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+++桜田ジュン(6/23PM12:55薔薇学園3-B教室)+++
J「ごちそうさん。今日のもうまかったぞ」
薔「おそまつさまでした。ねえジュン、今度の日曜なんだけど……」

心配していた冷やかしやからかいもなく無事昼食を終えた僕は、隣に座っている薔薇水晶に弁当箱を返した。
あの日からずっと、昼休みは彼女の作った手作り弁当を食べる日が続いている。
前々から彼女は『お昼は私が作る』と言っていたんだけど、この関係が水銀燈にばれるのを恐れた僕がその申し出を断り続けていたのだ。
でも、もう隠す必要がなくなったから、彼女はこうしてお弁当を作ってきてくれる。
彼女の料理は、確かにすごく美味しかった。
料理の技術も然る事ながら、それに込められた彼女の思いが、味をいっそう引きたてているような気がした。
本当は比べちゃいけないことなのかもしれないけど、彼女が作ったそれは、姉ちゃんのよりもおいしかった。
薔薇水晶が弁当を作ってくれることは、もう姉ちゃんにも言ってある。今までは姉ちゃんが弁当を作ってくれていたから、
言っておかないと、弁当が二つになってしまうからだ。……さすがに弁当二つは食べられない。
僕が薔薇水晶と付き合っていることも、そのときに一緒に話した。それを聞いたとき、姉ちゃんはすごく驚いていた。
姉ちゃんは僕は水銀燈とくっつくものだと思っていたらしい。確かに僕と水銀燈はあんなに仲が良かったし、姉ちゃん自身も水銀燈のことを本当の妹のように可愛がっていたから、
そう思うのも当然かもしれない。


『水銀燈ちゃんに『お義姉さん』って呼んでもらえると思ってたのになぁ』


とも言われてしまった。……姉ちゃん、期待に添えなくて、ごめん。


そういえば水銀燈はまだ学校に来ない。一日最低十通は送ってきたメールも、最近はぱったりと来なくなった。
正直、少し心配だ。だってその原因はどう考えても僕にあるんだから。
こっちから連絡を取ろうとも思った。でも、またあのときみたいに気持ちが揺らいでしまうのが怖くて出来なかった。
だって僕が好きなのは薔薇水晶なんだから。彼女を悲しませるような真似は出来ない。だから、水銀燈のことを思っちゃいけない……思っちゃいけないんだ。
……早く……忘れないと……



薔「……うり~」


いきなり横からにんまりとした表情で、薔薇水晶が僕の頬を引っ張った。う~ん、我ながらよく伸びる。


J「いひゃいひょふぁらふいひょう(痛いぞ薔薇水晶)」
薔「そんなに強くつねってないんだけどなあ」


少し笑って彼女は両手を僕の頬から離した。僕は引っ張られた頬をさすりながら彼女に尋ねた。


J「まったく、なんでこんなことするんだよ」
薔「だって、ジュン私のこと無視するんだもん」
J「無視?」


どうやら考え事に集中するあまり、彼女の言ってることに気が付かなかったようだ。いかんいかん、反省せねば。


J「ごめんごめん。で、なんの話だ」
薔「もー。今度のデートのことだよ」
J「デート?」
薔「今度の日曜にデートしてくれるって言ってたでしょ。でもまだ行き先聞いてなかったから……もしかして、忘れてた?」


………ごめんなさい忘れてました


J「い、いや、そんなことはないぞ」
薔「ほんとにぃ~」


薔薇水晶が僕の目を覗き込む。ヤバイ、疑われてる。


薔「……でも、まあいいや。今度からは忘れないでね」
J「う、うん、わかった。それじゃあ、どっか行きたいとこあるか?」
薔「ジュンの選んだ所なら、どこでもいいな♪」


どこでも……一番難しい答えだ。


J「じゃあ、遊園地なんかどう?」
薔「うーん、私は騒がしい所は苦手だからちょっと楽しめないかも」
J「映画で見たいものはある?」
薔「今、あんまり良いのはやってないなぁ」
J「水族館とか公園とか……」
薔「そういう、静かそうな所の方が良いかもね。……でも、ジュンも楽しめないと意味無いよ?」
J「ああ、それなら……」
?「あの、ジュン様」
J「ん?」


薔薇水晶に返事をしようとしたところで、誰かに名前を呼ばれた。



J「雪華綺晶じゃないか。どうしたんだよ。何か用か?」
雪「少しお話したい事がございます。ばらしーちゃん、ジュン様をお借りてよろしいでしょうか?」
薔「え~今大事な話してるのに……」
雪「心配なさらずともジュン様を横取りしようだなんて思ってませんわ。ですからそんなに心配なさらないでください」
薔「でもジュンとデートの打ち合わせしてるんだよ?邪魔しないでほしいなぁ」
雪「ですが私も……」
金「薔薇水晶、ちょっと話があるかしら~」


二人が僕の争奪戦?を繰り広げている中に、突然金糸雀が乱入してきた。まさか金糸雀、お前もか!!


薔「……なーにぃ?」


薔薇水晶がいかにも不機嫌です、といった様子で金糸雀を睨みつけた。


薔「金糸雀もジュンに用事があるの?」
金「違うかしら。カナは薔薇水晶に用があるのかしら」
薔「私に?」
金「うん。実は真紅達が薔薇水晶に話したい事があるみたいかしら」


金糸雀が示した方向を向くと、真紅と目が合った。真紅は慌てて目を逸らす。真紅の近くには他の薔薇乙女達も、そのほとんどがそろっていた。


金「悪いんだけど、とても大切な話だそうだから行ってあげてくれないかしら?」


薔薇水晶がにやりと笑った。彼女のこんな顔は初めて見る。その笑いは、まるで真紅達をバカにしているかのようだった。


薔「ん~それじゃあ仕方ないなぁ。いいよ、ジュンを少しだけ貸してあげる。私も真紅達の話が聞きたいし」
金「ありがとうかしら薔薇水晶~」
雪「まあ、ありがとうございます。それでは参りましょう、ジュン様」
J「ちょ、引っ張るな雪華綺晶!!薔薇水晶!!すぐ戻ってくるからなぁぁ~」


情けない声を上げつつ、僕は雪華綺晶に引き摺られていった。
このとき僕は、妙な胸騒ぎを感じていた。それがどんなことの予兆なのか、このときの僕にはまだ知る由もなかった。



―――――――――――――

+++水銀燈(6/23PM1:02薔薇学園一階廊下)+++
ここは、どこなんだろう。なんだか目の前がドロドロしてて良くわかんない。音もよく聞こえない。でも、自分の呼吸をする音はやけに大きく聞こてくる。
体がボワッと宙に浮いているみたいで、まるで自分の体じゃないみたい。


―――自分が満身創痍なのは間違いない。この異常なまでの暑さの中で、ろくに食事も取っておらず、睡眠も満足に取ってない体を私は信じられないほどに酷使した。
足がさっきからずっとガクガク痙攣している。頭の中に白い靄が掛かって、ろくに考える事も出来ない。吐き気もどんどん凄くなって、今にも戻しそうだ。
喉の乾きも凄い。きっと、熱中症の症状が最大レベルの第3度にまで上昇しているのだろう。
脱水症状と熱中症が重なり、普通ならば絶対安静が必要な状態だ。
体全体が疲れきっていて、これ以上無理をすると、私の体は確実に壊れてしまう。
そして、私の心は体と比べものにならないほどに疲労しきっていた。蝕まれていると言っても良い。
心の中身がごっそりと抜け落ちたように感じた。



―――なぜ諦めないのか―――



私の心の冷静な部分が問いかける。
いっそのことジュンを諦めて、彼を薔薇水晶に譲ってしまえば楽なのではないか?悲しみや苦しみはあるだろう。でも、こんな死ぬような思いをするよりは遥かにマシなんじゃないか?
だけど、諦めろ、譲ってしまえという声が聞こえるたびに、ジュンの姿が脳裏に浮かぶ。
そして、私の中にある何かも私を急き立てる。



―――闘って奪いとれ―――



そのとき何かがトンと私の肩にぶつかった。それは大した勢いではなかったが、疲労が困憊していた私はそのまま前のめりに倒れてしまった。


(早く立たなきゃ)


だけどいくら体を動かそうとしてもピクリとも動かない。まるで、体が石になってしまったかのように。


(動かない……動かないよぅ……)


?「す……だ……じょ……だ……を……て……」


ぶつかった何かが私に向かって頻りに話しかけている。でも今の私にはそれを言語として認識することも出来なかった。
そのうち声もだんだんと聞こえなくなり、瞼もゆっくりと下がってきた。頭の中も黒く塗りつぶされていく。
薄れ行く意識の中で、私は『ああ、このまま死んじゃうんだ』と思った。
でも、それも良いかもしれない。このまま死んでしまえば、もう苦しまないですむ、悲しまないですむ、私は全てから解放される。
考えが次第に弱い方向へと傾く。そして、次第にそんな考えも出来なくなって、目の前も真っ暗になって、ああ……こ……のま……ま……w……た…………は…………

………………………
…………………
……………
………
……


?『あはは……』
?『えへへ……』



―――声が聞こえる―――



?「ほら、行くぞ」
?「待ってよ―――」



―――何か見えてきた。あれは、ジュンと薔薇水晶?―――



薔「おはようジュン!」
J「ああ、おはよう薔薇水晶」
薔「さあジュン。早く行かないと遅刻しちゃうよ」
J「悪いな。毎日迎えに来てもらって」
薔「いいよ。私も好きでやってることだもん」



―――あんた、一体何をしているの?―――



薔「はい。今日のは自信作だよ」
J「ありがと。さて、食うか」
薔「はい、ジュン、あ~ん」



―――やめて、ジュンに近付かないで―――



薔「ジュン、一緒に帰ろ♪」
J「いいよ。今日はなにも用事はないからな」
薔「えへへ~ジュン~」


―――やめて、やめなさい―――



薔「ちょっと、やだよこんな所で……」
J「でも……ゴメン、もう我慢できないよ」
薔「やだ、ジュンやめ……ん……くぁ……」



―――やめてっ!!やめてっ!!!もう、やめなさい!!やめてって言ってるでしょう!!!!!!―――



薔「や……やだ……そんなとこ……あ……んふぅ……」
J「う、くぅ……薔薇水晶、僕もう……このまま……」
薔「え?ダ、ダメだよジュン!!今日は危ないの!!だから中は……」
J「ゴメン、でももう……出すよ、このまま!!」
薔「ダメェ……ダメェ!!」


―――やめろやめろやめろやめろやめろやめろぉ!!!!!!!――――――



J「う、うああああああああああ!!!」
薔「あああああぁっっ!!」



―――やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!―――



私は目をカッと見開いた。靄が掛かっていた頭の中も次第にクリアになっていく。
そして、なにかが私に問いかける。


いいのかな。


このままでいいのかな。


このまま終わっていいのかな──水銀燈。


―――いいわけが無い。私は諦めない!!絶対負けない!!―――


小指を動かすのも苦労するくらいの疲労に身を委ねながら、私はまだ諦めていなかった。
非常に緩慢な動作で、私は立ちあがるために廊下に手をついた。


銀「……ぐぅ!!」


そのとき、猛烈な吐き気が私を襲い、我慢できずにそのまま胃の中の物を全て廊下にぶちまけてしまった。
周りの目なんか気にしない。気にする余裕もない。
普段だったら死にたくなるような恥辱の中で、私はもがいていた。
そして吐いた。構わず手を動かした。また吐いた。それでも足を動かした。


―――負けるものか―――


体にこびりつく小さな気力が、今の私を動かしていた。
廊下が汚れるのも構わず、とにかく立ちあがろうと必死だった。


―――負けるものか―――


たとえ手遅れになったとしても。わたしは諦めない──!
気が付けばさっきまでの苦しみは、もう感じなくなっていた。
憎悪が病魔に打ち勝ったのか。ほんの数十分で衰弱に陥った私は、それよりも短く、たった一瞬で甦った。
本当に生き返った気分だった。それまでが嘘みたいに、カバンを手にすっくと立ち上がり、口元を手で拭った。
自分の体を確認してみる。どうやら制服に汚れは無いようだ。


笹「大丈夫?水銀燈さん」


誰かが私に声を掛けた。この声は……笹塚?そうか、さっき私がぶつかったのは笹塚だったのか。


笹「いきなり倒れたからビックリしたよ。さっき先生を呼んだから。ほら、支えてあげるから無理しないで」


笹塚が私を支えようと肩に手を回した。え……ということは他の男が私の体に……
それに気付くと同時に私は笹塚を思いきりドン!と突き飛ばした。
当の本人は尻餅をついて、なにがなんだかわからないという表情をしていた。


銀「……あんたなにやってんのよ」
笹「え……でも水銀燈さんが……」
銀「私の体に触っていい男は、ジュンだけなんだからねぇ」


これ以上こいつに構っている暇は無い。早く薔薇水晶の元に行かないと……
私が歩き出すと、野次馬たちが道を空けた。良い子ね。今の私を邪魔したらどうなるかわからないわよ?
今の私に在るもの。それはジュンへの愛、消す事のできないほどの想い。そして……………薔薇水晶への……………嫉妬……………。
いや、もはや憎悪といっても間違いではないだろう………。この感情だけは………。


(うふふ……ねえジュン。私汚れちゃったわぁ。でもジュンだって汚れてるんだからこれでおあいこよねぇ。だから二人で綺麗になりましょう。
 それで前みたいに、ううん、それ以上の関係になるの。もう誰にも引き離せないように強く結ばれるの。それで幸せになりましょう。
 私とジュンの二人だけの場所で、誰にも邪魔されない場所で、ふふ、いいわぁ。想像しただけでぞくぞくしちゃう。
 あはっ。ふふ、あはははははは、ふふは。ふふふあはへあはへへへ)


―――少女は笑っている―――



(でもその前にあの子をなんとかしないとねぇ)



―――狂った笑みを浮かべている―――



(待っててねぇ。すぐに助けてあげるわぁ。そして私と……)



―――その愛は鎖のように重い―――



(ジュン、愛してるわぁ)



―――少女の愛(狂気)は―――


(ウフフ……アーッッハハハハハハッハハハ!!!)


―――止まらない―――


続く

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