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+++翠星石(6/23AM10:34薔薇学園3-B教室)+++
あれから三日。ジュンと薔薇水晶の関係は、3-B全員の周知の事実として認識されつつあった。


薔「おはようジュン!」
J「ああ、おはよう薔薇水晶」
薔「さあジュン。早く行かないと遅刻しちゃうよ」
J「悪いな。毎日迎えに来てもらって」
薔「いいよ。私も好きでやってることだもん」


朝は薔薇水晶がジュンの家まで彼を迎えに行き、そこから二人で腕を組んで和気藹々とした雰囲気で登校し。


薔「はい。今日のは自信作だよ」
J「ありがと。さて、食うか」
薔「はい、ジュン、あ~ん」
J「え?……やらなきゃダメ?」
薔「はやく~~!あ~~ん!」
J「あ~ん……んぐ……うまいな」
薔「じゃあ次はジュンの番♪」
J「わかったよ、はい、あ~~ん」
薔「あ~~~ん……もぐもぐ」
J「うまいか?」
薔「えへへへへ~~はい、あ~~ん」
J「あ~~~ん」


昼は薔薇水晶の作ったお弁当を互いに食べさせあい。


薔「ジュン、一緒に帰ろ♪」
J「いいよ。今日はなにも用事はないからな」
薔「えへへ~ジュン~」
J「おわ!!教室でくっつくなぁ!!」
薔「え~。でも~」
J「……学校から出たらしてもいいから」
薔「ジュン……大好きだよ♪」
J「だーかーらーここでくっつくなって!!」


放課後も朝と同じように腕を組んで下校する。そのまま二人で薔薇水晶の家に入っていくのを見た人もいた。
薔薇水晶は滅多なことではジュンから離れようとはしなかった。
まるで、ジュンが自分の物であることを周囲に誇示するかのように。


男1「はぁ。あいつらホントに仲良さそうだよなあ」
男2「まったく。見てるこっちが恥ずかしいぜ」
男3「あー、俺も彼女欲しー」
ベ「くう…!いつかは俺も蒼嬢と……」
笹「廊下に立ってます……」

口々に周りが噂する。皆、二人のバカップルぶりに閉口しつつも、その関係を認めつつあった。


翠「………」


私以外は


薔「……でさ……なんだよ……」
J「へぇ……でも……かもな……」


今、二人は自分たちの席で雑談をしている。何か可笑しいことでもあったのか、二人の間からは時々笑い声がもれていた。
まあ、あれだけ仲の良い二人のことだ。どんなに些細なことでも二人で話せばおかしく感じるのかも知れない。
私は、教室の後ろの方から二人を見つめ……いや、睨みつけていた。


蒼「翠星石……」
翠「………」
蒼「翠星石、君の気持ちもわかるよ」
翠「………」
蒼「でも、彼女を選んだのはジュン君自身なんだ」
翠「………」
蒼「だったら僕達はジュン君の気持ちを尊重してあげないと」
翠「………」
蒼「だから翠星石も……」
翠「蒼星石は」
蒼「え……?」
翠「蒼星石は、なんにもわかってないんですね」


そう、なんにもわかってない。今あの二人に起きていることも。私の心も。
薔薇水晶とジュンの関係を知ったとき、私は薔薇水晶を殺したいほど憎んだ。
まるで、黒い炎に心を焼かれているような感じだった。
今までは、ジュンが自分以外の人を好きになったら潔く身を引こうと思っていた。でも、そんなのは無理だった。
ジュンが薔薇水晶と仲よくしているのを見ると、心の中が激しくかき乱され正気じゃいられなかった。
二人の仲を応援することなんて出来るはずがなかった。
自分の思い人が、自分以外の女と仲睦まじくしているのを笑って見守るなんてことは、私にとっては拷問以外の何物でもない。
心に灯った黒い炎はそう簡単には消えてくれなかった。


―――だったら奪ってしまおうか?ジュンをあの雌狐から。ジュンを私のモノにしてしまおうか?―――
……そんなことが出来るならとっくにやっている。私にはそれをしたくても出来ない理由があった。


薔「あは。そうなんだ。でもさ……」
J「ああ、まあお前の言う通りかもな、すい……」
薔「ん?」
J「い、いや、なんでもないよ薔薇水晶」

翠「………」


あれからジュンを見ていてわかった。ジュンは、あいつを時々水銀燈と間違えそうになる。いつもは途中で気付いて言いなおしてるみたいだけど、
ジュンがあいつを水銀燈って呼んでしまうこともあった。
間違えられても、あいつは気にもとめてないみたいだから外にはわからない。だからこの事実に気付いているのは今のところ私だけだ。
でも私にはわからない。恋人が自分を他の女と間違えても平気でいられるなんて……
けれど問題はそこではない。
ジュンがあいつを水銀燈と間違えるという事実。それはジュンが水銀燈を想っている証拠に他ならない。
ジュンが水銀燈を想っている限り、私がジュンを奪うなんてことは不可能だ。
ジュンは今自分にウソを吐いている。それはジュン自身も感じていることだろう。
なぜジュンが自分の気持ちを偽ってまで、薔薇水晶と付き合っているのか。そこまでは私もわからない。
でもそこの矛盾をついていけば、たとえ奪うことは出来なくても二人の関係を壊すことくらいは出来るかもしれない。
だけどそんなことをしてもなんの意味もない。
ジュンの心が水銀燈に向いている以上、関係を壊すことに成功してもジュンの心は決して私に向くことはないからだ。
ジュンの体は薔薇水晶の奪われ、心は水銀燈に奪われた。私は、もう彼の隣に立つことは出来ない。でも、彼を諦めることも出来ない。
進むことも、戻ることも出来ず、嫉妬の炎に焼かれ続ける崩壊寸前のこの心。
この炎を消す術を、私は知らない。


着信音<ネーナ-ゼーカワーッテーシーマーッタノー


突然、携帯の着信音が鳴った。どうやらメールが来たようだ。携帯を開けて確認した。
メールは……雪華綺晶からだ。



From:雪華綺晶
Sub:(not title)
本文
お話したいことがございますので今から屋上まで来てください。



屋上に来い?今から?第一屋上は立ち入り禁止じゃなかったのか?時計を確認する。後数分もしないうちに次の授業が始まってしまう。
それに私と雪華綺晶とはあまり交流がない。メルアドは登録してあるけどこっちからメールをしたことも、あっちからメールが来たことも
今まで一度もなかった。それがなぜ?あいつが何を考えているのかさっぱりわからない。


蒼「どうしたの?翠星石」


携帯の画面を見たまま固まっていた私の顔を蒼星石がのぞきこんだ。
私は携帯を閉じて蒼星石の方を向いた。


翠「なんでもねーです。……ちょっと行ってくるです」


私は屋上へ行くことにした。雪華綺晶の話したいことに興味がわいたからだ。


蒼「え。何処に行くのさ。もう少しで三時間目が始まっちゃうよ?」
翠「すぐ戻ってくるから心配しなくていいですよ」
蒼「けど……」
翠「翠星石を信用しろです」


なおも食い下がる蒼星石を置いて、私は教室を出た。


キーンコーンカーンコーン……


歩いていると途中でチャイムが鳴った。やっぱり間に合わなかったか。その場で立ち止まって考える。
今いるところは三階へ続く階段の踊り場。二階にある3-Bの教室とは大して離れていない。
今なら歩いても十分に間に合うだろう。それにチャイムが鳴ったのだから雪華綺晶も教室に戻っているかもしれない。
さてどうするか……うん、やっぱり行ってみよう。あいつは休憩時間終了間際にメールを送ってきた。と言うことは今も私を待っている可能性が高い。
次の授業の内容は後で蒼星石にノートを借りて確認することにして私は再び屋上に向かって歩き始めた。


翠「これでつまらない話だったらぶん殴ってやるですよ」


しばらくして屋上へ着いた。この学校の屋上は私が入学する前にここで生徒が飛び降り自殺したことがあり、それ以来ずっと閉鎖されている。
私はドアノブをつかんでそっと回してみた。


カチャ


ドアは簡単に開いた。鍵は掛かっていなかった。
屋上には二人の生徒が私を待っていた。


一人は、白い長髪。左目に白薔薇の眼帯。名前は雪華綺晶。
雪華綺晶は良家のお嬢様で、彼女の実家はこの学園にも多大な援助をしている。そのため教師も彼女には頭が上がらないらしい。
雪華綺晶自身は決して悪い奴ではないのだけど、その喋り方はまるで自分が上から見下ろされているように思えて少しいやだ。
彼女は薔薇水晶にそっくりだけど、薔薇水晶とはなんの関係もないらしい。まあ世の中には自分にそっくりな人が三人はいるというから、彼女もその一人なのだろう。
もう一人は、緑髪。広いおでこ。名前は金糸雀。
金糸雀は成績も良く、頭の回転も早いが、その早さに体がついて行けていない。簡単に言うとドジなのだ。本人は自分のことを策士と呼んでいるが、
そのドジのせいで陰では『なんちゃって策士』と呼ばれている。私や雛苺とは仲が良い。
どちらも少しいらいらしているようだった。
翠「待たせたです」
私が声をかけると、二人は待ちくたびれたといった顔で振り向いた。


雪「あら?ずいぶんと遅かったですね」
金「翠星石遅いかしら!!」
翠「教師に見つからんように遠回りしてきたんです。でもなんで金糸雀もここにいるですか?」
金「それはもちろんカナも雪華綺晶に協力するからかしら」


金糸雀は一体なにに協力するのだろう。いや、理由は大体察しがつく。
雪華綺晶は私に近付き話し始めた。


雪「今日ここに来ていただいたのは他でもありまでん。あなたに是非協力していただきたいことがあるのです」
翠「協力?なににですか」
雪「もちろん。ジュン様のことです」


ああ、やっぱりそのことか。下らない。私はそのまま屋上を出ていこうとした。


金「待つかしら!せめて話くらいは聞いてほしいかしら!」


金糸雀が私を引きとめようとした。私は振りかえって二人に言い放った。


翠「おめーらの言いたいことはわかってるですよ。どうせ『ジュン様を取り戻したいから二人を引き離すのに協力してください』って
  言いたいんですね。でもそんなことしても無駄ですよ。ジュンの心はもう別の奴に取られちまってるです。今更私達がどーこーしても
  もう手遅れなんですよ」


この二人はそんなこともわからなかったのか。
まったく、下らない事に時間を掛けてしまった。これからどうしよう。授業時間も結構過ぎてるしこのまま気分が悪くなったことにして
保健室に休みにいこうか。そんなことを思いながら私は屋上を出ようとした。


雪「私がお頼みしたいのはそのことではありません」


雪華綺晶が私の背中に声をかけた。


雪「私はあなたに『ジュン様を壊す』お手伝いをしてほしいのです」


ジュンを……壊す……?彼女が言ったことの意味がわからなかった。私はふりむいて叫んだ。


翠「ジュ……ジュンを壊す!!いったいなに言ってるんですか!!


慌てる私に構わず、彼女は続けた。


雪「はい。ジュン様を壊すんです。正確には今ジュン様を取り巻いている状況を壊すんです」
翠「こ、壊すって。そんなこと許されるわけねーですぅ!!」
雪「許す許されないということではなく、そうするべきですからそうするだけです」
翠「何で、どうしてそんなことをしなきゃならんのですか!!」
雪「ジュン様の目を覚まさせるため、そして私達のためです」
翠「でも目を覚ましてもジュンは……」
雪「はい。ですからジュン様の中にある水銀燈への思いも一緒に壊すんです」
翠「―――!!!」


水銀燈への思いも一緒に壊す?そんなことが出来るのか。


翠「とにかくそんなことに翠星石は協力できねーですぅ!!」


あたりまえだ。どんな理由があっても自分の思い人を壊すことが出来るほど私の心はは腐ってはいない。


金「あら?じゃあ翠星石はジュンが他の女といちゃいちゃしてても平気なのかしら?」
翠「それは……」
金「カナはそんなの我慢出来ないかしら。あのときはその場の空気でああ言っちゃったけど、本当は応援なんてこれっぱっちもしてないかしら」


それは私も同じだ。あの場で私は認めないと言える者がいるなら見てみたいものだ。


金「だからカナは雪華綺晶に協力するのかしら。ジュンにふさわしいのは少なくともあの二人じゃないのかしら」


そうだ。ジュンにふさわしいのはあの二人じゃない。この私だ。でも……


雪「深く考える必要はありません。時計の針を少しだけ戻すだけとお考えください」
翠「時計の、針を」
雪「はい。帰りましょう。まだジュン様がだれの物でもなかったあのころに。楽しかったあのころに」


雪華綺晶の言葉が私の心を揺さぶる。


雪「羨ましいのでしょう。ジュン様といつも一緒にいる薔薇水晶が。憎いのでしょう。ジュン様の心を独占している水銀燈が」
翠「翠星石は……翠星石は……」


私はいったいどうしたらいいのだろう。まだ答えをだせない私に雪華綺晶が耳元で囁いた。


雪「あの二人をジュン様から引き離せば、あの御方はあなたのモノになるかもしれませんよ」
翠「………っ!!」


『あなたのモノに』その言葉が決定打となった。
心の中で炎が再び燃え広がる。その勢いはとどまることをしらず、私の心を焼き尽くす。
ああそうか。私ってこんな女だったんだ。いつもは強がってみせてるけど、その本性はすごく嫉妬深くてやきもち焼きで。
でも好きな人の前じゃ素直になれずにわざと嫌われるようなことばかり。そのくせにその人にずっとそばにいてほしいって思ってる。
わがままで身勝手でどうしようもない。そんな女なんだ。
でも、そんな女でもチャンスがあるのなら。彼に少しでも振り向いてもらえるなら、私はなんだって出来る。
この黒い炎を消すためにはジュンが必要なんだ。


雪「すべてを元に戻しましょう。そして元に戻した後に改めて正々堂々と戦いましょう。
  そのときにあなたがジュン様を手に入れることが出来るように努力すれば良いのです」
翠「……二つ聞きたいことがあるです」
雪「はい。なんでしょう」
翠「なんで翠星石なんですか?」
雪「それはあなたの目です」
翠「目?」
雪「三日前にあの子を睨みつけたあなたの目に強いなにかを感じました。それがこの計画に必要だと感じたからです」
翠「二つ目、これは単純な疑問です。ここの鍵はどうやって開けたんですか?」
金「ここの鍵はカナが開けたかしら」


そういうと金糸雀は折りたたみナイフのようなものを私に見せた。


金「これは雪華綺晶にもらったかしら。これを使って開けたかしら」
雪「キーピックですわ。空き巣さんもよく使われるんですよ」


こいつは金糸雀を泥棒かなにかにするつもりなんだろうか。


翠「おめーなんかがほんとに役に立つんですかぁ?」
金「むむ!カナだってやるときはやるかしら!!ここで活躍して今度こそなんちゃって策士の汚名を挽回するかしら!!」
雪「まあ金糸雀さん。それを言うなら挽回ではなく返上ですよ」
金「わ、わかってるかしら!!今のは二人がそれに気付くか試しただけかしら!!」
翠「あははは。まったく、お約束なことするんじゃないですよ」
金「……で、どうするかしら?私達に協力するのかしら?」


答えはもう決まっている。私はもう自分にウソは吐かない。


翠「……わかったです。おめーらに協力してやるですよ」
雪「まあ!!ありがとうございます!!」
金「翠星石ならそう言ってくれると思ってたかしら!!」
翠「でも協力するのはあの二人をなんとかするまでです!それからはまた敵同士ですよ!!」
雪「それはわかってますわ」
金「カナだって負けないかしら」


私は選んだ。戦う道を。私が本当に望んでいる場所へたどり着くために。あの人と二人で陽の光の中を歩くために。
いいだろう。その案に乗ってやる。私の勝利のために。私達の明日のために。私は……


翠「じゃあその計画とやらを聞かせてもらうです」



――――私は負けない――――


続く

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