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「でねでね!良い雰囲気のお店で、二人でディナー食べてね!ついに運命の人が出来た、って思った時に……
 突然、真面目な表情で ”絵を買ってもらえないか” って切り出されたのよね……」
「み…みっちゃん……それは詐欺の常套手段かしら……」 


顔を真っ青にしながらそう言う金糸雀と、「たはは…」と頼りなく笑いながら頭を掻くだけの私。 


「うん。私もそこで、何か変だなーって気付いたのよ。
 よく考えたら、今まで口説かれた事どころか、モテた事も無いや……って。
 だからね。持ってたワイングラスの中身、全部顔にかけてやって『冗談じゃないわよ!』って言ってやったの!」
「キャー!やっぱりみっちゃんは今日も最高にクールかしらー!」 


ちょっとだけ大げさに仕立て上げた武勇伝。
それでも、金糸雀は楽しそうに目を輝かせ、時には跳ね回りながら聞いてくれる。

ずっと、ずっと一人で頑張って生きている私にとって、彼女の存在は何より大きな支えだった。

嬉しいときには一緒に喜んでくれ、悲しい時には一緒に泣き、時に慰めてさえくれる。
そんな彼女の優しさは、私にとって……癒しであり、幸せであり、憧れですらあった。

まるで初夏の太陽を浴びて輝く向日葵のような金糸雀の笑顔。
私は傍らに立つ、一本の木。
決して花を咲かせる事は無いけれど……それでも彼女の成長を見守っていこう。 


「これでカナの『みっちゃんノート』に書き残す伝説が1ページ増えたかしら……
 ふっふっふ……このノートを基に、いつかはカナも、みっちゃんみたいにクールでロッケンロールな大人の……」 


ちょっと間違った方向に成長しそうになったりしたら、即座におでこチョップで軌道修正。
「不意打ちとはズルイかしら!?」と怒った金糸雀の顔も、また可愛い。
謝る私も、ついつい笑みがこぼれてしまい、それを見て彼女は頬を膨らませる。
 

「ともあれ、そんな事があってブルーな気分になっちゃったから……
 ジャーン!
 景気付けにと、カナに新しいお洋服を買ってきちゃいましたー!」 


そう言いながら、ブティックで買ってきたばかりの服が入った箱を金糸雀の前に置く。


「……みっちゃん……どこにそんなお金が……」 


あれれ?予想に反して、金糸雀は訝しげな表情。
でも、ボーナスの貯金や残業代がいっぱい入った事を説明すると、いつものように笑顔を取り戻してくれた。

納得してくれたのか、金糸雀は両手を挙げてバンザイの格好をして私が着替えさせるのを待っている。
思わず抱きしめちゃいそうになるけれど、今はまだ我慢。
箱から取り出した洋服をすっぽり頭から着せ、襟元を調えてあげる。
素敵なドレスに着替えた彼女は、童話に出てくるお姫様か魔法のお人形さんかと思う程に可愛らしい。

そして最後に……この服を買った決め手。
向日葵の刺繍が入った飾りを、金糸雀の薄緑の髪に付けた。

目の前に立つのは、ただでさえ可愛い女の子が素敵なドレスを着てさらに可愛くなったという、究極の存在。
でも、ここで飛び付くのは素人。
激しい『まさちゅーせっつ』で服にシワが付く前に写真撮影をと、カメラを取りに立ち上がった。 


「……素敵かしら!特に、このヒマワリさんが最高かしら!」 


振り返ると、金糸雀が鏡に向かい合いながら、新しい服と自分の姿をクルクルと眺めている。


「でしょでしょ!?
 やっぱりカナには向日葵のイメージが似合うと思ってたのよね!」 


足を止め、嬉しそうな笑顔を浮べている金糸雀へと振り返る。
すると……金糸雀は、キョトンとした表情で私を見ていた。 


「何を言うかと思えば……全く、みっちゃんは全然分かってないかしら。
 一生懸命に太陽に…目標に向かって伸びていく強さ。
 一緒に居ると元気になれる不思議な魅力。
 そして何より、土手にも咲く生命力!
 カナに言わせればヒマワリはみっちゃんのイメージかしら!」 


私は、ずっと、花の咲かない木だと思っていた。なのに彼女は、私の事を向日葵だと言う。
……何故だろう?不意に、涙が零れそうになる。 


「ありがとう、カナ……」 


無理して笑顔を作りながらそう言うと、ボロが出ない内にと足早にカメラを取りに向かった。
やっぱり、私は向日葵なんかじゃない。
太陽を浴び、輝くように咲き誇る向日葵は、彼女だ。 


「私が向日葵、か……」
カメラを取りに来た部屋の中で、一人小さく呟く。

冬の向日葵。

冷たい風と弱い太陽で……それでも一人の笑顔の為だけに、精一杯に咲く。
それも悪くないかな、なんて思ったりもした。

 
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