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   ―――― 全ては、敗北から始まる。 



「ジュン…君……」

無様に地に倒れた桜田のりは、それでも必死に手を伸ばす。
流血に赤く染まった指先の隙間から見えるのは、最愛の弟・ジュンの姿。そして…―――


「無様ね。貴方はそこで地面に口付けしてなさい」

「ほぉんと、地面に転がってるのが似合ってるわねぇ?」
「これに懲りたら二度と邪魔はしない事かしらー」
「ま、降りかかる火の粉は払われて当然ですぅ」
「僕の言った通りだろ?君じゃあ僕達には勝てない、って」
「これでジュンとも、ずっと、ずっと、一緒に居られるのー」

想いあう姉と弟の絆を無残にも引き裂いた、6人の姿。
簀巻きにされたジュンを、彼女達は得意げな顔で連れ去る。


一人残されたのりは、指の隙間から零れ落ちるように消えてゆく弟の姿を見て……
だが、痛みと疲労により、そのまま力尽き、気を失った。

「私に、力があれば……」そう呟きながら。




         <  超 姉 貴  >




敗北から、数年が流れる―――



巨大な、5メートルは有る、コンクリート作りの壁。
内側と外とを圧倒的に隔絶する、鋼鉄製の扉。
サーチライトが天を焦がし、施設内に建てられた見張り塔には武装した人影が見える。

『ろぅぜん刑務所』と書かれた看板の脇……巨大な正門の前に、のりは一人立っていた。

「ここに居るのね……」
のりは小さな声で呟くと、背負っていた鞄から棒状の物体―――ラクロスの棒を取り出すと、笑顔を浮べた。

「よーし、お姉ちゃん張り切っちゃうわよぅ」

満面の笑みでそう言ったかと思うと、彼女はラクロスの棒をまるで野球のバットのように構え……
「そーれ」
鋼鉄製の扉をッ!厚さ数十センチはあろう扉をッ!!ブチ破ったッ!!!

警報が鳴り響き、空に向かって照射されていたサーチライトが吹き飛んだ扉に向けられる。
全てが白く染まるほどの強力なライトに照らされながら、のりは眼鏡を拭いていた。


……その時、警備をしていた山本君は、後に語る。

―――いやぁ、門が吹き飛んだと思って見てみたら、そこに可愛い眼鏡っ子が居たんですよ。
 見た瞬間、何と言うのか…「この子だ!」って感じましてね。
 これはもう駄目モトでもアタックするしかないって思って引き金を引きましたよ。ええ、マシンガンの。


集中豪雨のように降り注ぐ弾丸!
「きゃ!?わ!わ!」と叫びながらも、のりはまるで遊んでいるかのような表情で全て避ける!

そしてのりは、銃口の先……呆然とこちらを見ている警備員達を、キッと睨んだ。

「こらーーー!!」
叫ぶ。腹の底から力を込めて。
その怒号に、刑務所内の窓という窓は割れ、壁には亀裂が走る! 


そして銃を向けていた警備員達は、常軌を逸したその光景に戦意を失いかけながら呟いた。
―――これが、『おねえちゃん』の力か…!
と。



やがてのりは、やけに静かになった刑務所の薄暗い廊下を歩く。

「やーん…オバケとか出てきそうで、おねえちゃん失禁スレスレよぉ」
とか何とか言いながらも、邪魔をしに出てきた警備員は残らず退治してきた。

時に厳しく。時に優しく。理想の姉を体現するかのように、彼女は警備員達を千切っては投げる。


そうして進むのりは……やがて一つの牢獄の前で立ち止まった。

「貴方が薔薇水晶ちゃんと…雪華綺晶ちゃんね?」
鉄格子の向こう側には、美しい……まるで鏡に映したかのような、二人の少女の姿があった。

「貴方は…だァれ?」
「……だれ……」

興味なさげに聞いてくる二人に、のりは告げる。

「私は桜田のりよ。あのね。弟のジュン君を助ける為に、貴方たちの力を借りたいんだけど……
 ……ダメ…かな…?」

のりは控えめな態度で、顔色を窺うように尋ねる。
それに対し、獄中の二人は諦めに似た表情で答えた。

「ふぅ……協力も何も、ここから出られないのでは何も出来ませんわ……」
「……囚われの身……」

しかし、その答えものりにとっては予想済みだったのだろう。
彼女はポケットから小さな粉の入った包みを取り出すと、鉄格子に近づき、二人に渡す。

そして雪華綺晶と薔薇水晶は、その包みを見て…初めて表情を動かした。

「ばらしーちゃん……これは…まさか……!」
「……うん……プロテインだ……」
二人は目を輝かせながらそう囁きあうと、サラサラと粉を口に入れた。

二人の喉が激しく上下に動き、プロテインが彼女達の体に吸収される!

そして……


雪華綺晶と薔薇水晶は、確かに美しかった。
だが、プロテインを飲んだ彼女達は……『ある意味』もっと美しかった。

すらりと伸びていた足には、馬よりも逞しい大腿二頭筋が! 
細かった腕は、まるで野生の鹿のようなしなやかで強靭な上腕三頭筋に変わる!

筋肉の躍動!
腹直筋が唸りを上げ、大三角筋の咆哮が世界を揺らす!
圧倒的な肉体美!
プロテインの効果で美しく華麗にビルドアップされた雪華綺晶と薔薇水晶がポーズをとる!! 


神々しいまでのマッスルパワーを前に、彼女達を繋ぎ止めていた鉄格子は跡形もなく消し飛んだ!! 


だが……小さな包みに入る程度のプロテインでは、それが限界だったのだろう。
吹き飛んだ『元』鉄格子が巻き起こした粉塵が収まる頃には…―――

「あら?もう、みたいですわね」
「……エネルギー切れ……」

線の細い、まさしく少女としか言いようの無い姿になった雪華綺晶と薔薇水晶の姿が、そこには残されていた。


それでも、たった一瞬とは言えビルドアップされた筋肉を見たのりは、嬉しそうに微笑む。
「うふふ…。やっぱりジュン君を助けるの、手伝ってもらえないかな?」 


再び向けられた問いかけに、今度は迷いの無い視線で二人は答えた。

「ええ。ここから出してもらったお礼もありますし…」
「……プロテインの借りも有る……」

「これからは、お姉様と呼ばせて頂きますわ」 


こうして、交渉は成った。 



「こっちよー。お姉ちゃんから離れないようにねー」

まるでピクニックの引率でもするかのように、のりは気楽な表情で雪華綺晶と薔薇水晶に手招きをする。 
向かう先は当然のように、薄暗い監獄などではなく自由な空の下。
そして、何の危機感も無さげな三人が刑務所の建物から出て、庭へと差し掛かった瞬間―――!! 


彼女達目掛けて『ガシャン!』と派手に照射されるサーチライト。
同時に、数多くの銃口が向けられる音。
「そこまでだ!抵抗すれば発砲する!!」という、警告の声。 


のんびりとし過ぎたようだ。
彼女達は既に、蟻の一匹も逃げられぬような包囲網の中心に居た。

「やーん、どうしよう。お姉ちゃんピンチよぉ」
のりは困った表情をしながら身をくねらせる。

だが、雪華綺晶はというと、落ち着いた表情でのりへと小さく耳打ちした。

「のりお姉様…プロテインは、もう有りませんの?」

その言葉の真意を察したのりは、小さく頷いてから持参していたありったけのプロテインを雪華綺晶に渡す。

「…ありがとうございます。それと、もしよろしければ……
 ほんの少し足止めして頂ければ、後は私とばらしーちゃんで状況を打開してみせますわ」

プロテインの包みを受け取った雪華綺晶の言葉に、のりは力強い笑顔で答え……

「よーし。お姉ちゃんの本気、見せてあげるわ!」

そう言うと、ラクロス棒を振り上げながら勇猛果敢に飛び出した!!
  

のりは単身、飛び交う弾丸をラクロス棒で弾き返し、隙をついては敵を殴打する。

だが……彼我の戦力差は圧倒的。
とてもじゃないが、たった一人の活躍で覆るようなものでは無かった。

銃弾はのりの肌を掠め、眼鏡には亀裂が入る。
唯一の武器であるラクロス棒からも、ミシミシと悲鳴が聞こえ始めた。

「きゃー。やっぱりお姉ちゃん一人だと無理かもー」
引き攣った笑顔に薄く涙を浮べながら、「まだか」という思いを込めてのりは大きく叫ぶ。

その頃、雪華綺晶と薔薇水晶はというと……

「Ah…」とか「Oh…」とか言いながら互いにポーズを見せ合い、マッスルボディーを誇示していた。

それは古代彫刻のように整った、一切の無駄が存在しない筋肉。
力強さと美しさを兼ね揃えた、究極の肉体美の終着点。

確かに、プロテインを飲んだ彼女達の筋肉は素晴らしかった。美しかった。輝かしかった。

だが、その肉体を見せる事に、『今』、何の意味があると言うのだろう。


あえて言おう。意味は有るとッ!


雪華綺晶と薔薇水晶、二人の間で交わされる無言の肉体言語!
それは彼女達の精神を昂ぶらせ、心を奮い立たせ、さらなる高みへと至る道標なのだ!!

  
「今ですわ!ばらしーちゃん!!」
「……うん……必殺……」

薔薇水晶と雪華綺晶は互いに声をかけあい、マッスルポーズのまま動きを止める。

そして……!!

雪華綺晶の右目の飾りから…薔薇水晶の左目の眼帯から、極大のビームが放たれた!!



それは、あまりの破壊力が故に畏れられた彼女達が投獄された原因。
真のマッスルのみが放つ事が出来るオーラを凝縮した、人類の英知。


雪華綺晶と薔薇水晶の放つビームが周囲をなぎ払う中、のりは呆然とその名を呟いた。

「これが……乙滅砲<オトメびーむ>……」


マッスル乙女から放たれた圧倒的な光の奔流は、まるで神々が光臨したかのようで……
それは遥か宇宙からでも観測できる程のものだという。


全ての存在は、等しく、筋肉の上げる賛美歌に聞き入り頭を垂れる。


乙滅砲<オトメびーむ>の前には、敵という概念すら存在しないのと同じ事だった。
 


やがて……周囲に動くものは無くなり、焦土だけが広がる中。

のりは歓喜の表情を浮べながら、雪華綺晶と薔薇水晶に駆け寄った。

「すごいわぁ!お姉ちゃん、びっくりしちゃった!」

そう言い、プロテインを使い切り、すっかり華奢な体になった二人を抱き寄せる。
だが、褒められているにも関わらず、雪華綺晶と薔薇水晶は恥ずかしそうに身をよじるばかりだった。


「こんな貧相で華奢な体……お姉様、どうか離して下さいませ」
「……恥ずかしい……」

美的感覚が普通とは違う二人の仲間を抱き寄せるのりの眼鏡は、ギラリと輝いていた。
「これなら、彼女達と一緒なら、ジュン君を取り戻せる」とでも言うかのように。 






   ――― 敗北者の烙印を押された彼女の勝利の物語は、ここから始まる。



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