雪華綺晶は教師になる前は兵士だった。
兵士というのは上下関係が厳しいうえに上の命令にはよほどの事がない限り逆らってはいけない。
彼女はその時の癖が抜けきっておらず、授業は一方的で厳格に高圧的に接してしまう時があった。
今はそんなことは全くないが、教師になりたての頃はそれは凄かった。
それ故、怯えて逃げ出す生徒がいた。たしか一人、Eという女子生徒だった……。
これは教師になりたての雪華綺晶とその生徒のお話。
雪華綺晶「またEはいないのか?!」
険しい顔つきで生徒に尋ねる雪華綺晶。
生徒「そ、そうみたいっすね…。」
先々週ぐらいから生徒Eは雪華綺晶の授業になるといなくなる。
何故そんなことをするのか?このときの雪華綺晶には理解できなかった。
生徒Eが来ないことにだんだん苛立ってきたのか拳が震えていた。
放課後。
職員室に戻ると彼女は大きくため息をついた。
それを見た蒼星石が問いかけてきた。
蒼星石「おや、どうしたんだい?またEさんのこと?」
雪華綺晶「はい、まったくEは何を考えてるのか……。」
蒼星石に限らず、このことは他の教師も知っていた。
最初はそれほど気にかけていなかったが、日が経つにつれてだんだん他人事だと思えなくなってきた。
何故、雪華綺晶の授業にでないのか?と聞いても答えるどころか怯えて逃げてしまうらしい……。
蒼星石「僕の授業にはちゃんとでてるんだけどなあ……。」
生徒Eは雪華綺晶の授業以外にはちゃんとでており、質問もたまにしているとのこと。
しばらくすると薔薇水晶以外の教師たちも戻ってきて話に加わった。
水銀燈「なんでかしらねぇ…。あんた、Eさんが嫌がることしてるんじゃないのぉ?」
雪華綺晶「……そんなことしてない。」
真紅「あなたはそのつもりでもEさんがどう思ってるのか分からないのだわ。」
それを聞くと雪華綺晶の頭の中が混乱した。
自分が生徒Eに悪いことをしたのか?いや、そんなことはしていない!!
二つ異なった意見が対立し、踊り狂っていた。
さらに、自分は間違ってるという意見も襲い掛かってくる。
何故?!間違ってなどいないはず……。何度振り払ってもそれはしつこく喰らいつく……。
これらの収拾がつかないせいで怒りやストレスが込み上げ、抑えきるのがとてもつらい状態にあった。
薔薇水晶「………いたたた。」
薔薇水晶が戻ってきた。だが、腰を押さえており、歩き方もぎこちない。
雛苺「どうしたのー?すごく痛そうなのー。」
薔薇水晶「うん、Eさんにお姉ちゃんのこと聞いたらいきなり突き飛ばされちゃって……。
その時に腰を強く打っちゃった……。」
それを聞いた雪華綺晶はついに爆発してしまった。
雪華綺晶「(あいつぅ~…!!)」
彼女は爆発寸前だった。その状態で妹が傷つけられたと聞かされて平常心を保てるわけがない。
そして彼女は職員室を飛び出した。もちろん生徒Eを捕まえるためだ。
しばらく走っていると生徒Eを見つけた。
雪華綺晶「Eー!!」
生徒E「ひ、ひぃ~っ!」
まるで鬼のような形相をした雪華綺晶に悲鳴を上げ、逃げていく生徒E。
だが、足は圧倒的に雪華綺晶のほうが早く、追いつくと彼女は生徒Eの服を掴み自分のほうに向かせた。
雪華綺晶「何故、私の授業の時にいなくなる!?何故、薔薇水晶を突き飛ばす!?」
怒り狂った雪華綺晶は生徒Eの両肩を揺さぶりながらたずねた。
生徒Eは泣きながら震えるだけだった……。
雪華綺晶「答えろ!!」
怒声を浴びせながら今度は生徒Eの両肩を強く握り締めた。
生徒E「い、痛い……。」
しばらくすると後を追ってきたのか水銀燈と真紅が駆けつけ、雪華綺晶と生徒Eを引きはがした。
水銀燈「ちょっとあんた、何やってんのよぉ?!」
真紅「いくら教師でもやっていいことと悪いことがあるのだわ!」
雪華綺晶「離せぇっ!」
しばらく暴れていたが観念したのかやがておとなしくなった。
雪華綺晶は職員室に連れ戻され、ラプラス教頭から大目玉を喰らった。
ラプラス「何を考えてるんですか、あなたは?!いきり立ってEさんに暴行を加えるなんて……!
体罰もいいところだ!」
雪華綺晶「も、申し訳ありません……。」
雪華綺晶は少し涙目になっていた。
ローゼン「雪華綺晶君。ここは軍の訓練学校じゃないんだよ。自分の考えを強引に押し付けるのはどうかと思うよ。
生徒1人1人の意思をもっと尊重しないと。」
さすがのローゼンもこのときばかりは真面目だった。
ローゼンはときどき教室の授業風景を見ていたのだろう。
雪華綺晶の授業の欠点を見事に指摘した。
この時、彼女は初めて自分の落ち度に気がついた。
自分のやり方は正しいと思っていた。だが、それは間違いだった。
あの時の言葉がよみがえってくる……。
あなた、Eさんが嫌がることしてるんじゃないのぉ?
あなたはそのつもりでもEさんがどう思ってるのか分からないのだわ。
なんて馬鹿なんだ私は……。
だが、今さら悔やんでも遅い。この一件が教育委員会に知られたら最悪の場合、クビになるだろう。
雪華綺晶にはもはや泣き崩れることしかできなかった……。
そこへ他の教師とともに生徒Eがやってきた。文句を言いにきたのだろうか…。
生徒E「あ、あの……。」
雪華綺晶「(………何か言われる、……怖い。)」
雪華綺晶の体は恐怖で震えていた。
自分が悪かったとはいえ、ズタズタになった精神状態で、しかも教師たちの眼前で悪口を聞かされるのは
実に耐え難いものだった。
生徒E「ご、ごめんなさい!」
雪華綺晶「え?」
意外な答えに雪華綺晶は頭に?マークを浮かせていた。
生徒E「私が言いたいことをちゃんと言っていれば……。も、もっと私に勇気があれば……。」
先生は悪くない、自分が悪いんだ。とでも言いたかったのだろうか?
だが、雪華綺晶はこう返答した。
雪華綺晶「…いや、悪いのは私。生徒の意見も聞かず、私の一方的なやり方で授業をやってしまって……。
結果的にあなたを怖がらせてしまった。本当にごめんなさい……。」
そう言うと生徒Eのほうへ歩み寄り、そっと彼女を抱きしめた。
生徒E「あ、暖かくて、やわらかい…。」
雪華綺晶の内に秘めた優しさを感じ取った生徒E。
生徒E「こんなにも優しいのに…。そんな先生を拒んだりして、…うぅ、ごめんなさい!」
何故こんなにも謝るのだろうか?
聞いた話では生徒E自身も別の教師から灸をすえられたそうだが、詳細はよく分からない。
雪華綺晶「……私もあなたのことを理解してあげられなくてごめんなさい。
これからはあなたたち生徒の意見も採り入れて授業をしていくつもり。
だから、あなたたちも私を受け入れて……。」
生徒E「……はい!」
そう言うと生徒Eも雪華綺晶を抱きしめた。
二人とも大粒の涙を流していた。だが、目は笑っていた。
お互いを受け入れた瞬間だった。
この光景にローゼンや他の教師たちは拍手を送ったり涙を流したりしていた。
ローゼン「ん~、素晴らしい!感動したよ。ラプラス君、今回だけは雪華綺晶君の事、
黙っておいてあげようよ。
ラプラスもこの光景に感動していたのかNoとは言わなかった。
ラプラス「……そうですね。今回だけは目をつむっておいてあげましょう。
ただし、二度目はありませんよ。いいですね、雪華綺晶先生?」
雪華綺晶「……はい、ありがとうございます!」
次の日、雪華綺晶は教壇の上に立っていた。
そこには生徒Eの姿もあった。
だが、あの時の高圧的な態度ではなく、薔薇水晶のようなおとなしく静かな授業スタイルを確立していた。
何故、薔薇水晶の授業方法を採用したのか?
理由は薔薇水晶のやり方なら誰も怯えたりしないだろうし、何より妹と顔が瓜二つだから。
とあまりにも単純すぎるものだった。
雪華綺晶「……授業を始めます。」
突然の変わりようにみんなびっくりしていた。
生徒達「サ、サー、イエス、サー…。」
雪華綺晶「……それはもういいの。」
生徒達は一体どうなってるんだ?と少々困惑気味だったが、雪華綺晶はかまわず続けた。
雪華綺晶「……では教科書の42ページを開いてください。」
これを期に生徒Eは二度と怯えて逃げ出したりしなくなったという。
兵士というのは上下関係が厳しいうえに上の命令にはよほどの事がない限り逆らってはいけない。
彼女はその時の癖が抜けきっておらず、授業は一方的で厳格に高圧的に接してしまう時があった。
今はそんなことは全くないが、教師になりたての頃はそれは凄かった。
それ故、怯えて逃げ出す生徒がいた。たしか一人、Eという女子生徒だった……。
これは教師になりたての雪華綺晶とその生徒のお話。
雪華綺晶「またEはいないのか?!」
険しい顔つきで生徒に尋ねる雪華綺晶。
生徒「そ、そうみたいっすね…。」
先々週ぐらいから生徒Eは雪華綺晶の授業になるといなくなる。
何故そんなことをするのか?このときの雪華綺晶には理解できなかった。
生徒Eが来ないことにだんだん苛立ってきたのか拳が震えていた。
放課後。
職員室に戻ると彼女は大きくため息をついた。
それを見た蒼星石が問いかけてきた。
蒼星石「おや、どうしたんだい?またEさんのこと?」
雪華綺晶「はい、まったくEは何を考えてるのか……。」
蒼星石に限らず、このことは他の教師も知っていた。
最初はそれほど気にかけていなかったが、日が経つにつれてだんだん他人事だと思えなくなってきた。
何故、雪華綺晶の授業にでないのか?と聞いても答えるどころか怯えて逃げてしまうらしい……。
蒼星石「僕の授業にはちゃんとでてるんだけどなあ……。」
生徒Eは雪華綺晶の授業以外にはちゃんとでており、質問もたまにしているとのこと。
しばらくすると薔薇水晶以外の教師たちも戻ってきて話に加わった。
水銀燈「なんでかしらねぇ…。あんた、Eさんが嫌がることしてるんじゃないのぉ?」
雪華綺晶「……そんなことしてない。」
真紅「あなたはそのつもりでもEさんがどう思ってるのか分からないのだわ。」
それを聞くと雪華綺晶の頭の中が混乱した。
自分が生徒Eに悪いことをしたのか?いや、そんなことはしていない!!
二つ異なった意見が対立し、踊り狂っていた。
さらに、自分は間違ってるという意見も襲い掛かってくる。
何故?!間違ってなどいないはず……。何度振り払ってもそれはしつこく喰らいつく……。
これらの収拾がつかないせいで怒りやストレスが込み上げ、抑えきるのがとてもつらい状態にあった。
薔薇水晶「………いたたた。」
薔薇水晶が戻ってきた。だが、腰を押さえており、歩き方もぎこちない。
雛苺「どうしたのー?すごく痛そうなのー。」
薔薇水晶「うん、Eさんにお姉ちゃんのこと聞いたらいきなり突き飛ばされちゃって……。
その時に腰を強く打っちゃった……。」
それを聞いた雪華綺晶はついに爆発してしまった。
雪華綺晶「(あいつぅ~…!!)」
彼女は爆発寸前だった。その状態で妹が傷つけられたと聞かされて平常心を保てるわけがない。
そして彼女は職員室を飛び出した。もちろん生徒Eを捕まえるためだ。
しばらく走っていると生徒Eを見つけた。
雪華綺晶「Eー!!」
生徒E「ひ、ひぃ~っ!」
まるで鬼のような形相をした雪華綺晶に悲鳴を上げ、逃げていく生徒E。
だが、足は圧倒的に雪華綺晶のほうが早く、追いつくと彼女は生徒Eの服を掴み自分のほうに向かせた。
雪華綺晶「何故、私の授業の時にいなくなる!?何故、薔薇水晶を突き飛ばす!?」
怒り狂った雪華綺晶は生徒Eの両肩を揺さぶりながらたずねた。
生徒Eは泣きながら震えるだけだった……。
雪華綺晶「答えろ!!」
怒声を浴びせながら今度は生徒Eの両肩を強く握り締めた。
生徒E「い、痛い……。」
しばらくすると後を追ってきたのか水銀燈と真紅が駆けつけ、雪華綺晶と生徒Eを引きはがした。
水銀燈「ちょっとあんた、何やってんのよぉ?!」
真紅「いくら教師でもやっていいことと悪いことがあるのだわ!」
雪華綺晶「離せぇっ!」
しばらく暴れていたが観念したのかやがておとなしくなった。
雪華綺晶は職員室に連れ戻され、ラプラス教頭から大目玉を喰らった。
ラプラス「何を考えてるんですか、あなたは?!いきり立ってEさんに暴行を加えるなんて……!
体罰もいいところだ!」
雪華綺晶「も、申し訳ありません……。」
雪華綺晶は少し涙目になっていた。
ローゼン「雪華綺晶君。ここは軍の訓練学校じゃないんだよ。自分の考えを強引に押し付けるのはどうかと思うよ。
生徒1人1人の意思をもっと尊重しないと。」
さすがのローゼンもこのときばかりは真面目だった。
ローゼンはときどき教室の授業風景を見ていたのだろう。
雪華綺晶の授業の欠点を見事に指摘した。
この時、彼女は初めて自分の落ち度に気がついた。
自分のやり方は正しいと思っていた。だが、それは間違いだった。
あの時の言葉がよみがえってくる……。
あなた、Eさんが嫌がることしてるんじゃないのぉ?
あなたはそのつもりでもEさんがどう思ってるのか分からないのだわ。
なんて馬鹿なんだ私は……。
だが、今さら悔やんでも遅い。この一件が教育委員会に知られたら最悪の場合、クビになるだろう。
雪華綺晶にはもはや泣き崩れることしかできなかった……。
そこへ他の教師とともに生徒Eがやってきた。文句を言いにきたのだろうか…。
生徒E「あ、あの……。」
雪華綺晶「(………何か言われる、……怖い。)」
雪華綺晶の体は恐怖で震えていた。
自分が悪かったとはいえ、ズタズタになった精神状態で、しかも教師たちの眼前で悪口を聞かされるのは
実に耐え難いものだった。
生徒E「ご、ごめんなさい!」
雪華綺晶「え?」
意外な答えに雪華綺晶は頭に?マークを浮かせていた。
生徒E「私が言いたいことをちゃんと言っていれば……。も、もっと私に勇気があれば……。」
先生は悪くない、自分が悪いんだ。とでも言いたかったのだろうか?
だが、雪華綺晶はこう返答した。
雪華綺晶「…いや、悪いのは私。生徒の意見も聞かず、私の一方的なやり方で授業をやってしまって……。
結果的にあなたを怖がらせてしまった。本当にごめんなさい……。」
そう言うと生徒Eのほうへ歩み寄り、そっと彼女を抱きしめた。
生徒E「あ、暖かくて、やわらかい…。」
雪華綺晶の内に秘めた優しさを感じ取った生徒E。
生徒E「こんなにも優しいのに…。そんな先生を拒んだりして、…うぅ、ごめんなさい!」
何故こんなにも謝るのだろうか?
聞いた話では生徒E自身も別の教師から灸をすえられたそうだが、詳細はよく分からない。
雪華綺晶「……私もあなたのことを理解してあげられなくてごめんなさい。
これからはあなたたち生徒の意見も採り入れて授業をしていくつもり。
だから、あなたたちも私を受け入れて……。」
生徒E「……はい!」
そう言うと生徒Eも雪華綺晶を抱きしめた。
二人とも大粒の涙を流していた。だが、目は笑っていた。
お互いを受け入れた瞬間だった。
この光景にローゼンや他の教師たちは拍手を送ったり涙を流したりしていた。
ローゼン「ん~、素晴らしい!感動したよ。ラプラス君、今回だけは雪華綺晶君の事、
黙っておいてあげようよ。
ラプラスもこの光景に感動していたのかNoとは言わなかった。
ラプラス「……そうですね。今回だけは目をつむっておいてあげましょう。
ただし、二度目はありませんよ。いいですね、雪華綺晶先生?」
雪華綺晶「……はい、ありがとうございます!」
次の日、雪華綺晶は教壇の上に立っていた。
そこには生徒Eの姿もあった。
だが、あの時の高圧的な態度ではなく、薔薇水晶のようなおとなしく静かな授業スタイルを確立していた。
何故、薔薇水晶の授業方法を採用したのか?
理由は薔薇水晶のやり方なら誰も怯えたりしないだろうし、何より妹と顔が瓜二つだから。
とあまりにも単純すぎるものだった。
雪華綺晶「……授業を始めます。」
突然の変わりようにみんなびっくりしていた。
生徒達「サ、サー、イエス、サー…。」
雪華綺晶「……それはもういいの。」
生徒達は一体どうなってるんだ?と少々困惑気味だったが、雪華綺晶はかまわず続けた。
雪華綺晶「……では教科書の42ページを開いてください。」
これを期に生徒Eは二度と怯えて逃げ出したりしなくなったという。