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<h3>水泳部の野望(仮)</h3> <p style="line-height:140%;"> <br />  <br /><br />  部室棟2階。<br />  黄昏迫る水泳部部室。<br />  つんつんとしたトゲヒレが、窓際で、フェンス越しに外に見えるプールを見下ろしていた。<br /> 「失礼します」<br />  入ってきた浅黒い肌の女生徒は、艶やかな笑みを浮かべる。<br />  会議机にとん、とファイルを置いて、動かない後ろ姿に声をかけた。<br /> 「……首尾よく、予算を昨年度より多くもぎ取りましたわ」<br /> 「規模を広げた甲斐があったじゃないか」<br />  先に居た人影は振り返らずに答える。<br /> 「規模、といっても、男子一人ですけれどね」<br />  女生徒は、椅子を引いて腰掛けながら、艶やかな黒銀の髪をトゲヒレ耳にかけ、ファイルをめくった。<br /> 「十分さ」<br />  喉が鳴る音が部室に響く。<br /> 「ええ。……更衣室の拡張、大会への出場出張費、……いろいろ稼げますわ」<br />  ページを繰る音が響く。<br /> 「それで、肝心のあいつはどうなんだい?」<br /> 「それなりに適応していらっしゃるのでは? トリアにぞっこんみたいですし」<br /> 「……色恋沙汰ねえ。あの子がらみだと、蛸娘がうるさくて敵わないね」<br /> 「ふふ……珍しく、男だなんていって勧誘していらしたのに、ずいぶんな事」<br /> 「……この前、普通に水着姿だったら、妙に驚かれていたけどねえ」<br />  人影は首をすくめた。<br /> 「あら、サカナ族が、トリ族と同じように、外性器をしまえる事をご存知でなかったのではなくて?」<br /> 「うなされているのが面白かったから、そのままにしておいたけれどねえ」<br />  二人の笑い声が部室に響く。<br />  予鈴がなる。<br /> 「あ、……そろそろ迎えの来る時間ですので、失礼いたしますわ」<br /> 「ああ」<br />  帰ろうとする女生徒に、人影が振り向いて、声をかけた。<br /> 「……ところで、今も黒真珠の枷はつけているのかい?」<br /> 「もちろんですわ♪」<br /> 「他の、部員に仕込むんじゃないよ。……特にフーラあたりに」<br />  くるっと、制服のスカートをまわして、女生徒が振り向いた。<br /> 「なんで、分かりましたの? せっかくお仕置きしてこようと思いましたのに」<br /> 「お仕置きは、飼ってるものだけにしておきな」<br />  眼下に、暮れ始めたプールサイドが見える。<br />  ひとり、ちょこんと、飛び込み台にビート板を抱えて、競泳水着ではなくスクール水着を来ているおかっぱ頭が見える。<br /> 「わかりましたわ。失礼いたします」<br />  忍び笑いを零しながら、女生徒が去っていった。</p> <p style="line-height:140%;"><br />  部室棟は静けさを取り戻す。<br />  おかっぱ頭がこちらをちらっと見上げた。<br />  人影は、笑って、窓際から離れ、プールサイドへと足を向けた。</p> <p style="line-height:140%;"><br />  学園の夜はまだまだこれから。</p> <p style="line-height:140%;"><br />  </p>

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