「MYFAIRFRAGMENT」第8話「とうとうはじまる!最終決戦!?」
翠星石は、歩く。決意を秘めたまなざしで。
決めた。もう決めた。今日蒼星石に告白する!
もちろん不安はよぎらないでもない。むしろ、不安の方が強いくらいだ。
でも決めたのだ。だから、する。誰か他の人のもとに蒼星石が行ってしまう前に…
だんだん教室が近づいてくる。休み時間の教室は、いつものように騒がしい。
扉を開けて、中に入る。すると…
べ「!!…蒼嬢!!俺は、俺は……!!」
蒼「ええっ!?」
蒼星石が襲われていた。鼻血を垂らし、顔を真っ赤に染めたべジータに。
翠「蒼星石に…」
考える前に、体が動いた。
翠「何をやっているですかああああああああ!!」
グワッシャーーーーン!
教室に大きな音が響き渡る。
翠星石の手元にあるのは、何処から取り出したのか、愛用のアルミ製じょうろ。
アルミとはいえ、それが一撃でほとんど使い物にならなくなるくらいの強打である。
さすがのべジータも一発で伸びてしまった。
そのあまりの剣幕と威力に、今までべジータと蒼星石の様子を
はらはらと、もしくは面白そうに見守っていたクラスメイト達からさーっと血の気が引いた。
そんな中、仁王立ちの翠星石を見上げる蒼星石。
蒼「翠星石!…その…」
良くわからないが、金糸雀から聞く限りでは、蒼星石は何か翠星石を傷つけるような事を言ってしまったらしい。
それから一時間ぶりに会う双子の姉妹に、一体なんと謝ったらいいのか。思わず口ごもってしまう。
そんな蒼星石に、翠星石は、ぐしゃっと潰れかけているじょうろを突きつけて、宣言した。
翠「蒼星石!今から大事なことを言うです…だから、耳の穴かっぽじってよーーーくきけです!!」
蒼「へ!?え、うん……」
翠星石の真剣な表情に、思わず居住まいを正す蒼星石。
そのとき、翠星石から少し遅れて歩いてきた、水銀燈と薔薇水晶が教室に戻ってきた。
なにやら緊張感につつまれている教室内の様子に首をかしげ、クラスメイト達の輪の中を覗きこむ。
するとその中央には、倒れ伏すべジータ、姿勢を正して座る蒼星石。
そして…壊れたじょうろを片手に仁王立ちする翠星石。
帰った早々一体何をやらかしたのか、とハラハラしながら見守る二人…いや、水銀燈。
薔薇水晶は特にハラハラもせず、ただ見つめているだけだ。水銀燈の背中を。
そうして、クラス全体が見守る中。翠星石は高らかに言い放ったのである。
翠「翠星石は、蒼星石のことが好きです!!」
緊張感漂う静寂から一転してどよめきに満たされる教室内。
一部の女子のキャーっ!という悲鳴とも歓声ともつかない声。
展開が把握しきれない他の生徒達の困惑した声。
そしてあまりといえばあまりの超展開に気が遠くなる水銀燈。
真後ろにひっくり返りそうになったところを、薔薇水晶に慌てて支えられる。
途中から完全に群衆にまぎれかけていた真紅たちも、呆然としながらその状況を見守っていた。
そんな中で、やはり事態を把握しきれていない当事者が約一名。そんな彼女の言うことにゃ…
蒼「…へ?それは僕だって普通に翠星石の事は好きだけど…」
女子達の黄色い悲鳴が再び響く。しかし、翠星石は自分の言葉の伝わらなさに地団太を踏む。
翠「ちーがーうーでーす!好きは好きでも鋤とか鍬とか大根じゃなくて!
好いたはれた切ったはったの!恋してますとか愛してますとかの好きなんです!!!!」
叫ぶのと共に、壊れたじょうろを再び蒼星石にびしっと突きつけると、
翠星石は、蒼星石を涙の浮かんだ瞳でじぃっと睨みつけるように見つめた。
教室内は、今度こそ完全に…歓声というか悲鳴というのか、なんだかよくわからない叫びに包まれた。
蒼「えっ…と、それって……」
さすがのにぶちんも、コレだけはっきり言われればさすがに事態を把握したようである。
やっとこさ、蒼星石の顔が真っ赤に染まる。
教室を満たしている叫びが、歓声と…時折混じる口笛に取って代わられた。
お互いに、紅く染まった顔で見つめあう双子。
周囲のはやし立てる声が大きく響き、そろそろ隣のクラスの生徒達も何事か、と様子を見に来る頃になって。
とうとうその緊張に耐えられなくなった翠星石の顔がぐにゃっとゆがむ。
蒼「ぇ、ぁ、す、翠星せ…」
翠「…蒼星石の、バカーーーーーーーーーーーーー!!!」
1時間前と同じ言葉を叫び、教室の扉から走り出て行く翠星石。
蒼「翠星石!」
教室内がブーイングに包まれる。しかし、状況は理解したものの、今だ困惑している蒼星石はどうしていいかわからない。
そんな時、床に座り込んでいる蒼星石の許に近寄ってきたのは。
紅「行きなさい」
蒼「真紅…」
紅「あなたがそれにどう答えるにせよ、まずは追わないといけないでしょう。
それともこのままうやむやにしてしまうつもり?」
蒼「でも…なんて答えたらいいのか…」
紅「こういうものの答えは必ずしも白か黒かだけとは限らないはずよ
偏見とか道徳とかに縛られないで、彼女に素直な気持ちを伝えなさい。
そうでないと、勇気を出した翠星石に失礼よ」
蒼「…うん…わかった。行ってくる!」
立ち上がる蒼星石。しかし、捻挫した足が、床に着くとまだ痛んで上手く歩けない。
紅「仕方が無いわね…雛苺!金糸雀!」
雛「はーいなの!」
金「私は肉体労働担当じゃないのかしら…」
楽しそうな雛苺と、ため息をつく金糸雀。
しかし、二人は先ほどと同じように蒼星石を背中に背負って走りだす。
蒼「え、いや、大丈夫だから二人とも…」
雛「平気なのー。しっかりつかまってるといいのー!」
金「仕方が無いかしら。友達の務めかしら~」
蒼「いや、遠慮じゃなくて、ほんとに手が、痛いんだって…うわああああああ…!」
クラスの歓声に見送られて、雛苺と金糸雀に背負われた蒼星石は出発していった。
騒ぎの中心人物たちが居なくなって、段々と沈静化していく教室内。
あんなに色々と問題のある事件であるのにもかかわらず、
それを悪し様に言うような声はほとんど聞こえて来なかった。
果たしてそれは、べジータを撃沈した一撃の恐怖によるものなのか。
それとも二人の人徳から来たものなのか
真紅がふと教壇の方を見ると、見覚えのある人物が、膝枕されて下敷きで扇がれている。
紅「…何をやっているの。水銀燈。こんな所で寝たりして。」
銀「もういい、って言ってるのよ?私は。」
薔「…まだダメ」
疲れたような…しかしまんざらでもないような表情で、水銀燈は膝枕されている。
紅「ふぅ。まあいいわ。」
ため息をつく真紅。そして、3人の出て行ったほうを見てふっとつぶやく。
紅「…うらやましかった?」
その問いには答えずに
銀「このクラスは、優しいわね…」
姿勢を変えて、床を見ながら言う。
紅「今のあなたは、幸せそうに見えるわ」
銀「そう?…ありがとう」
その会話を聞いているのか居ないのか。薔薇水晶は、いつもどおりマイペースに水銀灯を扇ぎ続けていた…。
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<次回予告>
とうとう告白した翠星石!対する蒼星石の返答は!?
向かった先、校舎の屋上で最強最後の決着がつく!
駆け抜けろ蒼星石!突き進め翠星石!双子の戦いの行方やいかに!
紅「まったく…本当に次で終わるんでしょうね?こんな時にまた変なフラグ立てて!」
雛「フラグは掛け捨てるものなのー。」
金「最終回の次にはエピローグがあるものかしら~♪」
翠「次回、「MY FAIR FRAGMENT」最終回」
蒼「「事の顛末。そしてはじまり」君に、会いに行くよ」
蒼・翠「よろしく~!」
注:次回予告は…さすがにここまで来ると法螺も混ぜにくくなっております。