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私の名前は水銀燈。
生まれてから今まで、普通の生活を送ってきた。
ただまわりと違う点は、銀色の髪と赤い瞳を持っているということ。
これでも私は年頃の女の子なのだから、どこかに遊びに行きたいし、かわいい服も着たい。
お化粧にも興味はあるし、バイトもやってみたい。
そしてなにより、恋がしたい。普通の女の子なのだから。

だけど、私のこの髪と瞳のせいで、幼い頃から周りの人にいじめられてきた。
お前は普通の人間とは違う。
なぜそんな姿をしているくせに普通の人間と同じ生活をしている。
お前は普通じゃないんだ。
そう言われ続けて、悔しくて、憎くて、それでも耐えながら生きてきた。

もちろん今まで好きになった男の人もいた。
でも、いくらその人を想っても、この髪と瞳で、恋が実ることはなかった。
「なぁ、昨日聞いたんだけど、水銀燈がお前のこと好きらしいぜ。」
「マジかよ?ふざけんなっての。あんな変な髪と目した奴、相手にするわけねぇだろ」
「そりゃそうだよな!ギャハハハハ!」

いつもそんな形で私の淡い想いは砕かれる。
そして自分が嫌になる。
なぜこんな姿をして生まれてきたのだろう。
なぜ私は生まれてしまったのだろう。
私なんか生まれてこなければよかった。
死んでしまいたい。

こうやって気持ちが沈んでいるときに、いつも私を慰めてくれたのがお母さん。
お父さんは私が生まれてまもなく死んでしまい、女手ひとつで私をここまで育ててくれた。
私がいじめられて家に帰ってきたときは、
「大丈夫。あなたはとても優しい心を持っているの。
 きっとあなたのその心を理解してくれる人が現れるわ。」
そう言って私の銀色の髪を梳いてくれた。
お母さんと一緒にいる時だけは、私は安らぎの時を過ごすことができた。

でも、そのお母さんも一年前死んでしまった。
私のために寝る間も惜しんで働き、身体をこわしてしまったのだ。
だから私は今、親戚の人にお金を援助してもらいながら、一人暮らしをしている。
生活に困りはしないが、「幸せ」というものからはかけ離れた生活だ。


そんなある日、夕飯の買い物を済ませ商店街を歩いているとき、
うっかり石畳に躓いた拍子にコンタクトレンズを落としてしまった。しかも両目とも。
私は極端に視力が悪く、コンタクトを外すとほとんど何も見えなくなってしまう。
そのまま家に帰ることも出来ず、仕方なく地面に落ちたコンタクトレンズを這い蹲って探す羽目になった。
端から見れば間抜けな姿だろう。オロオロと地面に這い蹲ってコンタクトを探している。
しかも手助けはない。こんな容姿では当たり前か。
今ではもう慣れてしまったことなので、あえてまわりを気にせず探すことにした。

(見つからない…)
探し始めてはや5分が経った。だが見つからない。
諦めようか、そんな思いが生まれてきた頃、
「あの、どうしました?」
背後から声をかけられた。
驚いて振り返ると、よく見えないので顔はわからないが、眼鏡をかけた男の人だということはわかった。
「いえ、コンタクトレンズを落としちゃって…」
「そりゃ大変だ。手伝うよ」
そう言って一緒に探し始めた。
一人が手伝い始めると、他の人も手伝い始めるものだ。
あっという間に商店街の石畳にはたくさんの人が這い蹲っている。
多人数で探せば当然効率はあがる。コンタクトはすぐに見つかった。
「ありがとうございます。よかったらお名前を…」
最初に声をかけてくれた男の人に、お礼をしたいという気持ちで名前を聞いてみたが、
「いやいや、大したことはしてないから構わないよ」
あっさり断られたので、心の底からお礼を言って、家路についた。


その三日後。
またいつものように商店街を歩いていると、
「あれ?こないだの…」
聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、三日前コンタクトを探すのを手伝ってくれたと思しき男の人がいた。
「あ、やっぱり。覚えてる…かな?」
裸眼でぼんやりと見えていたビジョンより、ずっと若かった。私ともそう年は変わらないだろう。
「あの…」
「あ、ご、ごめんなさい。こないだはありがとうございました」
目の前の相手のことを完全に無視してぼんやりと三日前のことを考えていて、あわてて謝った。
「どういたしまして。大丈夫だった?」
「はい、おかげさまで」
ずいぶんと気さくな人らしい。こんな容姿の私に対しても、なんの疑いもなく話しかけてくる。
そこで、ふとお礼をしたいと思っていたことを思い出した。
「あ、そうだ、よかったらこないだのお礼をしたいんですが…」
そう言うと、彼はとても驚いた様子だったが、
「いいのか?別に大したことはしたわけじゃないんだけどな…。でも、お礼をしてくれるって言うなら、喜んで」
今度はあっさりとOKをもらった。


近くの喫茶店まで歩いて、店に入る。
注文を聞かれたので、
「なんでもおごります。好きなのを頼んでください」
とテーブルの向こうに座っている彼に言うと、
「えっと…じゃあコーヒーを。」
なんとコーヒーを頼まれた。普通なら「なんでもおごる」と言われたら、できるだけ高いものを、たくさん頼もうとするだろう。
だが彼は、
「大したことしたわけじゃないんだから、コーヒーだけでいいよ」
そう言っていくら「もっと高くても大丈夫だ」と言ってもコーヒー以外は頼もうとしない。仕方なく私は紅茶を頼んで、注文したものが来るのを待つことにした。


「えっと、水銀燈っていいます」
待っている間、軽く自己紹介をする。
「水銀燈ね。僕は桜田ジュン。でもそんな畏まらなくてもいいよ。年も同じくらいだろ?」
私も年はそう離れていないとわかっていたが、助けてもらった人だ。なので丁寧な口調で話していたのだが、
そんな風に言われると気が抜けてしまう。年を聞いてみると本当に同い年だった。
「な。同い年なんだから、タメ口でいいよ。俺みたいにさ」
「そう?じゃあ、そうさせてもらうわねぇ」
口調をタメ口にし、気が楽になったのか、急に話題がはずんだ。次から次へと話題は出てきて、
自分はどこに住んでいて、毎日こんなことをしている、将来はこんなことをしてみたい…
そんなことを長い間話し続けた。


ふと時計を見ると、七時半。いつもならとっくに夕飯を作って食べ終わっている時間だ。
「いっけなぁい、もう七時半じゃないの!私のおばかさぁん…」
「げ、ホントだ。知らない間にずいぶん経ってたんだなぁ…」
彼も焦っている。結局そこでお開きにすることにして、会計を済ませ店を出た。
「ごめんな、こんなに付き合わせちゃって」
「いいのよぉ。私も桜田君と話せて楽しかったし」
「ジュンでいいよ」
「そ、そう?じゃあ、ジュンって呼ぶわねぇ」
男の人を下の名前で呼ぶことなど今までなかったので少し戸惑ったが、言ってみると案外簡単なものだ。


家に帰って、遅い夕飯の用意をする。
夕飯といっても、どうせ一人分しか作らないので、手間はそれほどかからない。
すぐに作って、すぐ食べてしまう。
いつもならこのあとお風呂に入ってすぐ寝るのだが、今日はなぜかいつもと違う気分。
ジュンの顔が頭から離れない。
私にあそこまで親しくしてくれた男の人は初めて。
あぁ、また恋をしてしまった。
どうせ実るはずのない恋。
でも、今までは相手と話すこともなく恋は散っていった。
今回のは違う。
もしかしたら…そんな淡い想いを抱いてしまうような恋。
今夜は、いつもより少し「幸せ」な気持ちで眠れそうだ。


また三日後。
またいつものように夕飯の買い物をして商店街を歩いていると、少し先にジュンの姿が見えた。
私の中の淡い想いがときめく。
走っていって声をかけようか。
そう思っていると、ジュンの横にもう一人の姿が見えた。
女の人だった。
少しジュンより背が低い彼女は、ジュンと並んで笑顔で商店街の石畳を歩く。
そしてジュンの顔にも笑みが。
その女の人は、まさしく「普通の女の子」だった。
普通の色の髪。普通の色の瞳。

また、想いが崩れていく。
やっぱり、そうよね。
こんな普通じゃない髪と普通じゃない瞳をした女の子なんて、いらないよね。
変に意識しちゃって、馬鹿みたい。私のおばかさぁん。
想いが崩れれば、心も脆く崩れていく。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
いつものことなのに。慣れてしまったと思っていたのに。
感情があふれ、涙となってこぼれていく。
そして、もう私を慰めてくれる人はいない。
お母さん。
ごめんなさい。
もう、私は疲れちゃった。
許して、くれるかな?


ふらふらと、商店街から車道へと歩を進めていく。
もう何も感じられない。
ただ、一歩一歩が壊れるまでのカウントダウン。
車道まであと10歩。
あと9歩。
あと8歩。
商店街を歩く人達は、誰も私に見向きはしない。
こんな普通じゃない女の子なんか、誰も見ないよね。
あと7歩。
あと6歩。
お母さんは、こんな私を許してくれるかな?
でも、私のことを理解してくれる人が現れるなんて嘘ついたし、怒られたら反論してやろう。
あと5歩。
あと4歩。
ちょうどいいタイミングで車が来る。
さよなら。この世界。
あと3歩。
あと2歩。
あと1歩。
車が、ブレーキをかけながら向かってくる。
あぁ、ジュン…最後に、もう一度私の名前を呼んで欲しかった…


「水銀燈!」
あれ?ホントにジュンの声が聞こえる?
なんで?どうして?
ジュンには、隣に私なんかとは違う普通の女の子がいて…


身体に、衝撃が走る。
でも、鉄の塊がぶつかった衝撃じゃない。
抱き締められて、アスファルトに倒れた衝撃。
見ると、抱き締めてくれているのはジュンだった。
「ばか…やろう…」
泣いてるの?
「なんでこんなことしたんだよ…?」
それとも、怒ってるの?
「だって…だって…こんな普通じゃない色の髪と普通じゃない瞳をした壊れた子なんて…」

パシン。

言い終わるか終わらない内に、頬に平手打ちが。
「馬鹿!大馬鹿野郎!」
続いてジュンの罵声。怒りに満ちた表情。
そしてすぐにまた泣き顔に戻る。
「なにが壊れた子だ…。お前は、お前は、れっきとした普通の女の子じゃないか!
 髪の色がなんだ!目の色がなんだ!そんなの、水銀燈が水銀燈であるのに、まったく関係ないじゃないか!」
普通の女の子。そんなこと初めて言われた。
「でも、私が普通の女の子でも…ジュンは…ジュンは…並んで歩いてくれる女の子がいるじゃない…。
 私は…ジュンのこと…好きなのに…ジュンは…私のこと…好きにはなってくれないんでしょ…」
泣きながら、想いをぶつける。
言ってしまった。口に出して、自分で事実を認めてしまった…。
でもジュンは…
「あれ、姉ちゃんだよ…」
少し呆れた声で言う。

間。

「…へ?」
間抜けな声を出してしまう。
そこでジュンの姉ちゃん登場。
「あらあら、この子がこの前話してた水銀燈ちゃん?大丈夫?車道なんかに出ていったりして…」
そして状況が飲み込めているのか飲み込めていないのかよく分かっていない発言。いや、完全に空気を読めていない。
「えっと…とりあえずけがはない?立てる?」
多少ペースを狂わされたジュンが発言。
「うん…大丈夫みたい…」
立ち上がる。ぶつけたところは少し痛いが、大したことはないようだ。
「んで、さっきの話だけど…」
さっきの話。
言ってしまった。ジュンのことが好きだと。
「あ、え、えっと…さっき言ったのは…その…」
「僕も好きだよ」
なんと言って取り繕うか考えている内に、ジュンが発言。
「…へ?」
そしてまた間抜けな声を出してしまう。
「聞こえなかったかな?…僕も水銀燈のことが好きだよ」
ジュンを見ると、耳まで真っ赤。
私の顔にも血が回って顔が赤くなっていくのがわかる。
「あらあら、ジュン君、こんなとこで告白?よかった、お姉ちゃんジュン君がいつまでたっても奥手だから心配してたのよー」
「う、うるさい!姉ちゃんは黙ってろ!」
ジュンが姉ちゃんを蹴って離れさせる。
「えっと、邪魔が入ったけど…僕は水銀燈のことが好きだ。髪の色も瞳の色も関係ない。
 水銀燈が好きなんだ。これからも一緒に…いてくれないか?」
照れくさそうにジュンが言う。
私の返事は?そんなの言わなくてもわかってる。
ジュンの体に抱きつく。
ジュンも私の体を抱き締めてくれる。


これから、私は、初めて実った恋を満喫するだろう。
だって、私は普通の女の子なんだから…


~FIN~

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