに、誰がどのキャラクターになるかはランダム・・・と言う事よぉ」 ロ「え~、それって自分が望んだキャラになるとは限らないの~?」 最年張の割りに一番不平をこぼすローゼンだったが、水銀燈の一睨みですぐに止まった。 水「人間誰もが同じスタートラインで生まれる訳じゃないわぁ・・・生まれながらにして持つ才能ってのは決して平等じゃないの」 社員「まあ、それもありますけど、皆さんが1から始めていたらいつまで経っても面白くありませんからね。     ですから予め高レベルのキャラクターから低レベルのキャラクターまで取り揃えてます」 銀「で、ルール何だけどぉ。基本的に1番多くのお金を稼いだ人が優勝よぉ」 このnフィールド、設定はベタな剣と魔法のファンタジーでプレイヤーは戦士や魔術師などとなり、冒険をしていくことになる。 当然、職業によっては金稼ぎに得意な者も居れば不得意な者も居る。 銀「でもぉ、それだけじゃ何だからぁ・・・レアアイテムを手に入れた人も高評価に繋がるわぁ」 社員「単純に言えば、ボスクラスのモンスターを倒したり、ダンジョンの奥にある宝箱なんかそうですね」 銀「そういう事。だから腕に自信が有るならそっちを狙うのも一つの手よぉ」 蒼「という訳なんで、それじゃ早速始めようか」 生徒達はソフトを立ち上げて、接続を開始する。 名前は本名や個人を特定できるような名称は禁止とし、職業の希望を出す。 希望が集中するとそこから漏れてしまう可能性があるが、そうでなければ職業だけは希望通りにはなる。 蒼星石や水銀燈、ローゼンも早速参加する。 ローゼンは生徒達と同様だが、2人は最高レベルの戦士(蒼星石)と魔術師(水銀燈)になって、生徒達の手助けをすることにした。 このゲームに登場する職業は戦士、アサシン、僧侶、魔術師、鍛冶師、錬金術師、狩人の7つである。 準備が整い、ゲームが始まった途端に教室のあちこちから歓声と嘆きの声があがった。 誰がどのキャラになるのか、それは完全に運に左右され、低レベルのキャラだとそれだけでスタートダッシュから遅れる事になる。 しかし、悩んでいる間も無いので、早速金策に走る事になる。 ゲーム開始から30分経過し、キャラクター達はそれぞれパーティーとなって行動をするようになっていた。 水(やはり・・・ここら辺から駆け引きが始まってくるわねぇ) ディスプレイを見ながら、水銀燈は呟く。 ゲームマスターも兼ねているので、誰がどのキャラクターを担当しているかが分かっているので、 実際の人間関係との対比をしながらそれぞれを見て回る。 まず傾向として、高レベル同士で組んでダンジョン探検を行うパーティ、低レベルだがそれぞれの職業が集まり、 それぞれが集める事ができる材料を寄せ集め、それらを元にアイテムを作り出して売るという事を目的としたパーティー。 女性キャラだったことを利用して他のプレイヤーから沢山アイテムを貢がせるネカマプレイをしている生徒も居た。 1つのゲームの世界で、確実に社会は作り出されていった。 鍛冶A「さあさあ、この銅の剣1万で売るよ!」 錬金B「鍛冶師の皆さん、この鉄を一個300で売りますよ」 アサシンC「この毒薬を使えば、敵はあっという間に倒せるよ。さあ、買った買った!」 街の荷物預け場所前の広場ではキャラクター達が商品を並べて売り子をしていた。 蒼(へ~、皆言わなくてもちゃんとやってるね) そんな市場をのんびりと歩きながら蒼星石の戦士は他のキャラクターが売っている商品を眺めていく。 気分はまるでウィンドウショッピングだ。 魔術師D「そこ行く戦士さん、良かったら私の作った魔法薬は如何ですか?」 蒼戦士「僕かい?どれどれ・・・」 早速、商品とその値段を眺めてみる。 蒼(あれ?他の人が売ってるのよりも2倍ぐらい高いなぁ。これだと売れないんじゃないかなぁ・・・?) 早速、その事を伝えてみる。 魔術師D「え?!高いですか?」 蒼戦士「うん・・・他の人の2倍ぐらい高かったかな」 魔術師D「それじゃあ、値段変えてみます」 蒼戦士「他の人が出す値段も良く見て値段を決めると良いよ」 魔術師D「はい、ありがとう」 蒼(水銀燈先生はどうしてるのかなぁ?) ちらっと横を見ると、珍しく大人しくしているので、何をしているのか姿を探す事にした。 街を出て、少し離れた所にある狩場に水銀燈は居た。 蒼戦士「おや?そんな所で何をしてるんですか?」 銀魔術「この子達のレベル上げの手伝いよぉ」 見ると、水銀燈の魔術師の側には1桁のレベルのキャラクターたちで一杯だった。 どうやら、高レベルの魔術師と組んで手ごわい敵を倒して素早くレベルアップする事を目的としたパーティらしい 蒼戦士「なるほど・・・それなら僕も手伝うよ」 銀魔術「それじゃあ・・・あっちの子達をおねがぁい」 それからしばらく、2人は低レベルキャラたちの成長の手伝いをして過ごした。 銀魔術「ふぅ・・・そろそろ良いんじゃ無いかしらぁ?」 蒼戦士「そうだね・・・じゃ、皆頑張るんだよ」 と、その場を後にしようとしたが・・・ 狩人E「ありがとうございました。・・・これ、少ないですけど」 銀魔術「あらぁ・・・悪いわねぇ」 そう言いながらもちゃっかり金銭は受け取っていた。 蒼戦士「・・・何やってるんだい?」 銀魔術「労働にはちゃんとした報酬が必要だわぁ・・・」 蒼戦士「僕たちは関係ないんだから、ちゃんとお金は返しなさい」 銀魔術「ちっ・・・」 蒼星石が再び街へと戻ろうとしたところ、1人の戦士とすれ違った。 見ると、彼は誰ともパーティーを組んでは居ないようだ。 蒼星石は気になって、彼に対話を送った。 蒼戦士「何をしているんだい?」 戦士F「クエストをこなしているんです。僅かずつですけど、繰り返せば結構な額になりますから」 クエストの中にはあるアイテムを一定数持って行く事で賞金を貰える物が幾つか有った。 大抵はモンスターを倒す事で手に入れることができる物で、戦士である彼には最適な金策であった。 蒼戦士「頑張ってね」 戦士F「はい、頑張って優勝目指します!」 気がつけば、2時間はあっという間に過ぎ去っていった。 優勝は市場で巧みに売買を繰り返していた錬金術師だった。 水「なかなか楽しかったわぁ」 蒼「ネットゲームに嵌り込む人が居るのも分かる気がするよ」 水「さてと、最後にちゃちゃっと授業をしましょうか」 水銀燈は黒板に先ほどの世界を書き込んでいく。 水「確かに、今のは仮想社会だったけどぉ、現実の社会でも似たような事は一杯あるわぁ」 黒板に描いた市場の文字を丸で囲む。 水「一番分かりやすいのはこの市場における需要と供給の関係ねぇ。今回は色んなレベル帯の人が居た訳だけどぉ、    高レベル帯しか買わない物や逆に低レベル帯の人しか買わない物もあるわぁ。確かにブランド品は儲けが大きいけど、    安い物も取り揃えておかないと、なかなか売れないわぁ。それと相場を知らないと適正な値段を付ける事もできないわぁ」 続いて、ダンジョンを丸で囲む。 水「ダンジョンはまさに一攫千金のチャンスだけど、常に死と隣り合わせのギャンブルねぇ。これは言わなくても良いわねぇ」 最後にクエストに丸で囲む。 水「これは単純に言えば労働ね。働くことで報酬を受け取るのは現実の社会も変わらないわぁ。・・・とまあ、仮想社会とは言え    人間が携わっている以上、そこには現実の社会の理念が働くわぁ。皆はそれを感じ取りなさぁい」 こうして、ネットワークゲームを用いた授業は成功を収めた。 昼休み、職員室にて 蒼「あれ?そう言えば、校長は?」 水「さあ?・・・まだ、やってるんじゃなぁい?」 コンピュータ室にて ロ「よーし!レベル1から始めてようやく鋼の剣を買えたぞ・・・って、あれ?皆は?」 社員「あの・・・もうサーバー落として良いですか?」

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