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蒼星石レポート アメリカ旅行記」(2006/08/16 (水) 19:55:27) の最新版変更点

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*出発前 夏休みの始まる半月ほど前、蒼星石宛に一通のメールが届いた。 送り主のアドレスを見ると『.us』で海外から来ていた。 授業用のメールアドレスなので、海外から来る事はまず有り得なかった。 蒼(念のためウィルスチェック・・・・・・問題無し・・・あれ、この送り主の名前って・・・) 蒼星石は卒業生の名簿のファイルを開いて名前を検索する。 その結果、数年前に卒業した生徒の名前と一致した。 早速メールを開き、内容を確認する。 確かに送り主はその卒業生だった。高等部卒業後は大学へと進学し、3年の夏からアメリカの大学に留学しているのだという。 蒼「留学するなんてすごいなぁ」 感心しながら読み進んでいく。かつての教え子が活躍しているのを聞くと、教師として鼻高々である。 蒼「・・・で、ついては今度行われるイベントに来られませんでしょうか・・・え?これって・・・」 蒼星石はこのメールの用件に気付いた。 要約すると、ボストンで行われるイベントにて自分の研究を発表するから、ぜひ見に来て欲しいという内容だった。 メールの最後の方にそのイベントの公式ホームページのURLが書かれている。 そのイベントの名前は蒼星石も知っていた。世界でも有名な映像技術関連のイベントである。 確かに一度は行って見たいとは思っていたが、海外でやっている事・参加費が結構高いというのも有って、中々行く事ができなかった。 蒼「とりあえず、教頭先生に相談・・・かな」 ラ「宜しいんじゃないでしょうか。なんなら、研修という形で幾らか旅費を出すように手配しましょう」 教頭に話をした所、あっさり答えが返ってきた。 蒼「良いんですか?」 ラ「ええ。他の先生方ならいざ知らず、貴女ならちゃんと吸収して来られるでしょうし」 蒼「はあ・・・」 ラ「我が校の卒業生が世界を舞台に活躍する・・・教師冥利に尽きる話です。彼を励ますためにも行かれては如何でしょうか?」 蒼「分かりました。では、早速なんですけどお願いが・・・」 ラ「旅費・・・ですね?」 蒼「それもなんですけど、海外に行った事無いから誰かと一緒に行こうと思うのですが」 ラ「なるほど・・・・・・翠星石先生ですかな?」 ラプラスは彼女の親友の名を挙げた。しかし、蒼星石は首を横に振る。 蒼「いえ・・・彼女も海外は初めてでしょうし、できれば経験が豊富な人が」 ラ「となると、真紅先生ですか?」 蒼「いえ、彼女は海外旅行は嫌いですから」 英語教師にも関わらず、真紅は海外旅行が嫌いだった。理由は単純、くんくんが見られないからである。 かつて新米教師だった頃、語学研修という事で2週間程イギリスに行ったが、機械音痴の真紅はその間のくんくんの録画に失敗した。 それが原因で海外旅行はもとより、国内の旅行も日帰りか放送の無い日に1泊2日程度のものしか行かなくなったのだ。 ラ「そうなると・・・誰でしょうか?」 蒼「雪華綺晶先生です」 蒼星石の言葉にラプラスはしばし考えた後、ポンと手を叩く。 ラ「なるほど、確か彼女は以前アメリカに住んでいましたね」 蒼「ええ、彼女なら向こうに行っても大丈夫だと思います」 ラ「・・・分かりました。では、彼女を呼んできましょう」 ラプラスは職員室のマイクから校内放送で雪華綺晶を呼び、やってきた彼女にこれまでの経緯を説明した。 雪「そういう事なら喜んで。久しぶりに向こうのご飯も食べたいですし」 快く承諾した雪華綺晶の指示で蒼星石は旅行に必要な物を取り揃える。 蒼「ええと・・・パスポートOK、クレジットカードOK、トラベラーズチェックOK、着替え・歯ブラシ・ハンカチ・ちり紙OK」 一つ一つ向こうに持っていく物の確認をしていく。ちなみにトラベラーズチェックとは言わば旅行用の小切手である。 蒼「携帯も持っていかないと・・・そう言えば、向こうで充電できるのかな?」 基本的に日本と海外とではプラグの形も違えば電圧等も異なっている。 日本で使用される事を前提とした電気機器では故障の原因にもなりかねない。早速雪華綺晶に電話をする。 雪「アメリカは日本とは電圧が違うだけだから、変圧器を持っていけば大丈夫」 蒼「そうなんだ。どこで売ってるかな?」 雪「持ってるから大丈夫」 蒼「あ、そうなんだ。じゃあ、それで大丈夫だね」 やはり頼んで正解だった。蒼星石はそう思いながらスーツケースに荷物を入れていく。 蒼「これで良し・・・と、後は出発を待つばかりか。なんだか子供の頃の遠足の前日みたいだよ、眠れるかな?」 などと考えながらベッドに入る。流石に子供の頃とは違って、すぐに寝入ってしまった。 翠「蒼星石、蒼星石!アメリカ行っちまうって本当ですか?!」 蒼「うん、そうだよ」 翠「私を置いていく気ですか?!一生、一緒に居ようって言ったのは嘘だったですか?!」 蒼「そんな事言って無いと思うんだけど・・・それに、移住じゃなくて研修だし」 翠「研修・・・?」 蒼「昔の教え子なんだけど、その子がアメリカに留学して今度研究を向こうで発表するみたいなんだ」 翠「それが蒼星石と何の関係があるんですか?」 蒼「その子がね『学会みたいな堅苦しい所じゃなくて、最新の映像技術のイベントみたいな物ですから見に来ませんか?』ってメールを送ってきてね」 翠「それで行くんですか?」 蒼「そういう事。最新の技術を知る事は情報の授業にも役立つだろうし、教頭先生には既に許可も貰ってるよ」 翠「だったら、翠星石も・・・」 蒼「行くの今日だから、今からじゃ間に合わないよ」 翠「そんなぁ、あんまりですぅ・・・」 蒼「お土産買って来るから、あんまり落ち込まないで」 雪「では、行きましょうか」 薔「・・・お姉ちゃん、蒼星石先生に迷惑かけちゃダメだよ?」 雪「分かってる」 蒼・雪「では、行って来ます」 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・ここから、私が・・・すこし解説するね・・・本編の補足とかだから・・・読まなくても、大丈夫だよ・・・でも、ちょっとは読んでね」 ---- *出発 電話で予約しておいたタクシーに乗って、空港へ直行する便のある駅へと向かう。 駅に着くと、早速雪華綺晶は駅弁を買いに走った。 雪「お待たせしました」 両手に駅弁の入った袋を持って戻ってくる。 蒼「荷物持てるの?」 雪「ご心配なく」 やがて電車がホームに着き、二人はそれに乗り込む。 蒼星石は到着まで1時間ほどかかると知って、少し眠る事にした。雪華綺晶は買って来た駅弁を食べ始める。 目を覚ました時、目の前には空になった弁当箱と満足そうに眠る雪華綺晶の姿があった。 空港に到着後、早速搭乗手続き行う。パスポートを機械に読み込ませ、座席の確認や預ける荷物の個数を決めて、スーツケースを預ける。 それとは別に貴重品などを入れた手荷物などの荷物検査も行っていく。 職員「はい、大丈夫です」 蒼星石は検査を無事通過し、雪華綺晶が来るのを待っていた。 やがて雪華綺晶の番が回ってくる。 職員「すみません、ちょっとこちらに来てもらえますか?」 職員に呼び止められ、検査場脇に連れて行かれる。 蒼(まさか・・・いつもの様に銃を持ち込んだんじゃ・・・) 蒼星石の心配をよそに、何食わぬ顔で雪華綺晶は戻ってきた。 蒼「どうしたの?」 雪「どうやら、荷物に問題があったようです」 蒼「何を持ってきたのさ・・・」 雪「枕です。枕が替わると眠れないから・・・」 蒼「あ、そうなんだ。良かった・・・」 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・空港には、出発の1時間半ぐらい前までに行きましょう・・・搭乗手続きに時間が掛かるし、出発時刻が変更になるかも知れないから・・・    それと・・・預ける荷物には、鍵は開けておいた方が良いよ・・・荷物に何らかの問題があった時、閉じたままだとこじ開けられちゃうかも知れないから・・・」 ---- 手続きが終わった後、搭乗までしばらく時間があったので、カフェで軽食を取ることに。 珈琲を飲みながらスコーンを食べる蒼星石。全品1個ずつ食べる雪華綺晶であった。 食事後搭乗ゲートへと向かい再び荷物検査を受ける。雪華綺晶はここでも引っかかっていた。 そしていよいよ飛行機へと乗り込む。 席は隣同士で蒼星石は窓側、雪華綺晶は通路側だった。 出発を直前に緊張している蒼星石とは対照的に、隣り合った人と会話している雪華綺晶。 やがてゆっくりと飛行機は動き出した。まずは滑走路へと動き出した。 機内に備え付けのスクリーンに避難器具の使用方法を示す画像が映し出される。 滑走路に到着した飛行機は、轟音を響かせて滑走路を走り出す。 離陸した瞬間、蒼星石はシートに押さえつけられたように感じた。 いよいよ二人の旅が始まった。まずは中継地であるアメリカ・デトロイトまで11時間16分のフライトである。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・ついに出発したね・・・飛行機のシートには色々なクラスが有るけど・・・二人が乗ったのはエコノミークラス・・・    エコノミークラス症候群、なんて言葉もあるけど・・・これは長時間座席に座っている事で、膝裏の静脈の血が塞がれてしまい    それが固まりになってしまう病気・・・また、飛行機の中は乾燥してるから・・・すぐに体内の水分が無くなっちゃう」 水「対処法としては、小まめな水分補給と立てるなら立つのが良いわぁ。もし立てない状況なら、両足のかかとを上下させるのも良いわよぉ」 薔「・・・あ、銀ちゃん・・・それと、良く機内でとか降りた後すぐに罹るってイメージだけど・・・旅行後1週間以内でも起きるから    要注意・・・でも、ちゃんと予防できる病気だから・・・しっかり予防して、楽しい旅にしようね」 ---- 飛行機は離陸後、大きく旋回しながら高度を上げていく。 蒼星石は徐々に小さくなっていく地上を眺め、自分が空を飛んでいるのだという事を実感していた。 それから30分程経った後、天井に備え付けられていたシートベルト着用のランプが消え、 それを合図に客室添乗員が乗客に入国審査用紙を手渡し始めた。 二人は事前に旅行会社から渡されていたので、用紙と同時に手渡されたお菓子と飲み物を飲んでいた。 蒼「飛行機って結構揺れるんだね。映画とかだと乱気流の中じゃないと揺れないから、てっきりそういう物だと思っていたよ」 それからしばらくすると、少し疲れが出たのかうとうとと眠ってしまった。 しばらくした後、ぽんぽんと肩を叩かれて蒼星石は目を覚ます。 横を見ると雪華綺晶が『ご飯どっちにする?』と聞いてきたので、メニューを確認してAを選んだ。 トレイに入った機内食とお茶を受け取り、雪華綺晶と一緒に食べる。 蒼「結構早い夕食なんだね。まだ16時だよ」 そう言って横を見てみると、雪華綺晶は既に食べ終えていた。 その顔は普段とあまり変わらないように見えたが、やはり量が少ないのか物足りなさそうな表情だった。 蒼「・・・もし良かったら食べる?」 雪「喜んで」 蒼星石はパンとバターを手渡すと、雪華綺晶はぺろりと平らげてしまった。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・飛行機で最も楽しみな物の一つが・・・機内食だよね・・・・・・『チキン オア ビーフ?』は有名だけど・・・    最近は種類も豊富で、美味しい物ばかり・・・機内食で検索したら、写真つきで紹介してたページが有ったから・・・    良かったら見てみてね」 雪「ちなみに、この時食べたのは和風親子丼とサラダ2種、パンとケーキだ。2つのメニューのうち1つしか選べないのが残念だ」 薔「・・・お姉ちゃんには・・・物足りないかもしれないけど、結構ボリュームあるから・・・普通はお腹一杯になるよ」 水「ついでだけどぉ、入国審査用紙はあらかじめ旅行会社に必要事項を書いてもらった方が楽よぅ。    署名と誕生日、あとYes/Noの質問事項のチェックだけにすればぁ、英語が分からなくても大丈夫でしょう?」 薔「・・・そのチェックも・・・感染症に罹っているとか、動植物を持ってきているとか・・・基本的にNoな物ばかりだから    心配しなくても良いよ・・・」 ---- 食後は満腹感も手伝ってか、二人揃って眠ってしまい、気が付くと周りは既に室内の明かりを消して眠る者、 本を読む者、スクリーンで上映されている映画を楽しむ者達に分かれていた。 蒼星石はふと日本にいる皆の事を思いやる。 蒼「皆、何してるのかなぁ・・・?」 夏休みとは言え、あの有栖学園が平穏無事に終わる1日なんて無い。 水銀燈先生はまたサボってるんじゃないだろうか?金糸雀先生は実験に失敗していないだろうか? 真紅先生はくんくんを見ながら紅茶でも飲んでいるのだろうか?雛苺先生はやっぱり苺大福を食べているのかな? 薔薇水晶先生は多分大丈夫だろう、校長が悪さでもしない限り・・・。 そして、唯一無二の親友の事を想う。多分大丈夫だと思うけど、ちょっと心配。 普段皆の抑え役だった所為か、そんな事ばかり考えてしまう。 蒼「これもちょっとした職業病・・・かな?」 と、軽く苦笑いした所で再び眠気が襲ってきたので、ゆっくりと瞼を閉じる。 蒼「お休みなさい・・・」 程なくして、可愛らしい寝息が聞こえてきた。 雪「うぅ・・・ばらしー、おなかすいたぁ・・・ムニャムニャ・・・」 次に目を覚ました時、蒼星石は窓から見た光景に興奮を隠し切れなかった。 遥か彼方の地平線は朝焼けに染まり、眼下には雲海が広がり、更にその下には広大な大地が見えていた。 隣で気持ち良さそうに寝ている雪華綺晶を起こさないように、蒼星石はその景色をずっと眺めていた。 それから大分経った後、朝食を摂って休む。時計を見ると後2時間程で着くようだ。 その2時間を簡単なレッスンをして過ごす。 税関を通る際のやりとり、荷物の受け取り、再チェック等を雪華綺晶から教わった。 雪「蒼星石先生、滞在理由を聞かれたらこう答えてください。・・・コンバット!」 蒼「いくらなんでも、それ言ったら即逮捕だと思うよ」 雪「冗談です」 蒼(冗談に聞こえなかったんだけど・・・) 飛行機はデトロイトのメトロポリタン国際空港に着いた。 ここで乗り換えてボストン行きの便に乗ることになる。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・初めての海外旅行で、緊張するのが入国審査・・・でも、審査官は慣れているから英語が出来なくても大丈夫・・・    でも、せめて滞在先と滞在理由、滞在期間ぐらいは言えるといいね・・・滞在先は町の名前・・・観光だったらSightseeing    ビジネスならBusiness・・・滞在期間も3日間なら3daysとか言えば大丈夫」 薔「・・・ちなみに・・・その時、両手の人差し指の指紋採取と写真撮影が有るから・・・ちゃんと受けてね」 金「ついでに雪華綺晶先生の台詞は劇場版パトレイバーの1作目からかしら~」 ---- 次の飛行機が来るまでの間、二人は到着後にどうやってホテルに行くかを相談していた。 雪「ホテルへは地下鉄を使って向かいましょう」 蒼「地下鉄?大丈夫かな?」 雪「一時期に比べたら大分マシになりました」 蒼「乗換えとかは?」 雪「間違えなければ大丈夫かと。路線も5本しかありませんから」 二人はボストン行きの飛行機へと乗り込む。 蒼「次はそんなにかからないね」 雪「1時間半ほどですね。着いたら結構歩くかもしれませんし、休んでおきましょう」 蒼「そうだね」 飛行機は二人を乗せてボストンへと飛んでいった。 ボストンの空港に着いた飛行機から、耳を押さえた蒼星石が降りてきた。 蒼「耳がちょっと痛いや」 上昇中ならびに下降中に気圧の差によって起こる現象で、耳の奥がつーんと痛くなるのだ。 電車に乗って長いトンネルへと入ると耳が痛くなるが、これと同じような物である。 二人は空港の荷物受け渡し所へとやってきた。 やがてベルトコンベアが動き出し、預けた荷物が出てきた。 蒼「あれ?僕たちの荷物が見当たらないね」 雪「まだ届いてないだけかと」 しかし、しばらく経ってもまだ出てこなかった。 蒼「まさか、荷物に手違いがあったんじゃ・・・」 旅行中のトラブルで良くある事の一つである。しかし、慌てる蒼星石とは対照的に気楽に待ち続ける雪華綺晶。 それから10分程して、ようやく荷物が出てきてほっとする蒼星石であった。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・海外旅行中に一番困るのが・・・荷物の紛失・・・誤って違う便に載せられちゃったら大変・・・もし、そんな事になったら    税関を出る前に航空券と出発前に渡された荷物引換証(クレームタッグ)を・・・到着地の航空会社のスタッフに見せて・・・    それでもダメな時は一定の金額が補償されるけど・・・高価な物は事前に保険をかけておくのも、一つの手だよ・・・」 ---- *滞在1日目 荷物を受け取った二人はインフォメーションセンターからの情報をもとにシャトルバスへと乗り込む。 5分後、空港近くの駅へとやってきたバスを降り、券売機で切符を購入した。 蒼「大きいんだね」 切符を見た蒼星石は素直な感想を述べる。 日本のそれとは異なり、大きさはテレホンカードほどで、しかも最初の改札で使用した後は不要という物であった。 空港の駅から乗り継いでホテル近くの駅へと移動するのだが、二人はそこで現地の女性達とすれ違った。 蒼「うわ、大胆・・・」 ここでも蒼星石は驚かされた。確かに夏真っ盛りで暑いのだが、彼女達の上は水着姿だった。 それが集団で地下鉄の駅に居たのだ、驚くのも無理はなかった。 蒼「やっぱり日本とは違うんだね」 雪「まあ、銀姉様の足下にも及びませんが」 蒼「・・・あの人は別格だからね」  (水『クシュン、クシュン!・・・夏かぜかしらぁ?』) 電車を降りて駅を出た二人は地図を片手に道沿いを歩く。 時刻は既に17時を近いのだが、気温は30度近く、二人の体から汗が吹き出ていた。 10分後、目的のホテルへと到着した二人は早速チェックインを済ませる。 雪華綺晶は手馴れた様子で済ませていくのを蒼星石はぼーっと見ていた。 雪「どうかしましたか?」 蒼「雪華綺晶先生が付いて来てくれて助かったなぁって」 渡されたカードキーでドアを開けて入る。 蒼「ふぅ、ようやく着いたね」 二人はスーツケースを開けて中の荷をチェックし、服などをクローゼットのハンガーにかけていった。 整理が終わった所でお腹がすいたので、外へ出て食事をしにいく。 ホテルの前にショッピングモールがあったのでそこに立ち寄る。 蒼「皆のお土産は最後にここで買っていこうかな」 靴屋や電気店、本屋といった中の一角にゲームショップを見かけたので覗いてみる。 そこには日本でも有名なゲーム機やゲームソフトなどが並べられていた。 蒼「やっぱり、日本のゲームも結構売られているんだね・・・・・・どうしたの?」 辺りをキョロキョロと見渡す雪華綺晶を尋ねる。 雪「・・・いえ・・・その、ゲーム売り場は危険ですので・・・」 蒼「は?」 一通り回った後、イタリア料理の店へと入った。 蒼「アメリカの料理って量が多いんだよね。食べきれるかな」 雪「お任せください」 右手で自分の胸を叩く雪華綺晶。その瞳は期待で満ち溢れていた。 蒼「ははは・・・そうだったね」 その後パスタを頼んだのだが、どうやらその店の記録を樹立したらしく、店中が大騒ぎになっていた。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・蒼星石先生も言ってるけど・・・アメリカのお料理は量が多いの・・・何でも原価が安いから、多めに出した方が良いらしいの    ・・・それと気をつけなきゃいけないのがチップ・・・日本だとサービスは全部料金に含まれてる物だけど・・・欧米だと    別途チップを払う必要があるよ・・・ウェイトレスさんとかは基本的に時給が安いの・・・それはこのチップが考慮されてるからね」 薔「・・・馴染みが無い分・・・いくら払えば良いか分からないかもしれないけど・・・レストランとかだと、合計がきりの良い額になるように    調整すると良いよ・・・基本的には代金の10~20%かな・・・タクシーだと15%ほど・・・ホテルなら1泊1ドルで良いよ」 ---- ホテルに戻ってから旅の汗を流すためにバスルームに順に入る。 先に入った蒼星石はテレビをつけて適当にチャンネルを変えてると、見慣れた光景の番組を見つけた。 セットの中央に座る二人の人物、画面の下には問題文とA~Dの回答、そして日本で見た時の司会と良く似た司会者・・・。 蒼「そっか・・・あの番組の元はこの番組だったんだ」 他にも日本のアニメも流れていて、飽きる事はなかった。 蒼「そうだ、翠星石に着いたことの連絡をしておこう」 時差を確認すると、日本ではほぼ12時間差なので携帯から電話をかける。 ワンコールで出てきた。 翠『もしもし、蒼星石ですか!?』 蒼「うん、そうだよ。そっちだとおはようかな?」 翠『おはようですぅ。もうそっちは着いたですか?』 蒼「うん。さっきご飯を食べてきたところだよ」 翠『何事も無かったですか?怪我とか病気とかしてねーですか?』 蒼「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」 翠『当然ですぅ。でも、気をつけるですよ。いつ、何が起こるかわかんねーです』 蒼「そうだね、気をつけるよ」 翠『例えば、飛行機内で「起こさないでやってくれ、彼は死ぬほど疲れてるんだ」って言う筋肉マッチョの変態野郎に襲われるとか』 蒼「・・・?」 翠『ゲームセンターで遊んでたらいかつい大男が現れて、やってきた警官と銃撃戦を繰り広げるとか、しかもそれが両方ともロボットとか』 蒼「あの、翠星石?」 翠『心配で心配で仕方ねーですぅ』 蒼(映画を見て、それに影響されたんだろうな・・・) その後も、ビルの間をピョンピョン飛んでいく蜘蛛男とか、公衆電話からマントをつけた男と出てこなかったかとかを聞いてくる 翠星石を適当に相手をしながら蒼星石は日本の様子を尋ねる。 翠『こっちは特に問題はねーですぅ。』 蒼「そうかい。それは良かった、僕も気になってたんだよ」 翠『相変わらず、蒼星石は心配性ですぅ。だから、今回ばかりは皆忘れてパァーッと楽しんでくるですよ』 蒼「うん、そうさせてもらうよ」 電話を切ってすぐにバスルームから雪華綺晶が出てきた。 雪「誰かと電話していたのですか?」 蒼「うん、翠星石先生とね。雪華綺晶先生も電話しておいた方が良いんじゃないかな?」 雪「そうですね」 雪華綺晶も携帯を取り出し、電話をかける。 相手はおそらく薔薇水晶だろう。幾分楽しそうに会話している。 話はやがてローゼンへと変わっていく。声色が多少険しい物へと変わっていく。 雪「それじゃ、ばらしーお休み」 薔『・・・お休み、お姉ちゃん』 通話を切って、充電器に取り付ける。 雪「・・・・・・帰ったら相応の礼をしなければならないようだな」 ぼそりと呟いた言葉を蒼星石は聞かなかった事にした。 蒼「それじゃあ、今日はもう疲れたし、早めに寝ようか」 二人は別々のベッドに入る。その時、雪華綺晶は備え付けの枕をどかして自前の枕を置く。 蒼「それじゃおやすみ」 雪「お休みなさい」 部屋の電気を消す。かくしてアメリカでの最初の夜は更けていった。 *滞在2日目 二日目の朝は目覚まし時計のアラームから始まった。日本のそれよりも遥かに大きな音のため、眠気が吹き飛んでしまった。 カチッ・・・。 蒼「おはよう・・・」 雪「・・・・・・おはようございます」 蒼「・・・後ちょっと止めるのが遅かったら撃たれてたよ・・・というか、その銃どこから?」 雪「昨晩、別ルートから輸送させていたのが届いたとの連絡が有ったので受け取ってきました」 蒼「そうなんだ・・・」 簡単に身支度を済ませ、ホテル1階にあるカフェへと向かう。 カフェではパンやマフィン、コーヒーなどを取ってテーブルへと移動する。 蒼「朝からよく食べるね」 少しゲンナリした表情でテーブルに置かれたパンの山を見つめる。 雪「朝はしっかり食べないと」 さも当然といった表情でトーストにクランベリーのジャムを塗りつけていく。 食べ始めてから数分後、蒼星石はある事に気付く。 蒼「こっちの人って、朝はあまり食べないんだね」 周りの人を見ると、パン1個とコーヒー、ヨーグルトと紅茶などが多かった。 雪「アメリカの朝食はパンなどの穀類、ベーコンやソーセージ、コーヒーやジュースの3種ぐらい」 蒼「そうなんだ、日本だと朝はしっかり食べるんだけどね」 納得すると同時に朝食券の意味に気付く。 それと言うのも、チェックインの時に渡された朝食券は11ドルまでなら無料という物だったからだ。 あまり食べないというのなら、その額でも納得できるのだ。ただ・・・。 蒼(二人合わせて11ドルは足りないなぁ・・・まして・・・) 雪華綺晶の方を見る。超過分は別料金としてホテル代に上乗せさせたが、チェックアウトする頃には200ドルぐらい増えていそうだ。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・お姉ちゃんも言ってるけど、一般的な朝食は3種類だけ・・・パンの代わりにシリアルを食べていたりもするよ・・・    ただ、日本と違うのは・・・甘い物がとても多いの・・・朝からパンケーキにバターやシロップを沢山かけたり・・・ちょっときついね    また卵料理も重要な要素・・・基本的に朝しか食べないみたいで・・・『卵が出てたら朝食』って考え方も有るみたい」 翠「それで朝っぱらから目玉焼きとステーキなんてふざけたメニューを食ってる奴も居るです。ちったぁ、健康考えやがれですぅ」 ---- 朝食を終えた後、部屋に戻って着替えなどを済ませてホテルを出る。 前日降りた駅から電車に乗り、1回乗り換えてイベントが行われる会場近くの駅であるサウスステーションへと向かう。 蒼「今日も暑くなりそうだね」 雪「先程天気予報で87度まで上がると言っていました。ですが、風も強いので幾分過ごしやすいかと」 駅を出た二人は地図を頼りに会場へと近づく。 目印にしていた橋に近づくと、その川の広さに驚く。 蒼「広い川だなぁ。それに海からの風かな、涼しくて気持ち良い」 雪「いえ、ここは水路。かつては工場や倉庫への水運の要所として栄えていました」 蒼「あ、そうなんだ・・・かつてはって事は今は違うの?」 雪「海運業や造船業の衰退や高架高速道路などが出来た事で一時期は廃れてましたが、最近では再開発が行われているようです」 蒼「へえ~」 橋を渡り終えてからしばらくすると、今回のイベントが行われる会場であるBoston Convention and Exhibition Center(BCEC)が見えてきた。 蒼「あれかな?・・・うわ、大きい」 近づくとその大きさが良く分かった。 建物の高さはちょっとした体育館より高く、それが縦に何個も並んだかのような大きい建物だった。 中に入ってみると、既に多くの人が来ていた。 蒼「もう始まってるんだ」 雪「昨日から始まっているみたい、今日も8時半から始まっているとか。それと、これはリサーチポスターという奴みたい」 プログラムを眺めながら雪華綺晶は言う。 入り口から入ってすぐのメインロビーにはずらりとポスターが掲示されていた。 内容はCGアニメーション制御に関するものや、ステレオ画像を解析して物体までの距離を測定するもの等の研究が発表されていた。 二人は早速ポスターを順番に見ていく。規模だけ見ると100枚は越えていた。 蒼星石はポスターを読んで分からない所が有ると雪華綺晶に読んでもらい、雪華綺晶は技術的に分からない所は蒼星石に質問して回る。 そんな風にして半分ぐらい読み終えた頃、二人に近づいてきた者がいた。 ?「あの・・・もしかして蒼星石先生ですか?」 蒼「え?・・・え~っと・・・あ、もしかしてK君?」 K「はい、やっぱり蒼星石先生でしたか、お久しぶりです。もしやとは思ったんですけど、そういう格好だから違うかと思いましたよ」 蒼星石はKに言われて自分の服装を見る。いつもの活動的な格好とは異なり、スーツ姿で来ていたのだ。 周りを見ると、むしろこっちの方が浮いていた。 K「だから堅苦しくないって言ったのに」 蒼「だって・・・研究発表って言うから、それなりの格好しないとって思って・・・」 K「でも良いですよ。そんな先生を見る事が出来ただけでもラッキーですよ」 蒼「もう・・・」 少し頬を膨らませるが、すぐに気を取り直す。 K「ところで、そちらの方は?」 蒼「ああそっか、君が居た頃はまだ居なかったね。彼女は今、僕と一緒に学校の教師をしている雪華綺晶先生だよ」 雪「はじめまして、雪華綺晶です」 K「こちらこそ、Kって言います」 紹介もそこそこに、蒼星石はKに訊ねる。 蒼「ところでK君、君の発表は?」 K「ああ、それなら明日からですよ。ポスターセッションですから既にポスター自体は貼ってありますけど。何なら見ます?」 蒼「うん、お願い」 K「喜んで」 Kが発表しているポスター前へと移動し、一通り説明を受ける。 その後、Kに質問を投げかける。その的確な問いに内心舌を巻きながらもKは答えていく。 K「うぅ、昔からそうだったけどやっぱり手厳しいなぁ」 蒼「でも、頑張っているみたいだね。嬉しいよ」 K「そう言ってもらえると光栄ですよ」 K「もし良かったら、一緒に回りませんか?案内しますよ」 蒼「良いのかい?」 K「折角招待したのに、放っておく訳にはいかないじゃないですか」 蒼「雪華綺晶先生、良いかな?」 雪「構いません」 蒼「それじゃ、よろしく頼むよ」 K「では、早速行きましょうか。いやぁ、両手に華とはこの事だなぁ」 蒼「K君、口の方も上手になったんじゃない?」 K「こっちの女の子は積極的じゃないと振り向いてもらえませんからね」 蒼「ふふふ」 Kを交えた3人で会場を回っていく。流石にイベントというだけ有って、実際に触ったりして体験できる所も多く大いに楽しんだ。 例を挙げると、デジカメで写真を撮って、その画像を基に絵画風にレタッチするソフトウェアのデモンストレーションが有り、 蒼星石と雪華綺晶は実際に写真を撮ってもらい、お土産として印刷された画像を貰った。 他にも、テーブルの上に置かれたコマを動かす事でモニター内の映像が切り替わる物などがあり、二人を楽しませた。 蒼「すごいね、1日居ても飽きないよ」 K「実際は1日だけじゃ回りきれませんけどね」 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・本編では大分省略したけど・・・他にもこんな出展物が有ったよ・・・出展者のサイトの方が詳しいと思うけど」 ttp://www.siggraph.org/s2006/main.php?f=conference&p=etech 蒼「それと、僕達が写真を撮ってもらった所のサイトも挙げとくね」 ttp://market.renderosity.com/news.php?viewStory=13190 ---- Kと別れた二人は会場を後にして観光をする事にした。 蒼「ここからはウォーターフロントが近いし、今日はそこに行こうよ」 雪「そうですね。ホテルに戻る時間を考えるとそれが賢明かと」 二人は茶会事件が有った場所へとやってきた。BCECから最も近い史跡であった。 蒼「ここがあの有名な茶会事件のあった場所だね」 雪「まだアメリカがイギリスの植民地だった頃、イギリス本国で東インド会社を助けるために植民地に対して茶の販売独占権を与えました」 蒼「たしか、それに怒った人たちが先住民に扮して船に乗り込み、お茶の入った箱を海に投げ捨てたんだよね」 雪「詳細はひとくちメモに回すとして、その結果イギリス本国との対立が深まり、その後の独立戦争へのきっかけの一つとなりました」 蒼「でもお茶を海に投げ捨てるなんて、真紅先生だったらなんて言うかな?」 雪「如何に紅茶が素晴らしいかを、1日中説教しているのでは?」 (真「くしゅん・・・夏風邪?」) ---- きらきーのひとくちメモ: 雪「ひとくちで終わらないが、事件の背景を追っていく。そもそも、この事件には茶税という重税が深く関わっている。    この税が制定された理由は北米での主導権争いとなったフレンチ・インディアン戦争によって抱えた借金を解消するために    1767年に茶・ガラス・紙等に関税をかけるタウンゼント諸法が原因だ。アメリカでは当然だがこの法律に関して反対運動が    巻き起こり、その中でボストン虐殺事件なども起き、イギリスは茶税を残して撤廃した」 雪「しかし、イギリスは1773年に茶法を制定し、茶税逃れのための密輸入を禁じ、東インド会社に販売独占権を与えた。    ちなみにこの時の価格は市場の半額だったが、後々の貿易品の販売独占のための布石ではないのか?そもそも茶税に関して    反対なのに、課税後も安いお茶を買ったら容認してしまう事になるのでは?という恐れから反対運動を行った。    1773年12月、茶会事件はそんな反対運動の中で起きた事件だ」 雪「この時捨てられた茶箱は342箱、被害総額は100万ドルとも言われている。ただ、この事件はアメリカ側でも賛否両論で    ベンジャミン・フランクリンが私財で賠償しようとしていたという」 雪「イギリスはこれに対して、翌年ボストン港の閉鎖、マサチューセッツの自治権剥奪などの措置を取る。    これに対抗し、9月にはフィラデルフィアで植民地の代表が会議を行い、本国の植民地に対する立法権の否認、    イギリス本国の経済的断交を決議した。こうした緊迫した状況の中、1775年4月独立戦争が勃発した」 薔「・・・ちなみに、アメリカ人はコーヒーが好きだけど・・・そうなったのもこの茶税に反対してた時の名残なの・・・」 ---- 二人はそのままコロンブス・ウォーターフロント公園まで歩いていき、本場のホットドッグとハンバーガーを堪能してホテルへと帰っていった。 蒼「Oh my godって本当に言うだね」 雪「驚いた時の言葉ですから」 蒼「ま、普通は驚くよね。ホットドッグ30本、ハンバーガー26個食べたら」 雪「至って普通だと思うのですが・・・」 『どこの世界で?』と突っ込みたい蒼星石であった。 その日はそのまま休む事にして、二日目の夜は更けていった。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・ウォーターフロントは・・・ボストンでも人気の地域・・・昔は倉庫街だったみたいだけど・・・今では公園や水族館、博物館とか    色々あって、楽しい所だよ・・・地図でも示しておくね」 茶会事件のあった場所 ttp://maps.google.com/maps?q=300+Congress+St+Boston,+MA+02210&spn=0.020880,0.029639&hl=ja コロンブス・ウォーターフロント公園 ttp://maps.google.com/maps?q=296+State+St+Boston,+MA+02109&spn=0.005219,0.007410&hl=ja ----
*出発前 夏休みの始まる半月ほど前、蒼星石宛に一通のメールが届いた。 送り主のアドレスを見ると『.us』で海外から来ていた。 授業用のメールアドレスなので、海外から来る事はまず有り得なかった。 蒼(念のためウィルスチェック・・・・・・問題無し・・・あれ、この送り主の名前って・・・) 蒼星石は卒業生の名簿のファイルを開いて名前を検索する。 その結果、数年前に卒業した生徒の名前と一致した。 早速メールを開き、内容を確認する。 確かに送り主はその卒業生だった。高等部卒業後は大学へと進学し、3年の夏からアメリカの大学に留学しているのだという。 蒼「留学するなんてすごいなぁ」 感心しながら読み進んでいく。かつての教え子が活躍しているのを聞くと、教師として鼻高々である。 蒼「・・・で、ついては今度行われるイベントに来られませんでしょうか・・・え?これって・・・」 蒼星石はこのメールの用件に気付いた。 要約すると、ボストンで行われるイベントにて自分の研究を発表するから、ぜひ見に来て欲しいという内容だった。 メールの最後の方にそのイベントの公式ホームページのURLが書かれている。 そのイベントの名前は蒼星石も知っていた。世界でも有名な映像技術関連のイベントである。 確かに一度は行って見たいとは思っていたが、海外でやっている事・参加費が結構高いというのも有って、中々行く事ができなかった。 蒼「とりあえず、教頭先生に相談・・・かな」 ラ「宜しいんじゃないでしょうか。なんなら、研修という形で幾らか旅費を出すように手配しましょう」 教頭に話をした所、あっさり答えが返ってきた。 蒼「良いんですか?」 ラ「ええ。他の先生方ならいざ知らず、貴女ならちゃんと吸収して来られるでしょうし」 蒼「はあ・・・」 ラ「我が校の卒業生が世界を舞台に活躍する・・・教師冥利に尽きる話です。彼を励ますためにも行かれては如何でしょうか?」 蒼「分かりました。では、早速なんですけどお願いが・・・」 ラ「旅費・・・ですね?」 蒼「それもなんですけど、海外に行った事無いから誰かと一緒に行こうと思うのですが」 ラ「なるほど・・・・・・翠星石先生ですかな?」 ラプラスは彼女の親友の名を挙げた。しかし、蒼星石は首を横に振る。 蒼「いえ・・・彼女も海外は初めてでしょうし、できれば経験が豊富な人が」 ラ「となると、真紅先生ですか?」 蒼「いえ、彼女は海外旅行は嫌いですから」 英語教師にも関わらず、真紅は海外旅行が嫌いだった。理由は単純、くんくんが見られないからである。 かつて新米教師だった頃、語学研修という事で2週間程イギリスに行ったが、機械音痴の真紅はその間のくんくんの録画に失敗した。 それが原因で海外旅行はもとより、国内の旅行も日帰りか放送の無い日に1泊2日程度のものしか行かなくなったのだ。 ラ「そうなると・・・誰でしょうか?」 蒼「雪華綺晶先生です」 蒼星石の言葉にラプラスはしばし考えた後、ポンと手を叩く。 ラ「なるほど、確か彼女は以前アメリカに住んでいましたね」 蒼「ええ、彼女なら向こうに行っても大丈夫だと思います」 ラ「・・・分かりました。では、彼女を呼んできましょう」 ラプラスは職員室のマイクから校内放送で雪華綺晶を呼び、やってきた彼女にこれまでの経緯を説明した。 雪「そういう事なら喜んで。久しぶりに向こうのご飯も食べたいですし」 快く承諾した雪華綺晶の指示で蒼星石は旅行に必要な物を取り揃える。 蒼「ええと・・・パスポートOK、クレジットカードOK、トラベラーズチェックOK、着替え・歯ブラシ・ハンカチ・ちり紙OK」 一つ一つ向こうに持っていく物の確認をしていく。ちなみにトラベラーズチェックとは言わば旅行用の小切手である。 蒼「携帯も持っていかないと・・・そう言えば、向こうで充電できるのかな?」 基本的に日本と海外とではプラグの形も違えば電圧等も異なっている。 日本で使用される事を前提とした電気機器では故障の原因にもなりかねない。早速雪華綺晶に電話をする。 雪「アメリカは日本とは電圧が違うだけだから、変圧器を持っていけば大丈夫」 蒼「そうなんだ。どこで売ってるかな?」 雪「持ってるから大丈夫」 蒼「あ、そうなんだ。じゃあ、それで大丈夫だね」 やはり頼んで正解だった。蒼星石はそう思いながらスーツケースに荷物を入れていく。 蒼「これで良し・・・と、後は出発を待つばかりか。なんだか子供の頃の遠足の前日みたいだよ、眠れるかな?」 などと考えながらベッドに入る。流石に子供の頃とは違って、すぐに寝入ってしまった。 翠「蒼星石、蒼星石!アメリカ行っちまうって本当ですか?!」 蒼「うん、そうだよ」 翠「私を置いていく気ですか?!一生、一緒に居ようって言ったのは嘘だったですか?!」 蒼「そんな事言って無いと思うんだけど・・・それに、移住じゃなくて研修だし」 翠「研修・・・?」 蒼「昔の教え子なんだけど、その子がアメリカに留学して今度研究を向こうで発表するみたいなんだ」 翠「それが蒼星石と何の関係があるんですか?」 蒼「その子がね『学会みたいな堅苦しい所じゃなくて、最新の映像技術のイベントみたいな物ですから見に来ませんか?』ってメールを送ってきてね」 翠「それで行くんですか?」 蒼「そういう事。最新の技術を知る事は情報の授業にも役立つだろうし、教頭先生には既に許可も貰ってるよ」 翠「だったら、翠星石も・・・」 蒼「行くの今日だから、今からじゃ間に合わないよ」 翠「そんなぁ、あんまりですぅ・・・」 蒼「お土産買って来るから、あんまり落ち込まないで」 雪「では、行きましょうか」 薔「・・・お姉ちゃん、蒼星石先生に迷惑かけちゃダメだよ?」 雪「分かってる」 蒼・雪「では、行って来ます」 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・ここから、私が・・・すこし解説するね・・・本編の補足とかだから・・・読まなくても、大丈夫だよ・・・でも、ちょっとは読んでね」 ---- *出発 電話で予約しておいたタクシーに乗って、空港へ直行する便のある駅へと向かう。 駅に着くと、早速雪華綺晶は駅弁を買いに走った。 雪「お待たせしました」 両手に駅弁の入った袋を持って戻ってくる。 蒼「荷物持てるの?」 雪「ご心配なく」 やがて電車がホームに着き、二人はそれに乗り込む。 蒼星石は到着まで1時間ほどかかると知って、少し眠る事にした。雪華綺晶は買って来た駅弁を食べ始める。 目を覚ました時、目の前には空になった弁当箱と満足そうに眠る雪華綺晶の姿があった。 空港に到着後、早速搭乗手続き行う。パスポートを機械に読み込ませ、座席の確認や預ける荷物の個数を決めて、スーツケースを預ける。 それとは別に貴重品などを入れた手荷物などの荷物検査も行っていく。 職員「はい、大丈夫です」 蒼星石は検査を無事通過し、雪華綺晶が来るのを待っていた。 やがて雪華綺晶の番が回ってくる。 職員「すみません、ちょっとこちらに来てもらえますか?」 職員に呼び止められ、検査場脇に連れて行かれる。 蒼(まさか・・・いつもの様に銃を持ち込んだんじゃ・・・) 蒼星石の心配をよそに、何食わぬ顔で雪華綺晶は戻ってきた。 蒼「どうしたの?」 雪「どうやら、荷物に問題があったようです」 蒼「何を持ってきたのさ・・・」 雪「枕です。枕が替わると眠れないから・・・」 蒼「あ、そうなんだ。良かった・・・」 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・空港には、出発の1時間半ぐらい前までに行きましょう・・・搭乗手続きに時間が掛かるし、出発時刻が変更になるかも知れないから・・・    それと・・・預ける荷物には、鍵は開けておいた方が良いよ・・・荷物に何らかの問題があった時、閉じたままだとこじ開けられちゃうかも知れないから・・・」 ---- 手続きが終わった後、搭乗までしばらく時間があったので、カフェで軽食を取ることに。 珈琲を飲みながらスコーンを食べる蒼星石。全品1個ずつ食べる雪華綺晶であった。 食事後搭乗ゲートへと向かい再び荷物検査を受ける。雪華綺晶はここでも引っかかっていた。 そしていよいよ飛行機へと乗り込む。 席は隣同士で蒼星石は窓側、雪華綺晶は通路側だった。 出発を直前に緊張している蒼星石とは対照的に、隣り合った人と会話している雪華綺晶。 やがてゆっくりと飛行機は動き出した。まずは滑走路へと動き出した。 機内に備え付けのスクリーンに避難器具の使用方法を示す画像が映し出される。 滑走路に到着した飛行機は、轟音を響かせて滑走路を走り出す。 離陸した瞬間、蒼星石はシートに押さえつけられたように感じた。 いよいよ二人の旅が始まった。まずは中継地であるアメリカ・デトロイトまで11時間16分のフライトである。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・ついに出発したね・・・飛行機のシートには色々なクラスが有るけど・・・二人が乗ったのはエコノミークラス・・・    エコノミークラス症候群、なんて言葉もあるけど・・・これは長時間座席に座っている事で、膝裏の静脈の血が塞がれてしまい    それが固まりになってしまう病気・・・また、飛行機の中は乾燥してるから・・・すぐに体内の水分が無くなっちゃう」 水「対処法としては、小まめな水分補給と立てるなら立つのが良いわぁ。もし立てない状況なら、両足のかかとを上下させるのも良いわよぉ」 薔「・・・あ、銀ちゃん・・・それと、良く機内でとか降りた後すぐに罹るってイメージだけど・・・旅行後1週間以内でも起きるから    要注意・・・でも、ちゃんと予防できる病気だから・・・しっかり予防して、楽しい旅にしようね」 ---- 飛行機は離陸後、大きく旋回しながら高度を上げていく。 蒼星石は徐々に小さくなっていく地上を眺め、自分が空を飛んでいるのだという事を実感していた。 それから30分程経った後、天井に備え付けられていたシートベルト着用のランプが消え、 それを合図に客室添乗員が乗客に入国審査用紙を手渡し始めた。 二人は事前に旅行会社から渡されていたので、用紙と同時に手渡されたお菓子と飲み物を飲んでいた。 蒼「飛行機って結構揺れるんだね。映画とかだと乱気流の中じゃないと揺れないから、てっきりそういう物だと思っていたよ」 それからしばらくすると、少し疲れが出たのかうとうとと眠ってしまった。 しばらくした後、ぽんぽんと肩を叩かれて蒼星石は目を覚ます。 横を見ると雪華綺晶が『ご飯どっちにする?』と聞いてきたので、メニューを確認してAを選んだ。 トレイに入った機内食とお茶を受け取り、雪華綺晶と一緒に食べる。 蒼「結構早い夕食なんだね。まだ16時だよ」 そう言って横を見てみると、雪華綺晶は既に食べ終えていた。 その顔は普段とあまり変わらないように見えたが、やはり量が少ないのか物足りなさそうな表情だった。 蒼「・・・もし良かったら食べる?」 雪「喜んで」 蒼星石はパンとバターを手渡すと、雪華綺晶はぺろりと平らげてしまった。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・飛行機で最も楽しみな物の一つが・・・機内食だよね・・・・・・『チキン オア ビーフ?』は有名だけど・・・    最近は種類も豊富で、美味しい物ばかり・・・機内食で検索したら、写真つきで紹介してたページが有ったから・・・    良かったら見てみてね」 雪「ちなみに、この時食べたのは和風親子丼とサラダ2種、パンとケーキだ。2つのメニューのうち1つしか選べないのが残念だ」 薔「・・・お姉ちゃんには・・・物足りないかもしれないけど、結構ボリュームあるから・・・普通はお腹一杯になるよ」 水「ついでだけどぉ、入国審査用紙はあらかじめ旅行会社に必要事項を書いてもらった方が楽よぅ。    署名と誕生日、あとYes/Noの質問事項のチェックだけにすればぁ、英語が分からなくても大丈夫でしょう?」 薔「・・・そのチェックも・・・感染症に罹っているとか、動植物を持ってきているとか・・・基本的にNoな物ばかりだから    心配しなくても良いよ・・・」 ---- 食後は満腹感も手伝ってか、二人揃って眠ってしまい、気が付くと周りは既に室内の明かりを消して眠る者、 本を読む者、スクリーンで上映されている映画を楽しむ者達に分かれていた。 蒼星石はふと日本にいる皆の事を思いやる。 蒼「皆、何してるのかなぁ・・・?」 夏休みとは言え、あの有栖学園が平穏無事に終わる1日なんて無い。 水銀燈先生はまたサボってるんじゃないだろうか?金糸雀先生は実験に失敗していないだろうか? 真紅先生はくんくんを見ながら紅茶でも飲んでいるのだろうか?雛苺先生はやっぱり苺大福を食べているのかな? 薔薇水晶先生は多分大丈夫だろう、校長が悪さでもしない限り・・・。 そして、唯一無二の親友の事を想う。多分大丈夫だと思うけど、ちょっと心配。 普段皆の抑え役だった所為か、そんな事ばかり考えてしまう。 蒼「これもちょっとした職業病・・・かな?」 と、軽く苦笑いした所で再び眠気が襲ってきたので、ゆっくりと瞼を閉じる。 蒼「お休みなさい・・・」 程なくして、可愛らしい寝息が聞こえてきた。 雪「うぅ・・・ばらしー、おなかすいたぁ・・・ムニャムニャ・・・」 次に目を覚ました時、蒼星石は窓から見た光景に興奮を隠し切れなかった。 遥か彼方の地平線は朝焼けに染まり、眼下には雲海が広がり、更にその下には広大な大地が見えていた。 隣で気持ち良さそうに寝ている雪華綺晶を起こさないように、蒼星石はその景色をずっと眺めていた。 それから大分経った後、朝食を摂って休む。時計を見ると後2時間程で着くようだ。 その2時間を簡単なレッスンをして過ごす。 税関を通る際のやりとり、荷物の受け取り、再チェック等を雪華綺晶から教わった。 雪「蒼星石先生、滞在理由を聞かれたらこう答えてください。・・・コンバット!」 蒼「いくらなんでも、それ言ったら即逮捕だと思うよ」 雪「冗談です」 蒼(冗談に聞こえなかったんだけど・・・) 飛行機はデトロイトのメトロポリタン国際空港に着いた。 ここで乗り換えてボストン行きの便に乗ることになる。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・初めての海外旅行で、緊張するのが入国審査・・・でも、審査官は慣れているから英語が出来なくても大丈夫・・・    でも、せめて滞在先と滞在理由、滞在期間ぐらいは言えるといいね・・・滞在先は町の名前・・・観光だったらSightseeing    ビジネスならBusiness・・・滞在期間も3日間なら3daysとか言えば大丈夫」 薔「・・・ちなみに・・・その時、両手の人差し指の指紋採取と写真撮影が有るから・・・ちゃんと受けてね」 金「ついでに雪華綺晶先生の台詞は劇場版パトレイバーの1作目からかしら~」 ---- 次の飛行機が来るまでの間、二人は到着後にどうやってホテルに行くかを相談していた。 雪「ホテルへは地下鉄を使って向かいましょう」 蒼「地下鉄?大丈夫かな?」 雪「一時期に比べたら大分マシになりました」 蒼「乗換えとかは?」 雪「間違えなければ大丈夫かと。路線も5本しかありませんから」 二人はボストン行きの飛行機へと乗り込む。 蒼「次はそんなにかからないね」 雪「1時間半ほどですね。着いたら結構歩くかもしれませんし、休んでおきましょう」 蒼「そうだね」 飛行機は二人を乗せてボストンへと飛んでいった。 ボストンの空港に着いた飛行機から、耳を押さえた蒼星石が降りてきた。 蒼「耳がちょっと痛いや」 上昇中ならびに下降中に気圧の差によって起こる現象で、耳の奥がつーんと痛くなるのだ。 電車に乗って長いトンネルへと入ると耳が痛くなるが、これと同じような物である。 二人は空港の荷物受け渡し所へとやってきた。 やがてベルトコンベアが動き出し、預けた荷物が出てきた。 蒼「あれ?僕たちの荷物が見当たらないね」 雪「まだ届いてないだけかと」 しかし、しばらく経ってもまだ出てこなかった。 蒼「まさか、荷物に手違いがあったんじゃ・・・」 旅行中のトラブルで良くある事の一つである。しかし、慌てる蒼星石とは対照的に気楽に待ち続ける雪華綺晶。 それから10分程して、ようやく荷物が出てきてほっとする蒼星石であった。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・海外旅行中に一番困るのが・・・荷物の紛失・・・誤って違う便に載せられちゃったら大変・・・もし、そんな事になったら    税関を出る前に航空券と出発前に渡された荷物引換証(クレームタッグ)を・・・到着地の航空会社のスタッフに見せて・・・    それでもダメな時は一定の金額が補償されるけど・・・高価な物は事前に保険をかけておくのも、一つの手だよ・・・」 ---- *滞在1日目 荷物を受け取った二人はインフォメーションセンターからの情報をもとにシャトルバスへと乗り込む。 5分後、空港近くの駅へとやってきたバスを降り、券売機で切符を購入した。 蒼「大きいんだね」 切符を見た蒼星石は素直な感想を述べる。 日本のそれとは異なり、大きさはテレホンカードほどで、しかも最初の改札で使用した後は不要という物であった。 空港の駅から乗り継いでホテル近くの駅へと移動するのだが、二人はそこで現地の女性達とすれ違った。 蒼「うわ、大胆・・・」 ここでも蒼星石は驚かされた。確かに夏真っ盛りで暑いのだが、彼女達の上は水着姿だった。 それが集団で地下鉄の駅に居たのだ、驚くのも無理はなかった。 蒼「やっぱり日本とは違うんだね」 雪「まあ、銀姉様の足下にも及びませんが」 蒼「・・・あの人は別格だからね」  (水『クシュン、クシュン!・・・夏かぜかしらぁ?』) 電車を降りて駅を出た二人は地図を片手に道沿いを歩く。 時刻は既に17時を近いのだが、気温は30度近く、二人の体から汗が吹き出ていた。 10分後、目的のホテルへと到着した二人は早速チェックインを済ませる。 雪華綺晶は手馴れた様子で済ませていくのを蒼星石はぼーっと見ていた。 雪「どうかしましたか?」 蒼「雪華綺晶先生が付いて来てくれて助かったなぁって」 渡されたカードキーでドアを開けて入る。 蒼「ふぅ、ようやく着いたね」 二人はスーツケースを開けて中の荷をチェックし、服などをクローゼットのハンガーにかけていった。 整理が終わった所でお腹がすいたので、外へ出て食事をしにいく。 ホテルの前にショッピングモールがあったのでそこに立ち寄る。 蒼「皆のお土産は最後にここで買っていこうかな」 靴屋や電気店、本屋といった中の一角にゲームショップを見かけたので覗いてみる。 そこには日本でも有名なゲーム機やゲームソフトなどが並べられていた。 蒼「やっぱり、日本のゲームも結構売られているんだね・・・・・・どうしたの?」 辺りをキョロキョロと見渡す雪華綺晶を尋ねる。 雪「・・・いえ・・・その、ゲーム売り場は危険ですので・・・」 蒼「は?」 一通り回った後、イタリア料理の店へと入った。 蒼「アメリカの料理って量が多いんだよね。食べきれるかな」 雪「お任せください」 右手で自分の胸を叩く雪華綺晶。その瞳は期待で満ち溢れていた。 蒼「ははは・・・そうだったね」 その後パスタを頼んだのだが、どうやらその店の記録を樹立したらしく、店中が大騒ぎになっていた。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・蒼星石先生も言ってるけど・・・アメリカのお料理は量が多いの・・・何でも原価が安いから、多めに出した方が良いらしいの    ・・・それと気をつけなきゃいけないのがチップ・・・日本だとサービスは全部料金に含まれてる物だけど・・・欧米だと    別途チップを払う必要があるよ・・・ウェイトレスさんとかは基本的に時給が安いの・・・それはこのチップが考慮されてるからね」 薔「・・・馴染みが無い分・・・いくら払えば良いか分からないかもしれないけど・・・レストランとかだと、合計がきりの良い額になるように    調整すると良いよ・・・基本的には代金の10~20%かな・・・タクシーだと15%ほど・・・ホテルなら1泊1ドルで良いよ」 ---- ホテルに戻ってから旅の汗を流すためにバスルームに順に入る。 先に入った蒼星石はテレビをつけて適当にチャンネルを変えてると、見慣れた光景の番組を見つけた。 セットの中央に座る二人の人物、画面の下には問題文とA~Dの回答、そして日本で見た時の司会と良く似た司会者・・・。 蒼「そっか・・・あの番組の元はこの番組だったんだ」 他にも日本のアニメも流れていて、飽きる事はなかった。 蒼「そうだ、翠星石に着いたことの連絡をしておこう」 時差を確認すると、日本ではほぼ12時間差なので携帯から電話をかける。 ワンコールで出てきた。 翠『もしもし、蒼星石ですか!?』 蒼「うん、そうだよ。そっちだとおはようかな?」 翠『おはようですぅ。もうそっちは着いたですか?』 蒼「うん。さっきご飯を食べてきたところだよ」 翠『何事も無かったですか?怪我とか病気とかしてねーですか?』 蒼「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」 翠『当然ですぅ。でも、気をつけるですよ。いつ、何が起こるかわかんねーです』 蒼「そうだね、気をつけるよ」 翠『例えば、飛行機内で「起こさないでやってくれ、彼は死ぬほど疲れてるんだ」って言う筋肉マッチョの変態野郎に襲われるとか』 蒼「・・・?」 翠『ゲームセンターで遊んでたらいかつい大男が現れて、やってきた警官と銃撃戦を繰り広げるとか、しかもそれが両方ともロボットとか』 蒼「あの、翠星石?」 翠『心配で心配で仕方ねーですぅ』 蒼(映画を見て、それに影響されたんだろうな・・・) その後も、ビルの間をピョンピョン飛んでいく蜘蛛男とか、公衆電話からマントをつけた男と出てこなかったかとかを聞いてくる 翠星石を適当に相手をしながら蒼星石は日本の様子を尋ねる。 翠『こっちは特に問題はねーですぅ。』 蒼「そうかい。それは良かった、僕も気になってたんだよ」 翠『相変わらず、蒼星石は心配性ですぅ。だから、今回ばかりは皆忘れてパァーッと楽しんでくるですよ』 蒼「うん、そうさせてもらうよ」 電話を切ってすぐにバスルームから雪華綺晶が出てきた。 雪「誰かと電話していたのですか?」 蒼「うん、翠星石先生とね。雪華綺晶先生も電話しておいた方が良いんじゃないかな?」 雪「そうですね」 雪華綺晶も携帯を取り出し、電話をかける。 相手はおそらく薔薇水晶だろう。幾分楽しそうに会話している。 話はやがてローゼンへと変わっていく。声色が多少険しい物へと変わっていく。 雪「それじゃ、ばらしーお休み」 薔『・・・お休み、お姉ちゃん』 通話を切って、充電器に取り付ける。 雪「・・・・・・帰ったら相応の礼をしなければならないようだな」 ぼそりと呟いた言葉を蒼星石は聞かなかった事にした。 蒼「それじゃあ、今日はもう疲れたし、早めに寝ようか」 二人は別々のベッドに入る。その時、雪華綺晶は備え付けの枕をどかして自前の枕を置く。 蒼「それじゃおやすみ」 雪「お休みなさい」 部屋の電気を消す。かくしてアメリカでの最初の夜は更けていった。 *滞在2日目 二日目の朝は目覚まし時計のアラームから始まった。日本のそれよりも遥かに大きな音のため、眠気が吹き飛んでしまった。 カチッ・・・。 蒼「おはよう・・・」 雪「・・・・・・おはようございます」 蒼「・・・後ちょっと止めるのが遅かったら撃たれてたよ・・・というか、その銃どこから?」 雪「昨晩、別ルートから輸送させていたのが届いたとの連絡が有ったので受け取ってきました」 蒼「そうなんだ・・・」 簡単に身支度を済ませ、ホテル1階にあるカフェへと向かう。 カフェではパンやマフィン、コーヒーなどを取ってテーブルへと移動する。 蒼「朝からよく食べるね」 少しゲンナリした表情でテーブルに置かれたパンの山を見つめる。 雪「朝はしっかり食べないと」 さも当然といった表情でトーストにクランベリーのジャムを塗りつけていく。 食べ始めてから数分後、蒼星石はある事に気付く。 蒼「こっちの人って、朝はあまり食べないんだね」 周りの人を見ると、パン1個とコーヒー、ヨーグルトと紅茶などが多かった。 雪「アメリカの朝食はパンなどの穀類、ベーコンやソーセージ、コーヒーやジュースの3種ぐらい」 蒼「そうなんだ、日本だと朝はしっかり食べるんだけどね」 納得すると同時に朝食券の意味に気付く。 それと言うのも、チェックインの時に渡された朝食券は11ドルまでなら無料という物だったからだ。 あまり食べないというのなら、その額でも納得できるのだ。ただ・・・。 蒼(二人合わせて11ドルは足りないなぁ・・・まして・・・) 雪華綺晶の方を見る。超過分は別料金としてホテル代に上乗せさせたが、チェックアウトする頃には200ドルぐらい増えていそうだ。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・お姉ちゃんも言ってるけど、一般的な朝食は3種類だけ・・・パンの代わりにシリアルを食べていたりもするよ・・・    ただ、日本と違うのは・・・甘い物がとても多いの・・・朝からパンケーキにバターやシロップを沢山かけたり・・・ちょっときついね    また卵料理も重要な要素・・・基本的に朝しか食べないみたいで・・・『卵が出てたら朝食』って考え方も有るみたい」 翠「それで朝っぱらから目玉焼きとステーキなんてふざけたメニューを食ってる奴も居るです。ちったぁ、健康考えやがれですぅ」 ---- 朝食を終えた後、部屋に戻って着替えなどを済ませてホテルを出る。 前日降りた駅から電車に乗り、1回乗り換えてイベントが行われる会場近くの駅であるサウスステーションへと向かう。 蒼「今日も暑くなりそうだね」 雪「先程天気予報で87度まで上がると言っていました。ですが、風も強いので幾分過ごしやすいかと」 駅を出た二人は地図を頼りに会場へと近づく。 目印にしていた橋に近づくと、その川の広さに驚く。 蒼「広い川だなぁ。それに海からの風かな、涼しくて気持ち良い」 雪「いえ、ここは水路。かつては工場や倉庫への水運の要所として栄えていました」 蒼「あ、そうなんだ・・・かつてはって事は今は違うの?」 雪「海運業や造船業の衰退や高架高速道路などが出来た事で一時期は廃れてましたが、最近では再開発が行われているようです」 蒼「へえ~」 橋を渡り終えてからしばらくすると、今回のイベントが行われる会場であるBoston Convention and Exhibition Center(BCEC)が見えてきた。 蒼「あれかな?・・・うわ、大きい」 近づくとその大きさが良く分かった。 建物の高さはちょっとした体育館より高く、それが縦に何個も並んだかのような大きい建物だった。 中に入ってみると、既に多くの人が来ていた。 蒼「もう始まってるんだ」 雪「昨日から始まっているみたい、今日も8時半から始まっているとか。それと、これはリサーチポスターという奴みたい」 プログラムを眺めながら雪華綺晶は言う。 入り口から入ってすぐのメインロビーにはずらりとポスターが掲示されていた。 内容はCGアニメーション制御に関するものや、ステレオ画像を解析して物体までの距離を測定するもの等の研究が発表されていた。 二人は早速ポスターを順番に見ていく。規模だけ見ると100枚は越えていた。 蒼星石はポスターを読んで分からない所が有ると雪華綺晶に読んでもらい、雪華綺晶は技術的に分からない所は蒼星石に質問して回る。 そんな風にして半分ぐらい読み終えた頃、二人に近づいてきた者がいた。 ?「あの・・・もしかして蒼星石先生ですか?」 蒼「え?・・・え~っと・・・あ、もしかしてK君?」 K「はい、やっぱり蒼星石先生でしたか、お久しぶりです。もしやとは思ったんですけど、そういう格好だから違うかと思いましたよ」 蒼星石はKに言われて自分の服装を見る。いつもの活動的な格好とは異なり、スーツ姿で来ていたのだ。 周りを見ると、むしろこっちの方が浮いていた。 K「だから堅苦しくないって言ったのに」 蒼「だって・・・研究発表って言うから、それなりの格好しないとって思って・・・」 K「でも良いですよ。そんな先生を見る事が出来ただけでもラッキーですよ」 蒼「もう・・・」 少し頬を膨らませるが、すぐに気を取り直す。 K「ところで、そちらの方は?」 蒼「ああそっか、君が居た頃はまだ居なかったね。彼女は今、僕と一緒に学校の教師をしている雪華綺晶先生だよ」 雪「はじめまして、雪華綺晶です」 K「こちらこそ、Kって言います」 紹介もそこそこに、蒼星石はKに訊ねる。 蒼「ところでK君、君の発表は?」 K「ああ、それなら明日からですよ。ポスターセッションですから既にポスター自体は貼ってありますけど。何なら見ます?」 蒼「うん、お願い」 K「喜んで」 Kが発表しているポスター前へと移動し、一通り説明を受ける。 その後、Kに質問を投げかける。その的確な問いに内心舌を巻きながらもKは答えていく。 K「うぅ、昔からそうだったけどやっぱり手厳しいなぁ」 蒼「でも、頑張っているみたいだね。嬉しいよ」 K「そう言ってもらえると光栄ですよ」 K「もし良かったら、一緒に回りませんか?案内しますよ」 蒼「良いのかい?」 K「折角招待したのに、放っておく訳にはいかないじゃないですか」 蒼「雪華綺晶先生、良いかな?」 雪「構いません」 蒼「それじゃ、よろしく頼むよ」 K「では、早速行きましょうか。いやぁ、両手に華とはこの事だなぁ」 蒼「K君、口の方も上手になったんじゃない?」 K「こっちの女の子は積極的じゃないと振り向いてもらえませんからね」 蒼「ふふふ」 Kを交えた3人で会場を回っていく。流石にイベントというだけ有って、実際に触ったりして体験できる所も多く大いに楽しんだ。 例を挙げると、デジカメで写真を撮って、その画像を基に絵画風にレタッチするソフトウェアのデモンストレーションが有り、 蒼星石と雪華綺晶は実際に写真を撮ってもらい、お土産として印刷された画像を貰った。 他にも、テーブルの上に置かれたコマを動かす事でモニター内の映像が切り替わる物などがあり、二人を楽しませた。 蒼「すごいね、1日居ても飽きないよ」 K「実際は1日だけじゃ回りきれませんけどね」 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・本編では大分省略したけど・・・他にもこんな出展物が有ったよ・・・出展者のサイトの方が詳しいと思うけど」 ttp://www.siggraph.org/s2006/main.php?f=conference&p=etech 蒼「それと、僕達が写真を撮ってもらった所のサイトも挙げとくね」 ttp://market.renderosity.com/news.php?viewStory=13190 ---- Kと別れた二人は会場を後にして観光をする事にした。 蒼「ここからはウォーターフロントが近いし、今日はそこに行こうよ」 雪「そうですね。ホテルに戻る時間を考えるとそれが賢明かと」 二人は茶会事件が有った場所へとやってきた。BCECから最も近い史跡であった。 蒼「ここがあの有名な茶会事件のあった場所だね」 雪「まだアメリカがイギリスの植民地だった頃、イギリス本国で東インド会社を助けるために植民地に対して茶の販売独占権を与えました」 蒼「たしか、それに怒った人たちが先住民に扮して船に乗り込み、お茶の入った箱を海に投げ捨てたんだよね」 雪「詳細はひとくちメモに回すとして、その結果イギリス本国との対立が深まり、その後の独立戦争へのきっかけの一つとなりました」 蒼「でもお茶を海に投げ捨てるなんて、真紅先生だったらなんて言うかな?」 雪「如何に紅茶が素晴らしいかを、1日中説教しているのでは?」 (真「くしゅん・・・夏風邪?」) ---- きらきーのひとくちメモ: 雪「ひとくちで終わらないが、事件の背景を追っていく。そもそも、この事件には茶税という重税が深く関わっている。    この税が制定された理由は北米での主導権争いとなったフレンチ・インディアン戦争によって抱えた借金を解消するために    1767年に茶・ガラス・紙等に関税をかけるタウンゼント諸法が原因だ。アメリカでは当然だがこの法律に関して反対運動が    巻き起こり、その中でボストン虐殺事件なども起き、イギリスは茶税を残して撤廃した」 雪「しかし、イギリスは1773年に茶法を制定し、茶税逃れのための密輸入を禁じ、東インド会社に販売独占権を与えた。    ちなみにこの時の価格は市場の半額だったが、後々の貿易品の販売独占のための布石ではないのか?そもそも茶税に関して    反対なのに、課税後も安いお茶を買ったら容認してしまう事になるのでは?という恐れから反対運動を行った。    1773年12月、茶会事件はそんな反対運動の中で起きた事件だ」 雪「この時捨てられた茶箱は342箱、被害総額は100万ドルとも言われている。ただ、この事件はアメリカ側でも賛否両論で    ベンジャミン・フランクリンが私財で賠償しようとしていたという」 雪「イギリスはこれに対して、翌年ボストン港の閉鎖、マサチューセッツの自治権剥奪などの措置を取る。    これに対抗し、9月にはフィラデルフィアで植民地の代表が会議を行い、本国の植民地に対する立法権の否認、    イギリス本国の経済的断交を決議した。こうした緊迫した状況の中、1775年4月独立戦争が勃発した」 薔「・・・ちなみに、アメリカ人はコーヒーが好きだけど・・・そうなったのもこの茶税に反対してた時の名残なの・・・」 ---- 二人はそのままコロンブス・ウォーターフロント公園まで歩いていき、本場のホットドッグとハンバーガーを堪能してホテルへと帰っていった。 蒼「Oh my godって本当に言うだね」 雪「驚いた時の言葉ですから」 蒼「ま、普通は驚くよね。ホットドッグ30本、ハンバーガー26個食べたら」 雪「至って普通だと思うのですが・・・」 『どこの世界で?』と突っ込みたい蒼星石であった。 その日はそのまま休む事にして、二日目の夜は更けていった。 ---- ばらしーのひとくちメモ: 薔「・・・ウォーターフロントは・・・ボストンでも人気の地域・・・昔は倉庫街だったみたいだけど・・・今では公園や水族館、博物館とか    色々あって、楽しい所だよ・・・地図でも示しておくね」 茶会事件のあった場所 ttp://maps.google.com/maps?q=300+Congress+St+Boston,+MA+02210&spn=0.020880,0.029639&hl=ja コロンブス・ウォーターフロント公園 ttp://maps.google.com/maps?q=296+State+St+Boston,+MA+02109&spn=0.005219,0.007410&hl=ja ----

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