ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 誰かのために

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水銀燈「じゃ、ばいばぁい…」
17時のチャイムが校内に鳴り響く中、そう言って職員室を後にしようとする水銀燈に対し、真紅は両手を広げて、その行く手を遮った。
今まで、言いたい事をかなり溜めていたようで、彼女の顔には不満の色がありありと浮かんでいる。
「何よ…」と食い下がる水銀燈に、真紅は毅然とした態度でこう言った。
真紅「待ちなさい。みんな、まだ仕事をしているのよ?」
水銀燈「だから?…いい?私の仕事はもう終わったの。何か問題でもある訳ぇ?」
真紅「あるから言っているのよ。水銀燈、あなたはもう少し誰かのために働くべきだわ。」
その言葉に、水銀燈は呆れたようにこう返答した。
水銀燈「…馬鹿馬鹿しい…。自分が出来ないのを棚に上げて、この私にやらせようっていうの?冗談じゃないわ…。それに…」
その言うと、彼女は職員室の中にいる1人をちらりと見ながら、さらにこう続けた。


水銀燈「それに、こんな単純な仕事すら出来ないお馬鹿さんがいるからいけないんでしょう?中には、脳みそまで筋肉になっちゃって、日本語すら忘れちゃった子もいるみたいだしぃ…♪」
その言葉に、職員室にいる全員が一斉に凍りつく。
水銀燈が挑発した相手…それは雪華綺晶という、今月この学校に赴任してきたばかりの教師…。
水銀燈と彼女はある事がきっかけで敵同士となったわけだが、その争いは日を追うごとに激しさを増し、もう相手の顔を見ただけで喧嘩しあうほどになっていた。
他の教師たちからすれば、これほど迷惑なことは無い。
何せ、水銀燈を止めるだけでも精一杯なのに、それと同じかそれ以上の力を持ったものが現れたのだから…
しかし、当の雪華綺晶はそんなことお構いなしに、不敵な笑みを浮かべながらこう呟いた。
雪華綺晶「…まともに出来るのは事務仕事だけ。私でさえなれたのに、未だに担任に復帰できないのは、やっぱり実力が無いから?」
薔薇水晶「姉さん…!」
言いすぎだ、と妹である薔薇水晶がこれをいさめる。
それを見て、水銀燈は必死に冷静さを装いつつ、こう言ってその場を立ち去った。
水銀燈「…なんか白けちゃったわぁ…。また遊びましょ、雪華綺晶…。」
そう…雪華綺晶が放った一言は、彼女の『弱み』を的確に捉えていたのだ。


水銀燈「…やっぱり、あの子だけは生かしておくわけにはいかないわ…。ちゃんと、計画通り進んでる?」
職員室を出た後、彼女は同じく必要最低限の仕事しかしていないメイメイに、表情を取り繕いながらそう質問した。
その問いに、メイメイはうやうやしく、こう答える。
メイメイ「ええ…。すでに、息のかかった者たちを射撃部に潜り込ませてあります。あとは汚名を着せるなり、途中で裏切らせるなり、何とでも…」
水銀燈と出会ってから十数年…彼女の弱さをメイメイは承知していた。
正直、これ以上この争いを長引かせる訳にはいかない。
せっかく、薔薇水晶さんのおかげでお姉様の心の病は快方に向かっていたのに、これでは元の木阿弥…
ならば、邪魔者は早急に排除しなければ…
彼女が考えていること…それは他の人から言わせれば、逆恨みに等しい行為である。
そもそもの発端は、水銀燈が雪華綺晶のお金を騙し取ろうとした事にあるのだ。
だから、水銀燈が彼女にそれを謝った段階で全ては丸く収まるはずだった。なのに…
「そういえば…」と、メイメイはふと、あることを思い出した。
そういえば、薔薇水晶さんは雪華綺晶の妹…。
今は互いの事を考えて中立の立場をとっているようだが、流石に身内に危機が迫ればそんなことは出来ないだろう。
となると、いずれはお姉様を救ってくれた彼女にも、刃を向けなければいけない日が来るかもしれない…。
出来ればそれは避けたいところだが、目の前に立ちふさがるのであれば…
水銀燈「…イメイ…!メイメイ!!聞いてるの!?」
彼女の問いかけに、メイメイは慌ててこう返答した。


メイメイ「あっ…ご、ごめんなさい…!少し考え事をしていまして…」
水銀燈「…しっかりしなさいよ。晩御飯、どうするかって聞いてるの。まだ6時前だし、久しぶりに少し遠出して…」
そう言いながら屋内プールの脇を通り抜けようとした時、彼女はプールで1人の生徒が泳いでいるのを見つけた。
そういえば、水泳部なんてものも任されていたんだっけ…と思い返しながら、彼女は窓に顔を近づけて目を凝らす。
ガラスに付着した水滴のせいでよく分からないが、あれは確か…
水銀燈「桑田…由奈だっけ…?あなた、こんな時間まで何してるの?」
窓の横にある非常扉を開けて、彼女は生徒に向かって声を上げた。
その声に、少女は泳ぐのをやめ、少し驚いた様子でこう答えた。
由奈「あ…!はい!ちょっとクロールの練習をしてて…」
水銀燈「ふぅん…。そういえば、あなた水泳部も掛け持ちしてるんだっけ…。で、他の人はどうしたのぉ?見たところ、あなた1人だけみたいだけど…」
その問いに、由奈は思わず目を伏せた。
どうやら、自分のいない間…といっても入部説明会の時以来、今まで一度も水泳部には顔を出していなかったのだが、その間に何かがあったらしい。
一呼吸置いてから、由奈が口を開く。
由奈「…この前の練習試合で負けちゃってから、みんなやる気をなくしちゃったみたいなんです…。でも、入ったからには、少しは役に立てればって思って…」
水銀燈「…試合?」
そういえば、先任の蒼星石がそんなことを言っていた気がする。
うちの学校には、屋内プールがあるからどうとかと…
そんな思案顔を浮かべる水銀燈に、由奈は少し安堵した様子でこんな事を言い出した。


由奈「…でも、良かった…!先生が戻ってきてくれたら、みんなもきっと…」
この言葉に、水銀燈は一瞬返答に窮した。
去年の自分の失態を、まさか知らぬわけではないだろう。
2、3年生の一部の者などは、よほど恨みがあるのか、未だに陰でこそこそとこの事を語り継いでくれているみたいだし…
そんな事を考えつつ、彼女はことさら平静をよそおった。
水銀燈「…残念だけど、私にはその気は無いわ。大体、これのどこに自分の時間を割いてまでやる価値があるって言うの?」
由奈「…そうですか…。」
その言葉に、由奈はがっくりと肩を落とす。
もしかして、本気で自分が来ることを望んでいたのだろうか?あながち、演技をしているようには見えないが…
由奈「…あ!ごめんなさい…!!変なこと言ってしまって…!!でも、先輩方や友達のあんな姿見るの嫌なんです…。だから、少しでもその雰囲気が変わればと思ったんですけど…」
そう言うと、由奈は水中に身を翻し、残りの15m弱を泳ぎきった。
そして、呼吸を整えてからこう続けた。


由奈「…この通り、いくらやっても全然速くならないんです…。自分では結構練習したつもりなんですけど…。やっぱり、私には無理なのかな…。」
必死に明るさを取り繕ってはいるが、もうそろそろそれも限界のようだ。
恐らく、皆が水泳部を離れてから、相当悩みを溜め込んでいたのだろう…。
水銀燈「ストローク…」
由奈「…え?」
思わず出た言葉に、水銀燈本人も思わずびっくりする。
だが、一度言った以上、その言葉を取り消すことなど出来ない。
1つため息をつくと、水銀燈は淡々とした口調でこう説明した。
水銀燈「だからぁ…水をかくタイミングと、キックのタイミングが合ってないのよぉ。腕が前に出たときに、反対側の脚を蹴り下ろす事を意識してやってみなさぁい…。返事は?」
由奈「…は、はい!!」
元気よくそう返事をすると、由奈はもう一度力強く泳ぎ始めた。
彼女の言いつけを必死に守りながら…
そのひたむきな姿に、水銀燈は小さくこう呟いた。
水銀燈「誰かの為に…ねぇ…」
「馬鹿馬鹿しい…」と思いつつも、水銀燈はその言葉の意味を、極めて大きなものに感じ始めていた。