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Phase4
よくまぁこんな怪物を転がしてると自分でも思う。普段はおとなしいクセして牙を剥くととんでもない力を発揮する。
俺自身、よくわからないのだ。サーキットを走る白物でもないのに。
そんなことを考えていた。それにしても・・・
家の近所の国道から東へ10分ほど、そこから有料トンネルを抜け北上。10kmほどの長いストレートは最高速アタックには打って付だ。
トンネルを抜け、有名な温泉街へと続く3桁国道を横目に県道へ入る。
夏以来だ。暫く来てなかったが、変わり映えしないのがいい。ひたすら田舎だ。

「寒くないか?」
「平気だよー。あとどれくらい?」
「もうすぐだ。」

タンデムで走るのは・・・実は初めてだったりする。と言うのも2輪の免許を取ったのは1年半前のこと。因みに、大型だ。
重たいが、長距離の移動は楽だ。実際後ろに人を乗せていても安定してくれる。
手加減して走っているのでそこまで怖がっていないようだが、後ろに乗るのは初めてじゃないんだろうか?妙に落ち着いてる。
それか固まってるだけかもな。それならそれでありがたいのではあるが。

県道に入ってからは少しばかりワインディングが続く。一人で走ると気持ちいい場所なんだが、後ろに人を乗っけても案外いいかもしれない。
夏だったら、もっと気持ちいいんだろうな。

「・・・寒い。お腹すいた。どーしよ、死んじゃう。」
「死なねーよこんなもんで。」
さんざん文句は垂れているものの、これと言って不審な挙動もない。いや、あったらもうこけてるんだろうが。
それだけは何としても勘弁してほしいものである。まだ立ちゴケしかしてないんだからな。あぁ・・やっぱ寒いわ。
そんなことを思っていると目的地付近の湖が見えてきた。付近の景観はとてもよく、中心部から約30分北上するだけで所謂ド田舎。
と言うか、もう市境なんだがな。流石北区とでも言っておこう。



「着いたぜ?」
「降りていい?」
「ずっと乗ってるつもりか?」
「それは困るかな。」
目的地は湖のそばにある大きな駐車場で、こからともなく色んな連中が来る。その証拠に他府県ナンバーがゴロゴロいるわけだ。
内燃機関がついた乗物にそこまで明るくないのだが、見る奴が見たらそれはそれでテンションが上がるものなんだろう。

一息付いていると上目づかいで物凄い視線を送ってくる奴がいる。俺は今現在そんなに痛い奴なのか?
いや違う。その視線の先にある自動販売機に向けられていたのもであってただ単に俺はその通過点にいただけにすぎないのだ。
そう思いたいが・・・

「ねぇ、M字って言われたくなかったらコーンスープ買って♪」

人生、そんなにうまいこと行かないものである。いつものことか。
某高級アイスクリームにデリバリーピザをせびられることに比べれば、120円の出費など痛くも痒くもない。
が、そんなことを思っていると黒魔法・読心術を発動されて後で何されるかわからん。って、もう遅いか。
よく読心術のことを忘れるのは、もうデフォルトになりつつあるので今さら気にすることもないのだが。
結局俺の読みは当たっていたようで、結局帰宅してから宅配モノをせびられることになる。電話一本シルバープレート万歳だこん畜生。

「きれい。」
「あぁ、気分を変えるにはここが一番だ。」
「よく来るの?」
「夏場はよく来てたが・・・最近は殆ど来てなかったから久しぶりだ。」
「そうなんだ・・・。コーンスープ、飲む?」
「ん?いいよ、飲め。」
「そう?」
「あぁ。」

短文での会話が続いた。なんだこの某学園SFモノのショートカットの宇宙人を相手にしているようなシュチュエーションは。
個人的にはそのキャラはかそうであってほしいとなり好きなので、まぁいいんだが・・・。

「あなたは今から1時間3分後に宅配寿司に電話をして特上盛り合わせを注文し、そこから32分後に自宅に届けられる。
その際代金4850円を支払い、私と共に寿司を食べる。今から2時間4分後に私の姉が帰宅し、ともに食事をとることになる。
姉が帰宅すると同時に、姉の彼氏が登場して4人で食事をすることになる。」
「ねぇ、こんな感じ?」
「・・・その未来、上書きできないのか?」
「ベジータ次第かな♪」
「勘弁してくれマジで・・・」
「にひひ♪」
本気で怖い女だ。コイツはどっかの団体だの機関だのに所属でもしてるんだろうか?そんなこと、知りたくもないが。
湖の眺めと空気の良さで気分転換しようと思ったのだが、これはどうも逆効果だったのかもしれない。別の意味で気分が悪くなった。
そんな感じだが、こんな日でも楽しく感じてしまうのはなぜだろうか?こんな日があってもいいかもしれないと思っている自分もいる。
だからどうってわけでもないんだが。自分にとってプラスになればいいわけで、最近の沈み具合から脱出できれば良かった。

「どう?気分晴れた?」
「誰かさんの予言を聞くまでは気分は順調に上向いてたはずなんだがな。」
「むぅ・・・そんなに私とおすし食べるのがイヤ?みんなに言うよ?ベジータに襲われたって。」
「黒魔法を使うな。高校まではまだネタですんだが今度はシャレにならん。シャバの空気を吸い尽くしたつもりはないんだ。」
「じゃあいっしょに食べよ?私もちょっと出すからさ。」
「すまんな・・・と言うか、どうしても寿司なのか?それ以外の選択肢はないのか?ほら、国道沿いにサイゼリアがあっただろ。」
「今日はお魚の気分なのだ。」
「へぇへぇ・・・」
後でジュンに借りることにしよう‐予言が当たっていればの話だが。こういう時だけは、当たっていてほしいものだ。

天候は機嫌を損ねることもなく、気温も同じように穏やかだった。せめて帰宅までは愚図ることのないようにしてもらいたい。
湖を眺めながらふと薔薇水晶を見ると・・・俯き加減で、どこか物悲しげな顔をしていた様に思う。
艶やかとはまた違う、薔薇水晶独特の雰囲気が漂っていて居心地が悪いわけでもない。むしろいい方なのだろうか。
そんな沈黙の時間がしばらく続き、すっかり冷え切った体のことを考えると移動するのがベターだと俺は判断した。
結局アレから薔薇水晶は無口な宇宙人キャラ設定になり移動中は一言もしゃべらなかった。

単に寒かっただけなのならいいが・・・さっきの表情を見る限りそうでもないことは俺にでもわかる。
気分転換しに来たはずなのに、悪い方に気分転換した様子であったためまるで俺が悪者の様な気分になってきた。
俺、何かしたか?ここ1時間の記憶を引っ張り出して重箱の隅をつつくように検索しても該当するコンテンツは見当たらない。

どうしたものか・・・本当に良く分からん女だ。気分屋だがどこか憎めないのもこんな時に困ってしまう。
俺はいじられやられキャラに徹するべきなのか?そこまでMでもない。額の話はするな、ギャリック砲の刑に処するぞ。
誰に突っ込んだわけでもないのに、こんな思考が脳みそを駆け巡る。
長い沈黙を終わらせるためにも、ほんの少し急いで帰ろう。そうすれば状況は変わるはずだ。

信号待ち。
夏場は地獄と化すこの無駄な停車時間は冬場もそう変わらない気がする。気分的に。
エンジンから発せられる熱は上がってくるものの微妙で、そもそもそんなに水温が上がっていない。最低ラインで走っているからな。
「ねぇねぇ、ベジータんとこでご飯食べよ。後さ、おねーちゃんとジュン誘っていい?それからねー・・・」
今まで黙っていたのが嘘のように話し始めた。不意打ちとはこのことを言うんだろうか?信号待ちのタイミングを見ていきなり機関銃のように喋り出した。
頼むからちょっと待ってくれないか?コイツが我儘キャラってのはよく知っているが、ここまで気分の変わり方が激しいもんなのか?
山間部の天気じゃあるまいしな。

「ゆっくり後で聞いてやるから、少し待っててくれ。好きにしていいからよ。」
俺はそう言って薔薇水晶をなだめた。と言うか自分をなだめていたようにも思うのだが、この際気にしない。

「ねぇ、このバイクどれくらいスピード出るの?」
「わからん。上まで行ったことはない。」
「だったら一回やってみて。お願い。」
「おいおい、無茶言うなよ。一人ならまだしも2ケツでなんて怖くてできん。」
「むー、やってみてよ。」
「絶対寒いぞ。」
「さっきのトンネルは?だいぶまっすぐだったと思うんだけど?」
「本気で言ってるのか?」
「結構本気だよ?お願いおねがーいっ。」

ホントにどうしようもないやつだ。無知と好奇心が連携するとこれほど怖いものはないと悟った瞬間でもある。
このバイクの公称値は約300km/h。だが、このスピードメーターは200までしか刻みがない。150ほど出せば観念するだろうと思ったのだが・・・。
後でわかったことだが・・・俺はとんでもない思い違いをしていたようだ。前のオーナーをこれほど恨んだことはない。

「じゃあ、行くぞ。しっかりつかまってろよ。」
「うん。」

俺も体験したことのないような異次元ゾーンの始まりだった。人馬一体、まさに「風になる」といった感じ。
料金所を過ぎてからトンネル入り口までは若干カーブがきついが、それを過ぎればアタックコースになる。

‐死ぬなよ。いや、死なせねぇ。俺たちが守ってやる。

頼むぜ、黒い鳥さんよ。

2速3000回転から徐々に回転をあげて行き、3速全開。怪鳥の咆哮がトンネルを駆け巡る。
「ッ!何だこれ!?」
思わず叫んでしまった。物凄い加速感、まるで空母から射出された艦載戦闘機のようなイメージだ。
スピードメーターはその針をどんどん体験したことのないような値を指すようになっていき、比例するように景色が大雨で増水したような河川の如く流れていく。

咆哮は未だおさまらない-右車線を走行する車は畏れ慄き、その身を左へと寄せていく。
ハイビームの効果もあってか、割りと後方からでも気付いてくれるようだった。
王者の道は、見事なまでに確保されていた。元王者だが、そこは気にしない。畜生・・・あの鳥さえいなければ・・・。
130・・・・・135・・・・・140・・・・145・・・・
様子がおかしい。と言うか、今までの安定感が急に失われたような感覚だ。後ろ側が言うことを聞かなくなってきた。

ここまでだな。
そう判断したのは正解だった様に思う。と言うのもあれ以上ぶっ飛ばしてたら何が起きてもおかしくなかったからだ。
にしてもだ・・・145キロってこんなに速かったっけ?あっという間にトンネル出口手前2キロ地点だ。
ここから徐々にブレーキをかけていくが、よく言うことを聞いてくれるとても優秀なやつだ。
アナログなつくりではあるが連動ブレーキの恩恵は十分に受けられている。

「大丈夫か?」
「・・・寒い。」
「だから言ったろうに。まだトンネルの中はマシだったんだからな。」
「・・・あったかいピザが食べたい。」
「そろそろ黙らないか?」
「むー。」
「さっきからピザピザうるせーぞ。そんなにピザになりてぇんか。」
「それはやだ。おねーちゃんの楽しい節制生活プログラムが待ってるもん。」
「なんだそれ?」
「お寺に入れられちゃう。別にお寺が嫌いじゃないけど、修業は無理。」
「じゃあ今から俺が連れてってやろうか?」
「やだやだ!絶対やだかんね!」
「はいはい。」

何だろう。さっきから俺・・・。

こんな感覚が久しぶりで、正直困惑していたのかもしれない。別にどうってこともないはずなのに。

楽しいって、こういうことなんだろうか?考えは尽きない。
頭をそんな風に使っていると、どうも家の近所までいつの間にやら戻ってきていたようだ。
人間の帰巣本能は恐ろしくも、よくできている。ありがたいことだ。
さて、ピザ屋の電話番号・・何番だっけ?あ、あと寿司屋もだ・・・。

財政的に非常事態宣言が出たのは言うまでもない。

Phase4 fin.

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