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太平にして世に事もなし。
結局、桜田さんにお泊り許可を頂いてから早数刻。
人生で初めて、他の方の家に泊まるというイベントに、私はすこし躍っていた。
そしてそれが男性の家であるコトを再確認して、またすこしおびえる時間。
普段ならすでにベッドのなかにいるハズの私は、大きな歓喜と小さな恐怖を覚えつつ、まだ居間にいる。
なんていうか、日本伝統行事である修学旅行とはこのような雰囲気なのかと、私は思った。
私は高校から日本に住んでいる。
いえ、いずれ日本に住む予定ではありましたし、こうして他の国の言語で交流できるなら、それは喜ばしい。
ただそれでも、私の生活は寮にあって、プライベートな時間は自室で過ごしていました。
だから、なのでしょうか。
こうしてお友達と一緒に、ひとりで過ごすハズの時間を共有するのは、とても楽しくて。
ハメを外す、というのでしたっけ。


「 そういえばきらきー、あなたずいぶんと打ち解けてきたわねぇ 」

「 へっ……!? 」


き、きらきー?
水銀燈さんからそう呼ばれるのは、ちょっと怖いです。
いつもはばらしーちゃんとか翠星石さんとか、朗らかな人たちだけでしたので。
でも、不思議と苦痛ではない、のかな?

「 まァ、仲悪いよか全然いいだろ。あと、いつまで起きてるつもりなんだ 」

「 大丈夫、あんまり起きてるとお肌に悪いもの 」


桜田さんは、ずっとキッチン近くのテーブルに。
きっと、私に気を使ってくれてるんです。
桜田さんの声でそっちに顔を向けて、やっとそのコトに気がついて。
ああもう私のバカバカバカ、と昨日の自分の言葉を思い出す。
緊張はしますけど、死ぬわけじゃない。
命がけで挑むほどでもないし、なによりこれは私の落ち度。
ええ、女は度胸ですよ。かの有名な海賊一家のおばさまもそう言っておられましたっ。
桜田さんが淹れてくれた(妙に美味しい)コーヒーを片手に、桜田さんの隣に座りましょう。
なるようになれです、ひきっとなったときはなったときですよ。


「 き、雪華綺晶? 」

「 ひ、う、うぁ……な、なんデスカ? 」


本当に、桜田さんの隣に座ってしまいました。
か、か、顔から血が噴き出そう。
ていうか私、なんでこんなコトしてるんですかー!
もっと他に方法があったハズで、なにもこんないきなり大胆に行動しなくてもっ。
ああダメ、絶対に桜田さんの顔を見られない。
もうコーヒーなんて真っ黒を通り越して真っ白だし、ひぃぃ、ま、また涙が。
うああ怖い、お化け屋敷なんてかくやというほどの恐さですよぅ……!

「 なっ、ちょ、きらきー離れなさぁい! なんのつもりぃ!? 」


わ、私だってなんのつもりかわかりませんよぅ!
桜田さんに気を使わせたくないとか、男性恐怖症をどうにかしなきゃとか考えてたら勝手にぃ。
私も逃げられるなら逃げ出したいです。
でもそれじゃ、桜田さんに失礼じゃないですか。
恐いけど、怖いけど逃げちゃダメなんですー!


「 こらっ、ジュンの隣は私よぉ! は・な・れ・な・さ・いぃ! 」

「 いーやーでーすー! だってだって、桜田さんが自分の家で気を使うなんて変じゃないですか。それはダメなんです! 」

「 ちょ、ぐえ、苦しい…… 」


こーなりゃヤケです。
ていうか意地ですよ。
わ、私だってはやく克服したいし、桜田さんだって練習相手になってくれるって言いました!
もうためらってる暇なんてないんです。
せめて、桜田さんだけでも平気にならないと申し訳ありませんもの。
あああ、遊びに来てくれるたびに私があんな態度じゃ失礼ですし。
絶対、ぜーったい離しませんんん!








なんて、そんな面白い展開はあるはずもなく。
ずーっとソファーですよ。
あはは、いやですねぇ私ったら、こんな少女マンガみたいな展開を思いつくなんてひいい。
それにしても、我ながら水銀燈さんの役回り完璧だったなァ。
む、オチとして気付かずに桜田さんに腕にひっついてるというのもアリだったかもしれません。
じゃなくて、これからはばらしーちゃんのマンガを参考にするのはやめにしましょ。
あれは毒ですよ毒。なんていうか私の頭にとって。
や、まずいですね。ちょっと落ち着かなくては。
ええい南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経、唯一神ヤハウェよ、クリスマスには良い年をっ。
……ふぅ。


「そういえばきらきー、あなたずいぶんと打ち解けてきたわねぇ」


え゙っ。
ちょ、なんですかその、さっきまでの私の妄想とおんなじセリフは。
私の心を読んだんですかどうやったんですか!?

「仲悪いよか全然いいだろ。あと、いつまで起きてるつもりなんだ」


ひいい、桜田さんまで。


「まァ、寝るまではまだ時間があるだろうし、コレでも飲めよ、ほら」

「ひきっ」


ちちち、近いです桜田さん!
そんな手が触れそうな距離まで予告なく近づいてくるなんて反則ですよぅ。
固まる、固まっちゃいます。
まだ昨日の今日なんですから、もうちょっとこう、ううう。


「え、ちょっと。おい、雪華綺晶!」

「あ……きう」



◆ 



「ハッ!」


目が覚めたらそこは……ベッドの上でした?
あれ、えと、どうなったんでしたっけ。
うあぁ頭いたいぃ。
この痛み方は…………お酒?
あ、そうか。確か×××さんたちにお酒を飲まされたんですよね。
妙なテンションで「きらきーも大人のたしなみを覚えなきゃダメ」とか言われて。
痛いっていうか、なんか脳みそが絞られるみたいなカンジがします。
いつかコレも克服しなきゃならない相手なんでしょーか。
いやはや、それにしても、まさか気絶するとは思いませんでした。
いつの間にか部屋に運ばれていますし、あとで謝らないと。


「あや?」


よく見なくても、なんかここ私の部屋じゃないです。
比べてもあんまり違和感ないですけど。
でも、机とか鏡とかクローゼットとか、あんな場所に置いてないと思うなァ。
それに私、こんなぬいぐるみ持ってたっけ。
む、なかなか可愛いですねコレ。
衝動買いとかしちゃったんでしょうか。
それにこんな、銀髪で真っ赤な目の、血の気が引くような目つきの生首にも覚えが…………。

「ひぎッ……!!」

「それ口癖ぇ? あと人の顔を見てそこまで引きつるなんて失礼じゃなぁい?」


しゃ、しゃしゃしゃ喋った! 飛頭蛮が喋った!
やあああ迫ってくる飛んでくる食べられる血を吸われる殺されるうぅぅ!
ど、胴体はどこ! 隠さないと退治できませんんん!
あーん、もうヤダぁ!
私がいったい何をしたって言うんですかぁ!


「やっ───ひ、たべ、食べないでくださいぃ」

「…………マジで殴血殺(ブチけ)そうかしらぁ? じゃなくって。ちょっとぉ、落ち着きなさいよぉ」

「ひぃひぃイヤイヤって、へ?」


オカシイ、飛頭蛮さんが襲ってこない。
さらにはなんか喋りかけてくる、です。
実はコレは心理作戦で、振り返った瞬間に「グワァ!」なんてコトもあるやも。
く、最近は妖怪の世界にもインテリが必要な時代ですか。
でも、言うコトを聞かないで背中からばっしょりされるより、見えていたほうが避けやすいかも。
恐いけど、怖いですけど。
チラッと確認して、あとは前転でベッドから降りれば大丈夫ですよね!
せめて30cm以上離れていますように。 

「あ、あれ? 水銀燈さん?」

「ホンット失礼しちゃうわぁ。いいから、まずは落ち着きなさぁい。はい、コレ水」

「あ、ども。ありがとうございます」


すぽんと渡されたコップを見てから、水銀燈さんを見てみると。
その、あの、青スジが2~3個ほど浮き上がってて怖過ぎます。
悲鳴を上げそうなノドを抑えて、いただいた水をくぴくぴ。
ど、胴体はくっついてますよね?


「まったく、疲れたからあごをベッドに乗せてただけじゃなぁい。
 椅子は壊れてて修理中って言うし、見上げながら看病するって大変なのよぉ」


生首に見えたときのコトを、水銀燈さんはぷんぷんしながら教えてくれた。
冷静になって考えれば、生首状態なんてありえないんですけど。
けど、冷静になったついでに思ったコトがひとつ。


「あの、看病はありがとうございます。けど、その。
 なんで、休憩するんじゃなくて、あごをベッドに置いていたんですか?」

「ジュンが、あなたから目を離すなって言ったのよぉ」 

ぷぷーん、と首ごと目を逸らす水銀燈さんですが。
お世話になった身でおこがましいんですけど、目を離すなってそういう意味ではないような。
あと、腕組みながら顔を真っ赤にしてあっち向くなんて。
ツンデレ。
それにしても、水銀燈さんって思ったより可愛いですねぇ。
ふむ、そう考えると飛頭蛮さんになってもそう怖くないんですかね。
怖かったですが。


「ちゃんと見張ってないと、またあんなコトになられても困るしぃ」

「あんなコト?」

「……………………」


あ、怖い。
さっきとは違って問答無用で怖い。
どれくらい怖いですかって聞かれたら、宿題やってないのに今日で夏休みが終わりって寝る前に気づいたときくらいに。 

「…………努力するんでしょう? だったら、あとでジュンにお礼言ってきなさぁい」

「お礼?」

「あなたをこの部屋まで運んだのはジュンなの。こう、横抱きにしてね」

「横抱きって、こう…………」


顔がカーッと熱くなった。
横抱きって、つまりその、お姫様抱っこ?
えー! ええー!


「とにかく、今日は休んで、明日にでもお礼言ってきなさぁい。じゃないと……」


ふふふ、私だって本気になれば、羞恥心くらい捨てられるのですよ。
男の人に抱っこされたとか、それを聞いてびっくり3割の恥ずかしさ7割で浮き足立っていようとも。
なんせ、


「私が、あなたをどうにかしちゃうから……ね」


自分の命がかかっているのなら、そんなものを捨てるのなんか簡単なのです。
もちろん、あとで拾いますけどもね。

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