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 重苦しい空気が部屋を包んでいます。草笛みつ、通称みっちゃんと水銀燈は向かいあって座っています。
「だから、どうしてなのよ」
「どうしてもこうしてもないのよ。カナが自分で決めたこと」
イライラしながらオドオドしている水銀燈と違い、みっちゃんは落ち着き払っていました。それは大人の余裕であり、事態を把握している故でもあります。
「あの子は私に一度もそんなこと言ってないし、ヴァイオリンを続けたいなんて一度も言わなかった」
みっちゃんの家に着くなり水銀燈が金糸雀の留学についてを問い詰めた結果がこの有様でした。
要約すると金糸雀はドイツに音楽留学をするということです。
「そうでしょうね。カナの言うヴァイオリンを続けたいってのはプロになりたいってことだもの。つまり留学してもっと高みに昇りたいってこと。銀ちゃんと仲良く大人になってからを待てるような道じゃなかったのよ」
諭すのではなく突き放すような言葉に水銀燈は黙り込みます。「でも」や「私は」といった、言葉になりきれない単語が漏れるだけです。
「……カナは何度も何度も、銀ちゃんの知らないところで悩んでたの。いつ銀ちゃんに留学を打ち明けるか。」
結局言わなかったみたいだけど、と人ごとのように呟いた声が水銀燈に届いたのかはわかりません。
 裏切られたような、騙されたような、そんな感情が水銀燈を包んでいました。でも、もし転校すると話されていたら金糸雀とケンカ別れをしていたような気もします。
水銀燈は意地っ張りで一度出した言葉を訂正なんて出来ません。感情的になったら言葉で金糸雀を傷つけてしまうと、容易に想像がついて、だから水銀燈は感情的になれません。
 無駄に長い沈黙に、時計の音だけがカチカチと耳障りに響きます。机の上に置かれた携帯電話がチカチカと光りだします。でも、水銀燈は気がつきません。だからみっちゃんはあえてそれを指差し、伝えます。
「メール、来てんじゃないかな?」
水銀燈が鬱陶しげに携帯電話を開き、顔色を変えます。
「……」
「誰誰? 彼氏?」
目の色を変えて茶化しだすみっちゃんを無視して水銀燈は黙って携帯電話をぎゅっと握り締めます。
無反応の水銀燈に痺れを切らし、みっちゃんは真面目な顔に戻ります。
「銀ちゃんに残された道は二つよ」
指を二本立ててみっちゃんは大袈裟に喋ります。
「カナを諦めて残りの学校生活を愉快に過ごす。もしくはカナを選んで一緒にドイツに行く」
これの何が残された道なのかは、少々混乱している水銀燈にはわかりません。混乱している隙を狙うなんてみっちゃんはまるで詐欺師です。
「ほら、駆け落ちエンドのために一応銀ちゃんの分の飛行機のチケット買ってあるけど、使う?」
ダメだ、この人、なんて思う余裕は水銀燈にはありませんでしたが、差し出されたチケットをほぼ無意識にポケットにねじ込みました。それが僅かながら救いでした。
「考えとくわ」
甘ったるい何時もの声は水銀燈から聞こえませんでした。 机の上の乳酸菌飲料をぐいっと一気飲みすると、そのまま逃げるようにみっちゃんの家から帰って行きました。
玄関の靴にはもちろん気がついていなかったと思います。

 しばらくして、水銀燈と話していたリビングの隣の部屋から、なんだか泣いているような声が聞こえ出したのをみっちゃんは無理やり雨の音だと思うことにしました。
本当に雨でも降ればいいと思いました。金糸雀の泣き声が聞こえなくなるくらいの強い雨が降ればいいと思ったのでした。




from 金糸雀
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信じられなくて
ごめんなさい

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むっつめ おんだんかをうたがうひ おしまい
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