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「翠星石」

放課後、ふと声を掛けられたので振り向くと、そこには友人の真紅が立っていた。

「ちょっと貴女に頼みたい事があるのだけれど、いいかしら?」
「なんですか?内容によっちゃ聞いてやらん事もなかろうなのですぅ」

自他共に認めるクールビューティ…、
と自称している真紅の表情は心なしか張り詰めていた。きっとそれだけ重要な事なのかもしれない。

「実は槐先生に、学校が終ったらこの袋を白崎先生の家へ届けて欲しい、と頼まれたの」
「白崎先生に…ですか?」

私は、白崎先生を見かけた事はあるが、本人と直接話した事は全くない。
同じく友人である水銀燈の話によると、真面目だがとても明るくて優しい先生で、学校ではかなりの人気らしい。

「私はこれから部活なのだわ。だから翠星石が私の代わりに届けてくれると助かるのだけれど…」

真紅は紅茶部に所属していて、もう時期、大会も近いらしい。
一体どんな大会なのかって?自分に一言で説明させれば、誇り高きなんちゃってソムリエといった感じだ。


「白崎先生の自宅は貴女の家から近いみたいなの。どうせ貴女、帰宅部でしょ。引き受けてくれないかしら?」

なんか含みのある言い方だ。私は…
→A.引き受ける事にした。
B.断った。
C.「3回その場で回って、『まな板だからやっぱり揺れない♪』って言えば引き受けてやってもいいですぅ」と言った。

引き受ける事にした。数少ない友人の頼みだし、断る理由もない。

「別にそのくらい、そんな深刻な顔しなくても引き受けてやるですぅ」
「本当?ありがとう、恩に着るわ」

真紅はクールさを保ちながらもホッとしたような表情を見せた。
私は小さな紙袋を受け取り、白崎の家までの道のりを聞いた後、真紅とその場で別れる。別れた際に真紅は、「今度、極上の紅茶をご馳走するのだわ…」と言ったので、
礼寄越すんなら金をくれ、と私は心の中で呟いておいた。口に出す勇気は全くない。

――グラウンドで部活へ向かう途中の蒼星石と会った。

「あ、翠星石。今日も僕の部活を見学しながら待つのかい?」

今日も蒼星石は部活で忙しい、真紅と同じでで大会が近い。因みに野球部。
それにしても…僕っ娘の体操着姿はその手の連中を全てノックアウトしてしまいそうだ。

……とにかく、蒼星石に先に帰る事を伝えなければ。私は…、

→A.「それがですね、ちょっと急用ができてしまったんで先に帰るですぅ」今日の私用を伝えた。
B.「部活の時間どころか、お風呂の時間も、トイレの時間もバッチリ見学する所存ですぅ」自分の変態性を伝えた。
C.「そんな事より、一緒に体育倉庫へ行くですぅ」溜まりに溜まった欲望を伝えた。

「それがですね、ちょっと急用ができてしまったんで先に帰るですぅ」今日の私用を伝えた。

それを聞いた瞬間、蒼星石の表情は凍り付く。その手はバットを強く握り締め、目をギラギラ光らさせている。

「もしかして……彼氏できた?」
「違うですぅ。真紅に届け物を頼まれたですよ」

翠星石は溜め息を吐きながら手に持っていた袋を見せる。

「誰に渡すの?」
「白崎先生ですぅ。今日、急に休んだ為、槐先生がこれを渡したくても渡せなかったそうなんですよ」
「槐先生が真紅に頼んだんだね。でもなんで君が?」

なおも緊迫した表情を緩めず尋問を続ける蒼星石。
でもそれが何故なのか、私は十分理解しているので普通に対応していた。

この重度なシスコンの妹は私に男が近付くのを前々から嫌っている。
姉を誰にも渡さない、独占したい。その想いだけがひしひしと伝わってくる。
私は蒼星石が大好きだし、自分をそれほど強く想ってくれるのがとても嬉しい。
だが私が密かにジュンに想いを寄せている事も快く思ってないので、正直、複雑な心境。
今回、訪問相手が校内で人気者の先生なので余計に不安なのかもしれない。

「真紅はお前と同じで部活が忙しいから引き受けようにも引き受けられないんですよ」
「そうか…僕も一緒に行くよ」
「ダメですぅ!お前も大会が近いんだから部活に集中しやがれですぅ!」

実は、私は白崎先生と会うのを密かに楽しみにしている。
まだ話した事のない人気者の先生…いったいどんな人なのか興味があったから。
もし蒼星石が一緒に来たら、また変な事を言ったりして白崎の気分を害してしまうかもしれない。

「君がそこまで言うんなら…わかったよ」

今日は以外と物分かりがいいみたい。いつもこうならイイのに…。私はふぅっと軽い溜め息を吐いた。
そんな私を余所に、蒼星石は何かカバンをゴソゴソしている…

「あったあった。翠星石、これを…」
蒼星石は…

A.「何かされそうになったらこれを鳴らすといい」防犯ベルを取り出した。
→B.「何かされそうになったらこれで撃退するといい」スタンガンを取り出した。
C.「犯られる前に殺ってしまえば問題ない。事後処理は僕に任せるといい」トカレフTT-33を取り出した。

「何かされそうになったらこれで撃退するといい」スタンガンを取り出した。

「これなら相手を死なせずに仕留める事ができるよ。君が殺ってしまったら僕が殺れないからね」
「まったく、お前は何の心配をしているですか!相手は教師ですよ?」

「教師だって人間、しかも相手は男性だ。いつ誰に対して獣になるかわかったもんじゃ――」
「もう知らんです、このバカチン!」

私は蒼星石を置き去りにして、そのまま校門の外へ走り去った。

「はあぁ~、おかしな妹を持つと苦労するですぅ」

――私はどこまでも深い溜め息を吐きながら、駅までの道のりをてくてく歩いていた。
白崎先生の自宅と私の家はそんなに離れておらず、最寄りの駅も同じだ。
まずいつも通り電車に乗り、20分程揺られなければならない。

ふと私は、
A.袋の中身が気になった。
B.自分の将来が気になった。
→C.蒼星石の事が気になった。

蒼星石の事が気になった。
今頃、部活に励んでいるのだろうか。

「さっきは言い過ぎたかもしれんですぅ…。メールで謝っとくですぅ」

おもむろに鞄から携帯を取り出す。携帯を開いた瞬間、ブブっとバイブが鳴った。どうやら既にメールが来て…、

「さ……32件!?」

全部、蒼星石からだった。別れてから30分も経っていないのに一体どんなスピードで打ち込んだんだろう?
内容は『丸腰で行くのは危険だ!早く戻って!』という安否を気遣ったものをはじめ、
『初心者でも3分で習得できる痴漢の撃退方法』『素手でも殺れる!気軽に殺人術』『密室殺人は難儀ではない』
と言った広告紛いどころか殺人を煽るような件名もあり、
『ツンデレは騙されやすい』『ツンデレから学ぶ心理学』『ツンデレ観察日記』『ツンデレと僕』………

とりあえず ブチッ と電源を切った。軽く血の気が引いている。

そ、そんな事より、さっきから私は袋の中身が気になっていた。中身を覗いてみると、
A.手作りのクッキーだった。
→B.錠剤…?何かの薬だった。

錠剤…?何かの薬だった。
白崎先生は風邪か何かで休んだんだろうか?
槐先生は保健室の先生で、病院にも出向いている。でも、専門は内科じゃなくて――。

――その後も無事に電車に乗る事ができ、目的の駅に辿り着いた。
白崎先生の家は駅からはそんなに遠くなかった。私の家の方が遠いくらいだ。
15分程歩き、やっとの事で白崎先生の家に辿り着いた。
エレベーター付の2LDKのマンションで、本人の部屋は304号室だ。
翠星石は部屋の前に立ち、インターホンを鳴らす。
…………しかし、本人はいつまで待っても出て来ない。念の為、何回か鳴らしたがやはり無反応だった。
ここまで来て留守は勘弁して欲しいので思い切ってドアノブを捻ってみる。

ガチャ………開いた。

鍵を開けっ放しで出かけたんだろうか?
変に思いながらドアを開けるとどこかで聞き覚えのある曲が流れて来る。
ベートーヴェンの第9交響曲、第四楽章だ。部屋の奥で男がティーカップを片手に立っている。
男は横向きに立っていたが、その異様さは存分に感じ取れた。

仮想パーティーで使いそうな本物に近い兎顔のマスクを被り、タキシードを来ている。

「し、白崎先生……ですか?」

白崎先生にはコスプレ趣味があるのか?そう疑問に思いながら恐る恐る声をかけてみる。
しかし男は翠星石に気付いていないのか、何かブツブツ呟きながらティーカップを片手に立ち尽くしている。
仕方ないので接近戦を試みる事にした。
しかし次を見た瞬間、私の足は途中で止まり、金縛りに遭ったように動かなくなってしまう。

「このひと時こそ安らぎの味であり、真実なる自分を味わう時間だ。お前も存分に味わと良い」

そう言いながら男は空いている片方の手でズボンのベルトを緩め、チャックを下ろす。
そして下半身の下着を外へ引っ張り、ティーカップの中身をその口の中へ注ぎ込んだ。
その内、滴がズボンの中を伝って床にボタボタと垂れる。

「偽りの味とは違い、これは解放と自由の香りがする。そう思わないかい?」

中身を全て注ぎ終え、そう言いながら男は湿った股間の膨らみを優しく撫でる。
私は、脊髄が必死で危険信号を送ってる筈なのに、脳が恐怖で麻痺して反応できず、その場から動けない。

ふと兎男が翠星石に気付き、正面を向く。

「これはこれは、客人がいらしていたのにとんだ失礼を」

失礼とかそういう次元じゃないから!という突っ込みが浮かぶ。
その瞬間、脳の麻痺は半分解け、いくらか喋れるようになったようだ。

「お、おまっ、おま…お前は誰ですかぁ!?」
「自己紹介が遅れました。私、ラプラスの魔と申します。」

せめてチャック上げろですぅ!という悲鳴交じりの願いも虚しく、兎男はそのまま握手を求めて来た。

「し、ししし、白崎先生は何処ですかぁ!?」

私はその握手を振り払うかのように兎男へ次の質問する。すると兎男は困ったような仕草をした。

「残念ながら白崎はこの場におりません。何分、彼も忙しい身の上なので。私が代わりに留守を預かっているのです」

この兎男は白崎先生ではないようだ。
別の意味でホッとしたが、それどころではない。この変態から逃げなければ。

「わわ、わかったですぅ。い……いないならしゃあねぇですぅ。………さらばですぅ!!」

叫びながら玄関へマッハで走る。正に脱兎の如くだ。

「ああ、折角いらっしゃったのですからお茶でも飲んで行かれては?」
「結構ですぅ!!!!」

こんな状況でお茶もへったくれもない。っていうかあの手で淹れられたお茶なんて飲みたくない!絶対に!
私は涙目になりながらドアノブを乱暴に捻り、ドアを開けた………が、

パァン!

私の頬を何かがかすった。その頬を伝う液体を感じる…………血だ。

ダダダダダッ!ダダダッ!

とどろく銃声。恐る恐るその場を見わたすと、何故か真横で銃撃戦が繰り広げられていた。
なんでこんな時に!?

「危ない!早く部屋に戻りなさい!」

防弾チョッキを来た警官がやってきて翠星石を部屋の中へ押し戻そうとする。

「な、なな、何があったですかぁ!?」
「今、この階で凶悪犯が立てこもり、銃を乱射している!今、外に出るのは危険だ!」

バタン

必死に抵抗したが力かなわず、無情にも部屋に戻され、ドアを閉められてしまった。
なんでこんな時に……あまりにも不運すぎる。
このままじゃ、あの変態男とここでしばらく時を過ごさなければならない。それだけは……

「世の中も物騒になりましたねぇ」
「!!!!」

背後から凶悪犯より別の意味で物騒な輩の声がしたので驚き振り向いた。
超至近距離に兎の顔が目の前にあり、何故か兎男の息がものすごく荒い。私は兎男と目が合った。

「ひいぃぃいいあぁああ!」
喉が裂けるほどの悲鳴を上げながら全力で部屋の奥へ逃げ込む。だがその場にうずくまるしか術はなかった。

「そんなに怯えなくても、この部屋に居れば安全です。此所にあなたを脅かすものなんて何もない」

―この変態には何をつっこんでも無駄だ―
いつの間にか下半身をまったく覆っていない兎男を見た瞬間、そんな事を思いながら私は気を失った。

――ふと目を覚ますと私は布団に寝かされていた。
窓を見れば、既に外は夜になっていた。銃声は聞こえず、とても静かだ。
だが、窓際には一糸まとわぬ姿の兎男がこちらを向いて立っていた。
「おや、お目覚めですか?よくお寝むりにな――」
「ひいぃぃいぃいいい!!!!」

もちろん私は、今日、何度目かの悲鳴と共に布団から這い出て玄関まで走った。
ドアにショルダータックルをかまし、目茶苦茶にドアノブを捻る。

バキィ!

絶望の…音がした。私の手には本体から離れたドアノブがしっかりと握られている。
私はヘナヘナとその場に座り込む。もう…泣くしかなかった。
きっと自分はこの男にひどい目に遭わされるんだ…、そんな絶望が頭の中を駆け巡る。
いや、もしかしたら気を失っている間、あの兎男に何か嫌らしい事をされたかもしれない。
そう思うと涙が止まらなかった。

――死すら覚悟したその時、脳裏に最愛の妹の笑顔が浮かぶ。翠星石にとってこの世で一番大事な宝物だ。
あの時、素直に妹の言う事を聞いていれば…と、そこでやっと私は携帯電話の存在に気付く。
パニックな時ほど正確な判断ができなくなるというのは必然らしい。
辺りを見回とすぐに自分のカバンは目についた。
蛙のように飛びつき、鞄の奥から携帯を取り出し、電源を入れ、最愛の妹に繋げる。
この時、自分の生涯で一番迅速な動きをしていただろう。

「もしもし、翠星石かい?今、何処にいるんだい!?」

そこには慌てた様子の妹の声。その声を聞いてまたさらに涙が溢れてくる。

「助けてですぅ!蒼星石ぃ、殺されるですぅ!」
「落ち着いて、翠星石!居場所を教えて欲しいんだ!」

「白崎先生の家ですぅ!
此所には変態がいるですぅ!人間のクズですぅ!ゴミですぅ!ウジムシですぅ!ゴキブリですぅぅう!」

私は叫びながらわんわん泣きじゃくる。まるで幼い子供だ。

「わかった、今すぐに行くから!変に犯人を刺激しないで、いいね?」
「グスッ…わ、わかったですぅ」

私は電話を切り、恐る恐る兎男がいる方を向く。蒼星石が来るまで絶対に生き延びよう、その思いと共に。

しかし、兎男は翠星石に背を向けて体育座りをしていた。全裸で。
もしかしてさっき電話で私の発した暴言が気に触ったのだろうか?なんだかそんな雰囲気だ。

「あの、どうかしたんですか?」

どうやら野郎の裸に免疫が多少ついてきたらしく、怯む事なく兎男に声を掛ける事ができた。

「どうせ僕は変態さ…」

そこには否定どころか、フォローすらできない言葉があった。

「人間のクズどころか、馬のクソにまみれたゴキブリのフン以下の存在さ」

そこらへんはちょっと言い過ぎな気もしたが黙っていた。別に慰める理由もないし。

「僕なんて…いっそ…」

兎男はそう言いながら立ち上がり、窓の外に身を乗り出す。

「あっ」

次の瞬間、私が声を掛ける間も無く兎男は窓から飛び降りていた。
嫌な予感と共に窓へ駆け付け、外を見ると兎男はすぐ真下の木に引っ掛かっている。
元気に動いている所をみると、ちゃんと生きているようだ。……死ねばよかったのに。

そして兎男は自力で ドスン! と木から落っこちた。
しばらく地面でもがいた後、勢いよく立ち上がり、何かを叫びながらすぐ側の公園へ走って行いった。
奇妙なくらい元気だ。肋骨とか折れてないんだろうか…?
やがて公園には人が集まり、警官も来て捕物が始まった。
私はは窓からそれを見るでもなく、ただボンヤリと眺めていた。

ガンガン!

その時、玄関のドアを叩く音が聞こえた。

「翠星石ぃ!いるのかい!?いるなら返事をしてくれっ!!」

蒼星石の声だ。それは本当に悲痛な叫び声だった。私も負けじと叫び、それに答える。

「蒼星石ぃ!来てくれたですかぁ!?」

答えると同時に、一時期、収まっていた私の涙がまたドッと溢れ出した。

「おじいさんも一緒だ!待ってて、このドアをこじ開けるから!」

おじじもいるらしい。
きっと車で来てくれたんだろう。私はこんな状況でも抜かりのない妹に少し感心した。
数分後、やっとの事で部屋のドアはこじ開けられ、蒼星石とおじじが入って来た。

「蒼星石!……蒼星石ぃ、…蒼星石ぃい!」

私は妹の胸に飛び込み、まともな言葉も喋れずひたすら泣いた…。これではどっちが妹かわからない。

「翠星石!よかった…無事だったんだね…。本当に…心配したんだから…ね!」

蒼星石も涙交じりの言葉で優しく迎えてくれた。

「ごめんなさいです…あの時、蒼星石の言う事をちゃんと聞いてれば…」
「いいよ、もう…。翠星石さえ無事なら…うん、それでいいんだ…」

私達はおじじが見守る中、しばらくその場で泣いていた……。

――3人共やがて落ち着き、私達は玄関を出る。
そんな私達を、ある意味祝福するかのような怒声が遠くから聞こえてきた。

「裸で何が悪い!!」「触るのではなく、つねってくれたまえ!!!!」

終【謎の兎男】

 

 

 

おまけ


なんか含みのある言い方だ。私は…
A.引き受ける事にした。
B.断った。
→C.「3回その場で回って、『まな板だからやっぱり揺れない♪』って言えば引き受けてやってもいいですぅ」と言った。

「3回その場で回って、『まな板だからやっぱり揺れない♪』って言えば引き受けてやってもいいですぅ」と言った。

「………そう、わかったわ」
「えっ?」

真紅は、言われた通りに3回その場で周り、
『まな板だからやっぱり揺れないのだわ』と、あろう事かポーズまで決めてやってくれた。
真紅ってこんなキャラだっけ?まさか私の分かりやすい毒舌ジョークを理解できなかったわけじゃ…、
いや、両手を交差させて胸に当てるポーズを演ってる時点で十分理解してるハズ…。
自分の胸の小ささに嘆くあまり壊れたか、或いは開き直っちゃったか…。
正直、ドン引きだったが、ここまでされてしまっては引き受けない訳にはいかない。

「じ、じゃあ、しゃあないから届け物はちゃんと引き受けてやるで……」

その時、真紅の周りの空気がどす黒く揺らめくのを感じた。
こ…これは、殺意の波動。いや、それよりも禍々しい…。
あえて名付けるなら……『乳無惨誅(ちちぶさんちゅう)』?

「あら翠星石、その必要はないわ。だって、今のは冥土の土産ですもの。十分ご堪能頂けた か し ら?
そしてこれは……行き掛けの駄賃よ!」


私はその日……朝日を拝めないどころか……鏡すら拝めない身に……にされ――

後にこの日は『乳無事件(ちちぶじけん)』と称された。

終【行き掛けの駄賃】

 

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