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とある小さな一軒家に女の退魔士がいた。彼女の名は真紅、その世界ではかなりの有名人らしく腕も立つらしい。
だが、彼女は例え人ならざる物であろうとも殺しを善しとせず止めを刺さないので同業者の中では反発する者が後を絶たない。
その上、彼女はとある存在と契約を結んでしまう、それが更に拍車をかけたようだ。

 真紅「ジュン、喉が渇いたわ。紅茶を淹れて頂戴。」
 J「ふざけんな、なんでこの大盗賊である僕が退魔士に紅茶なんて…」

愚痴をこぼした瞬間、僕の脳天に鈍い痛みが走る。真紅の持っているステッキが頭に直撃したらしい。

 真紅「自分の立場を考えなさい、貴方は私と契約しているのだからね。」

契約、それは術者が対象とある内容を通して力と命を供給すること。例え片方が力を失っても、もう片方が生きている限り死ぬことはない。
その内容としてはお互いの大事なものを、命を捧げあうというものだが僕らの場合は違った。アイツは一方的に僕から力を奪えるけれども僕からは奪うことはできない。
対象と対等の立場で結ばなくても契約はすることは可能でその場合は不当な内容を押し付けられることが多いのだ。


もしも契約している相手が敵の場合は二人同時に倒すか相手の契約の内容を暴くしかない。しかし、世の中にはこの契約の縁を断ち切る力を持つアーティファクトがあることを僕は知っていた。
いつかはそのアーティファクトを見つけ出しこんな暴君ともおさらばするつもりだった。
そして僕は僕の願いを叶える、そのためだったらこうして紅茶を淹れることだって苦にもならないと自分に言い聞かせる。

 J「ほら、これでいいだろ?」

僕は淹れた紅茶をぶっきらぼうに真紅に渡す、一瞬彼女の表情が険しくなったが特にお咎めはなかった。
そしてティーカップに唇を付け一口飲む。どうだ、僕が淹れた紅茶なんだから不味い筈が…

 真紅「不味いわね、淹れ直して頂戴。」
 J「そうだろう、って何でだ!?」
 真紅「何でって温過ぎるからよ、それに葉も開き切ってない、こんな最悪な紅茶は初めて飲むわ。」
 J「な、何だとぉ…だったら自分で淹れろよ!」
 真紅「貴方は私の下僕なのよ!?だったら下僕が淹れるのは当たり前じゃない!」

僕は反論をしようとしたが突然電話が鳴った。真紅は口論を止めて受話器を取る。

 真紅「もしもし、一体誰かしら?」
 「やぁ、僕だよ真紅さん。」
 真紅「…白崎、貴方から電話だなんて珍しいのね。」

真紅の凛々しい表情はうんざり顔になり溜息を吐いていた。
コイツでもこんな表情するんだな…。


 白崎「随分と嫌われているみたいだね、けれども仕事なんだ、仕方ないだろう?」
 真紅「そんなこと分かっているのだわ、さっさと用件を言って頂戴。」
 白崎「ああ、とある町で事件が起こってね、何でも風が人を斬る、とか…」

電話口から話の内容は筒抜けだった、風が人を斬る?そんなことが出来る奴など幾らでも見当がつく。
それにしても、白崎とかいう男の声は深刻さなど微塵も感じられる逆に楽しげですらあった。

 白崎「場所はT市のS町だ、それじゃあ武運を祈ってるよ、僕の可愛い戦いの人形(バトルアリス)…」

真紅の方から勢いよく受話器を置いた、その表情には怒りすら感じられる。
まぁ僕にはコイツの機嫌がよかろうがよくなかろうがどうでもよかった。

 真紅「話は聞いていたわね?今から向かうわよ。」
 J「ハイハイ、丁度誰かさんの所為でストレス溜まってたからな。」

真紅は退魔の時に羽織る彼女の名前と同じ色のコートを羽織りステッキを持ち出す。僕の方は特に武器も服装もないのでそのままで行くことになる。
いよいよ出発のときに彼女は言った。

 真紅「はい、は一回よ。」



その町は既に荒れていた、建物の壁には無数の切り傷だらけで窓は割れ、木など無事なものは一つもなかった。
風が人を斬る…かなり風が吹き荒ぶ場所だと思っていたがそんなことはない。風はそよ風で心地よかった、血の臭いさえしなければの話だが。

 J「本当に風が人を斬ったのか?」
 真紅「白崎自身は胡散臭い男だけれども情報は確かだわ。まず、本当でしょうね。」

嫌っている相手のことを信用しているという矛盾したことに自分でも苛立ちを覚えているらしかった。
そんなに嫌な奴なのだろうか…?
考えてる内にそよ風は突風に変わった、風が僕達を横切った後に僕の服の袖と真紅のコートの一部が斬られていた。
敵はすぐ近くにいる!僕も真紅も臨戦態勢になる。
再び突風が突っ込んでくる、けれども単純な突進技なので真紅がステッキでそれを防いだ。
ステッキには傷が一つもついていない、だが驚くことはそれだけではない、彼女のステッキに何かが絡み付いていた。
それは大鎌を持った鼬…

 J「鎌鼬…?」

鎌鼬、奴等なら確かに風が人を斬ったと錯覚させるぐらいの俊敏さがあった。しかし、本来鎌鼬は人に此処まで害をなす存在ではない。
何かがあると僕も真紅も推測した、ステッキに絡み付いた鎌鼬は再び風の中に姿を消した。
再びヒットアンドアウェイ攻撃を繰り出して来る。腕利きの退魔士である真紅でも攻撃を防ぐだけで精一杯だった。



 真紅「ジュン、今よ!能力を使いなさい!」
 J「わかったよ…開眼!!」

僕は眼鏡を外し風の中を泳ぐ鎌鼬を目で捉えた、すると鎌鼬の動きがスローモーションになる。
これが僕の魔眼の能力、僕が目で捉えたモノの時間の流れを周りよりも一定時間遅くすることが可能になるのだ。
真紅は駆け出し鎌鼬の背中にステッキを打ち付けた、地面に叩きつけられかけた鎌鼬の首にステッキの持ち手部分を引っ掛けて背中に足を置いて逆間接を決める。捕らわれた鎌鼬になす術など無かった。

 真紅「…これは?」

彼女は鎌鼬の背中に何かの欠片が刺さっているのを見付けた。その欠片からはとても禍々しい力の源が感じられた。真紅がその欠片に手を触れると欠片は音を立てて砕け散った。
獰猛だった鎌鼬は徐々に落ち着きを取り戻し始める。

 J「今のは…?」
 真紅「分からないわ、けれどもあの欠片が鎌鼬を凶暴化させていた元凶だったみたいだわ。」
 鎌鼬「キュー?」

当の加害者でもあり実は被害者でもあった鎌鼬は不思議そうな表情で僕等を見上げていた。こうしてみると可愛いもんだ…。




建物の物陰からタイミングを見計らっていた住民たちは一斉に現れた。

 住人「よくやってくれた!さぁその鎌鼬をさっさと処分してくれ!」
 J「しょ、処分?」
 住人「そうだ!コイツの所為で町はボロボロになったし怪我人だって出たんだ!処分しないことには皆の気が納まらん!」
 J「そんな勝手なこと、コイツはただ操られてただけなんだぞ!?」
 住人「関係ない!それにまた凶暴化されたら溜まったものじゃないからな!」

人間は勝手だ…僕はこんな愚か者のために戦ったってのか?虫唾が走る…殺意が沸いた。
殺したい…どうしようもなく愚かで、どうしようもなく傲岸な人間を…。
けれど僕の様子を悟ったのか真紅はステッキで僕を制止する、そしてその重い口を開いた。

 真紅「安心なさい、此処にこのまま置いて行くなんてことしないわ。この鎌鼬は暫く私達が預かって然るべき場所に帰すわ。」
 住人「し、しかし…」
 真紅「物陰に隠れてて何も出来なかった貴方達に私以上のいい解決案が出るとは思えないけれど…何かいい解決策でもあるの?」
 住人「い、いや…た、頼んだ。」

渋々と納得した住人を背に真紅は鎌鼬を抱きかかえてその場を後にした。暫く住人と一緒に呆けていた僕は慌てて後を追う。

 J「へぇ、結構いいところあるじゃないか、鎌鼬の面倒見るなんて。」
 真紅「あら、この子の面倒を見るのは貴方よ?」
 J「前言撤回、やっぱりお前嫌な奴だ。」

また世話の焼ける奴が増えるのかと思ったら僕は自然と溜息が出て来た。
ああ、大盗賊として一匹狼で渡り歩いてた頃が懐かしい…。

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