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薔「銀ちゃん?朝だよ、起きて……」
銀「………………」
薔薇水晶がドア越しに水銀燈に話しかける。
ドアは、いったいどれほど開かれていないだろうか。
朝食などを作って、ドアの前に置いておけばいつのまにか食べてくれていたりはするのだが…。
薔「銀ちゃん……」
ドンッ!
薔「キャア!」
返事は、ドアを強く叩いただけだった。
薔「銀ちゃん、起きてたのね!朝ごはんつくったの、一緒に食べよう?」
銀「朝からうるさいわぁ……」
薔「え、あ…ごめんなさい……。それでね、朝ごはんなんだけど」
銀「聞こえてるわぁ。そこに置いといてちょうだぁい」
薔「だめだよ…!一緒に、家族と一緒にごはんぐらいなら…!」
ドンッ!
また、強くドアが叩かれた。
銀「聞こえなかったかしらぁ?そこに、置いて」
薔「…うん、でも、銀ちゃん。私待ってるから……そしたら、また学校にも」
銀「うるさいって言ってるでしょう!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
何度もドアが叩かれる。
薔「うん、ごめんね……。それじゃあ私、もう行くね?」
銀「勝手に、行ってきなさいよ…!」
薔「うん、行ってきます。あ、今日、お買い物してくるから私遅くなるからね…」
キィ…バタン。
薔薇水晶は学校へ行った。家の中が一気に静かになる。
銀「学校なんて…、いったい何が楽しいのかしら…」
ドアはまだ開かない。それはまるで、今の水銀燈の心そのもののようだった。




視点ジュン
ジ「おはよう、真紅」
真「おはようなのだわ」
通学路の途中で幼馴染の真紅と出会う。いつもの日常。
そのままゆったりと学校へ。
ジ「おはよう、翠星石」
真「おはようなのだわ、翠星石」
翠「おはようですぅ、真紅、ジュン」
同じクラスの翠星石に挨拶をして自分の席につく。
朝のHRギリギリに学校へ来ているので、これ以上の会話は出来なかった。
HRがはじまった。
先生「欠席は~水銀燈だけ、と…」
ジ「………………」
一つ斜め前の空いている席をみる。
僕と水銀燈は二年前に同じクラスだった。
といっても、二年前に水銀燈がこっちに転校してきたのは、
中学校三年の最後の一学期の始まりだったから、あんまり長い間過ごしたとは言い難い。
正直なところ、すごい時期に転校してくるな、と思った。きっとなにか事情があったのだろう。
受験は大丈夫なのだろうかと心配になった。しかし、そんな心配は無用なほど、彼女は、悔しいぐらいに勉強が出来た。
当時クラスでトップだった僕をあっさりと追い抜いてしまったぐらいだった。
でも、その頭のよさよりももっと目立ったのが、雪のような色をしている、綺麗な、本当に綺麗な銀色の髪の毛だった。
話しかけてみたらすごく気さくでいい人だったし、しかも可愛いときたものだ。僕はどんどん彼女に惹かれていった。
ときおり見せる些細なしぐさに、何度かドキッとさせられた。
一緒の高校行けたらいいねと言われたときは嬉しかった。
みんなは受験勉強で必死だったからそれどころではなかったようだが…。



真「…ン、ジュン!」
ジ「おわ!」
いつの間にかHRは終わっていたようだ。
翠「まったく、ジュンは気ぃぬきですぅ~」
ジ「悪い、考え事しててさ……」
真「人の呼びかけを無視してまで、何を考えていたのかしらねえ?」
ジ「ホント、悪かったって」
こういう真紅が一番怖い。
真「まあいいわ、許してあげる」
翠「それで、ジュンはなにを考えていたですか?」
ジ「ああ、水銀燈さ、どうして学校こないのかなって」
どうしたのだろうか。
真「…………………」
翠「…………………」
ジ「どうしたんだよお前ら、いきなり黙って」
真「いえ、なんでもないわ」
翠「き、きっと、すげえ風邪でもこじらせてるですよ!」
ジ「?今度はいきなりあわてて…朝から変なやつだな、お前」
翠「へ、変とはなんですか!この!この!この!」
ジ「やめろバカ、痛い、叩くなっての!」
高校二年生は、まだ始まって一週間。
同じ高校には合格したものの、去年は同じクラスになれなかった。
今年は同じクラスになったが、水銀燈はまだ学校に来ない。
ジ「はやく会えないかな…」
期待しつつ、あともう少しで一時間目である。
真紅たちは自分の席の方へ戻っていった。


翠「真紅、真紅。どうするです?男子の方はみんなが事情を知ってるってわけではないんじゃないかです」
真「どうもしないわ、知らないほうがいいことだってあるでしょうし…」



視点水銀燈
銀「…あ……」
銀「いっけなぁい、二度寝しちゃったわぁ…。ま、学校行くわけじゃないからいいけど……」
去年は必要な日数だけ出席したが、それもどうだろうか。もう行かなくてもいいのではないだろうか。
銀「………ッ……」
女生徒たちの声が忘れられない。
銀「フフ…山姥ですって……」
この髪は、生まれつきのものなのに。なぜ生まれつきのことでこんなにも嫌なめにあわなければならないのだろうか
ふと、机を見る。そこには、昨日の夕方に学級委員とやらが持ってきたプリントがあった。
残念ながら、学級委員は、あの眼鏡の男の子ではなかったようだ。プリントに目を通さずに破ってごみ箱に捨てる。
銀「いまにしてみれば…こっち来てから私のこと普通に扱ってくれたのって、あの子とそのまわりの女子ぐらいよねぇ…」
眼鏡の男の子と交わした約束を思い出す。
銀「同じ高校いけたらいいわねぇ、か……」
なにを言っていたんだろう、自分は。今は、その学校にも行っていないのに。
銀「というか、覚えてないわよねぇ。結構抜けてそうな顔だったし」
事実、その眼鏡の男の子は少々抜けているところがあった。
銀「でも、優しかったな…」
名前は、確かジュンだった。
銀「同じクラスになってるわけないわよね…。私、運悪いし」
時間は午前十時をちょっと過ぎたあたり。チッチッ、と時計は無口に律儀に針を進める。
銀「考えてもしかたないし、さて」
机にちょっととは言い難いほどぼろぼろになった教科書を広げる。自分でぼろぼろにしたのではない、されたのだ。
しかし、もう慣れてしまった。
銀「えーっと、次のx、yが…ええと……」
ところどころカッターで切られ、文字が見えにくくなっているが、なんとか読んでいく。
銀「こんなの簡単じゃない」
遠くの大学に行ってしまえば、こんな目にも会わないだろうという一心から、勉強はずっと続けてきた。
もともとの賢さも相まって、学校に行っても必ずついていける。
銀「ま、退学しても通信制でなんとかなるだろうし」
彼女は勉強を続ける。



視点ジュン 時間経過
キーンコーンと七時間目の終了を告げるチャイムが鳴る。
ジ「んーっ!やっと終わったー!」
グイグイと伸びをしながら言う。
ちなみに僕は帰宅部なのでこのまま家に帰ることができる。
ジ「さーって帰ってノンビリと…」
翠「ちょっと待つです!」
真「ちょっと待つのだわ」
…いきなり二人に呼び止められてしまった。
ジ「なんだよいきなり」
翠「ちょっと放課後つきあうです。夕飯の材料を買わなきゃいけねーです」
ジ「とすると、つまり僕は」
真「レディに重たいものを持たせるなんて、男の恥よ。手伝ってあげなさい、下僕」
…今度は下僕ときた。まあこの扱いにはなれているが。
ジ「わかったよ、大人しく荷物もちするよ。で、どこに行くんだ?」
翠「ちょっと歩いたトコのスーパーですぅ。さ、行くですよ」
真「行ってらっしゃい。私は帰るわ」
ジ「お前は帰るのか?」
真「言ったでしょレディに」
ジ「重たいものもたせちゃいけないんだな、わかったよ」
翠「では、真紅。また明日です」
真「ええ、また明日。翠星石に下僕」
ジ「ああ、じゃあな」
もう反論はするまい。



視点ジュン
スーパーに着く。歩いて15分ぐらいのところにそれはあった。
ジ「スーパーといえども……結構広いな」
翠「今どきのスーパー舐めんなぁ、ですぅ」
ジ「で、何買うんだ?毒物買うと怪しまれるぞ」
翠「売ってないです!…今のでお前がどんな目で私を見てるか少し分かったですぅ……」
ジ「ただの冗談だろ…そこまで気にされても困る」
翠「いじわる……ですぅ」


翠星石はひょいひょいとかごに食材を入れていく、なかなか手馴れている。
ジ「なあ」
翠「ん~?」
ジ「よく来るのか?ここ」
翠「んーそうですねぇ、ぼちぼちってところですかねぇ」
ジ「ふーん。言えば手伝ったのに、なんでいきなり誘ったりしたんだ?」
翠「え!?あぁ…えーと」
じわじわと翠星石の顔が赤くなっていく。
ジ「どうした?」
翠「た、ただの気まぐれですぅ!勘違いするなですぅ!」
ジ「なんだよそれ、手伝わなくてもよかったのかよ?」
翠「そ、それはもっとダメですぅ!」
ジ「なんなんだよ……」
翠「(今日はジジもババもいないから…なんて言えないですぅ……)」



視点ジュン
かごに必要なものを入れ終え、今度はレジの方へ行く。
レジのおばさん「あら、翠星石ちゃん。今日もお夕飯の材料かい?」
翠「ハイです。おばちゃんもお仕事ごくろうさまですぅ」
レジのry「で、一緒にいる人は、彼氏?」
翠「え、ええええ!?ち、え、ちがっ」
レジのry「あらあら、いいのよ。頑張ってね」
翠「あ、あの、えあ?」
ジ「…………」
少し離れたところにいたからか、話の内容、翠星石の狼狽の様子がはっきりと良く分かった。
ジ「しかし、なんてベタなんだ……」
翠「さ、これを袋に入れるです」
なんでもなかったように翠星石が言ってくる。ちなみに顔はまだ赤い。
ジ「お前さ」
翠「ん?」
ジ「もうちょっと落ち着けよ、彼氏と間違われてショックなのはわかるけどさ、そのまま入れたら卵割れるぞ?」
翠「あ!ああ危なかったです…。助かったです、ジュン」
さすがに卵の上から牛乳(1?パック)はねえ…。
ジ「僕が言うのもなんだけど、気にすんなよ」
翠「はいです、もう大丈夫です」
そこからは黙々と袋に詰めていく。
翠「これで終わりですぅ」
袋は三つになった。
ジ「夕飯の材料っていったわりには多すぎないか?」
翠「ちょっと多めですからね」
こ、この娘は…!
ジ「人が持つと思って…ま、いいや。せめて一つは持てよ」
翠「じゃあこれはもってやるですぅ、感謝するですぅ」
翠星石が持ったのは、卵が入っている一番軽い袋だった。
ジ「はいはい…ってこの二つ、結構重いぞ……」
翠「キリキリ歩きやがれ、ですぅ」



なんとか歩いて10分ぐらい、僕より軽いものを持っているために、少し前にいる翠星石がふりむいて、
翠「ねえジュン。ジュンは、翠星石の彼氏と間違われて、どうでした?」と言い出した。
ジ「は?」
問答を続けながらそのまま歩く。
翠「は?じゃねえです!その…嬉しかった…とか」
ジ「嬉しいかって聞かれたらさ、そりゃ嬉しいんじゃないの?」
両手の重みに、あまり深く考えずに返答する。
翠「そうですか…嬉しいですか……」
ジ「なににやけてんだよ、それよりお前、ちゃんと前みて歩かないと」
翠&?「キャッ!」
ジ「ぶつかるぞ…ってもう遅いか」
ケツで前の人を押し倒すような形になってしまっている。
翠「もっとはやく言えですぅ!ああ、ごめんなさいです!」
パッと飛び退く翠星石。
…翠星石が謝っている。もしやすごくレアな場面に遭遇しているのかもしれない。
?「いえ、大丈夫です。お気になさらずに」
ぶつかられても怒らないこの人も今はすごくレアな人かもしれない。よく見れば袋をさげている。この人も買い物帰りか。
翠「いえ、こっちが完璧に悪いです……。申し訳ないです……ってあれ?」
?「どうかなさいました?って先輩?」
ジ「知り合いなのか?翠星石」
翠「ええ、園芸部の後輩です」
薔「こんにちは、先輩。今はもうこんばんはかもしれませんね」
くすくすと笑いながら女の子は言う。
ジ「部活の後輩ね、そういや何も言わなかったけどお前今日部活は?」
翠「今日は蒼星石の番です。で、明日はそこの後輩さん、明後日は翠星石です」
薔「三人しかいませんからね。それはそうと先輩、そこの方は、もしや彼氏ですかぁ?」
またもくすくすと笑いながら言う。くすくすと言っても全然いやらしい笑いではない、むしろかわいらしさがある笑い方だ。
翠「え、ええええ!?」
ジ「違います」



薔「あら。違ったのですか」
ジ「そうなんだよ。で、翠星石。とりあえず紹介してくれないか?いつまでも名前が分からんと会話もつらい」
翠「あーハイです。園芸部のたった一人の後輩で薔薇水晶っていうです」
薔「よろしくお願いしますね?先輩」
ジ「…………」
翠「どうかしたですか?」
ジ「ん、ああ。なんか誰かに似てるなって思ってさ」
翠「そりゃあ似てるです。なんたって水銀燈の妹なんですから」
ジ「水銀燈の!?」
翠「あ(しまったです…!)」
薔「あの、銀ちゃんのお知り合いですか?」
ジ「初めまして、薔薇水晶さん。水銀燈の同じクラスの桜田です」
薔「…そうだったんですか」
ジ「ん?どうかした?」
なんか、一気にテンションさがった気がした。
薔「いえ……」
翠「…………」
ジ「お前まで黙って……。それはそうと二人がぶつかったときグシャって音がしたけど、卵割れてないよな?」
翠「んー…翠星石のは大丈夫みたいです」
薔「あ、あの……私の、みたいです」
ジ「あーあ…。どれくらい割れてるんだ?」
薔「えーっと、五つ…ですね」
ジ「翠星石、お前ちゃんと五つ渡せよ」
翠「わ、分かってるです!薔薇水晶さん、悪いけどいったんウチまできてほしいです」


こうして、三人で翠星石の家まで行くことになった。



視点水銀燈 時間経過
チッチッと時計が時を刻む。
銀「……遅い……」
今は6時をまわっている。
いつも遅くなる、といっても6時までには必ずかえってきた薔薇水晶が帰ってこない。
銀「……なにかあったのかしら……」
休みもいれつつ勉強をしていれば、もうこんな時間だった。
チッチッと針は進む。
銀「遅い……」
そこまで言って気づく。またも自分は見放されようとしているのではないだろうかと。
銀「…………」
考えることをやめ、ベットに倒れる。
眠れば、何も考えなくていい…。
そのまま、水銀燈は眠りに落ちていく。



視点ジュン
スーパーから、歩いてすぐに翠星石の家に着いた。
翠「さ、あがるです。あー、蒼星石はまだ帰ってないですね」
ジ「おじゃまします」
薔「あ、あの先輩っ」
なにかいいたそうな、後輩。
翠「遠慮することないです。ささ」
後ろからグイグイと薔薇水晶を押して家の中に入らせる。
先輩の権力の前には発言権は無かった。
翠「とりあえず、卵です。薔薇水晶はその袋の卵を渡すです」
薔「ハイ」
ジ「見事に割れてるな……」
翠「悪かったです……。で、これをもって帰るといいです」
そういって、翠星石は自分の袋から卵を取り出しそのまま薔薇水晶に渡した。
薔「え、でも……」
翠「遠慮するなですぅ」
ジ「ま、悪いのは全部お前だもんな」
翠「黙りやがれです」
ジ「あた」
…叩かれてしまった。あんまり痛くなかったけど。
翠「で、ついでに薔薇水晶も夕飯を食べていくといいです」
ジ「おい、『も』ってなんだよ。僕はここで食べる約束はしてなかったはずだが?」
翠「いまさらなに言ってるです、のりからも許可はもらってるです」
ジ「いつの間に……」



視点ジュン
そういっているうちに薔薇水晶が口を開いた。
薔「先輩の心遣いは嬉しいのですが…その、銀ちゃんのごはんも作らなきゃいけないし……」
ジ「そっか……」
薔「スイマセンが…」
ジ「その、水銀燈さ、やっぱ病気なのか?」
翠「!?」
薔「えっと…えっと……あの……」
ジ「どうした?あのさ、よければ桜田が心配してたって伝えといてくれないかな?せっかく同じクラスになったのにまだ一回もあってないからさ」
薔「あの…あの……」
翠「ジュン、やめるです!」
ジ「え」
薔薇水晶は泣いていた。
薔「っく…ひ…う、ぅ…」
翠「違うです!水銀燈は、違うです!」
ジ「…どういうことだ?」
薔「銀ちゃんは…ぅああ!!」
ジ「僕は水銀燈の友達だ、ゆっくり…、少しづつでいいから、話してくれないかな…?」



視点ジュン
薔「わ、わたしもっ……くっう、…詳しいことは知らないん…です、が
  ……去年も…ぅ最初の、方は……き…ちんと学校にも……っく行っていたんですけど……」
ジ「うん……」
翠「…………」
薔「だんだん、学校にもいかなくなって…っ」
ジ「うん……」
薔「だんだん、私と顔をあわすこともなくなってきて……ぅくっ」
ジ「うん……」
薔「私、どうすることも、できなくって……うああ!!」
ジ「そうか……」
知らなかった自分が、憎い。
翠「…………」
ジ「翠星石、理由知ってるんだろ……?」
翠「一応、知ってはいるですが、言ってもいいのですか……?」
薔「私も、お願いします……」




翠「じゃあ話すです……。去年の、二学期も中ごろでしたでしょうか、5組の女子がなんか荒れてるって噂を聞いたです。
  私達は2組でひとつとなりの教棟でしたから、こっちのほうにいた男子にはあんまり伝わっていないようですが……。
  噂の内容はこうでした、5組には、山姥がいるというものでした。綺麗な銀髪も、妬みの前にはただの白髪にしか見えなかったようです……」
ジ「なあ、なんで妬みなんかがあるんだ?」
薔「あ……」
翠「水銀燈は…女の私から見ても綺麗だったです、だからモテたですよ……」
ジ「そういうことか……」
モテる、ということは容易に納得できた。
ジ「実際、可愛かったしな」
翠「話を続けるです。水銀燈は結構な数の男から告白を受けたです。それでも、水銀燈はすべての告白を断ってきたです。
  なんでかまでは知らないですが……。で、水銀燈が断った告白の中に、5組のリーダー格の女が狙ってる男も含まれてたです。
  男はかなりかっこよくて、水銀燈も絶対断らないだろうとみんな思ってたです」
ジ「そのいいかたなら。断ったんだな?」
翠「その通りです。で、リーダー格の女が『水銀燈は調子に乗ってるんじゃないか』と言い出したです。
  水銀燈はそんなことはないと言ったです。でもそれがまた気に食わなかったみたいで、結局水銀燈は
  クラスの女子の大半を敵にしたしまったです。それで、男を狩る山姥の話が出来上がったです……。」
ジ「そんなことが……」
薔「…………」
翠「でもまだ終わりじゃないです。今度は水銀燈の、お腹の傷が体育の着替えの時に見られたです。
  女子たちは今度は『あの傷は昔男に付けられた傷だ、だから男が信用できなくて告白を断っている』
  と言い出したです。そこからはそのまま噂がじわじわ広まっていって……」
ジ「…………」
薔「あれはっ、事故だったんです!かなり危ない状態にまでなって、傷跡のことよりも命が危なくて…!
  それでお父様もお母様も亡くなって…!!」
ジ「大丈夫、分かってる……。友達をそんなふうにみないよ……」
翠「これで…全部のはずです」



視点ジュン
薔「っう…く、うぅ……」
ジ「翠星石、お前は」
翠「見てないです。水銀燈には、そのあんまり話したことはありませんけど、そんな印象はなかったです!」
ジ「そうか……。なあ薔薇水晶、水銀燈と話せるかな?」
薔「え…?」
ジ「いや、あんまり人様の家に上がるような時間ではないのはわかってるけどさ」
薔「話すぐらいなら…多分……」
ジ「そうか、じゃあいこうぜ。思い立ったが吉日って言うし」
翠「そうですか」
ジ「翠星石、悪いけど…ってなんで袋抱えてるんだよ」
翠「夕飯は薔薇水晶の家で食べるのでは?」
薔「あの…」
翠「薔薇水晶も、つくるの手伝うですよ?」
薔「あ、ハイ」
ジ「真紅どうする?あいつも何気に結構水銀燈と話してたけど」
薔「真紅って、あの金髪の人ですか?」
ジ「そうだよ、それで優しいけど怖いんだよ」
薔「その人なら、一度、ウチにきたことがあるはずです」
ジ「…まじで?」
薔「はい、結局銀ちゃんの説得は出来なかったみたいですけど」
翠「そうと決まれば話ははやいです。さあ、水銀燈の家に行くです!」



視点ジュン 時間経過
途中で合流した真紅とともに水銀燈の家へ。
薔「銀ちゃん、ただいまー」
……返事が無い。
翠「ホントに引きこもってやがるです……」
ジ「しょうがないだろ……あんなことがあったらさ……」
真「ジュン、本当に大丈夫なの?」
ジ「うーん、時間はかかるかもしれないけど、やるだけやってみるよ」



本当に、やるだけのことをやってみなければ。
他の誰でもない、嫌われること、蔑まれることの辛さを少しでも知っている、この僕が。


薔「ここが、銀ちゃんの部屋です……」
水銀燈の部屋は二階にあった。すでに日は落ちているので電気を付けていなければ真っ暗だ。



ジ「できるだけやってみる…、みんな夕飯作ってまっててくれよ」
翠「分かったですが、真紅もですか?」
真「なにがいいたいのかしら?」
ジ「ん、あー、うん、頑張ってもらってくれ」
翠「久しぶりに死刑宣告を聞いたです……」



とぼとぼど台所へ二人が向かっていく。


薔「では、いいですか?」
ジ「ああOK」


コンコン
薔薇水晶がドアをノックする。
銀「…なによ」
ジ「…………」
この声、変わってない……。はじめてあった頃と同じ声だ。
薔「今日はね、銀ちゃんとお話したいって人がいてね」
ドンッ!
強くドアが叩かれる。
銀「そんなのいらいわよ!」
変わってしまったとしたら心だろうか、
いや、変えられてしまったのだ。
薔「あ…………」
ジ「あとは僕がやるよ。夕飯、手伝ってあげて」
薔「「はい……」



ジ「水銀燈、聞こえる?」



視点水銀燈
ジ「水銀燈、聞こえる?」


銀「!?」
驚いた、また真紅がきたと思ったら、自分の思い出の中で一番強く残っている眼鏡の男の子だった。
銀「ジュン…?」
ジ「よかった、覚えててくれたんだ」
忘れるわけがないだろう。こっちに来てから、一番優しかった男の子。
他の男なんて、噂を知ればみんなどこかへ行ってしまった。
銀「覚えてるわよ……」
ジ「忘れられてなくて、安心したよ。そのさ、えーっと……」
銀「…………」
ジ「その、今日さ、初めて水銀燈が不登校になってるって知ったんだ」
いきなりその話からはいるあたり、彼はやはり抜けている。
ジ「新学年始まって一週間たつけど全然こないし……」
銀「だから何!?」
つい怒鳴ってしまった。
ジ「あ、ゴメン…。でさ、僕ずっと水銀燈は病気なのかなって思ってたんだ」
何故話を続けるのだろうか。
銀「で……?」
ジ「うん。あ、座っていい?つっても床だけどさ」
銀「勝手にしなさいよぉ…」
座らせてしまったが、これは彼が長話するということだろうか?



視点水銀燈
ジ「ありがとう、でさ、噂話も、今日はじめて知ったんだ」
銀「…………」
彼はさっきから嫌なことしか言わない、座らせたのは間違いだっただろうか。
ジ「あ、僕は全然その話信じてないからな!ホントだぞ!」
銀「わかったわよぉ……」
どうだか…そういった奴は大体噂を信じているのが相場だろう。
ジ「でさ、僕も、似たような目にあったんだ」
銀「へ?ちょ、ちょっと?」
話がよくわからないほうへ向いている。
ジ「水銀燈は知らないだろうけどさ、中一のときにさ、劇があったんだ。
  それでそのお姫様のドレスを考えてさ、ノートに書いてほっといたんだ。」
銀「で?」
ジ「ここからが信じられないことなんだよ。なんでかさ、そのドレスを書いたページが掲示板に張られて、
  全校集会でそれを書いたのは桜田ジュン君ですなんて担任が言ってさ、バカだよね、この担任」
銀「うん」
ジ「僕は男だからね、そういったことはすごくみんなから引かれた、みんなどんびきだった。
  裁縫が得意で人形を作ってたりしてたこともばれててね、みんな変な目で僕を見るようになった。
  そこから僕の引きこもりライフの始まりってわけ、中二の二学期までだけどね」
銀「…それで、私にどうしてもらいたいの?それとも愚痴をこぼしにきただけかしらぁ?」



視点水銀燈
ジ「ちがうよ、なんていうか、水銀燈に勇気を持ってもらいたくて」
銀「それを持って学校に行けって言うの?私を待っているのは罵声だけよ」
ジ「大丈夫だよ、真紅も、僕も、あー覚えてないかもしれないけど翠星石も……」
翠星石…あのですです言っていた子だろうか。
ジ「学級委員が持ってきたプリント見ただろ?今はみんな水銀燈と同じクラスだからさ」
銀「!?」
ビリビリに破いて捨てちゃったわよ……。やっぱり運悪いわぁ……。
銀「それで、どうしてくれるの?罵声をとめてくれるの?」
ジ「それは無理かもしれない」
そらみたことか、やはりあの蔑みはとめられないのだ。
ジ「でも、そんなの気にならないぐらいに、水銀燈を楽しませてあげれると思う」
銀「あなた…変わってるわぁ……」
本当に変わっている人だと思う。
ジ「そうかな?そんなに変わったかな?」
また、これだから抜けている。



視点水銀燈
銀「そうじゃなくって……」
ジ「僕としては、ずっと変わらないで水銀燈を待ってたつもりなんだけどな」
銀「なに、言ってるのよぉ……」
ジ「だってひどいじゃないか同じ学校行けたらいいわねぇなんていって、まだ学校で一度も水銀燈と会ってないよ」
銀「!?」
ジ「あ、あれ?もしかして覚えてるの僕だけだった?」
銀「覚えてる、覚えてるわよぉ…!」



視点ジュン
銀「覚えてる、覚えてるわよぉ!」


ジ「よかった、でさ、約束は守るものだと思うんだ」
なんともまあ今日の自分はよく口が回るものだと思う。
約束を覚えてもらっていなければ一発アウトだったが。
銀「うん……」
ドアの向こうですすり泣く音が聞こえる。
ジ「ないてるの?水銀燈」
銀「ないて、ないわよぉ!」
あー、不自然に言葉が切れてる……。
ジ「100%ないてるじゃん……」
銀「泣いて…っく…ないぃ…!」
ジ「うん、泣いてないね。怒ってるね。ゴメンね」
銀「で、なによぉ…ぅっく」
ジ「怒らしておいて(本当は泣かせてるけど)なんだけど、明日僕と学校行ってくれるかな?」
銀「足りない……」
ジ「ん?」
銀「言葉が足りない……」
ジ「えーっと……」
今でも十分に恥ずかしい思いがあるけど……。
銀「ジュン、あなた、わたしのこと、どう思ってる…?」
ジ「ハイ、好きです」
もう引くわけにはいかない。だったら全て、伝えなければ。



視点ジュン
銀「言葉が足りてない……」
ジ「えーっと、あんまり期待するなよ?」
銀「…………」
コホン、と一つ咳払いする。
ジ「僕は君のことが好きだよ、水銀燈。一緒に過ごした時間は確かに短いかもしれない、でも本当にすごく惹かれてた、今だってそうだ」
銀「…………」
まだ、足りていないらしい。もう、これ以上は言葉はでていかないだろう。その思いを込めて次の言葉を言う。
ジ「ずっと、傍にいてください」
ゆっくりとドアの取っ手が下がっていく。
ジ「ずっと、隣にいてください」
そのとき、バン!とドアは開かれた。久しぶりに見た彼女の顔は、やっぱり泣いていたのだな。と思わせる顔だった。
ちなみに開かれたドアで脛を強打したのは黙っておこうと思う。
銀「聞いたわよ!ぜったい、ぜったい、嫌だって言ったって話さないんだからぁ!」
今、すごく、抱きつかれてる。
ジ「うん、いいよ。望むところだから」
こんなことしか言い返せない自分が憎い。
銀「ぜったい、ぜぇ~~~~~ったいよぉ!」
ジ「うん。そっちが嫌っていったって離さない」


それから僕たちは同じような問答をなんども繰り返し。
真紅のせいでまずくなった夕飯を食べた。夕食中、薔薇水晶はずっと泣いていた。
翠星石はちょっと困った顔をしていた。真紅は少し申し分けなさそうだった。


水銀燈は、ずっと笑っていた。


これから僕は、彼女の辛いこと、嫌なことに、彼女が目を瞑っていても、道に迷ったりしないよう。


どんな道も、二人で、歩き続ける。そう、誓う。



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