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今ではない昔、ここではない何処かに、
音楽の神様がいました。
その神様は金糸雀といって、とても歌が大好きでした。

金糸雀には友達がいました。とても綺麗な緑色の鳥です。
金糸雀はその鳥を、みっちゃん、と呼んでいました。
ふたりはご飯のときも、寝るときも、いつも一緒でした。

「みっちゃん、今日もいっぱい歌うかしらー!」

みっちゃんは、ぴい、と鳴いて答えます。
そうして2人はいつも、空に近い丘の木の上で、歌をうたっていました。
金糸雀もみっちゃんも、お互いが大好きでした。

ある日、金糸雀が目を覚ますと、みっちゃんがいませんでした。

「みっちゃん?どこいったかしらー?」

いつもはどこに行っても、金糸雀が呼べば、みっちゃんはやってきました。
でも今日は、金糸雀が何度呼んでもみっちゃんは現れませんでした。
金糸雀が不安になって辺りを探しましたが、どこにもいません。
窓から外を見てみると、雨が降っていて、遠くが見えませんでした。。
そして、ふと、気付きました。

(今日の雨は、音がしないかしら)

金糸雀は、なぜだかとても怖くなりました。
心の中にも雨が降ったような感じがします。
金糸雀はいてもたってもいられなくなって、外へ飛び出して行きました。
音のない雨は氷のような冷たで、金糸雀の体をぬらし、
針のような鋭さで、金糸雀の心を削りました。
それでも金糸雀は、びしょ濡れになりながらみっちゃんを探して走りました。17


「みっちゃん!みっちゃん!」

どれくらい時間がたったのかは分かりません。
音のない雨は絶えず降り続きました。
足は疲れて棒のようになっていって、
呼ぶ声も次第に枯れていきました。
それでも金糸雀は走り、呼び続けました。

そして、空に近い丘の上に、みっちゃんはいました。
みっちゃんは、木の根本に横たわっていました。
しかし、綺麗だった羽が抜け落ちて、草原のような緑色もくすんでしまっていました。
金糸雀はみっちゃんのそばに駆け寄って名前を呼びますが、
目を覚ます様子はありませんでした。
金糸雀がふと、顔を上げると、2人の女の人が立っていました。


「あなたは、この子のお友達ですか?」

髪の長い女の人が聞きました。
金糸雀は頷いて、尋ねました。

「あなた達は、だれ?」

「僕たちはここでは、『死』と呼ばれている者だよ。
 残念だけどこの子は、死んでしまったよ。」

髪の短い女の人が、悲しそうに言いました。
死んでしまった。その言葉は、金糸雀を強く殴りました。
それを聞いて金糸雀は、みっちゃんの体を抱いて叫びました。

「嘘よ、嘘かしら!」

「悲しいけど、本当なんです。
 だから、私たちがお迎えに来たですよ」

「みっちゃんは、死んでなんかいないかしら!
 ちょっと、ちょっと眠っているだけかしら…
 だから、すぐ、目を覚ます…かし…」

そういいながら、金糸雀は泣いていました。
みっちゃんの体の冷たさが、堅さが、死んでしまったことを嫌と言うほど示していることを、
金糸雀も分かっていたのです。


髪の長い『死』が、金糸雀の頭を撫でて、言いました。

「この子のお花は枯れてしまったのです。
 それは、とても悲しい事ですけど、
 この子はちゃんと素敵な種を残しているです。」

「みっちゃんの…種…?」

髪の短い『死』が、続けて言いました。

「君だっていつかは死んでしまう。僕らだってそうさ。
 でも、全ての生き物は、種を残すんだ。
 それは目にはみえないけど、確かにあるんだよ。
 それは、どこか柔らかい地面の上で、春を待つかもしれないし、
 どこかのお母さんのお腹の中で、ゆらゆらと浮かぶかもしれない。
 そしてまた生きるんだ。『死』が迎えに来るまで。」


金糸雀は、『死』の言うこと全てが理解できたかどうかは分かりません。
ただ、綺麗な緑色の小鳥のみっちゃんは、もういない。
でもいつか、違う形、性格で『みっちゃん』は生きて、
金糸雀自身も、いつか別の『金糸雀』を生きていくんだと、そう思いました。
そう思うと、ほんの少しだけ、寂しさもなくなった気がしました。
金糸雀は、腕の中のみっちゃんに話しかけました。

「みっちゃん、私は、今のみっちゃんと一緒で楽しかったかしら。
 みっちゃんも、そうかしら?」

みっちゃんは答えません。
金糸雀は、泣きながらの笑顔で言いました。

「いつか私も種になって、あなたの近くに行けたら、教えてね。
 そしてまた、一緒に歌おうかしら。」

そういって、金糸雀はみっちゃんの体を『死』に預けました。
2人の『死』は小さく笑って、雨の中、空へとを上っていきました。

金糸雀は空に向かって、歌いました。
お世辞にも綺麗とは言えない枯れた声で、歌いました。
音のない、暖かい雨の中で、2人の『死』と、大好きな友達を見送って。
泣きながら、いつまでも、いつまでも。


やがて、静かな雨は上がりました。
金糸雀が奏でた七つの音はそれぞれ綺麗な色を付けて、
空に大きな橋を架けました。
きっとそれは将来、素敵な名前で呼ばれることになるでしょう。


命は生まれて、育って、枯れて、また形を変えて生まれます。
いつか、どこかで、彼女たちと同じ名前の人が、また別の物語を語るかもしれません。
それはお姉さんと妹だったり、お母さんと子供だったり、
生きた人形とそのご主人だったりするかもしれません。
それは全て、たくさん伸ばされた枝の先の物語。
どこに実がなるのかは、大きな古時計でも知らないでしょう。

ここではない何処か、今ではない昔、泣き虫な神様の物語。


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