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あらすじ――

ジュン争奪戦、第一回戦、雪華綺晶。

以下本編。

 いろいろ意味ないんじゃないかなと思ってるような話。

「えー、そんなわけで始まりましたジュン君争奪戦ー。でも僕たちは実況できませんー」
「えっと、カンペによるとですね。『恥ずかしいから、別々の部屋で』とのことです。……一体何をやりやがるんですかね」
「あんまり想像したくないね。そんなわけで、僕たちはジュン君にとりつけられた心拍計から送られてくる情報だけが唯一の情報です」
「っつーか、さっきから振り切ってるんでけど。限界突破ーって感じにジュンはどきどきしてるらしいですねー」
「……っていうか、始まってからこっち、こうだよね」
「……何かもう、いっそのこと乱入してやりましょうか」
「まあ、それは検討するとして、水銀燈と真紅の様子をお伝えしましょう」
「伝えるまでもないと思いますけどね」
「あー……それも、そうか。っていうか、話しかけたくないなぁ」
「頭の中でものすっごい想像してるんだと思いますよ」
「でも、それってたぶん間違ってないのー」
「わ、おばか苺。てめーはアシスタントなんだから引っ込んでろです」
「ひーまーなーのー。っていうか、何で痴話喧嘩に雛が巻き込まれてるのー?」
「それを言ったらおしまいです。私だって、今すぐにでもこんなのやめたいです……っ」
「うわぁ、翠星石、滲み出る何かが哀愁を誘うのかしらー」
「黙りやがれですバカカナー!」
「きゃー!?」

 まあ、大筋関係ない。だって意味ないし。

 じゃあ、あの二人は、どうなってるのかと言えば、まあ、それは、みんなの想像している通りで――。

【忘れない、初めての恋心―雪華綺晶―】

「あは、ふたりきりだね」
「……う」
 ジュンは、言葉につまった。何も言えない。雪華綺晶から、ふたりきりだね、なんて言われて、平静で居られるわけがなかった。
 顔が熱かった。きっと真っ赤に染まっている。だからどうしても、恥ずかしさで雪華綺晶の顔を見れなかった。
 もちろん、そんなジュンの心の中を雪華綺晶はわかっていたから。だから、何も言わず、微笑んで、ジュンの隣に座った。
「ば、薔薇水晶は、どうしてる?」
「やっと喋ったと思ったら、他の女の子の話題?」
「う。ごめん」
「あは、うそうそ。まあ、そんなに緊張してくれるなんて、嬉しいし」
 実は、二人が再会してから二人きりになるのは、薔薇水晶が雪華綺晶を認め、逃げた時だけだった。それ以降、三人は三人だったから、“ふたりきり”というのは、なかったのだ。
「薔薇水晶は、不貞寝してるよ。やっぱり、嫌なのかな」
「多分嫌だと思うよ。僕が言うのも、なんだけどさ」
「ん。……そうだね。私も、すごい嫌。ジュンが私じゃない誰かに微笑んで、私じゃない誰かを抱きしめて、私じゃない誰かに、キス、する……っ」
「雪華綺晶? ――え?」
 ジュンは、その時時間を忘れた。心が衝撃を受ける。問答無用。それは、反則なんじゃないか、っていつも思ってることを、今もやっぱり思う。
「何で、そんな、泣いてるんだよ」
 だって、雪華綺晶は、涙を流していたから。それは、今、この時にどうしようもなく不似合いで。
「だ、って……っ。嫌なこと想像しちゃって、ジュンが、私から、離れて、ど、どっか、遠くに……ぅ」
「あー……」
 そうだよな。それしかない。っていうか、この状況で、これ以外、どんな選択肢があるんだよ。
「雪華綺晶」
「ぅ……ジュン?」
 戸惑う雪華綺晶を、ジュンは抱きしめた。子供をあやすように、優しく。自分は此処に居るのだと、わかるように。
「泣かないでよ。雪華綺晶が泣くと、実は言ってなかったけど、死にそうにつらいんだ」
「何で?」
「そりゃあ、雪華綺晶が大切だからに決まってるじゃないか」
「薔薇水晶が泣くのと、どっちがつらい?」
「……それ、聞くことじゃないと思うけどなぁ」

「ん、ごめん」
 そして、雪華綺晶もジュンの背中に手を回す。幾度と交わした抱擁。でも、初めて二人で交わした抱擁は、どこか、違うような気がした。
「……あのさ、雪華綺晶、これ、薔薇水晶には内緒な?」
「?」
「えっと、その、どっちがつらいか、って質問の答えだけどさ、」
「うん」
「多分、雪華綺晶が泣く方が、つらい」
「何で?」
「それは、……うん、きっと、雪華綺晶が、初恋の人だから」
 今でも、ジュンは鮮やかなビジョンを描ける。初めて会った日。真白としか表現できない少女。本当に、何もない、ただ、綺麗だと感じた少女。
「初恋の人だと、つらい?」
「うん。嫌だな。雪華綺晶の笑顔が好きっていうのもあるけど、僕の、幻想みたいな感じ」
 最初に声をかけたのは、雪華綺晶が泣いていたから。だから、自然に声をかけた。泣いてほしくない。悲しんで、ほしくなかった。
「だから、僕は雪華綺晶が幸せになれるなら――“えがお”で、居てくれるのなら、どんなことでも、するよ」
 それは、誓いだった。遠い初恋の日に、感じ、そして今もジュンの胸の中に息づく大切な想い。
 だから――

「う、わぁ、」

 だから、雪華綺晶は、顔を真っ赤にして、言葉を失うしか、なかった。
「雪華綺晶?」
「わ、ちょ、待って、……い、今顔見ないでぇ!」
「えっと……、何で?」
「ジュ、ジュンがそんなこと言うのが悪いのぉっ。無理、無理だって。うわーんっ。せっかくふたりきりなのにぃ。恥ずかしくて顔見られないぃ」
 まるで、駄々っ子みたいだった。いや、いつもそうだけど、なんてジュンは思ったりもしたが、それでも、やっぱりいつもと違う。
 そもそも、雪華綺晶が恥ずかしがるということがなかった。いつもは、ジュンが赤面させられてるのだから。
 だから、ジュンは幸せに違いなかった。こんなにも、照れてる雪華綺晶を見れて。こんなにも、自分の言葉で幸せそうに顔を隠す、雪華綺晶に想ってもらえて。

「――ね、雪華綺晶」
「え、や、……んっ!?」
 雪華綺晶は、やっぱりずるい。初恋の少女は、もっと神秘的だったのに。なのに、その神秘的な少女は、自分の言葉で、かわいい少女に変わってしまっている。
 愛しい。その言葉しか想えない。ただただ愛しい。雪華綺晶の身体に触れたい、雪華綺晶の甘い声を聞きたい。雪華綺晶を、感じたい――。
「……ん」
 ――だから、ジュンは自然にキスをした。キスをすれば、顔が見れるかな、と思ったから。
 まあ、結果的に言えば、ジュンも瞳を閉じてしまったから、見ることは叶わなかったわけだけど。
 でも。
「ん、……ジュン」
「もう、大丈夫?」
「大好き」
「ん」
 雪華綺晶は何も言わず、今度は自分から、ジュンにキスをした。二人は、溶けてしまうんじゃないか、なんて思うほど、幸せを感じた。



「ねえ、ジュン」
「うん」
 二人は、寄り添っていた。雪華綺晶がジュンの肩に頭を乗せて、ジュンが雪華綺晶の腰に手を回して。お互いを、一番近くに感じあっていた。
「……私も、初恋はジュンだよ」
「知ってる」
「ずっと、ずっと、本当に、ずーーーーーっと、好きだったよ」
「知ってるよ」
「ジュンが居なければ、きっと私、笑うことも知らなかったと思うんだぁ……。そう思うと、不安に飲み込まれそうになることも、ある」
「それも、知ってたよ」
「だけど、そんなとき、ジュンは必ず私のそばに居てくれる。私の隣に居てくれる」
「当たり前」
「あは、ねえ、ジュン」

「私は、ジュンのために生きてる。ジュンがしてほしいこと、何でもしてあげる。ジュンが望むなら、何でもできるよ。ジュンは怒るかもしれないけど、そうなの」
「……ん」
「あの高い塔から見える空に、私はずっと祈ってた。ジュンが、幸せであるように。また、私に微笑みかけてくれるように」
「ああ」
「幸せを教えてくれた、そして幸せを与えてくれるジュン。ねえ、わたしの大好きな人」
「何?」
「私のこと、幸せにしてくれる?」
「――幸せに、するよ」
「絶対?」
「うん。絶対」
「ずっと?」
「いつまでも、永遠に」
「ん、ジュンの言うこと、信じるよ」
「……ごめん」
「いいよ。これも、きっと必要なことだと思うから。それより、きっとジュンの方がつらいでしょう?」
「どっちが、とかはわからないけど……、うん。多分、つらいと思う」
「なら、許すよ。ジュンが、初恋の大好きな人がつらい想いをしているのに許せないほど、器量の狭い女じゃないから、ね」
「あはは。だって、僕の初恋の人だもんな」
「そうだよ。ジュンの初恋の人なんだから。……あー、すっごく幸せだったのに、もうそろそろ、おしまいかぁ。
 ――っていうことで。ジュンさんジュンさん。ここで一つ、私から提案があるわけですよ」
「ん?」
「最後に、一回ヤらない?」
「ここまでの穏やかな流れが台無しだっ!?」
 そんな風に慌てるジュンを見て、雪華綺晶は、笑った。とても、とても、目の前の現実が、信じられないくらい、自分の胸を満たすから。
 だから、今、雪華綺晶は想うのだ。ずっと、ずっと、ジュンと、薔薇水晶と共に居て、感じ続けてきたこと。
「ねえ、ジュン。――私、幸せ」
「……くっそ、このタイミングで言うの、ずるいだろ」
「ジュンは?」
「僕だって、めちゃくちゃ幸せだ、バカ」
「あ、帰ってきたのかしらー。っていうわけで、早速インタビュー」
「ん、何でも聞いてー」
「えっと、ジュンは、最初から最後までどきどきしっぱなしだったんだけど、何したのかしら?」
「えへ、ジュン、どきどきしてくれたんだぁ」
 ああ、ダメだ。雪華綺晶を見た、皆が思った。こんな幸せそうな笑顔を見れば、何があったかなんて、聞くまでもない。
「……その、雪華綺晶?」
「えへ、えへへ」
「あ、何か個人的にこの空気に耐えられないから、解説席、よろしくかしらー!?」
「えへへへへへへ」

 ――結局雪華綺晶は、これから水銀燈の番が始まるまで、ずっとにやけっぱなしだった。





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