「契約をしてしまわない内に襲って来ないなんて、随分と余裕なのね?」
「だってぇ…ミーディアムを介していないお姉様なんて余興にすらなりませんものぉ。
それに私は奪う事が好きなんです…。
あなたのミーディアムを…大切なものを…私にください…」
――い、今まで起こった事を有りのままにわかりやすく話す自身なんて全くないが、
更に2人に何の因縁があるのかも会話に含まれる専門用語の意味さえもちんぷんかんぷんだが、
この幽霊みたいな白い人形がホッケーマスク野郎並に危険な奴だという事は自身を持って言える…。
「うふふ…お姉様ぁ、私が真心を込めてお姉様にお届けしたプレゼント、お気に召して頂けたでしょうか?」
「ええ、最悪の寝心地だったわ。送った本人の趣味の悪さが存分に感じ取れたもの」
な、なんか…プレゼント交換の話題にしては殺気の立ち込めた雰囲気だ…。
絶対に中身がパチモンのウォーターベッドだったとかないな…
会話の内容から察するに安眠妨害枕か何かか…?
「まぁ、嬉しぃ。
眠りのない眠り…心と体を茨が飽きる事なく抱擁する、という細やかな贈り物でしたのよ」
趣味ってか性格悪っ。
赤い人形が言っていた呪いって、白い人形の奴がかけたものだったのか…。
赤い人形は白い人形の陰湿な苛めに耐えられなくて480万時間も身を隠していたのか…?
それなら自由になれた途端に紅茶をヤケ飲みしたくなる気持ちもわからんでもない…。
「ご感想を賜る前にお姉様が私の元から姿を消してしまわれたのが、何よりも残念ですわ…」
「ホーリエを甘くみないで頂戴ね。ところで貴女、さっき外にいた人間をどうしたの…?」
また専門用語か…
つまり赤い人形はホーリエサンに逃がして貰った後、長い間かくまわれていたんだな…。
もし僕ん家に送り届けたのもホーリエサンだとしたら彼?はプリンセス某を越えるイリュージョンの……
そうだ!?アイツらは!?
クソッ、コイツらのやり取りに気を取られてる場合じゃなかった!!
「無差別に殺す程、落ちぶれてはいないでしょうけど。念の為、聞いておくわ」
「人聞きの悪い事を言わないでくださいね?別にちょっとからかっただけですから。
それに出来損いの愚姉達にあれ程そっくりな人間達なんかと、あまり関わりたくありませんもの…」
ちっ、こんな事に付き合ってる場合じゃない…早くアイツらを助けに行かなきゃ!
気絶してた場合、人工呼吸と心臓マッサージは避けられんな。チ…まあ不可抗力だ、仕方ない。
「人間、待ちなさい!」
これが待ってられ…うわっ…何だコレ?…白い茨が体中に絡み付いて…クソ…動けん…!
ちょ…何処を締め付けてやが…じゃなくて何で僕を足止めすんだよ!
2人で勝手にやればいいじゃないか!!
「上演中、観客の勝手な退場は認められませんから………ね」
チケットも買ってないのに勝手に観客扱いするなよ!?
それに嫌な紙芝居とかだったら普通、客は帰るだろ!!
…千切れねぇ!
…クソッ、茨っがこんなに頑丈なんて知らなかった…眠り姫が逃げられんわけだ…痛っ!
「それにしても嬉しぃ、お姉様とまた存分に遊べるなんてぇ……。
お姉様は他の愚姉達と違って、
簡単にジャンクにならない分たぁっくさん楽しめますから…」
コイツは間違いなくドSだろ…
赤い奴もSっぽいから、これじゃ円満な凌辱関係が成立しないじゃないか?
…っつか紅白SM人形劇なんか鑑賞してる場合なんかじゃ…アイツらを助けに…痛ててて…。
「人間!しっかりなさい…!」
サンキュ…花びらで茨をぶった切るなんて凄いな…
でも、なんでお前は僕を助けるんだ…?
僕はお前にいっぱい酷い事をしたし言ったりもした…憎んでくれたっていいだろ…?
「ほら、これで動けるでしょ?早く外の人間を助けに行きなさい!」
す、すまない…なんて言うか…
お前の事、色々勘違いして悪かったよ…
お前は僕に紅茶を淹れて欲しかっただけなんだよな…?そうだよな…?
「ウフフフ…無視しちゃ嫌ぁっ」
「…しまった…!?」
お、おい!助けた隙を突かれてお前が縛られたら意味ないだろ!?
「くっ…あぁっ!?はぁ…くぅ……ああぁっ!!」
「あぁ…その美しい声…ゾクゾクします…もっと聞かせてぇ…響かせてぇ…私に快楽をください…」
「おい、もうヤメロよっ!何だってこんな事するんだよっ…!」
この卑怯なドS人形め…なんだってこの手の連中は専門店とかで我慢できないんだ…!
「あなたは…まだ知らなくていいんです…だからそんなに悲しまないでください…やっと…見つけたから…」
おい…な、何で急に悲しげな表情をするんだ…?これじゃまるで僕が悪いみたいじゃないかよ…。
「…うふふっ…これもお姉様のおかげです…お姉様だぁいすき…ウフフフ…」
「く……私は……あなたなんか大っ嫌いなのだわっ!!」
待ってろ!確かここにハサミが……よしっ!今助けてやるからな…!
「く…お前…私は…いいから…早く外の2人を…助けなさい…」
「うるさいな…僕は助けてくれたお前を見捨てて行く程落ちぶれてないんだよ!」
思いっきりぶん殴られたけど勘違い料としてなら十分な値段…
あぁ、ちくしょう!次から次へとキリがない…!
「何故…あなたは…お姉様を助けようとするの…?
お姉様は最初、あなたを見捨てようとしたのに!?」
確かにな…
でもコイツが最初から見捨てる気なら、さっき僕を助けたりなんかしない筈だ…よな?
「理由はあまりハッキリしないが、なんかコイツを信じられるんだよ…
こんなひどい事をするお前よりはな!」
「お前…」
「く…なんで…?」
このくらいで何故そこまでうろたえてるのかは知らんが、少なくともお前なんかよりコイツの方が信じられる…
え?…熱ち!熱ちちちち…熱い!?
何だコレ…?指輪が光りだしたぞ…?ってかいつの間に指輪なんて填めてたんだ、僕は…?
「ふふっ…アハハハハ……」
お、おい…赤いの、なんでこんな状況で笑うんだ?まさか縛りプレイが快感に…?
「雪華綺晶…何を下から見上げているの?貴女は最強のドールよ、
この私も含め誰もが認めるのだわ…。
でもそれは嫉妬の目ね…?
羨ましくて妬ましくて仕方ない、という目をしているわ…。
本当の器を持たず人との絆も知らない貴女が、
いくら強い力や仮の器を手に入れても本当に欲しいものは貴女から逃げて行く…
だから人との絆を、繋がりを、
そして帰る場所を持つ事ができる私の存在が何より羨ましいんでしょう!」
な…なんか挑発し始めたけどいいのか?言ってる内容はさっぱりわからんが…。
タダでさえこっちが劣勢なのに相手を怒らせるような真似してどうするつもりだ…?
「もう…壊れて…」
「ぐうぅっ!?」
ああ!?言わんこっちゃない!!
どうすんだよ!切っても切ってもキリがないから助けようがないぞ!?
それにしても…さっきまで余裕だった白い人形の表情がものすごく歪んでる…。
まさに見る者を凍り付かせる鬼の形相ってヤツだ…。
よっぽど勘に触る事言われたんだろうな…これじゃ火にガソリンぶちまけただけだろ!?
――その通りです…私は憎みます。器を持つドール達を…絆と呼ばれるものを…。
私は、お父様の新たなお考えにより、アストラル体として生まれつきました…でも…
お父様…何故…私には帰る所がないの…?
イ・イ・ナ・ア……キ・レ・イ・ダ・ナ・ア……
なんで私にはカタチがナいノ…ナンで私はキズナを知らナいノ…?
絆を知ラない私ハ…ありすにはナレなイ…?
お父様…
アリスになれないないドールは普通の人形として生きられるけれど、
アリスになれない私は…?何処にいけばいいの…?
だから私を見捨てないで…壊さないで…消さないで…忘れないで…
あなたは…何故、また…私を拒むの…?
他の姉妹が私の足枷になるなら…いくらでもジャンクに…このドールさえも…。
「くっ…あの子は最後、私にこう言っていたわ…。
居場所を知らない迷子だった自分は人との絆を持てる私が羨ましかった、
でも私にはなれない事を知っていた、
私を認めてしまえば自分が自分でなくなってしまうから、
常に敵対する事で自分自身を保ち続けていた、と…
今の貴女は彼女にそっくりなのだわ…ただの迷子でしかないのよ!」
――ったくこんな状況下だってのに、なんでコイツのお口は余裕綽々なんだ…!?
ダメだ…締め付ける力がさっきよりも強くなってる…このままじゃ本当に壊れて…
熱いぃぃ!?こっちもダメだ!また更に指輪が熱くなって…ダメだ!耐えられん!!
「ほら雪華綺晶、貴女がもっとも恐れていた事が起こっているのだわ!」
な…嘘だろ?茨が勝手に燃えて……灰になってしまった…。
指輪の方もなんか落ち着いたし……まさかこの指輪の熱で燃えたわけじゃないよな?
「おい…お前、大丈夫か?どっか燃えてないか?」
「ええ、私は…貴方がいれば負けないわ」
う、なんか妙に嬉しい事を言ってくれるじゃないの……。
それにしても白い方は絶望したように項垂れてるな……こっちが優勢なのか…?
「お父様…」
き、消えた!?逃げた…のか…?
自分が不利になった途端に逃げるなんてずっりいなあ、おい!
「に、逃げたみたいだけど追わなくていいのか…?」
「ええ、どうせまたあの子はここに来るだろうから…」
また…来るのかよ…というかお前、此所に居座る気満々か…。
さっき紅茶奴隷兼サンドバックになってやるるなんて約束してしまったしなあ…。
「で、僕はこれでお前の下僕に成り下がりました、ってわけか?」
「そうね…そう思ったけれど、貴方とならそれ以上の関係でもいいかもしれないわね」
嬉しいような嬉しくないような…不思議なくらい曖昧な返事だな…。
下僕から昇格して召使い?
いや、響きが多少は良くなっても立場的に変わらんか…。
なんだ…?窓際から外なんかジッと眺めて。
そんなに人間界が珍しいか?…ああ、珍しいのか……ん…?外…?
「そうだ!?アイツらは!?」
「心配しなくても大丈夫よ…
翠星石と蒼星石ならすぐそこで介抱されているのだわ…」
ほっ…よかったぁ。アイツらが無事なら別にそれで全く問題は…
ってお前、なんで2人の名前を知ってるんだ…?
「なんだよお前、翠星石と蒼星石の知り合いか…?」
「それはイエスでもあり、ノーでもあるわ…」
はあ…?どんな意味だよ?480万時間来の知己って…
えーと電卓電卓……あったあった…………500年!?
そんな大昔に2人が生きてるわけないだろ!?
ん?待てよ…こんな生きた人形がいる事だし、実は翠星石達は不老不死だったとか…?
いや…僕は幼い頃からアイツらを知ってるから、それもない話だな…。
――まったく、翠星石達がまだいるかな、と思って車でここを通り掛かってみれば、
何故か道端で倒れてるんだもの…引かれたらどうするのよ?
ほんと世話の焼ける妹達ねぇ…2人共、頭を打ってなきゃいいけど…。
「水銀燈ー!翠星石が目を覚ましたなのー!」
「あれ…チビ苺…?翠星石達は一体…?」
ほら雛苺、嬉しいからってはしゃがないの。怪我人をあまり動かしちゃダメなんだからね?
それにしても雛苺と金糸雀を迎えに行った帰りでよかったわぁ。
私1人だったらちょっと大変だったかもね…何故か人も通り掛からないし…。
「翠星石も蒼星石も此所で一緒に倒れてたのよぉ。何があったか覚えていないの?」
「翠星石達は確か…チビにノートを返して貰いに来て………その後は覚えてないですぅ」
まさか後ろから殴られたんじゃないでしょうねぇ…?荷物とかは無事のようだけどぉ…。
どうやら蒼星石も目を覚ましたようね…こちらは何があったか覚えてるかしらぁ…。
「翠星石……それに姉さん達に雛苺まで…。なんでここに……?」
「蒼星石、大丈夫ですか…?なんか私達、一緒に倒れてたみたいなんですぅ…」
「そうだ!人形は!?白い人形を見たんだ!まるで本物の女の子みたいな姿の……!」
人形ぉ…?何の事かしらぁ?とにかく彼女達への質問は、医者に見せた後の方が良さそうねぇ。
さっき金糸雀が携帯で救急車を呼んでたから、後は待つだけか…。
ん…?誰かしらぁ?桜田さん家の窓からこちらを覗いてる金髪の女の子…。
外国人…?きっと親戚か友達かのどっちかね…聞いた事ないけど。
只、こちらをずっと見てるのが気味悪いわねぇ…。
あれ…?もしかして…私を見ているの…?
「水銀燈ー?どうしたなの?ボーッとしちゃって…」
「な、何でもないわぁ…それにしても救急車、遅いわねぇ」
まさか…ね?
あんな娘、全然知らないし…会った事もないハズよぉ。
あまり気にしない方がいいわね…。
はぁ…やっとサイレンが聞えてきたわぁ…ほんとトロイわねぇ、ヤル気あるのかしらぁ?
――本当に皮肉なものね…こんな形でまた会えるなんて…。
きっと私の事なんか記憶にないのだろうけど…。
ふふ…水銀燈が他人を見るような目で私を見ていたのがおかしかったわ。
とても不思議な感じね…。
知らない事の方が、お互いにとっては幸せでいられる…それがきっと彼女の選択だと私は思う…。
雛苺ったら相変わらず無邪気そうね…周りに迷惑を掛けてばかりいてはダメよ…?
金糸雀…あんなにおでこ、広かったかしら…
翠星石と蒼星石も前と変わらずの仲で良かった…
水銀燈がみんなのまとめ役なのね…とても優しそうな姉でいて安心したわ…
姉妹同士で争わず共に生きたい…貴女達がまいた選択…それが長い時を経て形になった…。
私も…貴女達が貴女達の幸せを見つけられる事を願っている…からね?
「おい…お前、まさか泣いて……いってぇ!?髪の毛でひっぱたくな!!」
「ありがとう…」
彼女達と会えたのは貴方のおかげ…ホーリエもよく見つけてくれたわね…。
そしてまた…こうして貴方と話せる事を何度夢に見たかしら?
本当に礼を言わずにはいられないわ…。
「そう言えば、貴方の名前を聞いていなかったわね」
…したくはなかった質問をしてしまった事に、今更ながらちょっぴり後悔した。
だけどいつかは聞かなければならない事だもの。
そんなに戸惑う必要はないわよね…。
「僕か?…僕の名前は…」
「そうだわ、貴方の事をジュンと呼びましょう。顔もそっくりだし」
……でもやっぱり私は、この名前が大好きなのだわ……
「はあ?なんだよその名前は?勝ってに付けるなよ、僕の名前は…痛ぇ!?…お前、また髪の毛で…」
「いちいち喧しい召使いね?そんな事よりジュン、紅茶を淹れて来て頂戴」
雪華綺晶との戦いで、この子がジュンの生まれ変わりである事は確信できた…。
でも私はこの名前が一番好きだから、どうしても貴方の事をそう呼びたいの…。
「召使いって、結局、立場変わってなくないか!?それに僕はそんな名前じゃない!!」
「別にいいじゃないの、この名前で呼ぶのはどうせ私だけなんだし…」
「はあ…もうわかったよ…。で、今度はお前が名乗る番じゃないのか?」
「覚えておきなさい。私は真紅、誇り高きローゼンメイデンの第5ドールよ」
……もしもローゼンメイデンが普通の女の子だったら、それはそれでとても楽しいのでしょうね……
……それでも、たとえ何度生まれ変わったとしても私は、幸せなこの子のお人形でいたい……
……それが、私のまいた選択だから……
The End
うしおととら風ローゼンメイデン おまけ
ジュン「お前は先月、勿体ないからと言ってその玉子焼きを食べるのをやめた…」
金糸雀「このままじゃ乾いてしまうのかしらー!」
ジュン「頭脳派でもない…策士でもない…お前(の玉子焼き)はそこで乾いてゆけ」
薔薇水晶「お父様…!?お父様…!?」
真紅「あら?貴女、どうしたの?体にヒビが入ってるのだわ」
槐「ど、どうして僕の作った人形がぁ!?」
真紅「わっかんねぇかなぁ…オメェがノロマだからさ」
翠星石「満足する庭とはなんですか?」
蒼星石「泥なんてなんだい…だよ」
翠星石「そんな脳みそはいらんですぅ」
真紅「けぇーっけっけっ…笑わせるぜ、ジャンクとやらのクセによぉ」
水銀燈「黙れぇーーー!!!!私はジャンクなんかじゃねぇーーー!!!!」
雛苺「逝っちゃやーなのっ!貴女はまだヒナを食べてないなのー!」
雪華綺晶「もう…喰ったさ…ハラァ…いっぱいだ…」
ローゼン「みんな、仲良うせんとあかんよ…」