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『笑ってはいけないアリスゲーム(4)』
あらすじ
 薔薇水晶にゲームで完敗した僕、蒼星石と翠星石、水銀燈、真紅の4人は
その1週間後に彼女の身内がやっている温泉旅館に招待される。
 でも、それは薔薇水晶が丹精こめて仕掛けた僕らへの罰ゲームだった。
 ルールは駅に着いてから彼女の待つ旅館の部屋まで何があっても絶対に
笑ってはいけないというもの。
 笑ってしまったら、きついハリセンの一撃が待っている。
 笑ってたまるかと思うのだけど……本家『ガキの使い』並に強烈な仕掛けや
笑いの刺客が容赦なく僕らに襲い掛かる。
 果たして、これ以上笑わずに、旅館へたどり着けるのか――

 なお、実在の地名、人名、番組名がもろに出てくるが、当然このネタとは
現実には何の関連が無いことをご承知を。



 午後6時30分。
 ようやく、××旅館に到着した。
 あの薔薇水晶が待っているという旅館である。
 この温泉街では古くからやっている旅館の一つであるらしく、純和風の古びた建物がそのことを物語っている。

「やっと着いたわ。本当に長い道のりだったわねぇ」
 水銀燈の言うとおり、ここに来るまでに結構時間が掛かっていた。
 駅からの距離自体は5キロもないのに、すでに3時間以上掛かっているのだった。
 笑いの仕掛けだの罰ゲームだので、結構停車させられては時間をくっていたのだ。
「とにかく、中に入りましょ。薔薇水晶のいる部屋に着いたらこんな馬鹿馬鹿しいことも終わるのだから」
「そうだね」
 真紅に言われるまま、僕らは旅館の門をくぐる。
 手入れのされた松の木が立ち並ぶ庭を通り抜けて、玄関の引き戸をゆっくりと開けた。
 中は結構広く、そして大きい。さながら体育館のようにロビーは広く、天井から吊り下げ
られた豪華なシャンデリアが大正時代のモダニズムを感じさせる。
 外観とは違い、内装はさながら鹿鳴館のような社交場をイメージさせる造りになっていた
のには正直驚いた。


「いらっしゃいませー!」
 ロビーはすでに数人の仲居さんらが一列に整列していて、僕らを威勢の良い挨拶で出迎えてくれる。
 全員桃色の着物を綺麗に着こなして、まさしく古来からの日本の女性を思わせる出で立ちで――

 ……なわけがない。
「ううっ!」
 思わず笑いそうになり顔をしかめてしまう。

 アフロだの、チョンマゲだの、毛が三本だけのおばQだの、石ころ帽子だの、各自個性の
あるかぶりものをしていた。
 ゴールに近く、油断していた僕が悪い。

『蒼星石、アウト……』
 途端に背後には監視役の黒いスーツの男がハリセンで僕の頭を叩きに掛かる。
 乾いたハリセンの音が旅館の玄関に響き渡っても、仲居さんたちは動じる様子は無い。
 ある意味すごいと思う。


「ようこそ、××旅館にお越しいただき有難うございます。水銀燈様とそのお連れ様でございますね」
「そうだけど。んで、薔薇水晶のいる部屋はどこぉ?」
 これまでに散々な目に合わされて少々ご機嫌斜めな様子で仲居さんらの問いかけに答える
水銀燈。
「長旅疲れたでしょう。当館自慢の浴場までご案内いたします。……あっ!」
 仲居の一人――彼女は唯一何のかぶりものもしていない、ボブヘアーの女性だった――
が、僕達を案内しようとして真紅の顔を見た途端、何かを思い出したかのように彼女の顔を
じっと見つめていた。
「確か……真紅さんでしたよね」
「あら由奈じゃなくて?貴女こんなところで何してるの?」
 どうやらこの仲居と真紅は顔見知りのようだ。
「見ての通りですよ。バイトでここの仲居さんやってるんです」
「なるほどね。着物結構似合ってるわ」
「ありがとうございます」
 由奈とかいう女の人はほめられてすっかり上機嫌で僕らを浴場へと案内する。


 彼女は桑田由奈といって、真紅とJUM君の中学時代の同級生だったという。
 高校になってから別々になっていたものの、真紅とは文通をやりとりしていて、それは現
在も続いているそうだ。

「そういえば、今日は一緒にいるのは貴女の友達だけ?」
 由奈がふと真紅に問い掛ける。
「そうだけど、どうしたの?」
「ひょっとしたら桜田君もいるかななんて思っていたの。そしたらちょっと気まずいと思っ
てさ」
「確かにそうね」
 真紅はここで一つため息をつく。何か心当たりがあるようだ。
 すると、翠星石がふと僕の耳元で小声で囁いてくる。
「……あの由奈って娘、JUMが片想いしてたです。でも、彼女は引きこもりがちなJUMを正
直気味悪がって避けていたみたいです」
 そんなことがあったのか。
 彼が今でこそまっとうにはなっていたものの、かつては部屋に引きこもっていて不登校を
繰り返していた。
 中学の同級生らの嘲りの視線が怖くて、登校恐怖症になっていたのだが、彼女もその一因
になっているのはその話を聞いた限り確実だろう。
 そんな彼女を複雑な思いでじっと見つめる。

一方、当の本人は真紅と会話を楽しんでいた。
「彼元気にしてる?」
「まあね。今日もネットの友人と新宿へ飲みにいってるはずだわ」
「ネットが大好きなのは昔とホント変わらないね。これに加えてあの頃は女の子の可愛い服
をデザインしていたわけでしょ。女の子の趣味持ちで、口数も少なかったから……今でも抵
抗あるわよ」
「ちょっと言い過ぎなのだわ」
 僕らの前で堂々とJUM君のマイナスイメージを煽るようなことを言い放つ由奈を真紅がた
しなめる。
 正直、悪口めいていて聞いていて気分のいいものじゃない。何となく腹立たしくなる。
これ以上言おうものなら、彼女に手が出ていたかもしれない。
 しかし、由奈も仕事中の筈。他の仲居さんらが仕事中だと注意してもおかしくないだろう
と思い、何気なく先程のズラをかぶった人たちの方を振り返る。

 なぜか、全員引きつった顔でじっとこちらを見つめている仲居さんら。
 ある人は足元が震えていて、ある人は泣き出しそうな顔でこちらを指差しながら硬直していて、ある人はうわ言のようにか細い声で彼女に呼びかけていたりと……。
 この異様な光景に仲居さんらが見つめている方向を見る。それと同時に。


「くおらああああ!てめえ何くっちゃべってやがんだ!」

 耳をつんざく老婆の怒鳴り声。建物自体が大声のせいでわずかに震えている。
 目の前には物凄く背の高い――2mどころではなく、4mはありそうな――着物を着た老
婆がいた。
 髪はばさばさで逆立っていて、目は異様にぎらつかせて、耳はなぜかとがっていて、口か
らは鋭い牙を覗かせており、挙句の果てには鼻水や涎を絶え間なく垂らしている――。
 体自体は骨と皮だけのように見えるが、全体が大きいのでかよわいというイメージなんて
まず想像できない。

 というか、人間じゃない。化け物だ。間違いなく。断言できる。
 目の前の怪物にその場にいる全員が恐怖のあまりたちすくむ。

 数分間その状態が続いたがそれを破ったのは由奈だった。
 顔をこわばらせて、ガクガク震えながら涙を流し、おまけに鼻水を垂らしながらだが。

「ご、ごめんなさい!女将さん!」
 
 ほ、本当?それ?
 このUMAがこの旅館の女将?
 由奈の口から出たあまりにも超絶な事実に僕は愕然とする。

 そんな中。
「ちょっとぉ!あはは……」
「ぷぷぷ……滅茶苦茶ですぅ!」
 目の前の怪物から放たれている殺気が充満したこの空間にいるにも関わらず笑ってしまっ
ている水銀燈と翠星石。
 ていうか、本当に殺されるかも。彼女ら。

『水銀燈、翠星石、アウト……』
 そんな中でも黒いスーツの男達は全く動じる様子も無く、彼女ら二人にお仕置を遂行する。
 ある意味、彼らがたくましいとその時は思ってしまった。

「おらあああ!仕事中にべちゃべちゃしゃべってんじゃねーよ!」
 怪物……もとい女将はなりふり構わず、由奈をどやしつける。
「と、友達が泊まりに来たので、つ、つい昔話をしてしま……」
「ぐたぐたぬかすなやあ!」

 バコーン!

 必死になって弁明する由奈の努力も空しく、女将の手にしていた巨大な杖が彼女の頭に振
り下ろされて鈍い音が周囲にこだまする。
 もちろん彼女は即座に気絶した。口から泡を吹いて。
 なんとか息はしているようだから死んではいないようだが。

「番頭!さっさとこいつら案内しろや!」
 女将は由奈の体を巨大な左手で掴み上げると、そばにいた普通の初老の男性に怒鳴りつける。
「は、はい!」
 番頭は歯をガチガチと震わせて、返事をする。
「ぐずぐずすんな!先代のようにペシャンコになりてえか!」
 女将は手にしていた杖でロビーの一角を指す。
 そこには歴代の番頭の写真が並べられていた。

 初代  丸岡○蔵
 二代目 加藤▲右衛門
 三代目 仲村×郎
 四代目 ドロボウキャット
 五代目 白崎●松(現番頭)

 ちょっと!
 なんでくんくんの敵役が!? てかペシャンコにされたのこいつ?
 もちろん、思わず笑ってしまっていたのは言うまでもない。
 真紅もだったが。
「ジュウシマツ住職よりかはインパクトは弱いわねぇ」
 やっぱりこんなネタが本家にもあったのかい?水銀燈。

『真紅、蒼星石、アウト……』
 僕と真紅がお仕置を受けている間にも、女将は由奈を掴んだまま地響きを上げながら、フ
ロントの奥にある事務所らしき部屋の中へと消えていく。
 その部屋のドアが乱暴に閉められた後、ロビーにはしばし静寂が漂った。
 まさに嵐の後の静けさだった。

「さあさあ、お客様。大浴場までご案内いたします。その後、お食事もご用意しております
ので大広間までお越し下さい」
 番頭さんに言われるまま、僕らは大浴場まで誘導された。
 いち早く薔薇水晶の部屋に行くという当初の目的は、先程の大騒ぎのせいで忘れていた。
 番頭さんは笑顔でいたが、疲労の色というか、怯えの色は隠しきれていない。
 まあ、あんなのが女将じゃ無理は無いだろう。
 よく、こんなえぐい環境の中で仕事ができるなと感心してしまう。


 大浴場は露天風呂だった。
 時間は7時前という事もあり、すっかり日は落ちていて暗くなっている。
 無数の星々が夜空に広がっていた。
 都会とは違い、数多の光が黒い空に散りばめられている様は、さながら芸術的な模様だと
思わせてくれる。本当に美しい。
 そんな光景に見とれながら、僕は露天風呂につかる。
 これまでの疲れが一気に癒される。そして、ようやく旅行に来てよかったと本当に思わせられる。
「最高だわぁ」
「そうね」
「極楽ですぅ」
 三人もすっかり温泉の気持ちよさを堪能していた。
 笑いを誘う罠もここにはない。罰ゲーム中であることを忘れてしまいそうだ。

 数十分してから、僕らは風呂から上がる。着替えて、大浴場を後にする。
 この後は夕食だ。メニューがどんなものかを楽しみしつつ僕らは大広間へと向かった。

                             ― to be continiued ―

 (蛇足)今回の特別出演:まんまん様@まんゆうき

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