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さて、今日は土曜日です。よく晴れたいい日です。水銀燈の家の前で金糸雀は深呼吸をして、まずは一回。

  ピンポーン

しかし誰も出てきません。もう10時なのにまだ寝ているのでしょうか。ならばやることはひとつだけです。

 ピンポーピンポンピンポンピンピンピンピンピン

「うるさい!!」
「おっはよーかしら」
何ごともないかのように朝の挨拶をすると、水銀燈のボサボサ頭と露出の多いパジャマを見ないように金糸雀は心掛けました。「入って」と水銀燈が言うのを確認してから「お邪魔します」と声をかけるのは昔からの習慣です。


「そもそも約束の時間にはまだ早いわよぉ」
「どうせ寝坊するんだから一緒かしら。ほら早く支度するっ」
今日はふたりで水族館にお出かけ。金糸雀は朝ご飯がわりに水銀燈に目玉焼きを作ります。
「平気平気の平介君かしら」
卵の賞味期限は昨日ですが、火を通せば大丈夫だと判断しました。どうせ食べるのは水銀燈です。平気平気兵器。



そんなこんなで水族館。薄暗い照明に魚がゆらゆら、水が揺れます。
「なんで水族館にカエルがいるのよぉ」
水銀燈は素朴な疑問を誰に言うでもなく呟きます。雨が降ればそこら辺でいくらでもお亡くなりになっているアマガエルもいます。
「うぁ!? ちょっとこっちを見るかしら! デカいかしら気持ち悪いかしらぁ」
「海の底にダンゴムシ!!」
海の底に住む、ダンゴムシっぽい生物にふたりははしゃぎます。気持ち悪いんですけど慣れるとカワイイ……なんてことはありません。


イルカの餌やり体験に参加するふたりはステージに並びます。お姉さんがイルカの餌を参加者に配り出す中、水銀燈は金糸雀にこっそり話しかけます。
「ねぇ、金糸雀。このイルカの餌やり体験のイルカの餌ってさっき見た水槽にいたイワシ?」
「たぶん市場で仕入れた新鮮なイワシかしら」


水族館はデンジャラス。心が抉られるような気がします。ちなみに水族館内のレストランも魚料理がありました。
ここは水族館、魚を見る場所です。
「とにかく餌やりに集中しないと……餌やりは戦場かしら」
「分かってるわぁ。にしてもブサイクな顔ねぇ、真紅みたぁい」
ふたりの順番が回ってきました。近くで見るとイルカはなかなか愉快な顔です。真紅に似ているかは意見が分かれるところでしょう。

 きゅっきゅぅ きゅーきゅー

「あっはぁ、ぱくぱくしてるぅ」
「早く餌をあげるかしら!! イルカさんを苛めちゃダメかしら」
えぇダメです。向こうの方で司会のお姉さんが怒っています。イルカも怒っています。ほらほらぁと調子に乗っている水銀燈に

  ばしゃん

イルカの先制攻撃を避けることはできず、ずぶ濡れになりました。イルカだって食べ物が絡めばただの動物、むしろ水銀燈の自業自得です。
もちろん、服が透けてしまったのは秘密です。下着が赤かったなんて秘密です。 



濡れた服から売店で売っていた、愉快な海のお友達達が描かれた服に着替えた水銀燈はベンチに座りました。
「なかなか似合うかしら」
「嬉しくないわねぇ」
夕日に照らされたふたりは少しだけ色っぽく、大人っぽくなっていました。
「……水銀燈、ちょっと、話があるかしら」
さぁっと風が通り抜け、真面目な顔の金糸雀にドキッとしてしまいます。
「ちょっと前から言わなきゃいけないことがあったかしら
本当は、もっと早く言わなきゃいけなかったのは分かってたかしら……私――」
「ストップ」
クルリと水銀燈は金糸雀に背を向けました。空を見上げた水銀燈と、地面を見つめる金糸雀は絵画の中にいるように動きません。


「帰るぅ?」
「そうするかしら。……今日は泊まっていく?」
「そう、ねぇ」
もう一度、さぁっと風が吹くとふたりは何事もなかったかのように会話を始めました。だから金糸雀が何を言いたかったのかは分かりません。だから水銀燈は何も知らないままでした。
だから彼女は幸福で、残念ながら不幸でした。



みっつめ すいぎんちゅうどく おしまい



 

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