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「水銀燈が仲間になってくれた事、金糸雀と雛苺にも伝えておかないといけないね」

作戦会議も終わり、翠星石と蒼星石が二人で家に帰ろうとしている時です。
蒼星石の口から、そんな言葉が出てきました。

「そですね。ま、別に急がなくても、次に会った時でいいですよ」

翠星石は、あまり深く考えず、面倒そうなので適当にそう返事をします。
ですが、そんな翠星石の反応に、蒼星石はあからさまに険しい表情を浮べました。

「それは駄目だよ。
 だって、金糸雀に雛苺は、僕達と水銀燈の関係はあまり良くないと思ったままなんだよ?
 もしもだけど、彼女達が何かの手違いで、水銀燈に襲いかかるような事にでもなったら……」

ちょっと心配しすぎな気もしましたが、蒼星石の言葉に、翠星石の脳裏にも嫌な光景が浮かんじゃいます。

バールのような物を振りかぶる金糸雀。
降りしきる雨に、響き渡る雷鳴。
崩れ落ちる水銀燈。
地面に広がる血溜り。
2時間にも及ぶサスペンスドラマが始まります。

翠星石は恐ろしい未来予想図に、ふかふか尻尾をブルブルと震えさせました。

「……い、今すぐ知らせに行くですぅ!」 




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇
  



「そこでカナは、光線銃を構えて言ってやったかしら!
 『五臓六腑に染み渡るド派手な光景が見たくないなら、武器を捨てるかしらッ!』と!!」

金糸雀が、今日一日の武勇伝を2割増しで語りながら歩いていました。
隣には当然のように、一番の親友の雛苺の姿があります。

「きゃー!カナリア、凄いのー!!」
シロクマ手袋を付けた両手をブンブン振りながらの雛苺。
テンションもうなぎ上りです。

そんな風に、仲良しちびっ子二人は楽しくお喋りしながら歩いています。
すると。

「おお!ちょうど良い所に現れやがったですぅ!」

何だか人一倍に元気のいい声が聞こえてきました。

金糸雀と雛苺は、声のした方向へと振り返ります。
そこには、ふかふか尻尾をブンブンと振っている翠星石と、相変わらずクールな表情の蒼星石が居ました。

「二人ともいいかな?……話しておきたい事があるんだ」

蒼星石にそう言われ、金糸雀と雛苺は互いの顔を見ます。
それから蒼星石の方を向いて、二人でコクリと頷きました。


―※―※―※―※―

 
今度は四人になって、話をしながら河原をてくてくと歩きます。

「……という訳で、しばらくの間は水銀燈も仲間になってくれたんだ」
「了解かしら!」

蒼星石から事情を聞いた金糸雀は、元気良く答えました。
それから
「ふっふっふ……
 これもカナがこの前に助けを呼んであげたから、それに感謝してに違いないかしら。
 やっぱり、隠しても隠し切れない人柄の良さや人望的な何かが、先天的にカナには備わっていて……」
とか、一人で悦に浸るように呟いてます。

そんな金糸雀とは対照的に、雛苺は何だか首をかしげていました。

雛苺は隣を歩いている翠星石の服をちょんちょんと引っ張って尋ねます。
「ねえ翠星石。それで……そのスイギントーって、誰なの?」
そういえば、雛苺と水銀燈は一度も会った事がありません。

翠星石は、雛苺にどう説明したものかとも思いましたが……
やがてニヤリと笑みを浮べると、雛苺の耳元に顔を近づけ、小さく囁きました。

「水銀燈とは……地獄から甦った、悪魔の女王の事ですぅ。とーっても危険なヤツですぅ。
 悪いヤツなので、いつ裏切るかわからないですよ。
 なので……乱闘にでもなったら、敵と間違えたフリして、こっそり息の根を止めるのが……」

そこまで言った翠星石は、蒼星石に首根っこを捕まれてしまいます。

「雛苺、翠星石が言ったのはほんの冗談だから、忘れてくれて構わないよ。
 それで、水銀燈は……頭の上にネコミミが付いてる人を見つけたら、彼女で間違いないよ」
やれやれといった表情の蒼星石が、そう説明してくれました。

蒼星石の説明に、今度は金糸雀が首をかしげます。
「確か蒼星石も、初めて会った時はネコミミを付けてたハズかしら」
それから金糸雀は蒼星石の頭に視線を向けますが、そこにはネコミミなんか付いていません。

「うん……僕のは……水銀燈に取られちゃったんだ……」
蒼星石の呟くように小さなな声は、河原のせせらぎにかき消されてしまいました。


何だか、ちょっとだけ悲しげな雰囲気になってしまいました。
いつもなら元気いっぱいにブンブン動いている翠星石のふかふか尻尾も、しゅんとしちゃってます。

そんな時です。
何とかして空気を明るくしようと内心色々と考えていた金糸雀が、何かを見つけました。

「あ!あれ!あそこ!何かの屋台があるかしら!!」
きっと美味しいモノでも食べれば、楽しい雰囲気になるかも。
そう思った金糸雀はさっそく、見つけた屋台へと駆け出します。

ですが……その屋台で何かを買う前に、金糸雀の表情はピシッと固まってしまいました。

「あら、いらっしゃいませ」
屋台で迎えてくれたのは、柔らかな笑みを浮べた雪華綺晶だったからです。

「現れやがったですね!!」
「返り討ちにするのー!!」
翠星石と雛苺が、すかさず雪華綺晶目掛けて駆け出します。

ですが、雪華綺晶は笑顔のまま、はっきりとした声で言いました。
「ふふふ……私は闘いをするつもりはありませんわ」
 
「その言葉、僕が信じると思うのかい」
蒼星石も今にも飛び掛らんと構えたまま、声を低くして答えます。 


一触即発の空気の中。
「それなら……私から、皆さまへプレゼントでも……」
雪華綺晶はそう言うと、屋台の中で何かをゴリゴリ動かします。
そして「はい、どうぞ」と、作りたてのかき氷を出してきました。

皆、「何でカキ氷?」と思いました。
ですが、一人だけリアクションの違うのが居ます。

「わーい!カキ氷なのー!」
雛苺でした。

シロクマに、ひんやりとした氷。
雛苺に、甘くて美味しい苺。
シロクマ耳&手袋の雛苺とって、カキ氷イチゴ味ほど嬉しいものはありません。

「ひ…雛苺!罠かもしれないかしら!」
金糸雀が慌てて、氷イチゴに飛び付いた雛苺を止めようとします。
ですが、間に合いませんでした。

「うぅ~……おーいしーのー!!」
雛苺は目をキラキラさせながら、氷イチゴを食べます。食べまくります。

「どどど毒とか入ってないですか!?」
翠星石が目を白黒させながら心配していますが、シロクマ雛苺は全然気にしていません。
 
雛苺は、
「普通に美味しいのよ?翠星石も食べてみる?はい、あーん」
と、スプーンですくった氷イチゴを翠星石に差し出したりしています。

「あーん。って何させるですか!このおバカ!」
翠星石もついうっかり、そのまま氷イチゴをぱくっと一口。
それから、ジタバタしながらぷんすか怒っていました。

何だか、子供のシロクマに犬がじゃれついているような光景です。

ドタバタ騒ぐ姉の姿に、蒼星石は安心したように「毒は無いみたいだね」と呟きました。
それから蒼星石は、鋭い眼差しを、雪華綺晶へと向けます。

「……君が何の目的も無く僕達の前に現れるとは思えない。
 何を企んでいるんだい?それに、今日は薔薇水晶は居ないのかい?」

蒼星石の問いかけに、雪華綺晶は悲しそうな声で答えました。

「ええ。今日は私だけ、ですわ」

雪華綺晶は屋台から出てきて、なおも続けます。
「実は……以前にお話しましたが、私は私立探偵をしていて、それでばらしーちゃんに雇われたのですが……
 どうも、ばらしーちゃんのお小遣いでは私を雇い続ける事が難しくなってきたようで……」

「分かったかしら!
 そこで今度は、カナ達に雇われようって考えかしら!」
金糸雀が、おでこをキラリと輝かせながらそう叫びました。

雪華綺晶は、やっぱり微笑んだままです。 

とても嬉しそうに、氷イチゴを食べている雛苺へと視線を向けながら、雪華綺晶は再び口を開きました。
「そこで、私はばらしーちゃんにこう提案したのです」

なんだか、この一言で話の雲行きが急に怪しくなってきました。

「私はお金は要らない。
 その代わりに……貴方にとって必要ない物を私に下さらないかしら、と」

嫌な予感がします。

雪華綺晶は、ニタァと笑みを浮べました。
瞳孔とか、もう、大変な事になっています。

「うふふ……ばらしーちゃんは快く引き受けてくださいましたわ……
 私がシロクマ手袋をいただく事を……」

「や…やっぱり闘うつもりだったかしら!
 カナは最初からお見通しで、ちっとも騙されなかったかしら!!」
金糸雀がピッと指を突き出しながら、ちょっと強がってみせます。

「嘘をつくだなんて、随分と安っぽい手段だね」
蒼星石も、雪華綺晶をキッと睨みつけました。

「アリを踏み潰す事を、貴方は闘いなどどお呼びになるのでしょうか?」
「詭弁だね」
「ふふ……言葉遊び、とおっしゃって下さいな」

そんな会話が交わされている間にも、翠星石が合流し、三人でぐるりと雪華綺晶を囲みます。
数に物をいわせた必勝の陣形で仕留めるつもりです。 

だというのに、雪華綺晶は相変わらず笑みすら浮べたままです。 

「こっちにはシロクマパワーの雛苺が居るですよ!?」
「雛苺!圧倒的戦力で、一気にしめあげるかしら!」

翠星石と金糸雀が、最終兵器であるシロクマ耳&手袋の雛苺に突撃命令を出しました。
さあ、ボコボコタイムの始まりです。

の予定だったのですが……どうも雛苺の様子が変です。

「うぅ……頭が……キーンってするの……」
氷イチゴをパクパク食べていた雛苺は、苦しそうに頭を抱えていました。

冷たいものを食べ過ぎたら、頭が痛くなるという当たり前すぎる出来事。
そのせいで、雛苺は大変な事になっちゃっています。

「そ…そんな!雛苺!?しっかりするかしら!?」
すっかりアテが外れた金糸雀は、顔を青くしながら叫びます。
「ぅ…ぅぃ……ヒナ、頑張るのー……」
その声に激励された雛苺も、頭がキーンとはしますが、雪華綺晶へと向かっていきます。

ですが……よっぽど調子が悪いのでしょう。
雛苺の必殺のシロクマ体当たりも、いつもより威力がありません。
雪華綺晶はほんの少しよろめいただけで、何とか持ちこたえてみせます。

そして。
体当たりで出来た隙をついて。
雪華綺晶は、雛苺の頭でぴこぴこ動いているシロクマ耳を、ガッシと掴みました。
 
「嫌ぁ……痛いの……!」
雛苺は必死に振り払おうとします。ですが……

「うふふふ……すぐ楽にしてさしあげますわ……」
雪華綺晶はそう言うと、雛苺の頭のシロクマ耳を、思いっきり引き千切ったのです。

ぷちーん!と雛苺の頭から、シロクマ耳が離れていきます。
「…あ……」
雛苺は悲鳴すら上げられずに、そのまま地面に倒れ落ちていきます。
そして、ドサリと音を立て、雛苺は気を失ってしまいました。

「雛苺!?そんな!雛苺!?」
金糸雀は悲鳴のように大きな声で叫びながら、倒れた雛苺へと駆け寄ろうとします。
そんな金糸雀の目の前で……
雛苺の手に付いていたシロクマ手袋をも、雪華綺晶は取り上げました。

「ふふふ……素敵」
まるで他の事など眼中に無いように笑みを浮べ、雪華綺晶は雛苺から奪ったシロクマ耳&手袋を自分に付けます。
雪華綺晶の頭の上で、シロクマの耳がぴくっと動きました。

あまりにもあっけなすぎる、一瞬で終わってしまった、闘いとも呼べないような闘い。
蒼星石も翠星石も、ただ呆然と見ている事しかできませんでした。


「あ…ああ……そんな……」
あと一歩、間に合わなかった金糸雀が、へなへなと地面に膝を付きます。
親友を倒され、完全に戦意喪失です。

蒼星石も、きっと自分がネコミミを千切られた瞬間を思い出してしまったのでしょう。
額に大きな珠のような汗をかきながら、雪華綺晶を睨みつけるのが精一杯です。

翠星石もつい、ふかふか尻尾をくるくるに巻いちゃいたくなりましたが……
それでも、そんな格好悪い真似はしませんでした。 


翠星石は考えます。
蒼星石がネコミミを千切られた時、自分が何をしていたのか。
雛苺がシロクマ耳を取られた時、自分が何をしていたのか。
確かに、ふかふか尻尾には便利な特殊能力は一切ありません。
ぶんぶん動くだけです。

それでも、皆を大切にしたいという気持ちだけは、ずっと持っていました。
その気持ちが折れてしまうのだけは、翠星石にとっては絶対に嫌な事でした。 


「……許さんですよ……」
小さな声で、翠星石は呟きました。

雪華綺晶は、新しく手に入れたシロクマパワーに、嬉しそうな表情をしていました。
手に付けたシロクマ手袋を開いたり閉じたりして様子を見ています。
やがて、しゃがみ込んで地面に落ちていた小石を拾うと、それを片手でいとも簡単に握りつぶしました。

「うふふ……あぁ、何て素敵なんでしょう……」
雪華綺晶はうっとりとした表情で歌うように呟きます。
それから、ギリリと歯を食いしばっている翠星石へと視線を向けました。

「許さない?ふふふ……なら、私にお仕置きをしに来られてはいかがですか?」

明らかに、これは挑発です。
そうとは分かってはいましたが、翠星石は雪華綺晶を睨みつけ、一歩足を踏み出しました。 


ですが……

「翠星石、今の彼女は危険すぎる。
 君は金糸雀を連れて逃げるんだ。……ここは僕が食い止めるから」

死亡フラグを言いながらの蒼星石に、翠星石の歩みは押し留めました。
ですが当然のように、翠星石は首を縦には振ろうとはしません。

「何を言ってるですか!こいつだけは、翠星石の手で一泡吹かせてやらねば気が済まんですぅ!!」

翠星石は、首をぶんぶん横に振ります。
ですが、蒼星石にとっても譲れない思いがありました。

「翠星石……とっても優しい君だから、金糸雀を守ってあげてほしい……
 僕は……そんな君を守りたいんだ」

蒼星石の言葉で翠星石はハッと、腰を抜かしている金糸雀の事を思い出しました。
確かに、このまま雪華綺晶と闘えば、金糸雀も怪我をしてしまうかもしれません。

翠星石は、これ以上誰かが傷つくのは見たくありませんでした。

決意に満ちていた翠星石の瞳に、優しさゆえの迷いが生まれます。
それを見て蒼星石は、こんな状況だというのに、どこか幸せそうな表情を浮べました。

「大丈夫。僕もこんな所で終わるつもりは無いよ。だって……」
ちょっとはにかんだような表情を作り、蒼星石はポケットから小さな箱を取り出します。

「明日はおじいさんの誕生日だからね。……実は、もうプレゼントも買ってあるんだ」
再び死亡フラグでした。
 
そして蒼星石は、笑みを浮べながら近づいてくるシロクマ綺晶を睨みつけながら叫びました。
「迷ってる時間は無いんだ!翠星石!早く!!」

蒼星石の勢いに気おされるように、翠星石はじりりと後ずさります。
そして。

「……チビカナを安全な所まで送ったら帰ってくるですよ……絶対に、絶対に戻ってくるですぅ!」

うつむきながらそう叫ぶと、地面で腰を抜かしている金糸雀を抱きかかえました。

「そんな!蒼星石一人じゃあ……!」
金糸雀が何かを言おうとしますが、翠星石はキッと睨みつけて黙らせます。

「蒼星石を信じるですよ!蒼星石は……そう簡単には負けんですぅ!」 


翠星石は、金糸雀をおんぶしながら走り出しました。
けっして振り返ったりはしません。

翠星石は、一生懸命に走ります。
もし一度でも振り返ってしまったら、蒼星石の決意を無視してでも残りたくなってしまうので。





 
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