女性関係に優柔不断で奥手なジュン。
自己表現が苦手で奥手な薔薇水晶。
惹かれあう二人が想いを通わせあうのにどれだけ時間がかかったか。
周りから見れば相思相愛なのにくっ付かない。
そんな二人にやきもきした友人達の協力もあり二人は晴れて恋人同士に。
恋人になってからもいつまでの初々しい二人の姿はいつの間にか校内では有名になってたり。
そして付き合いだして今日で一年という日・・・
-薔薇水晶宅
薔「・・・今日で・・・一年・・・・・・」
カレンダーの○で囲ってある日付を見て幸せそうな顔をする薔薇水晶。
薔「ジュン・・・喜んでくれるかな・・・」
近くのテーブルに置いてある箱を見る。箱の中身は薔薇水晶の作ったケーキだ。
薔薇水晶は特別に料理が上手、という訳ではなかったが。ジュンの為に和食から洋食、お菓子作りまで色々練習したようである。
薔「お祝いの準備はしてあるし・・・ジュンはもう呼んであるから・・・あとは待つだけだね・・・ふふふ・・・楽しみだな・・・♪」
家族は皆薔薇水晶に気を使ってか、外出している。
ピンポーン
インターホンが鳴る。ジュンが来たようだ。薔薇水晶は急ぎ足で玄関に向かう。
ガチャ
薔「・・・・・ジュン!」
J「うわ、ば、薔薇水晶、いきなり抱きつくなって」
薔「だって・・・合えて嬉しいんだもん」
J「ん、分かってるよ、僕も嬉しい」
薔「うん・・・♪」
そんなやり取りの後、薔薇水晶はジュンを自室に招く。
薔「・・・じゃーん」
J「おお、すごいご馳走だな・・・」
薔「ふふ・・・頑張っちゃった」
J「そうか・・・けど、なんで今日に?」
薔「え、そ、それは・・・・」
J「薔薇水晶?」
薔「え、えっと・・・・・」
J「あー・・・・・」
「う、うう・・・意識したら・・・・恥かしくなってきた・・・・」とは薔薇水晶の考え。
ジュンは考える。必死で。
J(今日って何の日だっけ・・・・?)
そうこの男、大切な彼女との記念日も忘れる天然野郎です。激鈍の称号は伊達じゃない。
J(えーと、今日は・・・僕の誕生日・・・いや違うか・・・なら薔薇水晶・・・も違う・・・ええと・・・・?)
薔(うう・・・・ジュン・・・・なんて言おう・・・・今日で一年だね・・・ううん・・・もっと・・・こう・・・)
J「薔薇水晶」薔「あ、あの!」
J「な、なに?」
薔「え、あ・・・ジュ、ジュンから先に・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙
五分後
いまだに沈黙は続いていた。二人とも話を切り出せないでいた。
J(薔薇水晶・・・一体どうしたんだろう・・・?)
今日の朝、薔薇水晶のモーニングコールの時に、
「今日の夕方・・・私の家に来て・・・・あ、晩ご飯は食べないでね・・・?」
と、呼ばれてきたジュン。だが、部屋に入ったとたん恋人は俯いて黙ってしまった。今日呼ばれた理由を聞きたいのだが・・・
俯いて上目遣いでこちらをチラチラみて、目が合うとバッと視線を逸らす薔薇水晶の姿になぜか言葉がでない。
だが、いつまでもこうしてるわけには・・・なんとか話を切り出そうとするジュン・・・・・しかし
J「薔薇水晶」薔「ジュン・・・」
J&薔「・・・・・・・・・・・・・」
J「あ、あの!」薔「えっと、その!」
J&薔「・・・・・・・・・・・・・」
これはコントではない。繰り返す、これはコントではない。
彼等にしてみれば至極真面目なのだ。
J(どうしよう・・・・)
薔(どうしよう・・・・)
ジュンを部屋に招いてから既に十分。
いまだに話を切り出せない。自分達は恋人で、今日は付き合いだして一年目で。
恋人らしく
「ジュン・・・・今日で私たち一年目だね・・・・」
「そうだね・・・・僕の気持は一年前から変わらない・・・大好きだよ、薔薇水晶」
「うん・・・私ね・・・一年前から代わったよ・・・気持ち・・・・」
「え・・・?」
「・・・一年前より・・・・もっともっと大好き・・・・ジュン」
などとラブラブな会話をしたい・・・けど・・この妙に気まずい雰囲気で緊張で声が出ない。
すこし勇気をだせば、少しだけでいいのに。「今日で一年目」、ただその一言が言えない自分を情けなく思う。
ジュンと付き合いだす前、今となんら代わらないやり取り。
自分の気持を伝えられず、またダメだったと枕を涙で濡らす毎日。
相手の気持ちはなんとなく分かってるのに、言い出せなくてもどかしい毎日。
薔(・・・・そうだよね)
今の自分達は付き合っている。遠慮なんて必要ない。愛を注げば、それを全て受け止めてくれる人がいる。
だから─
J(今日は何の日だ・・・・!?ていうかなんでこんな雰囲気に・・・・!)
未だに何の日か思い出せないジュン。
今日は何かの日で
薔薇水晶から誘ってくれて
ご馳走を用意して待っていてくれて
きっと何か、些細な、でも、大切な日で。
その大切な何かを思い出せない自分、不甲斐なくてしょうがない。
J(くそ、こうなったら直接聞こう・・・!)
叱責されたってかまわない、なぜなら薔薇水晶が困っているんだ。
彼女の助けになりたい。自分のせいで困らせてるなら土下座してでも謝りたい。
そして─
J&薔薇「あ、あの―――!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
J「・・・・・・・・・」
薔「・・・・・・・・・」
また沈黙。だけど先ほどのようにめを逸らしたりしない。
二人の視線が合う。そうだ、言葉は出なくても、意思は通じる。だって、二人は恋人だから。
薔「ね・・・・ジュン」
J「なんだ?」
先ほどのような不自然な緊張もない。いつもどおりの、自然体な二人。
薔「今日で・・・・・私たち・・・・・恋人になって・・・・一年だね」
J「え、あ、ああ、そうか・・・・うん・・・・そうだな」
薔「・・・・・・忘れてた?」
J「・・・・・ごめんなさい」
薔「もう・・・変に緊張した私が馬鹿みたい・・・・」
J「うう・・・ごめん・・・・」
薔薇水晶を抱きしめるジュン。
J「記念日・・・・忘れたりするけど・・・・これだけは本当だ・・・・愛してる」
薔「・・・しってる」
J「う゛・・・」
俯いてた顔をあげ、背伸びをして、そっと口付けを・・・
J「ば、薔薇水晶!?」
二人とも顔は真っ赤だ。
薔「ジュン・・・」
J「え、な、なに?来年は絶対に忘れないからさ」
薔「・・・信用できないし、まだ私許してないもん」
甘える、少しすねたような表情でジュンの胸にほお擦りする薔薇水晶。
J「え、ええ!?」
薔「・・・・ふふ」
J「ど、どうしたら信用して、許してくれる?」
顔を上げ、耳まで赤くしながらジュンに聞き取れないぐらい小さな声で呟く。
薔「うんとね・・・・・・・・もう・・・・して・・・くれれば」
形勢逆転。一気に攻めて出るジュン。
J「うん?聞こえないよ?」
ちょっと意地悪く言い返す。
薔「・・・・・意地悪」
再びジュンの胸に顔をうずめる薔薇水晶。
J「じゃあ・・・・どうすればいいかな?」
薔「もう一回・・・・・キス・・・・して」
J「了解・・・・」
頬を赤く染めて目を瞑る薔薇水晶。
そんな薔薇水晶にキスをするジュン。
一度目は軽く、二度目は押し付けあうように。
三度目は、お互いを感じあうように、熱く、激しく。
一歩だけ、少しだけ前に進んだ二人。
彼の作ったウエディングドレスを、彼女が着るのはまだまだ先のお話、かも───
終わり