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「───ひぃいいいい!」


怖い怖い怖いぃぃ!
このバカジュンッ、よりにもよってこんなゲームを選ぶことないじゃない!
なんで電気消しながらやるのよぉ。
そんなだからメガネかけなきゃならなくなるのよぉ!
やああ、変な音がするぅ!


「……コレがいいって言ったの、水銀燈だろ」

「だってそんなに怖いって思わなかっ……ひゃあああ!?」

「ゲームの音だって。あともう遅いんだから、そんな大きな声出すなよ」


ひどい、おに、あくま、どえす。
なによぅ、ホラー苦手そうな顔しておいて、なんでそんな平気そうなのよぅ。
ムカつく、その「呪い人形程度、苦にもならぬわ」って顔がムカつく。
布団に潜り込んでも暗いし、出ても電気が点いてないから暗いし、もうイヤぁ。


「それに、慣れれば結構おもしろいぞ。たとえば、空耳で『オフコース!』なんて聞こえたり」

「聞こえない聞こえない、ぜーったい聞こえないぃ!」

「わかったよ。ほら、いまセーブしたし、もう電源切って電気も点けるから」 

本当に、とんでもない肝試しね。
ジュンのせいで、しばらくは窓の外とか見られないじゃない。
うう、コップが勝手に動いたり突然マリが落ちてきたりしないわよね。
か、壁に人の顔みたいなシミが浮かんできたりするかも。
あああ、もう鏡も見れない。鏡の向こう側から手が出てくるかもしれないぃ。


「もうやだ、ジュンのばか」

「……僕のせいじゃないだろ」

「…………ジュンのばーか」


絶対にジュンのせいよ。
なんで、そんな怖いゲーム買ってるのよ。
いま出たら手とか出てきそう。
映画見たくても面白いDVD持ってないし。
一応持ってきたものがあるけど、それもいまは雪華綺晶のところだし。
それに、パジャマに着替えたいし。
でも怖いし。


「あ、そうだ。ジュン、ちょっと来て」

「? どこに?」

「いいから!」

ひとりで行くのが怖い、なんて言えるわけがない。
たぶんバレているだろうけど、口に出してこないならこっちのものよ。
さっさと行って帰って、また布団に潜り込まなきゃ。
いくら夏だからって、怖いものなんて見なければよかった。
暗いのが怖いなんて、まるで真紅じゃない。
そんなのは冗談じゃないから、早く早く。


「なんだ、荷物取ってくるだけか。ひとりで来られただろ……」

「き、雪華綺晶が心配じゃないわけ? 気絶させたのはジュンじゃない」

「それも僕のせいじゃない!」

「ちょっとうるさいわよぉ」


ささっとボストンバッグを取って、ちゃちゃっと戻る。
直前に雪華綺晶の様子を見たけれど、のんきにすーすー寝ていたわね。
うらやましいっていうか、いまの私からすればすこし信じられないくらい。
なんであんな暗闇でぐうぐう寝られるのかしら。
ひとりで居ても平気だったさっきまでの自分がどうかしている気がしてくる。
まさか雪華綺晶、明日の朝になったら煤みたいになって消えてないでしょうね。

「よく考えたら、荷物持ってくる必要ないじゃないか。水銀燈も姉ちゃんの部屋で寝……」

「やぁよ。ジュンに怖い思いさせられたんだから、ちゃんと仕返ししなきゃ」

「は!? そんな無茶苦茶なコト言うなよな!」

「聞こえな~い」


そんなこんなでジュンの部屋の前まで来たとき、ひとつ思い出した。
よく考えなくても私のいまの格好は普段着だし、私は寝るときはちゃんと着替える派だ。
男子はTシャツにトランクス一丁で寝るとかクラスで言ってたけど、私は女の子だもの。
いくらなんでも、そんなとんでもない格好で寝るわけにはいかない。
その、たまにやるけれど。
でも、ジュンの家でやるわけにはいかないじゃないっ。
そんなワケです。


「どうしたんだよ?」

「ちょっとジュンは外で待ってて」

「なんで!」

「いいの!」

追い出す。
下着はさっき銭湯に行ったときに替えてきたから大丈夫。
まったく、ジュンもお風呂掃除くらいすればいいのに。
まさか、その、壁にゴ、ゴキ……が、二匹も走ってるなんて!
そんなものを見た直後に入れるもんですか。
それはともかく。
早く着替えないと、怖い怖い怖い。
急いで済ませないと、パソコンの画面からなにか出てきそう。
それにしても、我ながら服の色は黒ばっかりね。
暗い女って思われないかな。


「はい、どうぞ。もういいわよ」

「まったく、ここは僕の部屋だぞ。て、着替えるためだけに追い出したのか」

「そ、そうよ」

実は、着替えるだけならなにもジュンの部屋じゃなくても良かったかな、なんて思ったのはついさっきの話。
さっきのゲームの影響か、そんなコトに頭がぜんぜん回らなかった。
男子の部屋で着替えるなんて、なんかもう大胆すぎかしら。
白状すると、いまはジュンがいるから平気なだけで、物音がしただけで飛び上がっているくらいなのよね。
窓の外とかパソコンの画面なんて絶対に見れないし、机の近くとかベッドの近くにも行けない。
ジュンと私と雪華綺晶しかいないハズなのに、机の下に女がいるかもしれない、なんて考えしか浮かばない。
ベッドなんて、下の隙間から手が出てくるかもしれないのに、そんな場所の近くで着替えるなんて無理むりムリ。
かと言って、雪華綺晶の近くで着替えてたら、突然とり憑かれた雪華綺晶に襲われかねないし。
うん、やっぱりジュンの部屋で着替えるのが最良の選択だったのよ。


「ていうか、僕もそろそろ寝たいんだけど」

「え? ええ」

「いや……もう、僕の部屋使っていいよ。僕は下で寝るから」

「へ!?」


い、意味がないじゃない!
こんな状況で完全にひとりにするなんて、冗談じゃないわよ! 

「そ、それはダメ!」

「いやいやいや、僕だってさすがに同級生の女の子と同じ部屋で寝るなんてできないぞ」

「わ、私は床でもいいから!」

「そういう問題じゃないだろ!」

「いいの!!」


ひとりになったら、ドアとか窓の向こう側から変な影が迫ってくるに決まってるじゃない!
そんな目に遭うなら、一緒にいたほうがずっと安全よ!
もう恥も外聞も関係ないったら!
本当、夜対策にデジカメでも買っておこうかしら。
でも効くのかしら、デジカメ。 

「どうしてもここにいるってのか?」

「…………どーしても」

「一応、理由を聞いていいかな?」

「聞いたら笑う」

「たぶん笑うけど、それ以前の問題もあるからな」

「?」

「んじゃ、理由をどうぞ。拒否ナシな」



◆ 



「ぶははははははは!!」


結局、さっきのゲームのせいでひとりでいるのが怖くなってしまった理由を細々と話してしまった。
ついでに、散々爆笑されたあとに「怖いのが苦手の魔性の女ってカンジだな」とまで言われてしまう始末。
魔性の女ってなによ。
こっちはずっと、真剣に怖いのがイヤだから悩んでたりしてたのに。
頑張って話しても結局、大笑いどころか爆笑だし。


「ははははは、はぁ。いや、コレは面白い弱点握ったなぁ」


サイテー。
涙流すほど笑って、しかも弱点握ったとか。
事実なので何も言い返せないところがまた悔しい。
ひょっとしてこれから立場逆転?


「それにしてもなぁ。ヘンに焦って損したよ。ま、そのほうがいいんだけど」

「? さっきから損したとか魔性の女とか、どういうコトぉ?」

「怖くて動転してるだけかと思ったけど、まだわかってないのか。
 同級生の男子の家に泊まって、しかも同じ部屋で寝るってコトがどういうコトか、よく考えてみろって」 

んん?
別になにもヘンなコトないと思うけどぉ。
布団は一緒じゃないし枕も別だし。
それにあとは寝るだけだし、なにも問題ないじゃない。
なーにを悩んで……。


「ああわかった! ジュンったら興奮して眠れなくなっちゃうんでしょー」

「もう少しソフトに言ってくれ! それ以前に、ドートク的に問題あるだろ」

「なーんだそんなコト。別に気にしないわぁ。私もいまそんなカンジだし」

「は!?」


まったくジュンってば、いつの間に修学旅行気分になってたのかしら。
たしかに修学旅行の夜は興奮して寝付けなるのはわかるけどぉ、ここはジュンの家じゃない。
まぁ、私も恋バナとかして結構遅くまで起きてたときもあったし、人のコトは言えないわね。
道徳的って、要するに消灯時間を過ぎても起きてるコトが問題ってコトよねぇ。
ウチの中学校はそういうのは割と甘かったっていうか、大目に見てくれてたけど。
ジュンの中学校は厳しかったのね。
あ、もしかして私を怖がらせたのって、私に起きててほしかったのかしら。
まぁ、いまのでもう怖くなくなっちゃったけど。

「ふぁ……でもさすがに眠いわねぇ。夜更かしはお肌に悪いし、私はもう寝るー」

「いやちょっと待て、いったい何を言って……ていうか、そこ僕のベッドだぞ。寝るなら雪華綺晶と一緒に」

「やぁよ、遠いもの。ジュンも早く寝なさい。おやすみぃ」

「ホントに寝るのかよ。おーい水銀燈、銀ちゃーん、銀さまー、お銀~?」


それにしても、あんなに顔を真っ赤にしなくてもいいのに。
やっぱりジュンは可愛いわねぇ。
いつもそれが面白くてからかってたけど、それで魔性の女って言われたのかしら。
まぁ……それも、いいわねぇ。
明日は、早く起きて、朝ごはん、作らない、と。
ジュン、おやすみぃ。 

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