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「いきなり呼び寄せて悪かったわね」
「ほぉんと、いい迷惑ねぇ」

翠星石に電話で呼び出された真紅は、水銀燈と一緒に公園で待ちぼうけをくらっていました。
二人とも、何だか機嫌の悪そうな表情です。

というのも。

仲間のピンチなのに、待っている事しか出来ない真紅。
あんまり仲が良いとは言えない真紅と二人っきりな水銀燈。
これでは、どんなに良い天気でポカポカ暖かい日でも、楽しい気分になんてなれませんね。

「薔薇水晶や雪華綺晶も、きっと来るでしょうね……水銀燈、私から離れては駄目よ」
真紅はイヌミミをぴこぴこさせて周囲を警戒しながら、背中合わせで立つ水銀燈にそう声をかけます。

ですが。
「お断りねぇ」とか「誰が貴方の近くにだなんて……」みたいな、返事は返ってきません。

どうかしたのかしら?と、真紅はくるりと振り返ります。
そこには誰も居ませんでした。

何だか遠くのベンチにて、のんびり優雅に足なんか組んでいるネコミミ水銀燈が見えます。

「……これだから……猫は嫌いなのよ」
完全に無視された真紅は、イヌミミをプルプルと震わせながら呟きました。




     ◇ ◇ ◇ け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇ 




「水!銀!燈!!
 貴方、この状況をちゃんと理解しているの!?」
真紅は頭の上のイヌミミまで真っ赤にして怒りながら、水銀燈へと詰め寄りました。

「怒っちゃ駄目よぉ、真紅ぅ。ブサイクな顔がもぉっとブサイクになっちゃう」
水銀燈は気だるそうに、やる気の全く感じられない返事をします。

「だっ!誰がブサイクよ!!
 いいわ水銀燈!この際ですもの、いい加減に貴方と決着を付けてあげるのだわ!!」

真紅はジタバタしながら叫びます。
水銀燈は、顔を真っ赤にしている真紅の表情に、楽しそうに目を細めたりしています。

ですが。
ひとしきり真紅が叫び終えたのを確認すると、水銀燈はピンと指を一本、真紅の顔の前に突き出しました。

「……さっき、今がどういう状況なのか、って言ってたわよねぇ。
 貴方こそ、どういう状況なのか、ちゃんと理解してるのかしら?」

水銀燈のその言葉で、真紅もやっと少し落ち着きを取り戻してきます。
そうでした。
仲間同士で言い争っている場合ではありませんでした。

「翠星石の電話だと、何か良くない事が起きているとしか分からないわね……」
「で、金糸雀とかいう子が、こっちに向かっているのよねぇ」
真紅と水銀燈は、今持っている情報から現状を整理して考えます。

「金糸雀が翠星石と一緒に居た、という事は……蒼星石と雛苺も近くに居ると考えて間違い無いでしょうね」
「……4人で居たら、薔薇水晶か雪華綺晶に襲われた、って所ねぇ」
そこまで話して、二人は黙り込んでしまいました。 


ここで問題なのは、果たして翠星石たちを襲撃したのが『どちらか』なのか『二人で』なのかです。
偶然出くわしたのか、はたまた狙われていたのかの違いもあります。
それによっては、翠星石たちの安否は全然違ってしまいます。 


「……ま、金糸雀って子が来たら分かるわね」
水銀燈はそう言いますが、真紅は浮かない表情でうんうん考え込んだままです。

ですが、程なくして、真紅の頭の上でイヌミミがぴくっと動きました。
「誰か来たわ」
真紅はそう言い、公園の入り口へと視線を向けます。

まだ姿は見えませんが……イヌミミに届く誰かの足音は、歩いてるようにしか聞こえません。
嫌な予感に、真紅の頬に冷たい汗が流れます。

そして、カツカツと足音を鳴らして、その誰かは姿を現しました。

「……見つけた……」
足音の正体は、スカートの端からネコ尻尾をゆらゆら覗かせた、薔薇水晶でした。


―※―※―※―※―


「薔薇水晶、貴方……雪華綺晶は一緒じゃあないの」
真紅は身構えながら、こちらをじっと見つめてくる薔薇水晶に声をかけます。
ですが、薔薇水晶は何も答えようとはしてくれません。

それでも、薔薇水晶がここに登場してきたタイミングを考えると……
今回は雪華綺晶とは別行動をとっていると考えるのが妥当そうです。
 
水銀燈も、その事に気が付いたのでしょう。
「うふふ……一人とは好都合ねぇ?
 その尻尾、引っこ抜いてあげるわぁ」
笑みを浮べながら、薔薇水晶へと近づこうとします。

ですが、水銀燈は数歩も進まない内に、真紅に服の端を掴まれてしまいました。

「ちょっとぉ、邪魔をしないで……」
「水銀燈、聞いて頂戴」
横槍を入れられて文句を言おうとした水銀燈でしたが、その言葉も真紅に遮られてしまいます。

真紅は小さな声で、水銀燈の服を掴んだまま話します。
「水銀燈。何の意味も無く、薔薇水晶が戦力を分散させているとは考えにくいわ……
 きっと何か考えがある筈よ……」

「で?こっちは二人、相手は一人。作戦を考えたところで……」
「私と貴方なら、それも大丈夫でしょうけれど……翠星石たちが心配だわ」
「まさか、彼女を前に尻尾をまいて逃げようって言うんじゃあないでしょうねぇ?」

翠星石たちとの合流を提案し始めた真紅を、水銀燈はキッと睨みます。
ですが、いつになく真面目な表情で自分を見つめている真紅と目が合うと……
何だか、諦めに似た感じのため息が漏れちゃいました。

「……分かってくれてありがとう、水銀燈」
真紅はそう言ってきます。
水銀燈はフンと短く答えただけでした。

 
「水銀燈!行くわよ!」
「貴方こそ遅れるんじゃあないわよ!」
二人が同時に、薔薇水晶目掛けて走り出します。

薔薇水晶もサッと応戦の為に身構えますが……

真紅と水銀燈は、そのまま薔薇水晶の横を通り抜けて、公園の外を目指して走って行っちゃいました。


「…………あれ……?」
てっきり攻撃でもしてくるものだと思っていた薔薇水晶は、一瞬ですが、何が何だか分からなくなっちゃいます。
でもすぐに、やれば出来るタイプの薔薇水晶は、気が付きました。
「……逃げ……られた……?」
大慌てで真紅と水銀燈の後を追いかけ始めます。


「で、助けに行くって……どこに居るのかアテはあるの?」
走りながら水銀燈は尋ねます。
「……間に合うと信じて、探すしかないわ」
走りながら真紅も答えます。

そして、真紅が公園の入り口に差し掛かった時でした。
いきなり誰かと、ドシーンと正面からぶつかってしまったのです。
「きゃぁ!?」
と叫んで、真紅が倒れます。
「えぇ!?ちょっ!?」
その真紅につまづいて、水銀燈も倒れます。
 
真紅も水銀燈も、いきなりぶつかってきた誰かさんを、二人してキッと睨みつけます。
そして、その誰かさんはと言うと……

「ぅ…ぅう……真紅……やっと会えたかしら……」
ふかふか尻尾を胸に抱きしめながら半べそをかいた金糸雀でした。


「金糸雀!貴方!……その尻尾は……どういう事なの……」
真紅は起き上がるのも忘れて、呆然とした表情で尋ねました。

翠星石の尻尾を金糸雀が持っているという事は……その意味する所は……

ですが、真紅が結論に達するより早く、金糸雀が涙をポロポロこぼしながら口を開きます。
それは真紅にとって、最も起こって欲しくなかった事でした。

「雛苺も、蒼星石も……翠星石も……みんな、カナを逃がす為に……
 みんな……みんな、雪華綺晶にやられちゃったかしら……」

あるいはこの時真紅は「そんな!」と言おうとしたのかもしれません。
ですが、実際には、真紅は目を見開いたままピクリとも動きませんでした。

真紅の様子が変な事に、水銀燈もすぐに気が付きました。
急いで起き上がると、振り返って、こちらに向かって走ってくる薔薇水晶へと視線を向けます。

今からではもう、泣きじゃくっている金糸雀や呆然としている真紅が一緒だと、逃げられそうにありません。

「……あぁぁ!もう!!」
水銀燈は苛立たしげな表情を隠そうともせず、薔薇水晶目掛けて走り出しました。

 

―※―※―※―※― 



薔薇水晶はと言うと……さっきまで逃げていた真紅たちがいきなり倒れたのを見て、内心喜んでました。
この隙に追いついて、と考えて、走る足にも一層の力を込めます。

それが失敗でした。

普通、逃げていた相手がクルリと回れ右して襲い掛かってくる、なんて思いもしません。
なので、全力ダッシュしていた薔薇水晶は、心機一転、こちらに向かってくる水銀燈にびっくりしちゃいました。

かといって、いきなり止まったりは出来ません。
そんなに急には止まれないのは、車だって人間だって一緒です。

「……なら……逆転の発想……」
そう呟くと、薔薇水晶は走った勢いを乗せた華麗なカウンターパンチを―――

水銀燈から貰いました。

ボグシャァ!みたいな、とっても痛そうな音が鳴ります。
薔薇水晶は悲しそうに遠い目をしながら、ゴロゴロと転がります。
思わず泣いちゃいそうになりますが、そこはグッと我慢しました。

それから薔薇水晶は立ち上がると……キッと水銀燈を睨みつけました。

よく考えたら、水銀燈が付けているネコミミも、本来なら自分の物のはずです。
もう、ここで水銀燈をスルーするだなんて選択肢は完全に消しちゃっても構わないでしょう。
さっきは思わぬ反撃を受けてしまいましたが、もう油断したりうっかりしたりはしません。
明日からなんて言わず今日から本気出そう、と薔薇水晶は心に決めました。
 

薔薇水晶は身を低くして、身構えます。
水銀燈も、ニヤリと笑みを浮べてそれに応じます。

ネコミミ水銀燈とネコ尻尾の薔薇水晶。
二人が同時に、地面を蹴りました。 



―※―※―※―※― 



真紅は、一人で薔薇水晶と闘う水銀燈を、ただぼんやりと見ているだけでした。
今すぐ手伝いに行かなきゃ、とは思うのですが、体に力が入りません。

真紅の瞳も、いつもみたいにキラキラしたりはせず、なんだか悲しそうにドンヨリしたままです。

そんな風に完全に沈みきっていた真紅でしたが……
いきなり、頭の上でイヌミミがぴくっと動きました。

全身に電気が流れたみたいに、嫌な予感が広がります。

真紅はなけなしの気力を振り絞って、イヌミミに神経を集中させます。
そして……
聞こえました。

ちょうど水銀燈が居る場所の近くで。
水銀燈のすぐ後ろにある植物の茂みが、カサッと不自然な音を立てているのが。
 
「水銀燈!危ない!!」
気が付けば、真紅はそう叫んでいました。
叫ぶより早く、走り出していました。

これ以上、目の前で誰かが傷つき倒れるのだけは嫌。
ただそれだけを思って。ただ誰かを守る事だけを思って。
真紅は我が身すら考えず、走っていました。


―※―※―※―※―


「水銀燈!危ない!!」

突然聞こえてきた真紅の叫び声に、水銀燈は慌てて振り返ります。
そこには、いつの間に近づいてきたのか、雛苺から奪ったシロクマ耳を付けた雪華綺晶の姿が。
しかも、自分のネコミミを引き千切ろうと手を伸ばしています。

完全に、薔薇水晶に気をとられていました。
いつの間に近づかれたのか、全く気が付きませんでした。

今からでは避けようとしても間に合いそうにありません。
瞬時にその事を理解した水銀燈は、小さく舌打ちをしました。

避けられず、かといって、引っ張り合いの力比べでも、シロクマパワーの雪華綺晶相手では不利過ぎます。
だから、水銀燈には舌打ちをする事しか出来ませんでした。

そして雪華綺晶の指先が、自分のネコミミに届こうとした瞬間です。

水銀燈はいきなり、誰かに跳ね飛ばされたのです。

視界に映る雪華綺晶の姿を隠すように、真紅が間に立ちふさがるのが見えました。
雪華綺晶の手が、真紅のイヌミミを掴む瞬間が見えました。
そして、真紅の頭から、イヌミミが、引き千切られる瞬間が、見えました。
真紅が地面に崩れ落ちるように倒れるのが、やけにゆっくりに見えました。

水銀燈には、倒れる瞬間の真紅が、何故か微笑んでいたように見えました。

ドサッと音を立て真紅が倒れます。

「しん…く……?」

真紅に押し飛ばされ、尻餅をついていた水銀燈は、呆然としながら呟きました。
ですが……もう返事は返ってきません。

何だかよく分かりませんが、水銀燈は自分の心臓の音が、やけに大きくなったような気がしました。

視界の端では、雪華綺晶が千切り取ったイヌミミを薔薇水晶に渡しているのが見えます。
よく分かりませんが、とっても腹が立ちました。

得意げな表情をしている雪華綺晶。動きの少ない表情ながらも嬉しそうにしている薔薇水晶。
二人を見ていると、何だか無性に腹が立ちました。
助けてくれだなんて頼んでもいないのに勝手に助けてきた真紅。
彼女を思うと、何だか胸の辺りが苦しくなって……
胸が苦しくなっちゃった事にも、何だか腹が立ってきました。


水銀燈は、静かに立ち上がります。
そして……並んで立つ薔薇水晶と雪華綺晶を睨みつけました。
 

ついに念願のイヌミミを手に入れた薔薇水晶は、目をランランと輝かせていましたが……
すぐに水銀燈の様子に気が付き、サッと身構えます。
そして雪華綺晶が、相変わらず柔らかな笑みすら浮べながら、薔薇水晶と水銀燈の間に立ちふさがりました。

「黒薔薇のお姉様。場の雰囲気に流されてはいけませんわ」
雪華綺晶が微笑みながら言います。

「貴方は赤薔薇のお姉様の事を嫌っていたではありませんか。
 何も、そこまでお怒りになる事もないのでは?」

雪華綺晶は、水銀燈の上がりきった怒りのボルテージを得意の話術で下げようとしてきます。


ですが。
水銀燈は、そんな雪華綺晶の言葉に、鼻で軽くフンと笑って答えました。

「えぇ、そうねぇ。私は真紅が大ッ嫌いよ。
 会うたびに喧嘩してるし、友達だと思ったことは今までも、これからも、無いわぁ」

それから一呼吸挟んで、水銀燈はニヤリと笑みを浮べて見せます。

「そんな真紅が、私を助けた、だなんて思い込んだままってのは御免だわね。
 だから……もう一度、真紅の頭にイヌミミを付けて……改めて私が引き千切ろうと思うのよ」

 
「……つまりは、仇を討とう、という事でしょうか?」
微笑みながらも眼光鋭く、雪華綺晶が尋ねてきます。

「違うわよ。鈍いわねぇ……真紅のイヌミミを千切っていいのは私だけ、って事」
水銀燈はそう言います。

何だか格闘マンガのライバルキャラみたいです。
まるっきり『貴方を倒すのはこの私…!』とか言ったりなんかするツンデレさんです。
最も、本人は絶対に認めたりはしないでしょうが。


ともあれ。
たった一人でも、水銀燈は決して闘いを諦めたりはしていませんでした。




頬を撫でるように穏やかだった風は、いつしか木々を揺らす程になってきています。
最後の戦いが、始まろうとしていました。





 
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