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「……悲鳴が聞こえた場所は、ここのはずよ」

助けを求める乙女の悲鳴が聞こえてきた廃工場の前に、真紅は辿り着きました。
その隣にはシロクマ手袋&耳の雛苺が、ちょっと震えながら立っています。

「大丈夫よ、雛苺。何があっても貴方と金糸雀だけは助けてあげるから……」
真紅は頭の上でイヌミミをピコピコさせながら、雛苺にそう微笑みかけます。

優しい言葉を真紅からかけられて、雛苺は自分がちょっと怖がっていた事に気が付いたのでしょう。
コクリと頷いてから、彼女は目を閉じて……
そして次に眼を開いた時、不気味な廃工場を見つめる雛苺の目には強い決意の光が輝いていました。

こんな小さな子供でも、小学生であろうとも、雛苺が同じ想いを持つ『仲間』になった瞬間です。

ふかふか尻尾の翠星石。ネコミミを失った今でも協力してくれる蒼星石。
そして今、新たに加わったシロクマ手袋&耳の雛苺。

「私は、幸せ者なのかもしれないわね」

真紅はイヌミミなんて、ちょっぴり変てこなモノが引っ付いてしまった不幸よりも……
そうなった事でこそ出会えた仲間たちを想い、小さく呟きました。


「―――さあ、行きましょう」

真紅は迷いの無い口調で雛苺にそう告げると、金糸雀と水銀燈が捕らわれている廃工場に足を踏み入れました。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇




「ふふふ……ぐるぐる、ぐるぐると……」

雪華綺晶はニヤリと笑みを浮べながら、金糸雀をロープでグルグル巻きにしていました。
きっと人には言いたくない恨みでもあったのでしょう。
両手は特に、念入りに縛っています。

ですが、そんな風に何重にもロープを巻いたのは失敗でした。

「見つけたわよ!雪華綺晶!!」
普通に縛るのより時間がかかってしまった為、雪華綺晶は真紅に発見されてしまったのです。

「……あら?」
金糸雀を餌に真紅を罠にでもかけようかしら、と思っていた雪華綺晶でしたが、これは予想外でした。
だって、罠の準備をする前に真紅が来てしまったのですもの。
思わず笑顔が引き攣っちゃいました。

「ヒナのお友達にこんなヒドイ事して…絶対に!ぜぇったいに!許さないのー!!」
しかも、真紅だけではなくって、いつぞやの怪力シロクマ幼女・雛苺まで一緒です。
友人が簀巻きにされているのを見て、とっても怒っています。

「……あら、まあ」
雪華綺晶は本格的に困ってしまいました。
いくらなんでもこの状況は。二対一は、あんまり楽しくないです。

ばらしーちゃんを呼ぶべきかしら?間に合うでしょうか?
そんな風に考えを巡らせる雪華綺晶でしたが……ここで彼女にとって大きな幸運が訪れました。

「真紅は、水銀燈を助けてあげて。ここは……カナリアの仇はヒナがとるのよ!!」
雛苺が大きな声で、ここは任せろと叫んだのです。
ちなみに金糸雀は気絶しているだけで、しっかり生きていますが。

雪華綺晶は、勝機が十分すぎるほど出てくる一対一の提案。
雛苺の言葉に、内心ちょっと嬉しくなります。
ですが、そんな気持ちにはお構い無しに、真紅は首を横に振りました。

「いいえ雛苺。ここは金糸雀だけでも確実に助けられる手段を取るべきよ」
真紅はここで、数に任せて押し切るつもりでした。
主人公らしからぬ発言ですが、確かに正論ではあります。

何とかそれだけは止めてほしい雪華綺晶。必死に考えを巡らせます。
そして……
何かを思いついたのか、ニヤリと笑みを浮べると、真紅たちへと声をかけました。

「ふふふ……そうですわ。
 この奥に居るネコミミのお姉様とばらしーちゃんの所へは、誰一人行かせる訳にはいきませんわ」

そう言い、チラリと横目で廃工場の奥へと視線を向けました。
ちなみに見た方向は、実際に水銀燈たちが居る場所とは違う所です。むしろ逆です。
ですが。

「その方向に居るのね!真紅!ここはヒナに任せて、早く!!」
雛苺はすっかり早とちりしちゃいました。

「でも雛苺!貴方一人じゃあ……!!」
「大丈夫なの!ヒナはもう、子供じゃないもん!任せてなの!!」

完全に騙されているとも知らず、イヌミミとシロクマはノリノリです。
本当は誰も居ない方向を指差しながら、真面目に話し合っています。
やがて、イヌミミの方は静かに頷くと……騙されているとも知らず、工場の奥へ向かって駆けていきました。
 

「ふふ……うふふふ……」
雪華綺晶は悟られぬよう、小さく笑みを浮べていました。

とっさに思いついた作戦でしたが、こうも上手く行くと本当に嬉しくなっちゃいます。
目の前に残っているのは、小学生くらいの少女。
しかも、回収目標であるシロクマ手袋&耳を持っています。

「ふふふ……では、始めましょうか」

雪華綺晶はそう言うと、流れるようにゆらりと動きながら、雛苺との距離を詰め始めました。


―※―※―※―※―


「……むにゃ…むにゃ……
 むにゃ……この策士・金糸雀が……楽してズルしていただきかしら……むにゃ……ハッ!?」

金糸雀は自分の寝言で目を覚ましました。

本来なら、華麗な奇襲で薔薇水晶と雪華綺晶を一網打尽にする予定だったのですが……
それがいつの間にか、固い地面の上で寝ているではありませんか。
しかも、これでもかと言わんばかりの頑丈さで、ロープで簀巻きにされています。

「ここここれは予想外かしら!?どうしてこんな事になってるのかしら!?」
眼を白黒させながら、地面に横たわったままピョンピョンと跳ねます。
とっても疲れました。

疲れたので、仕方無しに床でぐったりとしていると……
何やら見慣れた物体が、数メートル先で動いているのに気が付きました。

「あれはシロクマ?……ううん!雛苺かしら!!」

動いていたものの正体はなんと、親友のシロクマ雛苺ではありませんか。
一瞬、友人が助けに来てくれた事に金糸雀は喜びの表情を浮べましたが、どうも様子が変です。

圧倒的なシロクマパワーを誇る無敵の雛苺が……
普通の女の子である雪華綺晶に押されているようにしか見えないのです。

「そんな……どうして……」
金糸雀は目の前で起こっている信じられない光景に、震える声で呟きました。
今すぐ助けに行きたいのですが、ロープでグルグル巻きにされていて、それも不可能です。

せめて視線で攻撃でもできれば。そう思いながら金糸雀は雪華綺晶を睨みつけます。
そうしている内に、雛苺が負けている原因に気が付きました。


雪華綺晶は一撃でシロクマ耳を千切るのではなく、鳥がついばむように、軽くシロクマ耳を引っ張るのです。
そして、雛苺がそれに反応するより早く、雪華綺晶は手を引っ込めます。
リーチに劣る雛苺では、雪華綺晶の手を防ぐ事も掴む事もできず……じりじりと体力を削られるばかり。

捕まえる事が出来れば無敵の雛苺。
ですが逆をかえせば、相手を捕まえる事が出来ない限り、雛苺はただの可愛いシロクマっ子です。

その事を知り尽くし、さらには雛苺のリーチまで見切った雪華綺晶の攻撃。
それは勝負と言うにはあまりにも一方的なものでした。


「ひな…いちご……!」
じわじわと追い詰められる親友の姿に、金糸雀は悲しくって悔しくて呟きます。
何とかして助けてあげたいですが、何も出来ないのは辛すぎます。

ですが……ここで諦めなかったのが、彼女が策士を自称しても許される所以なのでしょう。

金糸雀はどんなに目を背けたくなっても雛苺から、雪華綺晶から視線を逸らしませんでした。

そして彼女は、限りなく成功する可能性の低い作戦を閃きました。
ですが、何もしなければ可能性はゼロです。

「確かにカナも雛苺も、足りない所はいっぱいかしら。
 でも……カナの知恵と雛苺のパワー!これが合わされば無敵かしら!!」

グルグル巻きにされている金糸雀は、小さく呟いて覚悟を決めます。
おでこをキラリと輝かせて一か八か大逆転のチャンスをうかがいます。

そして、雛苺がシロクマ耳を引っ張られて、慌てて雪華綺晶から距離をとった瞬間でした。

「雛苺っ!!!」
金糸雀はいきなり、大きな声で雛苺を呼びました。

突然の出来事に不意を突かれ、油断できない状況だという事も忘れて雛苺は金糸雀へと顔を向けます。
キョトンとした雛苺の視線と、真っ直ぐな金糸雀の視線とが交差します。
一瞬ですが、確かに生まれた大きな隙。
それを雪華綺晶が見逃す訳がありませんでした。

一気に勝負をつける為に。シロクマ耳を引き千切る為、雪華綺晶は雛苺の頭へと手を伸ばします。
そして、それが金糸雀の狙いでした。

「頭の上かしら!!!」
金糸雀が再び叫びます。

何の事だか分かりませんでしたが、雛苺は親友の言葉に、訳は分からずとも両手で頭を押さえます。
パシッ。
……雛苺のシロクマ手袋は、絶好のタイミングで伸びてきた雪華綺晶の手を、しっかりと捕まえたのです。


金糸雀は危険な賭けが上手く行った事に安堵のため息を漏らす事も無く、雛苺へと新たな指示を出します。

「今かしら雛苺!!禁断のウルトラゴージャス必殺技かしら!!」


この時の雛苺の心からは、追い詰められていた時の不安や恐怖は消え……
親友と共に闘っている。そんな勇気がどこからか湧いてきていました。
例え簀巻きにされ叫ぶ事しか出来なくても、金糸雀は間違いなく、雛苺にとっては、どんな時でも親友なのです。

「うぃ!りょーかいなのー!!」

雛苺はそう叫ぶと、捕まえていた雪華綺晶の手を自分へと引き寄せます。
そして、シロクマパワー全開で、自分よりずっと大きな雪華綺晶の体を逆さまに持ち上げました。

「もう怒ったのよー!!」
大きな声でそう言うと、シロクマパワー雛苺は、雪華綺晶にブレーンバスターを仕掛けます。

「!?きゃぁ!!?」
地面に叩きつけられた雪華綺晶は、あまりの衝撃に悲鳴を上げます。

ですが、雛苺の反撃はそれで終わりませんでした。
床に叩き付けた雪華綺晶の体から手を離さず、雛苺は自身の体をひねって再び立ち上がります。
そして、またしても雪華綺晶の体を持ち上げてブレーンバスター。
体をひねり、再びブレーンバスター。

合計3回のブレーンバスターを雪華綺晶に仕掛けたのです。

 
華麗なる雛苺の連続攻撃。
繰り出された光景に……金糸雀は、驚きを隠しきれませんでした。

「あ…あれは!スリーアミーゴスかしら!!」

『楽してズルしていただき』という発言を残した、実在していたプロレスラーの必殺技。
相手にブレーンバスターを三連続で叩き込む。その名も『スリーアミーゴス』。

金糸雀との友情パワーが生んだ化学反応なのでしょうか。
雛苺が使った技は、奇しくも金糸雀の名言ともリンクしていたのです。


そして、そんな大技をくらった雪華綺晶は、地面に倒れたまま動けない様子です。

これを好機と判断したのか、今度は雛苺が雪華綺晶にトドメさそうとします。
「雛苺!待つかしら!!」という、金糸雀の叫びも無視して。

雛苺は廃工場に置いてあったドラム缶の上まで器用に登り……そこから雪華綺晶を見下ろします。
そして決着をつけるべく、高い所から一気に飛び掛りました。


雪華綺晶は……
とっても痛い思いこそしていましたが、まだ余力は残していました。
雛苺の攻撃も、受身を取ってダメージを最小限に抑えていました。

結果。

雪華綺晶は飛び掛ってきた雛苺をひらりと避け。
雛苺はそのまま、高い所から飛び降りて地面に激突してしまったのです。
 

「うゆー!!痛いのー!!」
雛苺はヒリヒリと痛むおでこを押さえながら、地面をゴロゴロと転がります。

「ひ…雛苺!?大丈夫かしら!?」
金糸雀は涙目で地面と戯れているシロクマ少女に声をかけます。
そして、簀巻きにされたままので歩けませんので、ピョンピョンと跳ねながら雛苺へと向かいますが……

そんな金糸雀の目の前に、不意にふっと影が降りました。

金糸雀は恐る恐る視線を上げます。
そこには、少し苦しそうではいますが、それでも笑みを浮べた雪華綺晶が立っているではありませんか。

「お相手は一人だけかと……完全に貴方の事をあなどっていましたわ」

そう言うと雪華綺晶は、服に着いた砂を軽く払い落とします。
そして、大げさに困ったようなため息をついてみせました。

「ばらしーちゃんの為の時間稼ぎが目的ですので……今回は、そろそろ戻らせて頂きますわ」

てっきりビンタでもされるのかと震えていた金糸雀でしたが、雪華綺晶のその言葉にほっと安心しちゃいます。

そして雪華綺晶は……特に痛がる様子も無く、廃倉庫の奥へと進んでいきました。
きっとこれも、幼女には負けられないといったお姉さんとしての見栄とかでしょう。
そうじゃなかったら、いくらなんでも無敵過ぎます。

そうしてカツカツと靴音を鳴らして奥へと進む雪華綺晶でしたが……
ふと何かを思い出したように金糸雀と(まだ地面でゴロゴロしている)雛苺へと視線を向けました。
 
「……またお会いする機会を楽しみにしておりますわ」 

消え入りそうな声で雪華綺晶はそう言うと、ニタァと、とっても怖い笑顔で金糸雀を見つめます。
瞳孔とか、すごい事になってます。


「い…いえいえ、お…お気遣い無く……かしら……」
金糸雀は、怖くて失神しちゃえなかった事を心から残念に思いながら、震える声でそう返しました。 






 
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