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+++真紅(6/23PM12:52薔薇学園3-B教室)+++
薔「ねえ、話ってなんなの?」


薔薇水晶はにっこりと笑いながらこちらにやって来た。なるほど幸せそうな笑顔だ。
でも私は見逃さなかった。さっきあなたが一瞬だけ見せたあの笑みを。私達に対する嘲笑を。
そのまま彼女は私の前の、自分のものではない机から椅子を引っ張り出して、そこに腰掛けた。


薔「えーっと、なんだかこれって取り調べみたいだね」


あら?これは取り調べなんかじゃないのだわ。これは裁判。あなたを裁く弾劾裁判よ。
私の右隣に巴が、左隣には雛苺がそれぞれ座っていて、その正面に薔薇水晶が座っている。
この二人は薔薇水晶にプレッシャーを与えるために呼んだ。二人には一切発言しないように言ってある。
余計なことを言われて段取りを狂わされては困るからだ。
蒼星石は三限目から姿の見えない翠星石を探しにいってここにはいない。
金糸雀は知らないうちにどこかへ消えてしまった。まあ彼女はいても大して役に立たないから別にいい。
薔薇水晶は未だに笑みを崩さない。私はその笑顔に何か得体の知れない恐怖を感じ、手のひらが知らずに汗ばんできた。
ダメよ私、落ちついて。相手は薔薇水晶よ。なにも怖がることなんてないのだわ。


真「そうね。まずはジュンとうまくいっているのかを聞きたいわ」


このままじゃらちがあかない。私はいきなり本題を切り出した。


薔「ええ~。うん、うまくいってるよ。今日なんか……」


薔薇水晶はにへら~、と笑いながら、ジュンとの最近の出来事を話し出した。
彼女が話し出した内容も、やれ、今日作った弁当を残さずおいしそうに食べてくれたとか。やれ、日曜のデートがとても楽しみだとか。
本当にどうでも良いようなことばかりだった。
昨日までの私なら、寂しさを感じつつも彼女の幸福を笑って祝福することが出来ただろう。
でも、今はそれを認めることが出来ない。だって私は知ってしまったのだから、この二人の真実を。


真「あなたは本当に幸せそうね」
薔「うん。幸せだよ♪だって大好きなジュンといつも一緒にいられるんだもん♪」
真「そう、それは良かったわね。でも、ジュンはそれで幸せなのかしら?」
薔「……なにが言いたいの?」


薔薇水晶は小首をかしげて、『私なんのことだかわかりません』といった様子で言って見せた。
やれやれ、ここまで言ったら普通はわかるでしょうに。本当に白々しい。いいわ、それじゃあ言ってあげる。
あなたのしていることをこの場で暴露してあげる。覚悟はいい?
私は彼女の目をまっすぐに見詰めて言い放った。


真「ジュンは本当にあなたのことが好きなの?」


薔薇水晶の目が大きく見開かれた。ばれていないと思ってたの?でも残念ね。全てお見通しなのだわ。


今からニ日前の放課後、私が家に帰ろうとしたところを、雪華綺晶に呼びとめられ、そのまま校舎裏へ連れていかれた。
そこで雪華綺晶から聞かされたこと。それは
『ジュンの本命は薔薇水晶じゃない。ジュンが彼女と付き合っているのは彼女は何らかの手段を用いてジュンを自分に縛りつけているからだ』ということだった。
信じられない。私の正直な感想はそれだった。だから反論もした。
雪華綺晶は黙ってそれを聞いて、「判断するのは真紅さんですわ」とだけ言った。
私は即断せずに一日ジュンの様子を見ることにした。
薔薇水晶と一緒にいるときのジュンは明るかった。いや、明るすぎた。だけど時折、ジュンの表情に陰りが見えることもあった。
そして、決定的なことが起こった。ジュンが薔薇水晶を『水銀燈』と呼んだのだ。たしかに、しっかりとこの耳で聞いた。
このとき私の疑惑は確信に変わった。ジュンは本当は水銀燈が好きなのだ。だけど、その思いを薔薇水晶が邪魔をしている。
あの女がいるかぎり、ジュンは前へは進めない。私がジュンを助けないと。
私の中で声が聞こえる。『ジュンを助けてなんになる?そんなことをしても結局ジュンは水銀燈の元へ行くだけだ』と。
確かにジュンは私の元へは来ないかもしれない。でも、そんなことよりもジュンが幸せになれない事の方が嫌だ。
私はジュンが好き。だからジュンには幸せになってもらいたい。それに、水銀燈のジュンへの思いは、私達の中で一番強い。
水銀燈は私の一番の親友でもある。だから、ジュンと結ばれる相手が水銀燈なら、私は心から祝福することができる。
ジュンは雪華綺晶が説得してくれるらしい。だったら私は薔薇水晶をなんとかしよう。この女からジュンを解放する、それが私の役割なんだから。


薔「な、なんで?ジュンも幸せにきまってるよ」
真「あら?じゃあなんで三日前私達から祝福されたときにジュンは笑わなかったのかしら?ジュンがあなたの名前を間違えるのはなぜ?」
薔「それは……」


薔薇水晶は目線を私から外して下に向けた。肩も小刻みに震えていた。彼女はあきらかに動揺している。


真「あなたがジュンから離れようとしないのは、そうしないとジュンがあなたから離れていってしまうから?」
薔「…………」
真「ジュンの表情が曇るのは迷いのせい?」
薔「……めてよ」
真「あなたも本当は気付いているはずよ。ジュンが本当に好きなのは……」
薔「やめてよ!!!!!」


薔薇水晶は教室中に響くほどの大声を張り上げながら、椅子をガタンとい鳴らして立ちあがった。その目は涙が溜り、真っ直ぐに私を睨みつけている。
私は、彼女の目を真っ直ぐに見返した。教室にいる者全員がこちらに注目している。


薔「やめてよ!!なんでそんなこと言うの!?ジュンは言ってくれるもん!!私が好きだって、愛してるって、ずっと一緒にいたいって!!!
  そ、それに真紅の言ったことがほんとだったとしても、それは真紅には関係ないじゃない!!それは私達の問題だよ!!それなのになんで!!
  なんでそんな余計なこと言うの!?お願いだから、お願いだから私の幸せを壊そうとしないでよ!!!
  ……お願いだから……お願いだからぁ……ヒグッ えぐ……」


彼女の心からの叫びを、私は黙って聞いていた。


雛「薔薇水晶、ちょっと可愛そうなの」
巴「真紅、少し言いすぎたんじゃない?」


両隣に座っている二人が彼女の味方をするような発言をする。
ジュンが好きだ。一緒にいたい。その気持ちはわかる。だって私も彼を愛してるのだから。
でも、その思いを認めるわけにはいかない。彼女の独り善がりな愛情を認めるわけにはいかない。
このままではいずれこの二人の関係は崩れてしまう。そうなる前に、彼女の目を覚まさせなければいけない。
私が、二人を救ってあげないと。


真「いいえ、関係なくは無いのだわ。だって私も、あなたに負けないくらいにジュンのことを愛しているのだから。 
  でもね、私はジュンの幸せも願っているの。あなたと違ってね。薔薇水晶、私はあなたのことが嫌いじゃなかった。
  でも、今のあなたは大嫌いよ」
薔「…………」
真「あなたは確かに私から見ても悪い人間ではなかったわ。でも、今のあなたは、汚いわ」
薔「やめて……やめてよ……」
真「あなたはもっと清らかな人だったはずよ。なのにあなたは真実から目をそらして、ジュンの思いを妨げて……」
薔「それは違う!ジュンは私が大好きなの!だって告白してきたのはジュンなんだよ?だから!!」
真「でもジュンがあなたに向けている好意が本当はloveではないことに気付いてるんでしょう?」
薔「違う!そんなの違う!」
真「あなたはジュンが離れていくことが怖かったのよ」
薔「違うっ!」
真「ジュンがあなたの手の届かないところに行くのが嫌だったのよ」
薔「違うっ!!」
真「ジュンがあなたを愛していないことを認めるのが嫌だったのよ」
薔「違うっ!!!!」


薔薇水晶の叫びの余韻が耳に残る。
彼女から、鼻をすする音が聞こえてきた。


薔「どうしてそんなこと言うの……私は、ジュンが大好きなだけなのに……ジュンとずっと一緒にいたいだけなのに……なのに、
  どうしてそんな酷いことを言うの……」


私の机にぽたり、ぽたりと、滴が落ちてきた。なにも知らない人から見たら、私は悪者に見えるのだろうか?でも、ここで退くわけにはいかない。


真「あなた達が今のような関係を続けていても、ジュンもあなたも幸せになれない。いずれは二人とも壊れてしまうわ。
  あなたは本当にそれでいいの?そんなのがあなたの望みだったの?全てを壊す愛なんて、そんなの絶対に間違っているのだわ。
  良く考えなさい薔薇水晶。あなたは、ジュンを思うあまりに本当に大切なものを見失っているのよ」


薔薇水晶は俯いて答えようとしない。
彼女はわかってくれたんだろうか?いや、彼女がジュンを本当に愛しているならわかってくれるはずだ。
きっと、彼女とジュンの関係はここで終わってしまう。でも、これでジュンが、私の一番大切な人が幸せになることが出来る。
これでいい。薔薇水晶には悪いけど、これでよかったのだ。そう信じたかった。


薔「フ……フフ……」


薔薇水晶が突然静かに笑い出した。
一体どうしたんだろう?下を向いた彼女の表情は、私からはよく見えない。


雛「ど、どうしたの薔薇水晶?なにが可笑しいの?」


その場の空気に耐えかねた雛苺が彼女に声を掛けた。でも、彼女はそれを無視して笑い続けた。


薔「フフフ……やっぱり真紅に泣き落としは効果なしかぁ」


薔薇水晶は私の顔を見て、ふふっとかすかに笑った。それは、背筋をぞくっとさせるような笑みだった。


薔「真紅には通用しなくても、ああやって泣いてれば誰かが味方になってくれると思ってたけど、考えが甘かったよ」


それは今までのものとは違い、まったく落ち着き払った声だった。
彼女の雰囲気が一瞬で変わった。


真「あなた、今までずっと演技……してたの?」


私はおずおずと彼女に訊ねた。


薔「うん。泣きまねは私の十八番だからね。昔、苛められてたときはこれで身を守ってたんだよ。
  まあ泣けば泣くほどにあいつらがおもしろがるのに気付いてからは使ってなかったんだけどね」


そう言うと彼女はにっこりと笑って私を見つめた。


薔「真紅、さっきからずっとむかつくことばかり言ってくれたよね。間違った愛?私が汚い?私、本当に頭にきちゃったよ」


顔は笑っていたが、その隻眼からは、激しい怒りが感じられた。
雛苺と巴は彼女から漂っている毒気に飲まれて、ずっと震えている。
そう言う私もさっきから背筋がぞくぞくしている。本当にこれがあの薔薇水晶なんだろうか?
……しっかりしなさい真紅!あなたまで怯えてどうするの!?


薔「あーあ。銀ちゃん潰したから後は楽勝だと思ったのになぁ」


え、今なんて言った。潰した?そういえば水銀燈はこの所ずっと学校に来ていない。まさか……
私は立ち上がって思いっきり迫力を込めて彼女を睨みつけた。


真「あなた、水銀燈になにをしたの?」
薔「んーん。私はなんにもしてないよぉ。多分ジュンに嫌われたんじゃないかなぁ」
真「ふざけないで!!ジュンがあの子の事を嫌うはずないでしょう!!それにあなた今言ったじゃない!!水銀燈を潰したって!!
  誤魔化さないで本当のことを言いなさい!!」
薔「だからぁ、私じゃないんだってば。ジュンが銀ちゃんを嫌ったの」
真「あなた。どうしてもジュンのせいにしたいわけね」
薔「だってほんとの事だもん。銀ちゃんを潰したのは『私』じゃないの『ジュン』なんだよ」


そう言うと彼女は自分の携帯を取り出してパカパカ開閉した。


薔「メールって便利だよねぇ」
真「――――っ!!」


その一言で全てがわかった。この女はジュンになりすまして……それに気付いた瞬間、一気に頭に血が上った。
思考が空白に染まった。そして、私は――


――パシィッ!


薔薇水晶を叩いた。頬を打つ小気味いい音が辺りに響く。
冷静になろうと抑えていた怒りが沸沸とこみ上げてくる
この卑怯者、腐れ外道、糞虫、悪女―――普段の私では絶対に口にしないような言葉が次々と頭の中に浮かんでくる。


真「よくも水銀燈にそんな酷いことを!!水銀燈は、私の一番の友達なのよ!!それに水銀燈はあなたの親友でしょう!?
  なのになんでそんなことを平気で出来るの!?ちゃんと説明しなさい!!」


あまりの怒りに私の声は震えていた。


薔「親友ぅ?」


叩かれた頬をさすりながら彼女は私をギロリと睨んだ。

薔「親友。うん、そうだよ。銀ちゃんは私の親友。女の子の中では一番好きな人。これまでは、そう思っていた」
薔「でもね、真紅。銀ちゃんとジュンって仲いいでしょう?」
真「え、ええ」


いきなり質問を振られた私は思わず答えてしまった。


薔「うん、そう。仲いいの。すっごくすっごく仲いいの。だから私がジュンと幸せになるのに一番邪魔な存在なんだよね」


邪魔、邪魔だと言ったのか。自分の親友を。


薔「いるだけで私の邪魔になっちゃう女なんて、もう親友でもなんでもないよ」


そう、この女はクズ。人を人とも思わないようなヒトデナシ。こんな女にジュンを奪われたのか!!


真「ジュンを解放しなさい」


怒りに震える口からやっと出たのはこんな言葉だった。
大切なジュン。
いつも私に優しいジュン。
こんな腐った女に騙されている、かわいそうなジュン。
なんでこんな女に……こんな女にジュンは!!


薔「解放?」


薔薇水晶が眉を持ち上げた。


薔「そんなの嫌だよ。だってジュンは私のモノなんだから」


薔薇水晶が軽やかな口調で言った。


薔「だから、ジュン以外がどうなったって、別にどうでもいいよ。なんなら死んじゃっても……」


――パシィッ!


私は彼女をもう一度叩いた。叩いた手のひらがジンジンする。


真「なんで?」


掠れた声が自分の喉から出るのがわかった。


真「なんであなたは平気で人を傷つけることができるの?」
薔「何言ってんの?恋愛にルールなんてないじゃない」
真「間違ってる……あなたは間違ってるのだわ……」


私にそう言われた薔薇水晶は俯いた。何かを思案しているようにも見えた。
そして、少しして、彼女は顔に笑みを浮かべて、


薔「それでもいいよ」


と言った。私は意味がわからなかった。きっと今の私はとても間抜けな顔をしているのだろう。
そんな私を一瞥して彼女は続けた。


薔「それでもいいよ。他人に理解されなくてもいい。誰に嫌われたって構わない。銀ちゃんにも、お父様にも、もちろんあなたにも。
  だって他人なんて信じられないもの。それが良いこととか悪いこととか、正しいとか間違ってるとか、そんなのはどうでもいいの。
  私はただ、ジュンがいればそれでいいの。ジュンが欲しいの。ジュンに愛してもらいたいの」


私の口元が引きつるように震えた。


真「なんで?なんであなたは他人を信じられないの?なんでそんなにジュンに固執するの?」
薔「さっきからなんでばっかりだね。いいよ、全部説明してあげる」


口に出すとウソになっちゃうかもしれないけど。彼女は初めにそう言うと、私に語り出した。


薔「私には家族なんていないの。お母様は私が生まれてすぐに死んじゃったし、お父様も仕事仕事で私のことをちゃんと見てくれなかっし、
  五年前に出ていってそれから一回も家に帰ってきてないの。まあお金は毎月振り込まれてるから生きてるのは確かだろうけど、だから私はあの男を
  家族と思ったことなんて一度もないよ。学校でも誰も私を見てくれなかった。ううん、人間としても扱ってくれなかった。……当然だけどね。
  だって髪はこんな色だし、目の色も皆と違うしね。眼帯もしてたし。苛められてるときに、どれだけ泣いても叫んでも、誰も助けてくれなかったよ。
  友達だって言ってくれた人は確かにいた。でも、そいつらは皆私を弄んで、飽きたら私を捨ててった。先生たちも、私のことをまるで虫を見るような目で見てた。
  味方なんて、だれもいなかった」


薔薇水晶の体が震えている。良く見れば目に光りが無い。その頃のことを思い出してるんだろうか?


薔「私は、そんな自分を認めようとしてた。私はあいつらの慰み物になったまま、誰にも好きになってもらえず、誰も好きになれないでこのまま生きていくんだってね。
  ……でも、あの日、十四歳の誕生日に、私はジュンに出会った」


彼女は、その隻眼から涙を流して語っている。なんで、なんであなたは泣いてるの?


薔「私を人間扱いしてくれたのも、普通の女の子として接してくれたのもジュンだけだった」


あなたはジュンを騙す血も涙も無い悪女。そのはずでしょう?なのになぜ、あなたは涙を流せるの?


薔「ジュンに会えなかったら、私はもうこの世から消えていたのかもしれない。生きていても、なんの反応もしない。ただの人形になってたかもしれない。
  でも、ジュンが私を変えてくれた……あいつらのおもちゃでも、生きる人形でもない。一人の人間、薔薇水晶に」


薔薇水晶は微笑んだ。それは、彼女が今まで見せた嘲笑とはまったく違うものだった。
胸を刺すように透き通った、とても綺麗で純粋な微笑み。


薔「私は、ジュンが好き。この思いは誰にも譲れない。誰にも否定させない」


なんの迷いもない、真っ直ぐなその言葉。
彼女は他人にどれだけ罵られようとも、決してその思いを曲げることは無いだろう。
それほどに強くて……危険な思い。


薔「ジュンは誰にも渡さない。もし、それでも私からジュンを奪おうと、私達を引き離そうとするのなら……」


彼女の金色の左目が私を見据えた。
足が竦んだ。


薔「――潰すよ」


それは私を貫いた。


私は力無く、トサリとその場に座り込んだ。
勝てない。勝てるはずが無い。体の震えが止まらない。私は戦いを挑む相手を間違えた。
彼女の思いは強すぎる。純粋すぎるその思いは、もはや狂気の域に達している。
そんなものに一体どうやって立ち向かえというのか?もし、薔薇水晶に私がジュンに抱かれている所を見せつけたとしても、
そんなのは彼女にはどうでもいいことだろう。さっきの言葉通り、私を潰してハイおしまいだ。
薔薇水晶は危険だ。絶対に敵対してはいけない。私の理性がしきりに警告を発している。
薔薇水晶の顔を見ることが出来ない。怖い。ただひたすらに怖い。
彼女は、一つ溜息をついて振り向くと、今までこちらに注目していた連中は皆目を逸らして自分たちの世界に帰っていった。
その後今まで座っていた椅子に腰を掛け、私に話しかけた。


薔「まあジュンを奪おうとしなかったら、私から真紅達を傷つけるようなことはしないよ。だから今まで通り仲良くしようね」


私は彼女の顔も見ずに頷いた。気付けば雛苺と巴も私と同じ様子だった。
この裁判で裁かれたのは、私達のほうだった。


ガララ……バァン!!!


そのとき、誰かが教室の後ろの戸を、壊さんとする勢いで思いきり開けた。
私はその音がしたほうに目を向けた。
そこには……


銀「ふぅ……ふぅ……」


水銀燈がいた。
彼女は全身にびっしょりと汗をかき、制服のブラウスが透けて見える所もあった。
良く見ると少しふらついている。まさか、この暑さの中を走ってきたのだろうか?


薔「あーあ、来ちゃったんだ。以外と早かったなあ」


薔薇水晶は不敵な笑みを浮かべていた。彼女は立ちあがり、水銀燈のほうへと向かう。
水銀燈も、ふらふらしながら薔薇水晶に近付いた。そして、教室の後ろのスペースで、二人は向かい合った。


薔「銀ちゃん久しぶり。今までどうしてたの」
銀「…………」


薔薇水晶の呼びかけに、彼女はなにも答えない。


薔「ねえ、無視しないでよ」
銀「…………」


何も言わない水銀燈。だが、彼女は顔を上げて歯をギリリと噛み締め、恐ろしいほどの感情がこもった視線で薔薇水晶を見た。
そしてそのまま薔薇水晶の胸倉を掴み、教室の後ろの壁に勢い良くバンッ!!と押しつける。
壁に押しつけられた薔薇水晶に、水銀燈はまるで地獄の底から響いてくるような憎悪に満ち溢れた声で問いかけた。


銀「……あなただったのねぇ」


続く

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