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ディスカウントショップを歩き回る蒼星石。
カートに入っているのは主に肥料や花、野菜の種である。
それらの並ぶ一角から出て歩き出すと、レジに向かう前にふと角を曲がって向かう場所。
そこには、小さなスペースに所狭しと並べられた如雨露の列が。

「うーん。やっぱり殆どプラスチック製だよなあ……」

難しい顔をして、何処にでもあるような青い如雨露を一つ取り上げた。

「これじゃあすぐ壊しちゃうし」

ため息をついて棚に戻す。今月に入って、壊れた如雨露はすでに3つ。
今手に持っているものと似たような、学校の備品であった如雨露である。
しかしそれらは、暴れる姉に振り回されてあっという間に壊れてしまったのだ。
それらの如雨露は以前と違って間違って殴られても痛くないという利点はあったのだけれど、
やはり学校の備品を壊したというのは問題なわけで…園芸部の顧問の先生にはずいぶんと怒られた。
とりあえず、壊した分だけ買ってくるように言われていたのを思い出し、
それらを3つカートに放り込む。少し考えて、いざという時のためにもうひとつ放り込んだ。

「やっぱり、専用のが必要だよね。学校の備品じゃダメだ。
 前のくらい頑丈なのを見つけないと」

一月ほど前、ベジータの硬い頭を全力で殴りつけた挙句お亡くなりになった
姉のお気に入りの如雨露を思い出す。
思い返してみれば、アルミとはいえ金属製の頑丈なフレームだったからこそ、
それまでの姉の乱暴な扱いに耐えて頑張ってこれたのだろう。

「でもなあ。金属製でもこれとかはちょっと」





もちろんショップの棚にはスチール製などの小柄な如雨露も確かにあったが、
けれどそれはどちらかといえば装飾性を重視したもので、プラスチック製と同じく、
お世辞にも振り回したり殴ったりに耐えられるような物には見えなかった。
蒼星石は、諦めてレジへと歩きだす。

「ああいう頑丈なのは、一体何処で売っているのかなあ…」

帰り道、4つもの如雨露を無理やり自転車に載せた蒼星石は悩みながら家路へと向かう。

「あなた…悩んでいますね?」

片足をついて信号待ちをしていた所で唐突に、至近距離から声をかけられた。

「うわあ!?」

驚きのあまり、思わずバランスを崩して横倒しになる。
荷台の荷物が肥料やなんかで重かったのが災いしたようだ。
無理やり荷台に差してあった如雨露があたりに散乱する。

「ごめん…ちょっとやってみたかった。占い師風」
「いたた…薔薇水晶?」

起き上がった蒼星石を覗き込んでいたのは薔薇水晶。
ちょっとだけ申し訳なさげに顔をしかめた彼女と、蒼星石は散らばった荷物を拾い集める。

「…でね?何か悩んでたみたいだったから…」




全て拾い集めてカゴに載せなおした所で、改めて薔薇水晶が言う。
この少し…いや、とても変わったクラスメイトにこれを相談していいものか、蒼星石少々悩む。
けれど、折角の好意なのだから、と素直に受けて事情を話した。

「そう…頑丈な如雨露が欲しいとな!」
「うわ!?そ、そうだけど」

突然叫んだ薔薇水晶に気圧されながら頷くと、彼女も大きく頷いた。

「ならば、良いところを教えて進ぜよう…!」

おかしな口調で先を歩く薔薇水晶に、不安げな顔の蒼星石が続く。
導かれるままにつれてこられたのは、見覚えのある大きな屋敷。

「ここって、薔薇水晶の家だよね」
「そう。ここに…あなたの目指すものがある!」
「もしかして、丈夫な如雨露を持ってるの?」
「ううん。ないよ」
「じゃあどうして…」
「すぐにわかる」

言いながら、門を開いて歩き出す。

「をや、おかえりなさいませお嬢様。お友達連れですか?」

玄関までの道のりで、突然横から声をかけられた。
庭仕事でもしていたのだろう。何時もの執事装束の上にエプロンをつけて軍手をし、
泥で汚れた長靴を履いた珍しくも家庭的な衣装のラプラスであった。




「ラプラス…ただいま」
「お、お邪魔します。ラプラスさん」

このラプラスという名の執事に、蒼星石は何度も驚かされている。
何処からどう見ても首から上が白い兎のこの男、
そんな奇妙な、むしろファンタジックな風貌や服装であるにもかかわらず、
不思議とそこに存在する違和感が感じられないのである。
この前スーパーで挨拶された時など、周囲の買い物客にも特に注目される事なく、
レジ袋は無しでお願いします。などと店員に告げていた。
良く考えてみればとてもおかしな光景なのだけれど、しかしその時は何も感じなかった。
気がついたのは家に帰りついた辺りでやっと、である。
一体何なのか。この違和感の無さは魔法か何かなんだろうか。

「ほうほう、それで作って欲しい、ということなのですね」
「うん。とびっきり頑丈なのを…」

そんな事を考えているうちに、いつの間にやら会話が終わったらしい。
なにやらラプラスに告げていた薔薇水晶が振り返る。

「うん…大丈夫だって。作れるって」
「え?あ、うん。…作る?」
「うん。見てればわかる」

案内されたガレージで、ラプラスは物々しい格好に着替えてくる。
汚れた長靴はそのままに、エプロンを分厚いものに変えて、
軍手ももっと分厚く、肘まで覆う長いものに付け替えた。
左手には、顔をカバーする物々しいお面。右手には何か工作用の機械のようなものを持っている




「如雨露でよろしいのですね?」
「ああ、はい…って作るんですか?」
「ええ。幸い材料になりそうな物がいくらかありますので…」

指差す先には、一つの木箱。中には硬い輝きを放つ金属製の薄い板などが入っているようだ。

「大丈夫…ラプラスはなんでも出来る」
「いえいえ、さすがに何でもというわけには…」

驚く蒼星石に、自慢げな薔薇水晶。謙遜するラプラスは、しかし自信ありげににっこりと笑った。

「では、しばらくお待ちください。
 その、軽くて武器にも使えるくらい頑丈な如雨露。何とかして見せましょう」

なにやら大きな音を立てて作業を始めるラプラスを他所に、
蒼星石は薔薇水晶に案内されて、一緒に庭を見て回った。
中々綺麗に手入れをされた庭であり、これはやはりラプラスがやっているのであろう。

「ラプラスさんすごいなあ…本当に何でも出来そうだね」
「うん。料理も洗濯も、家庭教師も何でも出来る」
「一体どういう人なの?」
「うーん…私が物心つく頃にはもう家にいた…後は、知らない」
「知らないって…」

薔薇水晶にはもはや、居る事自体が普通になってしまっているのだろう。
経歴から何から何まで、薔薇水晶すらまともに知らないとは。本当に不思議な兎である。

しばらくして、ガレージの方の音がやんで声がかかった。





「出来ましたよ!」

呼ばれていってみれば、そこには見事に頑丈そうな、黒く輝く如雨露の姿。
洒落た飾りまでついているあたりが芸が細かい。

「うわぁ、すごいですね!」
「ラプラス、良い出来…」
「お褒めに預かりまして光栄です。これならば、多少乱暴に扱っても壊れたりはしないと思いますよ。
 多分鉄パイプと打ち合いをしても大丈夫かと」

それはいくらなんでも頑丈すぎじゃあないのか、と思わなくも無かったが。
蒼星石は、手渡されたその如雨露をありがたく頂いた。
これは、今度殴られたら命の危険かもしれない…と、一抹の不安を感じながら。

「ああ、水が入っていなければ殴られてもそこまで痛くは無いと思いますのでご安心を」

その心中を見越したかのような言葉に、蒼星石は思わず深く頭を下げる。

「本当に、ありがとうございます!」
「いえいえ、お嬢様のお友達のお願いですし。
 大事に使っていただけるのなら作り手冥利に尽きますよ」

そうして、ラプラスと薔薇水晶に見送られて蒼星石は薔薇水晶宅を後にした。
家で待つ姉の喜ぶ笑顔を思い浮かべながら、自転車を加速させていく。





「良い事をした…ラプラス、ぐっじょぶ」
「良かったですね、お嬢様。
 ああそうだ、今晩はカレーですので、宿題を早めに済ませて食堂へ来てください」
「ラプラスカレー…楽しみ…」

見送った二人も、彼女が見えなくなった辺りで門を閉めて奥へ戻っていく。
今日のご飯は二人とも美味しく感じられそうだった。

それから数日後。

「蒼星石の大事な枝切りバサミを壊しちゃったですぅ…」
「ラプラス…」
「おまかせください!」

<終>
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