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「願いを3つ……?」

私はラプラスの魔と名乗った兎男の言葉を、そのままに繰り返した。

「そう、どんな願いも3つだけ叶えて差し上げましょうぉぉおおおお!?痛い痛い!!」

私に腕の関節をギッチリと固められたラプラスの魔は、後半悲鳴になりながらも説明を繰り返す。

「詳しく説明しますので、ど、どうか腕を放して下さい!」

ラプラスの魔は床に這いつくばりながら私に懇願してくる。
……そうね。

「わかったわ」

私はそう答えると、ひねり上げていたラプラスの腕に、ほんの少し体重をかける。
そして、彼(?)のリクエスト通り、腕の関節を離してあげた。

……バストアップマシーンを使用している現場を見てしまった貴方への、これは罰よ。




     ―――→ ナ!イ!チ!チ!Dreams (後編)


「いやあ、しかし大変な目に会いました」

ラプラスの魔は、片腕をプラプラさせながらやれやれといった表情で立ち上がる。
私はというと……確かにこの男(?)はティーポットからランプの魔人みたいに出てきたけれど……
かといって、私は彼(?)を信用しきってはいなかった。

だってそうでしょう?
いくら『それっぽい』とはいえ、この私の神聖なバストアップタイムに土足で踏み込んできた相手よ。

と、そこまで考えて、私は今、裸にバスタオルを巻いただけの状態だった事を改めて思い出した。

「……貴方への質問は、とりあえず後よ。着替えるから出て行って頂戴」

私は精一杯に鋭い眼差しで、目の前の変態兎にそう告げる。

「クックック。これはこれは、妙な事をおっしゃる。
 紅茶の妖精であるこの私めが人間相手に興奮するとでも?
 それは考えすぎですよ、お美しいお嬢さん。
 ささっ、私の事はお気になさらず、どうぞこのままお着替え下さい」
「……残ったもう片腕……そっちも関節を外した方が左右のバランスが取れるんじゃあないかしら?」
「すぐに出て行きます」

文字通り脱兎の如く、ラプラスは部屋から出て行ってくれた。

やっと自室で一人になれた私は、一刻も早く着替えようとバスタオルを外し……
いいえ、外す前に、お化粧ポーチの中に入っている小さな香水のビンを取り出した。 

そして足音を殺し、こっそり、ゆっくり、先程ラプラスが出て行ったドアへと向かう。
そして……ドアに付いている小さな鍵穴めがけて、香水をプシュッと吹きかけた。

「あおぁぁぁぁぁぁおあおああ!!目が!?目が!!」

ドアを挟んでいるので見えないけれど、廊下からラプラスが地面をのた打ち回る音が聞こえてくる。

「……やっぱり覗いていたのね」

吐き捨てるように言い放つと、私は今度こそ落ち着いて着替えを始めた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「―――という訳で、私は幸運な貴方の願いを3つ叶える為に現れた、紅茶の妖精なんですよ」

普通の格好に着替えた私は、改めてラプラスの説明を聞いていた。

「その願いについてだけれど……どんな願いでも構わないの?」
「はい。と、お答えしたい所ですが、そうも行かないのが世の辛いところ。
 私はただの親切な妖精サンにすぎませんので」

私は暫く、今の言葉を吟味してみる。
『親切な』の部分は間違いなく嘘ね。あとは……どういった願いは無理なのかしら。

そんな風に考え込む私の表情を読み取ってか、ラプラスの魔は兎顔に笑みを浮かべた。

「例えば、世界平和、などとおっしゃられても困ります。
 平和の定義は人それぞれ。あるいは今の世界が万人の望む平和に最も近いのかもしれません。
 それを無理に歪めるとなると……クックック、私にはどこからどこまで改変したら良いものやら」

どうにも、回りくどい喋り方をするわね。
うんざりするわ。

「それなら、例えばの話だけれど……お金を望んだ場合はどうなるの?
 どこかから掠めてくるのかしら?それとも、無から金塊でも取り出してくれるの?」
「箱の中の猫が死んでいるのか、生きているのか。
 それは開けてみてからのお楽しみと申しますので」

いい加減、この禅問答みたいなやりとりにも飽きてきたわね。
……やっぱり、もう片腕もプラプラさせてあげた方が良いのかしら?
ふと視線をラプラスへと向けると、そんな疲れを見せ始めた私を見てニヤニヤと笑っている。

どうも、この兎人間とは関わり合いにならない方が良さそうね。
……3つの願いは惜しいけれど。

私は、胸に広がる嫌な予感を拭いきれず、結局このラプラスの魔には帰ってもらおうと……
と、その時、私の脳裏に名案が降り注いだ。

「そう。わかったわ」

私はそう言うと、立ち上がってラプラスの正面に立つ。
ラプラスは、私の表情の全てを観察する為だろう。笑みを消し、真っ直ぐに私を見つめ返してきた。

私も負けじと、親ほども身長の離れた兎男の真っ赤な目を見つめる。
そして。

「最初の願いを言うわ。
 ……この真紅の名において命じるわ!
 ラプラスの魔、今後貴方は、この真紅の問いかけには全て真実をもって答えなさい!」

ラプラスの魔は、ニヤリと笑みを浮べる。
それから、頭の上でピコピコ動いていた兎耳を、パタンと折りたたんだ。

「はぃ?何でしょうか?よく聞こえませんでした」

「…………」

数秒の沈黙の後、私の部屋に悲鳴が響き渡った。

「痛い痛い!引っ張らないで!耳!千切れ……あぉぁぁっぁぁぁぁあ!!」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「最初から素直にしておけば良かったのよ」
「いやはや、後悔とは即ち人生。人生は後悔。なら、この経験こそが生きているという意味なのでしょう」

片腕プラプラ両耳ボロボロのラプラスは、相変わらずしれっとした表情で答える。
……あれだけ痛がっておいて、もう平気なのかしら。

ともかく、正直に、簡潔に、私の質問に答える事になったラプラスに向け、私は質問を始める。

「願いがお金の場合、どこから仕入れてくるの?」
「流通しているお金の量は決まっています。それを無理に歪めると経済の破綻に繋がるので、盗んできます」

「権力の場合はどうなるの?」
「椅子に座るためには、誰かに椅子から降りてもらわないといけません。ま、失脚か暗殺でしょう」
「世界平和は?」
「まあ、ハッタリを抜きにしたら、どう考えても妖精ごときの手には負えない仕事です」
「健康で長生きを願ったら?」
「細かい調整が難しいので1000年単位でなら。最も、死にたくても当分は死ねませんが」

……どうも、このラプラスの魔とかいう男(?)かなりの曲者のようね。

私は半ば、諦めとも呆れともつかないため息をついて……
それから、声をひそめ、何気ない感じを装って尋ねてみた。

「そそそそその、た、例えばよ、む、胸を、大きくしたりなんか、どうなのかしら!?」

ラプラスは私の完璧な演技の前に何も気が付かなかったのか、少し首をかしげてから答えた。

「ふむ。その場合でしたら、体の他所の部分から脂肪を移すだけなので、まあ一瞬の事でしょう」
「そう。やって頂戴」

私はすぐさま、ラプラスに告げた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


ぽよ~んぽよ~んと、私は文字通り胸を弾ませながら通学路を歩いていた。

あぁ……何って素敵なのかしら、Cカップ。
きっとこの『C』はキュートの『C』に違いないのだわ。

通学路に立つ街路樹までもが私を祝福してくれているように感じる。
世界の全てが、優しさと慈しみにみちているように感じる。

私は、ぽよ~んぽよ~んと素敵なリズムを刻みながら歩いていた。
と、通学路の先で翠星石と蒼星石が並んで歩いているのが目に入った。

「おはよう、翠星石に蒼星石」

私は優雅に、それでいて大胆に、二人に挨拶をする。

「え?あ、うん。おはよう……?」
「……お、おはようございますですぅ……」

だというのに、蒼星石はどこかハッキリしない返事だし、翠星石はサッと蒼星石の背後に隠れてしまった。
……どうかしたのかしら?

私は、あまりにも機嫌が良かったせいもあって、それ以上は深く考えずに居てしまった。

「それにしても、まさか光線銃が出てくるだなんて思いもしなかったのだわ」
「う、うん……そうだね」

いつもと同じように、何気無い日常会話をしながら3人で歩く。
だというのに、翠星石は挨拶してから一言も喋ってないし、蒼星石もどこか表情が固い。
せっかく私の夢が叶った日だというのに、翠星石も蒼星石も、どこかよそよそしい態度だった。

まさか、という思いと、でも、という思いが同時に、Cカップになった私の胸に飛来する。

「どうしたというの?今日はやけによそよそしいけれど」

私は思い切って、蒼星石にそう尋ねてみた。

すると蒼星石はピタリと歩くのを止めて、真っ直ぐな視線を私に向けてきた。

「……失礼だけど、君は誰だい。
 いいや、真紅だって事は見れば分かるんだ。ただ……雰囲気というか……どこかが、真紅とは圧倒的に違う。
 むしろ真紅の双子の姉妹だと言われた方が、しっくる来る位だ。
 こんな事を聞くのは友達として失格なのかもしれないけれど……君は本当に真紅なのかい?」

私の予感は、嫌な方に当たってしまった。

呆然と立ち尽くす私を、蒼星石と翠星石は暫く見つめてくる。
それから……私を置いて行くように、2人はそのまま通学路を進んでいった。

先程まであんなに弾んでいた私の心が、冷たく凍りつく。
どうしようもない孤独感が襲ってくるのと同時に、どうしようもない怒りが沸いてきた。

「ラプラス!出てきなさい!」

私は虚空に向かって叫ぶ。
すると、背後にトッと誰かが降り立つような音が聞こえてきた。

「……これは……どういう事なの……私に何をしたの!」
怒りに震える声で、ラプラスを問い詰める。

「ククク……私は命じられた事意外は何一つとしてしていません。
 ただ、服が変われば、その人の持つ雰囲気は変わります。
 なら髪型を変えれば?あるいは顔なら?体型なら?クックック……」

つまり、そういう事ね。
私は私の気付かない内に、どこか変わってしまった……
認めたくないけれど……大平原の小さなレーズン状態が、私を構成している重要な要素の一つだったのね。

「謀ったわね!ラプラスの魔!」
私は叫び、尻尾でも引き千切ってやろうかと手を伸ばす。
でも、私のてが届くより早く、ラプラスはサッと身を翻し虚空に消えてしまった。

「くっ……」

歯を食いしばり、逃げられた悔しさを紛らわせる。
思わず、もう一度ラプラスを呼び出してボコボコにしてやろうかと思った時だった。

バイ~ンバイ~ン、と例の音が聞こえてきた。

「し~んく~!おっはよーなのー!!」

雛苺が、そのド迫力の大きな胸を弾ませながら、私のほうへと駆け寄ってくる。
やたらとのどかな雛苺の声は、私の胸でメラメラと燃えていた闘争心をシオシオと消火してしまう。
雛苺の浮べた満面の笑みは、どこまでも楽観的な感じがして……ついつい、緊張感を忘れてしまう。

そして雛苺は、海辺のスイカより巨大な胸を私に押し当てるようにしがみついてきた。

「えへへ。おはよう、真紅」
雛苺はそう言い、屈託の無い笑みを私に向けてくれた。
同時に、やたらと大きい胸がバイ~ンと揺れる感触が腕を通して伝わってくる。

思えば、あの時……雛苺が帰ってきて、私に胸を押し当ててきた時からだった。
冷静になって考えれば、あの時から、私は胸の事しか考えてなかった。


――― ああ、私はこの子に嫉妬していたのね。


この子はいつだって、私を、私という存在を、姉のように慕ってくれていた。
だというのに、私は……この子の大きくなった胸しか見てなかった。


そう考えると、自分自身の小ささや弱さを改めて自覚させられる。

私は結局、自分の事しか考えてなかった。
自分のコンプレックスを打ち消す事に必死になるあまり、何も見えなくなってしまっていた。

「ありがとう、雛苺……」

私は腕に胸を押し当ててきたままの雛苺の頭を、そっと撫でてあげる。
貴女が居たからこそ、私は道を踏み誤り……でも、貴方のお陰で、それに気づく事が出来た。

私は覚悟を決め、別れを惜しむように胸いっぱいに空気を吸い込む。
それから虚空に向かって、小さく、されでいてハッキリとした口調で告げた。

「真紅が命じるわ。ラプラスの魔よ、私の胸を元に戻しなさい」

突然、空に向かって話し始めた私に、雛苺はキョトンとした目を向けてくる。
私はそんな彼女に微笑を向け、そして2人で通学路を再び歩く。

2人で並んで歩くうちにも、私の胸はどんどん、嬉しくも無い懐かしのサイズへと戻っていく。
でも、それで構わないと思った。

胸の大きさが完全に気にならなくなったか、と聞かれれば、やっぱり答えにはノーだけれど……
それでも、そう、あれよ。あれ。
高機動型と重火器装甲型の違いみたいなものでしょ?
なら、大した違いじゃないわよね。
そうよ、そうに違いないわ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「真紅!今朝、真紅のソックリさんに出会ったですぅ!
 あれは『どっぺるげんがー』とかいうヤツに違いないですよ!きゃー!!」

学校の教室に着くなり、翠星石が私の所に駆け寄ってきて新鮮とれたてのニュースを教えてくれる。

「あら、そうなの?」

私は、全てを知っていたけれど、それでも初めて知ったような表情で答えた。

「そうですぅ!『どっぺるげんがー』というヤツは、本人になりすまして悪さをする、コワーイお化けですぅ!
 きっと真紅の所にも身に覚えの無い逮捕礼状が、今にどっさり届くですよ!」

翠星石は悪だくみをしている時の独特の表情で、得意げに話している。
その表情に、私も思わず小さく笑ってしまう。
すると……

「真紅!笑ってる場合じゃないですよ!
 ……って真紅?……何だか少し、やつれたですか?
 ひ、ひょっとして、早くもロクでも無いことが業火の如く降りかかってきたとかですか!?」

きゃーと叫びながらも、どこか楽しそうにしている翠星石。
私は、少し遠くを見つめながら、呟くように答えた。

「ええ、そうね……おおむね貴女の言う通りよ、翠星石」

思い出すのは、昨日から今日にかけての事。
雛苺と再会し、ラプラスの魔が現れ、そして自分自身の弱さに気付く事が出来た。

と、そんな風に思い出に浸っている私の背中を、翠星石はお腹を押さえて大爆笑しながらバンバン叩いてきた。

「なーにが『おおむね』ですか!この無い胸が!ですぅ!!」

……そうね。でも、私は胸が無くっても、私は私らしく自信を持って生きていくわ。
うふ。うふふふふ。
とりあえず、腕の一本や二本は覚悟なさい。

私は大爆笑している翠星石の背後に回りこみ、関節を極めた。







     ―――→ end

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